SuchmosのTAIHEI(Key)、岩見継吾(Ba)、佐瀬悠輔(Tp)、松浦千昇(Dr)から成るバンド、賽(SAI)。ジャズのオーセンティックな現場を知り尽くした3人と、そこに飛び込む形で吸収し続ける発起人の鍵盤奏者。
この4人がセッションを重ねるうちに何かが変わった。「4人で音を探す実験の時間」が、いつしか「4人でどういう曲を作るか」という次のフェーズへと移行していた。

【写真】賽(SAI)

そもそもドラムレスの3人編成で活動をスタートさせた賽が、ドラマー・松浦千昇を加えた4人体制で初のフルアルバム『YELLOW』をリリースしたのは2023年11月のことだった。あれから2年強、TAIHEIはSuchmosが再始動するなど、メンバーそれぞれのフィールドで現場を踏み重ねてきた。そして、賽としてはBLUE NOTE TOKYOでの単独公演やフジロックの出演、さまざまなレコーディングとライブを経て辿り着いた先が、最新ミニアルバム『Lims』だ。

清涼感に富んだ先行シングル「SS」、生音でハウスの推進力を鳴らす「120」、リズムの論理から生まれた「発電所」、バイオリンとトランペットの独奏が映画音楽的な美しさをたたえる「How can I」。KojoeとRama Panteraという世代の異なる2人のラッパーを客演に迎えた楽曲は、単なるフィーチャリングではなく、プロデュース集団としての賽の思想そのものを体現している。アルバムタイトル『Lims』の意味も、ジャケットのビジュアルと連動した世界観も、TAIHEIはあえて明かさない。
特有の信頼関係と独立した音楽性を持つバンドとしての矜持を、メンバー全員に聞いた。

─僕が前回インタビューさせてもらったのは『YELLOW』のリリースのタイミングで。今日は大きく分けて2つ聞きたくて、ひとつは『YELLOW』以降にどういう時間を過ごしてきたか。もうひとつは、メンバーそれぞれがいろんな現場を踏んでいる中で、この4人だからこそ鳴らせる音楽をどう感じているか、ということ。
まず『YELLOW』以降の時間の体感から、それぞれ聞かせてもらえますか。

岩見継吾:やっぱり千昇くんとどんどん親密になっていく時間でしたね。どんな音楽が好きなのかとか、好きな食べ物を知ったり(笑)。音楽的な部分で言うと、ドラムが入ったことで明らかに大きな変化があって。それまでTAIHEIくんと僕でキックの役割を分担してやってたんですよ。それをする必要がなくなったというのが大きいですね。それまではTAIHEIくんがハーモニーを弾くときはTAIHEIくんがキックを踏んで、僕がベースラインを弾くときは僕がキックを踏む、という。

松浦千昇:正方形の10cmくらいのパッドの感度を爆上げして、ちょっとでも踏むとキックが鳴るように設定してやってましたよね(笑)。かかとで踏めば電子音のキックが鳴るようになるという。

岩見:それまでのドラムなしの編成にもそれ特有の楽しさもあったんですけど、そこから千昇くんが加入して、僕もベーシストとしての本来の仕事がよりできるようになったし、ドラムとベースの関係を築いていくということができた。ライブとしては、ブルーノート公演もあったし、フジロックもあったし、有意義な時間を過ごさせてもらいました。

─千昇さんは賽に加入して以降の2年強の時間はどうでしたか?

松浦:すごくポジティブな矛盾を感じていて。
あっという間だったんですけど、めちゃくちゃいろんな曲作ったし、セッションしたし、加入したのが2、3年前と思えないぐらい、5、6年やってるんじゃないかという感覚があって。

─TAIHEIくんと佐瀬さんはどうでしょう?

