大失恋を経験し、喉から血を流すように迸る激情を歌った前作『Valentine』から一転、声帯ポリープの手術と言語療法を受けてリリースされる最新作での彼女のクリアな歌声は、親友であるマンマ(Momma)のアーロン・コバヤシ・リッチをプロデューサーに迎え、軽やかなギターのストロークやストリング・セクションと共に、大空へと浮かび上がっていくかのようだ。
けれども、高く昇っていくことは同時に、危険なほど死に近づくことのメタファーでもある。取材中、30分間ノンストップで喋り続けたリンジーの傍らには愛犬のピップがうずくまり、カメラを向けると、パートナーでもあるマンマのエッタ・フリードマンが笑って挨拶してくれた。リンジーにとってエッタやピップは、放っておいたらどこかに飛んで行ってしまいそうな彼女を繋ぎ止める、アンカーのような存在なのかもしれない。
生き馬の目を抜く音楽業界で、かけがえのない大切なものを見つけたリンジー。日本でも昨年公開された映画『テレビの中に入りたい』で俳優デビューを果たすなど、新たな経験を経て生まれ変わった彼女からの、第一声をお届けしよう。
デーモン・アルバーンは間違いなく自分のナンバーワン
―まずは来日&フジロック出演決定、おめでとうございます! 2022年にあなたがフジロックに出演した際、Rolling Stone JapanではダイナソーJr.のJ・マスキスとの対談企画を行いましたが、昨年ダイナソーJr.と一緒にツアーを回ってましたよね。あれはどういう経緯で実現したのでしょう? 印象的なエピソードがあれば教えてください。
リンジー:ツアーは本当に最高だったよ。Jとはあのインタビューの後から連絡を取るようになって、すごく気が合ったんだ。自分はもともと大ファンだったから、あの対談はこれまでやってきたプレスの仕事の中でも一番クールな体験のひとつだったし、一緒にオタクみたいに語り合えたのも最高だった。その流れで最終的にツアーも一緒に回ることになったんだ。
Photo by Kazma Kobayashi
―2022年のフジロックではオアシスのTシャツを着ていましたし、当時のインタビューでもオアシス愛を語っていましたが、その後彼らの再結成ツアーには行きましたか? もし行ったのであれば感想を聞かせてください。
リンジー:行ってないんだ……。正直に言うと自分は、絶対にソールドアウトするって分かってるものに挑むのが、ものすごくストレスなんだよね。だから最初からチケットを取ろうともしなかった。きっとみんな音楽業界のコネを総動員して動くだろうなって分かってたし。なんていうか、自分らしいというか…ちょっと自己妨害的なところもあると思う。がっかりするのを避けるために、最初から自分をその場に入れない、みたいな。
―昨年海外の音楽サイトConsequence of Soundで行われたJ・マスキスとの対談では「ギターをピックで弾くのが苦手」と話していましたね。実際前作では「Light Blue」や「c. et al.」のようなアコースティック・ギターのフィンガーピッキングが印象的でしたが、新作『Ricochet』では、全編を通してそれこそ90年代のオアシスやレディオヘッドのような、アコースティック・ギターのストロークが印象的です。このあたり、何か意識した点はありましたか?
リンジー:面白いのは、今実際に自分がやってることって、ステージで見るとピックを使っているように見えるかもしれないけど、実はこれまでで一番ピックを使っていないんだよね。ただ、ピックでもたくさん弾いてきたから、違いが分かりにくいだけで。自分に課しているパートの多くは指で弾いているし、しかも大体エレキなんだ。だから結構激しくストロークしているように聴こえても、実は指でやっていることが多い。ちょっと恥ずかしいけど、自分は5歳とか6歳の頃からギターを弾いているのに、いわゆる”まっすぐなストローク”をちゃんと弾けるようになったのは、つい最近なんだよ。いろんなストロークのテクニックも、バンドのメンバーが「なんで自然にできないの?」ってちょっと引くくらい(笑)。
例えば「My Maker」のリフはずっと練習してきたんだけど、サビのあの一定のストロークは本当に練習が必要だった。でも「Butterfly」は、そう聴こえないかもしれないけど、ほとんどピックなしで弾いているし、「Light On Our Feet」も「Agony Freak」もピックなし。指でどれだけテクスチャーを作れるかを試している感じで、これまで以上にフィンガー主体なんだ。だからライブでどう再現するかは、今まさに模索中。今のところは「ピックを持つ、落とす、また持つ、また落とす」みたいな感じになっている(笑)。正直、全部がきれいに理屈に合っているわけではないけど、なんとか形にするつもりだよ。面白いことになると思う。
―あなたのガールフレンドでもあるマンマのエッタ・フリードマンが手掛けた新作のアートワークは、サンデイズとチャプターハウスの1stアルバムのミックスのようです。エッタとはアートワークについて何か話したりしましたか?
