サブスク時代における「初めて聴いた瞬間、すべて新譜」という感覚を体現するかのように、数年前の楽曲から新曲までが違和感なく2026年の音として響くアルバムだ。LISAの復帰により再び3人が揃った前作『KYO』を経て、そこにlovesの精神も受け継いだこの『SUPERLIMINAL』について、☆Taku Takahashi、VERBAL、LISAの3人に話を聞いた。なお、この記事は3月25日発売の雑誌「Rolling Stone Japan vol.34」にも掲載される。
―m-floはここにきて「come again」のリバイバルヒットがあり、「HyperNova」で新しいリスナーも獲得した稀有なポジションを築いたと思います。過去と現在、両方が同時に届いている今の状況をどう感じていますか。
VERBAL:昔の曲を今も喜んでもらえることや、今現在も見てもらえることも本当に嬉しいです。ただ、やっぱり大事なのは「今」だと思っていて。過去にやってきたことを誇りには思っていますが、それだけには頼りたくないという気持ちもあります。もちろん、嬉しいんですけどね(笑)。
☆Taku:VERBALの話を聞いて思うのは、懐メロとして聴いてくれるのも嬉しいし、新譜として感じてもらえるのも嬉しい。電子音楽って生楽器と違って、20年前に出した曲が新曲みたいに聴こえるということが起きうる。その音色の特性もあるのかもしれないですね。
LISA:でも「come again」がもう一度こういうことになるなんて、まさかのまさかでした。でも、私たちの曲って「これはもう終わりだ」という感じの曲ではないので、もう一回その流れが来てもおかしくないのかもしれない。やっぱり3人でいいものを作れたんだなって、心から思っています。
―多様性の時代になって、m-floの音楽はより理解されやすくなったと感じますか。
VERBAL:「何でもあり」というのが以前よりも大きくなっている分、音楽の部分ではすごくやりやすいなと感じます。「ミュージシャンとしてm-floに影響を受けてきたから、曲をカバーしたい」と言ってくれる人たちもいて、それはすごく……非現実的な気持ちというか、「そんなことあるんだ」という感じなんですよ。僕たちが活動を始めた当時、昔のサンプルを使ったり、ヒップホップのアーティストを聴いてインスパイアされていたりしましたけど、それの現代版なのかなと。すごく光栄だし、ありがたいです。
―今回のアルバム『SUPERLIMINAL』は、数年前の曲から新曲まで幅広い楽曲が収録されていますが、すべてが2026年の音に聴こえました。アルバム制作はいつ頃から意識し始めたんですか。
☆Taku:「HyperNova」くらいのタイミングですね。最初からアルバムにするとは決まっていたけど、「HyperNova」を出したあたりでもうちょっと意識し始めました。
VERBAL:やっぱり僕らデッドラインが見えてきた方が強いから(笑)。でも僕ら、結構早いうちにミーティングで話すんですよ。「こういうコンセプトにしよう」って。でも、いざ曲を作り出すとみんな忘れてるっていう。
☆Taku:その曲に集中していくからね。でも不思議とまとまるんですよ。やっぱりその時期のモードってあるのかな。今回は「tell me tell me」や「RUN AWAYS」みたいにちょっと前の曲も入ってるし、「come again」と、もう1曲前のアルバムの頃に作ってた曲が今回フィットするなというので入れたりとか。
―『SUPERLIMINAL』というタイトルはどこから出てきたんですか。
VERBAL:どちらかというと制作後半に出てきた言葉ですね。曲目が埋まってきて「今回どうしよう」という時に。
☆Taku:VERBALから出てきた言葉なんですけど、すごくおもしろいなと思いましたね。「サブリミナル」とか「リミナル」ってみんな普通に使う言葉だけど、「スーパーリミナル」となるといい意味で「なんのこっちゃ」となる。
VERBAL:「すっごくリミナル」っていうね(笑)。
―「リミナル=境界を超える」みたいにも、「めちゃくちゃ境界的」みたいにも感じられるタイトルです。
☆Taku:もともとは潜在意識とか、そういう意識の話でいこうかという案もあったんです。でもインタールードにするにはちょっとポップにならない。そこでVERBALと話して、「じゃあタイムトラベルネタにしよう」と。
VERBAL:あと、僕たちってそれぞれが同じ時空に生きてるんだけど、考え方や揃い方がちょっと異なる。だからこそ、いろんなレイヤーが重なった時に共鳴するポイントがある。そういうのも「SUPERLIMINAL」なんですよね。