TAIHEI:「同じ釜の飯を食った2年間だったような気がしますね。『YELLOW』は出会った時のアルバムで、今作はもう本当に一緒に飯を食ってる感じですね」

佐瀬悠輔:賽はコミュニケーションが楽で、音を出してる時にも同じ感覚があるんですよ。ジャズのセッションを聴いていると、バンド内に無理が生じていることが伝わってくることがあるんです。「あ、ちょっとバンドにヒビが入ってる」みたいな。それがこの4人に関しては、スッといけるというか。グルーヴしてるだけで十分みたいな関係性になっている感覚があって。信頼してるし、作品もどんどんいい意味で洗練されてる感じがします。

─そう、僕も今作は成熟と洗練を同時に果たしているような印象を受けました。

TAIHEI:あと本気でふざけてるというかね(笑)。海外のバケモンのような素晴らしいミュージシャンたちの演奏を聴いた時に、ヤバすぎて笑っちゃうみたいな感じの片鱗が、ちょっとずつこの4人で出せるようになってきてるのが今作では嬉しくて。かっけーってなる人もいると思うし、衝撃でボーッとする人もいるだろうけど、俺らの中でも無理なくやれてる。
制作に関しても、『YELLOW』の時はまだ4人での音をずっと実験してるだけだったんですが、YONCEやDaichi Yamamotoくんとか、サックス奏者の馬場智章が参加してくれたEP『An Airship』(2024年12月リリース)を出して、今作はもうどちらかというと全員で作曲してる感覚です。実験してるというより4人でどういう曲を作るかというフェーズになってる。

岩見:その変化って、『YELLOW』収録の「Speculate」あたりからすでに始まってたと思うんですよね。あれも千昇くんとのセッションでリズムパターンから形になっていったような曲で。そういうリズムパターンから曲ができるというのが、この4人の中では自然な流れになってきた感じがする。

「発電所」「120」──セッションから生まれた生音の実験

─曲作りのパターンはいくつかあると思いますが、今回の新作では?

TAIHEI:いろいろなパターンがあって。Kojoeさんとフィーチャリングさせていただいた「The qante」は、俺が家でほとんど作ったデモをみんなに聴かせたら一発でできた。「発電所」は完全にセッションですよね。

松浦:「発電所」はスタジオでジャムってて、自分がモジュレーションという、ズレてるようでズレてないという技法(調性を変えず拍の分割を意図的にずらす技法)があって、それを出して、その場の3人が盛り上がって。TAIHEIさんがその時モジュレーションを知らなくて、「なんか難しい話してるなって」感じで聞いていて(笑)。

TAIHEI:そしたら、最後に「じゃあTAIHEIさん、これやってください」って(笑)。「俺がやるの!?」みたいな(笑)。
そこから理屈と練習方法まで教えてもらって。

─このエピソードからも感じるけど、やっぱりTAIHEIくんにとって賽というバンドは、ジャズの強者3人から吸収させてもらえる場、という側面がある?

TAIHEI:あります、あります。俺はこのバンドの中では「スポンジ君」って呼ばれてますから(笑)。岩見さんがよく言ってくれるんですが、俺にとっては、賽に来る時はカラカラの高野豆腐みたいな状態で来て、関係ないと思ってたら水をつけられてどんどん膨らんでいく(笑)。みんなの経験値を吸い取らせてもらってる感じです。今また次の新譜も作ってますけど、そっちでも得るものがハンパじゃないですもん。

─バンドの発起人が一番学ぼうとしている。

TAIHEI:珍しいですよ。ロックバンドとかだとあまりないですよね。

佐瀬:TAIHEIは「僕らから学ぶ」と言ってくれますけど、それはお互い様というか。TAIHEIから湧き出てくるものを逆にこちらが練習してみたりとか。みんなそれぞれすごく話が早い。
みんな音楽が本当に好きだし、いろんなジャンルに通じているから、めちゃくちゃお互いが刺激し合っている感じがします。僕はジャズフィールドで基本的にやってきて、もちろんジャズは大好きなんですけど、意外とそれ以外のジャンルの音楽をあまり知らなかったんですよ。そういう意味でもTAIHEIからの影響は大きくて。TAIHEIは意外と僕と遠いフィールドにも対応してるというか。ロックとかアンビエントとかクラブミュージックなどの領域を教えてもらったりして。逆に僕もジャズの音源を教えたりとか、そういう関係ですね。

─そういった心置きない関係性のなかで、楽曲もグルーヴも成熟と洗練を同時に果たしている。そうやって鍛錬し続けることで積み上げられる何かがありますよね。このバンドにあるのは、10代や20代のキャリアを経た先にあるピュアさでもあるのかなと。そこはジャズが根底にあるバンドならではのフィーリングでもあるのかなと思うんですよね。