リンジー:そうそう! ちょうどその制作をしてた時、彼女は自分と一緒にツアーを回ってたんだ。ダイナソーJr.のツアーに同行してくれていて、うちの犬のピップの面倒も見てくれてた。チャプターハウスっていう比較はすごく嬉しいよ。本当に的確だと思う。
もともとは、エッタに”双頭の子羊”を描いてもらう予定だったんだ。それをアルバム・カバーにしようと思っていて、そのアイデアをずっと友人のエルシーにも話してたら、彼女がワイヤー入りのぬいぐるみを特注で作ってくれて。それが本当に素晴らしかったから、「これをカバーしよう」ってなって、それに向けての印刷プロセスを試していたんだ。ジェルプレートに絵の具をのせて、プリントして、削る、みたいな手法の”テスト・プリント”があってさ。結果的に、その最初のテスト・プリントがそのままアルバム・カバーになったんだよ。他にもいろいろ試したけど、結局あれが毎回いちばん良くて。何度も「これだな」ってなっていった。だんだん愛着も湧いてきて、「これは人の殻というか、この世の身体(=モータル・コイル)みたいなイメージなんだ。しかもスネイル・メイルじゃん」って思えてきた。自分の顔以外でカムバックするのに、カタツムリ(スネイル)の殻っていうのがすごくアイコニックに感じられて、手放せなくなったんだ。
今、自分が(エッタのような)アーティストと付き合うことができてすごく嬉しい。以前からアルバム・カバーを自分の写真以外にしたいと思っていたけど、そういうアーティストたちとのコネクションがなければ、結局できることは自分の写真を使うことだったりする。前の2作はまさにそうだった。ずっとアート界隈の人とつながりたいと思っていたけど、エッタと出会って初めて「じゃあ一緒に何ができるか考えよう」って話せるようになった。それが本当にクールだった。レコードの裏面には自分の写真も載っていて、ある意味では今までのスタイルも引き継いでる。でもそれをひっくり返して、カタツムリにしてしまうのが面白いと思った。自分はその中に隠れている、引きこもっている、みたいな感じで。
『Ricochet』、サンデイズ『Reading, Writing And Arithmetic』、チャプターハウス『Whirlpool』アートワーク
―最近あなたがよく着ているトラックスーツもブラーのデーモン・アルバーンのようですが、90年代UKロックのサウンドや美意識からは、どんな影響を受けていますか?
リンジー:(後ろの壁に貼ってあるザ・ヴァ―ヴのポスターを指して)この変なポスター見てよ。
リンジー宅に飾ってあったのと同じザ・ヴァ―ヴのポスター(※画像はリンク先から引用)
何物にも代えがたい変化
―プロデュースにマンマのアーロン・コバヤシ・リッチを起用したのはエッタとの繋がりもあったと思うのですが、一番の決め手は何だったのでしょう? 実際に作業してみていかがでしたか?