☆Taku:さらにm-floはもう25年以上やってるから、最初からのファンもいれば、lovesのファンがいたり、最近ファンになった人たちもいて、それが境界線なく一緒になっているんですよね。しかも今回はLISAも帰ってきて、3人だけで作るんじゃなくプラスlovesもある。すごくぴったりなタイトルになったんじゃないかなと感じています。
―インタールードでは25年前から引き続き今回もSF的な世界観が描かれていますが、AIの進歩が凄まじい2026年、これまででその内容が最も身近に感じることができました。さらには1stアルバム『Planet Shining』のオマージュもあって、未来的だけど懐かしくもある、すごく不思議な感覚になりました。
☆Taku:タイムトラベルをモチーフにしたことで、いろんな時代があって今があるという感じもすごく表現できたと思いますね。
VERBAL:もともと僕らの音楽はサンプリングを使ってるから時空が混ざっているし、クラブミュージックのジャンル的なリバイバルもある。それに今回収録してる曲自体も、過去もあれば今もあれば未来もあって、全部ごちゃ混ぜになってる。
―その感覚はまさにサブスクやTikTokの時代に音楽を聴く体験と繋がっている感じがしました。
☆Taku:昔はロックしか聴かない人はヒップホップ聴かなかったし、逆もそう。でも、今はジャンル関係なくいろんな音楽を聴くのが普通ですよね。TikTokで急に過去の音楽が流行ったりするし。1日に何万曲も出る中で、配信で実際に音を聴いて判断できる時代に音楽を作るというのは、すごく作り手としてワクワクします。
VERBAL:☆Takuがよく言う「初めて聴いた瞬間が、その人にとって『新譜』」ってことだよね。すごくいい時代ですよね。
―その中で、今の音楽を作る上で意識していることはありますか?
LISA:今って、何もかもが一瞬で済むじゃないですか。だから、その瞬間をどうキャッチするかを意識しました。多くの音楽はリリックとメロディーとトラックで人の心をつかむと思うんですけど、その「刺さり具合」が昔と変わってきたんですよね。1曲をまったりと5分半聴くかといったら聴かない。10秒とか15秒くらい聴いて、良かったから流行り出す感じ。だから、集中の仕方がちょっと変わってきたんだと思います。
VERBAL:僕が一番気にするのは、リアリティですね。それは社会のリアリティは何かということもあれば、アレンジメントの方向性でのリアリティ、歌詞やメロディのメッセージが伝わるかどうかのリアリティ、曲自体のリアリティでもあるし、全部が繋がっている。時代ごとに価値観も道徳も変わる中で、自分が社会で息苦しく感じていることだったりも含めて、すべてのリアリティがしっかりないといけないというのを意識しています。
―トレンドを意識する部分はありますか?
VERBAL:結構トレンドはフォローしてるし好奇心旺盛な方だと思うんですけど、結局、何をインプットしても自分たちっぽくなるんですよね。音楽、ファッション、テック、世界中のいろんなことを話して、それでも出てくるのはm-floっていう。こんなこと言うとおこがましいかもしれないけど、ちょっとサザン(オールスターズ)っぽいというか。桑田さんはいろんなものを吸収されてると思うんですけど、結局桑田さんになるじゃないですか。僕たちも何をしても結局VERBAL・
LISA・☆Takuになっちゃう。
―では逆に、「m-floらしいサウンド」とは何だと思いますか。
☆Taku:ジャンルレスだからこそm-floで、何をやっても後から聴くとm-floになるなと思います。でも、その中でひとつ見つけたのは、フェミニンなところが僕にはあるのかもしれないということ。キレイなサウンドがある。逆に、フェミニンじゃないものに憧れて作ろうとしても、どこかしらフェミニンな部分が出ちゃう。それがm-floっぽさにもつながるのかなって。
LISA:私としては「m-floの中でのm-floが、m-floっぽいな」という感じなんですよね。……わかります?(笑)
一同:(笑)。
☆Taku:でも、LISAソロとLISAがm-floで歌う時って、やっぱり違うよね。
LISA:同じプロセスなんだけど、☆Takuという人と組むと、VERBALさんとやると、また違う自分になるんだなと思います。
VERBAL:たしかにTERIYAKI BOYZのVERBALとm-floのVERBALもやっぱり違うと思う。一緒にスタジオに入っている人が違うから、引っ張られるポイントが変わるというか。グループで作品を作るとパワーバランスがあって、不思議と違いが出ますね。
ハイパーポップも、Gacha Popも、ずっと自分たちの中にあった