TAIHEI:確かに10代後半とか20代前半でできるバンドじゃないというのはありますね(笑)。特に岩見さんはすごいと思いますよ。
俺の一回り以上年上なのにその年齢差を全く感じさせない。岩見さんとの年の差と同じだけ下に行くと俺がハタチぐらいの子とバンドをやることになるので。それくらい年下のやつに「新しいバンドをやりましょう」って言われてもなかなか「よし、一緒にやろう」というスタンスにはなりづらいけど、岩見さんはそのスタンスで乗っかってくれたわけで。

岩見:僕もこの歳でバンドやると思ってなかったんすけど、でも、ジャズマンはみんな「自分はまだまだ」って言いますよね。やっと中堅と呼ばれるようになりました(笑)。音楽ってどんだけやっても先があるので。楽しいですよ、シンプルに。

─TAIHEIくんにとって、賽というバンドは、Suchmosの再始動も経た今、どういう場所になっていますか。

TAIHEI:家みたいなバンドだなと思います。各々が勝手に成長するし、久々に会ったら兄弟の身長が伸びていたことに気づくような感覚というか。みんな忙しいから、なかなか全員でスタジオに入るタイミングってそんなに多くないんですよ。Suchmosもまた違う家という感覚があるんですけど、俺にとっての賽は柱だと思っていて。久々に4人で音を合わせた時に2、3週間空いただけでも衝撃を受けることが常にある。だからこそ、賽での経験値をSuchmosに持ち込んだり、N.S.DANCEMBLE(NAGAN SERVERを中心に、TAIHEI、松浦千昇、Jinya[D.A.N.]、寺久保伶矢、カルロスが参加する、ダンスミュージック志向のクルー)に持ち込んだり、賽でやれなかったことをソロのライブでやったりというのが、自分の中で自然な感覚になっていますね。

岩見:この4人でできないことって、楽器の物理的な問題を抜いてしまえば、本気でアレンジしてしまえば、今のところ壁にぶつかっていないんですよ。

TAIHEI:そこが怖いところでもあり、恐ろしい現場でもあるけど、ドMとしてはたまらない(笑)。編成的には弦もいるし、鍵盤もいて、管もいて、打楽器もいて。アレンジ次第で何でもいける。

─今作にもハウスを昇華してスウィングする「120」という曲があったり。

TAIHEI:「120」とかまさにそういう曲で。こんな生音のハウスってなかなかチャレンジしないでしょ、みんな。

松浦:全部全力でやっちゃうし、僕にとってもここが全員の本気がぶつかり合う頂点みたいなバンドというか。だから最近常に思うのは、自分の演奏でまずメンバー全員をドン引かせないとダメだと思っていて。

TAIHEI:それは俺も思ってる!

松浦:友だちだから演奏がなあなあになっているわけじゃない。友だちだからこそ「俺こんなことできるようになったよ!」って見せびらかしてドン引かせてというのが止まらないように、日々研鑽を積んでいろんなものを吸収して。2、3週間後にまた見せてドン引かせて(笑)。

佐瀬:そうだね。この4人に「これこんなもんなんだ」って思われたくないかも(笑)。それが一番嫌かも。

賽が語る、生音とグルーヴが深化させた「本気のふざけ」の新境地

Photo by OE HIROKI

ラッパーを迎える理由──”プロデュース集団”としての賽

─ラッパーを客演に招くことについて聞かせてください。インスト曲にボーカルを入れる発想は、バンドとしての思想とどう結びついていますか。前にTAIHEIくんは、「賽は自分にとって自由帳のような存在」とも言ってましたよね。

TAIHEI:「自由帳」という意味は、4人の流儀だけじゃなくて、ボーカリストが来ても、ラッパーが来ても、楽器の奏者が来ても、そのフロントマンの特性によって、俺たちが、例えばThe Rootsのメンバーのようなプロデュース集団になれるということで。日本のバンドとしてそういう活動をやっているグループってあまりいないじゃないですか。いろんなアーティストが乗っかっても「これしかできません」じゃない。そのフロントマンを活かしながら、ただのバックバンドじゃない、フロントマンとフィーチャリングするインストのバンドなんだ、という。そこは千昇が入ってくれた時からずっと目指したいところで、より明確になりましたね。

─今作に客演しているKojoe氏とRama Pantera氏、前作のDaichi Yamamoto氏もそうですが、賽に乗っかった時にラッパーたちがその声を楽器の一部として鳴らそうとするフロウを意識していると思います。だからこそ浮かび上がるリリシズムであり。