リンジー:アーロンはニューヨークの小さなバンドをやっている自分の友だちの作品もたくさん手がけていて、本当にいろんな素晴らしい仕事をしてきた人なんだ。彼が関わった作品を聴くと、その幅の広さが分かるし、全部がマンマっぽい音になるわけじゃないっていうのも大きかった。もちろん、最初にマンマを聴いたときはソングライティングにも惹かれたけど、プロダクションもすごく面白いと思った。でも実際に彼と出会って友だちになってから、「一緒にレコードを作りたいな」と思うようになったんだ。ただ、マンマみたいな音にしたいわけじゃないっていうのは最初からはっきりしていた。彼はいろんなタイプの作品を手がけているし、実際にいろいろ話し込んだよ。インスピレーションとか、音のパレットとか、「どんなサウンドにしたいか」とか。制作に入る前から、かなり長いあいだ一緒にプレイリストを作っていたし。エッタやマンマのクルーからもそんな話を聞いていたし、自分でも「彼となら創作的にもすごくいい関係でやれそうだな」と感じていた。お互いリスペクトがあって、友だちでもあって、ちゃんと理解し合っているという感覚があったから。
自分をよく知っている人が一緒に作ってくれるって、すごく心強いんだ。彼は純粋な音楽ファンでもあって、10代の頃からスネイル・メイルを聴いていた。だからちゃんと分かってくれている。長年聴いてきたリスナーとして、彼がスネイル・メイルに何を求めているのか、そこにも興味があった。上下関係みたいなものはまったくなくて、つまり先生と生徒みたいな関係じゃなくて、本当に友だち同士。自分と同世代で、しかもとんでもなく才能のある人とやるって決めたとき、正直一瞬も迷いはなかった。この人となら最高のスネイル・メイルの作品ができる、ってすぐに思えたんだ。彼が「分かっていない」なんて感じた瞬間は一度もなくて、「この人は絶対に正解を見つけるし、それ以上のことをやってくれる」と確信していた。今になって思うのは、ちゃんと自分たちの道を選べるんだな、ってこと。アーティストの多くは、プロデューサー選びでもある種の”王道ルート”を辿るでしょ。友だちとやって、その次はこの人、その次はジャック・アントノフ、みたいな(笑)。でもみんな似たような道をなぞっている気もしていて。もちろん音楽業界で何を選べばいいかなんて分からないから、そうなるのも分かる。でも自分はマンマのやり方を見て、「全部を自分たちの内側で完結させるって、すごくクールだな」と思った。それをやってみたいと思ったんだ。
実際、エッタがアートワークを手がけて、友だちのエルシーと初めて映像制作に挑戦して、一緒にビデオを作って、自分とアーロンでレコードを作った。バンドのオリジナル・メンバーのレイとアレックスも大きな役割を果たしてくれた。スタジオもすごく小さくて、ボーカルはずっと同じマイク1本だけ。これまでで一番選択肢が少なかった。でもお金をかけて何か大掛かりなことをやることもできたはずなのに、あえてそうしなかった。プレッシャーのかかる状況だからこそ、それ以上に重荷を増やさないことが大事だと思ったんだ。自分をよく知っている人たち、自分を理解している人たちに囲まれていること。それが本当に大きかった。スネイル・メイルに期待を持ってくれている人たちの視点を借りて、「じゃああなたの目にはどう映る?」って問いかけながら作る。それが、自分にとって一番自然で、安心できるやり方だった。
―去年の3月に、あなたがノース・カロライナのスタジオでクリス・クリストファーソンのポートレイトを抱えている写真と一緒に、アーロンがモアイ像にヘッドホンを着けて、マイクを向けている写真がInstagramにアップされていました。あれは何をしていたのでしょう?
リンジー:(笑)あのクリス・クリストファーソンの写真は、セッション中ずっとこっちを見ていたんだよね。ミキサー卓のところに、ただ置いてあってさ。で、あのイースター島の……カップ? みたいなのもあって。スタジオ自体がすごく小さくて、最高なんだけど、ずっと同じものが視界に入るわけ。自分、あのカップ(モアイのやつ)をずっと手に持っていた気がする。自分はただアーロンを笑わせようとしていただけなんだよね。よく分からないけど。でも本当に、あの時期はひたすらリラックスして、ふざけたりできたのが大きかった。何もかもがほとんど少ないテイクで決まっていって、全部すごく自然で、スムーズに進んだんだ。今まででいちばんプレッシャーのないスタジオだったと思う。みんなでずっと遊んでた感じだった。
スネイル・メイル公式Instagramより引用
―新作を聴いて、まずはあなたの歌声がクリーンになっていることに驚きました。声帯ポリープの手術をした以外にも、言語療法を受けたそうですが、歌う上で何か気を使っていることや、ボーカリストを志す人たちへのアドバイスはありますか?