―組み合わせという点では、今作にはm-flo loves Diggy-MO' & しのだりょうすけ名義での「GateWay」が収録されていますが、アルバムの中でも特に異色に聴こえて驚かされました。
☆Taku:たしかに最初は「m-floっぽくないな」と思うんだけど、何度か聴くとm-floっぽく感じてくるんですよ。今回アルバムに向けてミックスCDを作ったんですけど、聴き返すとやっぱりm-floだなって思いました。しのだくんのギターから始まる展開は確かに新しいし、僕自身が彼のバンドのトップシークレットマンに影響を受けていて、ハイパーポップ文脈がそこにあるんだけど、m-floって玉虫色だからすぐに印象がまた変わっていくんですよね。
―まさにハイパーポップも、近年のJ-POPを指すGacha Popも、m-floが先取りしていたものだなと感じます。
☆Taku:よく言われるし、自分でも客観的に見てそう思います。ハイパーポップにアレルギーがないのは、どちらかというともう自分の中に入ってるから。というのも、ハイパーポップって高校生の頃から今までの僕の好きなものが全部詰まっている感じがするんですよ。僕はヒップホップアーティストとも、ドラムンベースアーティストとも呼ばれないし、ハイパーポップアーティストとは呼ばれないだろうけど、僕の大切な一部だと思っています。
―今回のアルバムは、クラブミュージックのアルバムであり歌のアルバムであると同時に、すごくラップのアルバムだなと感じました。ZICO、Diggy-MO'、RIP SLYME、櫻井翔、chelmicoと、さまざまな世代のラッパーが揃っている。
VERBAL:そう。そうなんですよね。
―そしてその多くが、人気も影響力もありながらも、どこか「ラップの正統派」的な価値観の外側にポジショニングされてきた人たちだと思います。
☆Taku:そう思います。
―ラップが当たり前の表現方法になった時代に、彼らを改めてレペゼンするような作品だとも感じました。当初からラップとクラブミュージックを融合させてきた第一人者であるm-floとして、ラップを取り巻く環境は変わったと思いますか?
LISA:変わりましたよね。たとえばガールズグループのラップは今では当たり前になったけど、昔はすごく珍しかったし。今はラップもできなきゃデビューできないくらい。「歌だけじゃダメよ」という時代。
VERBAL:最近「HIP POP Princess」という韓国のオーディション番組に審査員で参加したんですけど、14~16歳の子たちが自分で曲を書いてラップして歌って振り付けもつけるっていうのを、数日でやるんですよ。レベルがすごい。上手すぎて審査しづらいし、1回だけのゲストで行ったのに自分のせいで落選する子がいると思うと心が苦しかった(笑)。
☆Taku:それはそうだよね(笑)。でも、当のヒップホップシーン自体も変わりましたね。昔ライブしに行くと怖い地元の人たちがいて、本当に「不良!」って感じだったけど、今は不良の人たちとおしゃれな人たちが混在していて、うまくメインストリームのカルチャーにフュージョンされている。
VERBAL:なくなったね。良かったよね。
―そうしたジャンルの壁がなくなった今、新しく出てきた世代のリスナーから受けるインスピレーションはありますか。
LISA:Heart to heartというところが大事だなと強く思っています。「あなたたちは若いから」とかじゃなくて、ここで繋がっていればそこは変わらないよねって。
☆Taku:僕はわりとラッキーで、「NIGHT HIKE」(ネットカルチャーから生まれた音楽・イラスト・映像が一堂に会するミュージックアートフェス)とかでDJするとすごくハマるんですよ。サブカルテイストのある若い子たちが来るイベントの方が相性がいい。「学ぼう」というより「楽しくやろう」というマインドが合っちゃってるんじゃないかな。
VERBAL:僕たちがデビューした頃は、いろいろなものをカテゴライズしたがる時代だった。ヒップホップはヒップホップで、「俺たちのテリトリー」みたいになっていた。今はそのボーダーがまったくなくて、「良ければいいじゃん」というのがすごく新鮮。昔僕たちが気をつけて喋っていた内容を、今の子たちは当たり前のように話す。ハードコアなヒップホップを聴いていてBLACKPINKが好きでもいい。「好きなものは好き」っていうだけの話で、そういう子たちがたくさんいる現状はすごく勇気が出ますね。
LISA:ライブで話を聞くと、超ポップなものからアングラなものまで同じ勢いで接しているんですよね。東京ドームに行くのとローカルのクラブに行くのと同じ感じで。昔はそうじゃなかった。今はその抵抗がなくなったなってすごく感じます。