TAIHEI:そもそも3人編成の時にドラムレスでやっていた理由も、実はそこにあって。ラッパーの声とビートだけという曲がチャートを席巻している時代に対して、ベースとハーモニーとその間のメロディによるリズムだけでも人は感動できるというアプローチでカウンターを打ちたくて。そういう意識で最初はドラムレスでやっていた。そこから千昇が加わって今の話につながってくるというのも、ストーリー的には俺的に美しいなと思っていて。

─「How can I」がとても美しい曲。最後に映画のスコアのような美しさがある楽曲が置かれるのも賽の作品の特徴だと思います。

佐瀬:これはバイオリンも全部生で録っているんですよ。僕がメロディを作って、みんなでハーモニーをつけていって。しかもその時、スタジオにあったボロボロの子供用のアコーディオンでメロディを作ったんです。

TAIHEI:ブラジルのジャズの超巨匠が残した鬼の名曲みたいなものを作りたいと話して、「じゃあメロから行こう」みたいな感じで。

松浦:この曲が一番ドラムのレコーディングが難しかったです。個人的に最初に出た結論が「ドラムいらないんじゃないか」だったし、大体のドラマーがそこでドラムを入れない選択を取ると思う。でも、だからこそドラムを入れたかったというか。バイオリンが入るというアレンジが見えてきて、なんとか現状の自分なりの正解を見つけたんです。あの曲が一番難しかったですね。

─アルバムタイトルの『Lims』について。これは造語的ですよね? 清涼感に富んだ「SS」から始まって、シネマティックな美しさをたたえている「How can I」で終わるという構成は、ある一日でもいいし、ある人生でもいい──あるドラマの始まりと終わりを描いているような受け取り方もできる。タイトルはそれを集約しているワードなのかなと思ったんですが。

TAIHEI:タイトルは完全に造語ですね。ただ、ここに込めた意味は公表したくないんです(笑)。賽は基本的にインストバンドじゃないですか。だからこそ、曲に込めたストーリーを公表して、固定されたイメージでしか曲を聴けないという状態にしたくないんですよ。インストだからこそ、言語もなく、幅が広い受け取りで感じられる。その人の状況によってこの曲の景色が全部変わるという幅の広さで言えば、インストが最強じゃないですか。ジャケットのデザインと曲名だけに俺らが込めたメッセージを乗せている、という感じで。でも、ヒントは、ふざけてるということ(笑)。あとの受け取り方は自由にお願いします。

─日本のインストシーンにおいて、賽の独自性はどこにあると思いますか。これはある種の批評的な問いになりますが、良い悪いではなく、実情として日本のシーンは賽のようにオーセンティックなジャズを通ったメンバーがオルタナティブなアプローチをするバンドよりも、ポストロック的な文脈から出てきたインストバンドのほうが、光が当たりやすい傾向がありますよね。

TAIHEI:それは本当にそう!(笑)。賽の独自性において、本当にそこはデカいと思っていて。そのうえで賽は日常生活に根づく心地いい音楽を作る。だからこそ、アレンジのキワキワに行きすぎない境界線も意識しているところがある。本音を言えば、賽の存在が、もっと多くの人に早くバレてほしいとは思っているんですよ。でも、慌てるつもりはさらさらないし、メンバーそれぞれの他の活動を圧迫してまでやることはしたくない。自然と賽の立ち位置がズンズン上がっていったら、それぞれのキャリアの中の割合がちょっとずつ増えていけばいい。そうすることもこのプロジェクトを長続きするために大事なことだと思っています。ただ、ポーン!と何かのきっかけで世界にバレたら、海外に勝負しに行く準備はあります。むしろめっちゃ行きたい(笑)。かといって日本での活動をおろそかにするわけでもない。いい曲を作り続けていったらどうなっていくんだろう、というある種の社会実験みたいな感覚もあります。次作に向けて、結構大きなアイデアを3人に持ちかけてすでに取りかかってます。今はこうやってジャズやラッパーの世界も含めていろんな仲間が増えていっているので、まずは今後もいい曲を作り続けて、しっかりライブをやっていく。本気でふざけながら(笑)、賽をやり続けていこうと思ってます。

賽が語る、生音とグルーヴが深化させた「本気のふざけ」の新境地

Photo by OE HIROKI

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賽が語る、生音とグルーヴが深化させた「本気のふざけ」の新境地

『Lims』

Andless
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