リンジー:言いたいことはたくさんあるよ。自分はこれまで、シンガーとしてちゃんとしたトレーニングを受けたことが一度もなかったんだ。でも、歌うことを仕事にしていると、それが思っている以上に大きな影響を与えるんだって知って、正直びっくりしたよ。あと、ちゃんとした音響環境で歌えるようになったのも、実は『Valentine』の制作の途中くらいからだったと思う。経済的にも余裕が出てきて、機材や環境を整えられるようになって、インイヤー・モニターも使えるようになったし。ドラムの音に負けないように無理に声を張り上げなくてよくなったのは、本当に大きかった。あれはかなり恵まれた環境だと思う。
アドバイスと言われても難しいんだけどね。多くの人は長い間、そんな環境を選べるわけじゃないと思うし。でも自分の場合、言語療法の先生が(1st EPの)『Habit』を聴いて、「これは昔からの癖だね」って言ってたんだ。要するに、話し方そのものが間違っていて、喉のよくない場所に力をかけてたらしい。それと、みんなあまり意識していないけど、すごく大事なことがあって。歌手じゃなくても、人前で話す人にも言えることだと思うけど、騒がしい場所で声を張り上げるのは本当に声に良くない。バーで向かい側の人に聴こえるように大声で話したり、周りの音量に合わせて声を上げたりするのは、声帯にかなり負担がかかるんだ。だからツアー中は、今はよくボーカル・レストを取っている。24時間まったく喋らない日を作ったりね。それが一番声を回復させてくれる。ウォームアップも大事だし、歌い終わった後のクールダウンも大事。それから、しゃがれ声って「味がある」と思われがちだけど、実際にはあれが健康な状態というわけではないと思う。どちらかというと、声帯に負担がかかっている状態の音なんだよね。自分は声の健康の模範みたいなタイプでは全然ないけど、やめたことはいくつかある。昔は本当に四六時中ボングを吸っていたけど、今はもうやめた。もちろん喫煙も良くないし、叫ぶのも良くない。それから、いわゆる”Z世代のボーカル・フライ”も声帯にはよくないと思う。
―ボーカル・フライって?
リンジー:ああ、あの「yeah…」みたいに、喉を潰すような声の出し方。あれは声帯にはあまり良くないんだ。声に悪いことって本当にたくさんあるけど、結局は空気が自然に流れるような、柔らかくて軽い発声が大事なんだと思う。今の自分の声は、前よりずっと軽くて、ちょっとフェミニンな感じになったと思う。ファルセットも出るようになったし、今まで使えなかった高い声域も出せるようになった。前みたいにすぐ声が枯れることもなくなったしね。正直、この変化は何にも代えたくないくらい気に入っている。あの経験自体はすごく怖かったけど、今はずっと気持ちが楽になった。ミュージシャンとしても、「今日はちゃんと声が出るかな」って心配しなくていいのは本当に大きい。ちゃんと出るって分かっているし、自分でコントロールできる感覚がある。以前ほど声のコンディションに振り回されなくなったと思う。まあ、これからどうなるかは分からないけどね。
―冒頭の3曲ではストリングス・セクションが導入されていますが、歌詞ではすべて上昇するようなイメージが描かれています。これは何に起因するものなのでしょう?
リンジー:それについては、いろんなことが関係していると思う。最初はアルバム・カバーを、人が仰向けに横たわっていて、そこから魂がふっと抜け出して、上に起き上がっていくようなイラストにしたいと思っていたんだ。体からスッと魂が浮かび上がるようなイメージって、すごく惹かれるものがあって。あと、映画『Flow』って観た? あの中で、鳥がこう……上の世界へ引き上げられていくようなシーンがあるんだけど、足をバタバタさせながら「何が起きているんだろう?」って戸惑っている感じの場面。あれを観たとき、本当にものすごく泣いてしまって。大げさじゃなくて、身近な人の葬儀のとき以来じゃないかってくらい。自分でもはっきり理由は分からないんだけど、ああいう”上へ昇っていく”イメージって、視覚的にものすごく胸に迫るんだよね。天に昇っていくというか、あるいは何もないところへ向かっていくのかもしれないし、どこか別の場所へ向かっているのかもしれないけど、とにかく何かに導かれて上へ向かっていく、その感じが、自分にはとても強い感情を呼び起こすんだ。
―今作はピアノでも曲を書いたそうですし、タイトル曲でもピアノを弾いていますが、実際にはどの曲をピアノで書いたのでしょう? ギターで曲を書くのと何が違いましたか?