―「come again *Reloaded」では櫻井さんのパートだけでなく、LISAさんとVERBALさんのパートも録り直したそうですが、基本オリジナル通りでありながらもより豊かなニュアンスが感じられるテイクが新鮮でした。
LISA:多分、ものすごく歌ってきたから(笑)。
VERBAL:そう(笑)。あの曲はもう何百回もやってきたけど、ライブで場数を踏んだ後のレコーディングなので、やっぱり感覚が違いましたね。
―櫻井さんのヴァースではタイトル「come again」の使い方もグッときました。
☆Taku:櫻井くん、良かったよね。
LISA:うん、本当に良かった。
Photo by Maciej Kucia
悔いのないように作る、ということ
―この10作目『SUPERLIMINAL』、最後のインタールードは「続く」で終わります。今、このアルバムとm-floをどう捉えていますか。
☆Taku:「いつどうなるかわからないから、悔いのないように作りたい」という気持ちが、今回は今までで一番強かったんですよ。元気そうだったのにいきなり会えなくなる人もいるし、音楽活動が永遠に続くような錯覚に陥ってしまうけど、いつできなくなるかわからない。だからちょっとでも気になるところがあったら、今までなら「まあまあ」と流していたことも「ここ気になるんだよね」と言う。変えられなくても言うということをすごく大事にして作りました。
LISA:「続く」というのは、「またね」「See you soon」という、とてもポジティブな気持ちです。最初は休止となることに対して悲しみもあったんですけど、ここがまた一つの新たなステップに、すでになっている。自分はすごく前向きな気持ちで、願わくばたくさんの人に聴いていただきたいなと思っています。
VERBAL:この『SUPERLIMINAL』はちょっといろいろな事情があって「ここで一旦完成させよう」とできあがったものなんですけど、それでもすごく濃度の高いものがまたできたと信じています。今後また何かを作る時に、自分たちが新鮮だと思える領域でどういうものを作れるのか。ひとつのベンチマークができたと思います。25年前にアルバムを作るのと今とでは、デッドラインの感覚もDSP(音楽配信サービス)やソーシャルメディア時代のスピード感もまったく違う。次にやる時、世の中がどれくらい進化していて、自分たちがどういうアウトプットをできるのか。それを考えさせられた制作期間でした。
☆Taku:ちなみにインタールードの「続く」にはいろんな意味があって、みんなが想像している「続く」とはまた違う「続く」かもしれない。今、仕込んでいます。楽しみにしていてください。
『SUPERLIMINAL』
m-flo
発売中
▼Streaming & Download
https://m-flo.lnk.to/SUPERLIMINAL_strdlTRACK LIST
01. >>NONLINEAR TIMELINES
02. m-flo loves ZICO,eill / EKO EKO
03. m-flo loves chelmico / RUN AWAYS
04. m-flo / You Got This
05. >>ERA
06. m-flo loves Diggy-MO' & しのだりょうすけ / GateWay
07. m-flo loves RIP SLYME / ARIGATTO
08. m-flo loves Sik-K & eill & 向井太一 / tell me tell me
09. >>A E I O U
10. m-flo loves ELECTRONICOS FANTASTICOS! / CHARANGA
11. m-flo loves n-choco / ELUSIVE
12. m-flo loves 鈴木真海子 / Judgement?
13. m-flo loves Maya / 1CE AGAIN
14. >>LIMINAL SUPERLIMINAL
15. m-flo / MARS DRIVE
16. m-flo loves Adee A. / Reckless
17. m-flo loves 櫻井翔 / come again *Reloaded
18. m-flo loves Maya / HyperNova
19. >>TEMPORAL ANOMALY
https://m-flo.com/


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