リンジー:例えば「Cruise」のボーカル・メロディは完全にピアノで書いた。「Reverie」もそうだし、「Agony Freak」もメロディはピアノで考えた。「Tractor Beam」と「My Maker」、それから「Light On Our Feet」も一部はピアノで書いている。あとは「Hell」も少しそうだったと思う。たぶんそれくらいかな。『Valentine』の制作の途中くらいでメロトロンを手に入れたんだけど、それがすごく面白くて。既存のいろんな楽器の音をブレンドできるんだよね。「My Maker」の最後に出てくる音もそれで弾いていて、フレンチ・アコーディオンとブラスが半分ずつ混ざったような音なんだ。すごくきれいで、なんというか”パリの夜”みたいな雰囲気がある。ヘッドホンをつけて、ただいじって遊んでいただけなんだけどね。結果的にすごく感情的な響きになって。弦のパートなんかも、あのメロトロンで音を重ねながら作ったものが多いんだ。
自分はギターでも、耳で音を探しながら「こういう感じかな」って弾くのは得意だと思う。でも鍵盤で弾くと、もっと音楽的というか、よりエレガントに感じられることがある。手で配置していくことで、音がはっきり立ち上がるというか。ギターでもできないわけじゃないけど、鍵盤の方がその感じを出しやすい気がする。それに、例えばボーカル・メロディをバイオリンのパッドみたいな音で弾くと、それだけでかなり感情的に聞こえるでしょ。もし感情を強く引き出したいなら、最初からそういう音で考えた方がいい。涙を誘うような感じにしたいなら、もうチェロとかを鳴らしてしまえばいい、みたいな。そういう感覚で作っていたんだ。
大事なのは、自分のどこが特別なのか見つけること
―「Butterfly」や「Reverie」といった曲では、音楽業界の邪悪な人たちから、愛する人や純粋なものを守りたいという感情が歌われているような気がします。10年以上音楽活動を続けてきて、何か学んだことはありますか?
リンジー:本当にいろんなことを学んだよ。正直、新しい才能が出てくるのを見ると、ちょっと複雑な気持ちになることもある。伝えたいことが山ほどあるから。でも、そういうことを発言する立場になるのって難しいんだよね。変に自分の立場を危うくすることもあるし。だから最近はあまり初対面の人とたくさん会うタイプでもなくて、むしろちょっと引きこもり気味かもしれない。でも本当は、共有したいことがたくさんあるんだ。実際、そういうことを伝えようとして自分がトラブルに巻き込まれたこともあるし。ただ、この仕事って本当に「誰かに教えてもらわないと分からないこと」が多いと思う。でもその一方で、やってみないと分からないことも多い。だから、前の世代の人たちが必要なアドバイスをくれなかったことを責める気はまったくないんだ。そもそも、この仕事のやり方って本当に人それぞれだから。
例えば、多くの人は「こうしなきゃいけない」というルールがあると思い込んでいる。でも実際にはそんなことはない。シャングリラみたいな有名スタジオで録音しなくてもいいし、すごく高級なスタジオでなくても、ちゃんとエレガントなレコードは作れる。大事なのは、一緒に作っている人たちに理解されていると感じられることなんだ。周りの人たちとちゃんと分かり合えていれば、時間をかけて取り組むだけで素晴らしいものは作れると思う。
音楽業界には「こうあるべき」という”Should”がすごく多い気がする。他の業界でもそうかもしれないけど、特に音楽はそれに縛られている感じがある。でも自分は、成功するための正しいやり方なんてひとつもないと思っている。アルゴリズムとか、これから10年の音楽業界がどうなるかとか、自分には正直よく分からない。今は全部がインターネット中心みたいになっているしね。スネイル・メイルがこれからどうなっていくのかも、正直分からない。でもひとつ言えるのは、他の人と同じことをする必要はないってこと。大事なのは、自分が心地よい方法で、自分が表現したいものを表現することだと思う。これまで、自分は「有名な人と同じことをしよう」として失敗していく人をたくさん見てきた。そういう人たちは、むしろ地元の友だちと一緒にレコードを作っていた方が良かったんじゃないか、と思うこともある。そうすれば、その人の特別な部分がちゃんと残ったかもしれないから。多くの人は成功した人の足跡をなぞろうとするけど、本当に大事なのは、自分のどこが特別なのかを見つけることなんだと思う。
Photo by Daria Kobayashi Ritch
―あなたがスマッシング・パンプキンズのカバーを提供し、役者としても出演した映画『テレビの中に入りたい』が昨年日本でも公開されました。あなたも自分のミュージック・ビデオを監督していますが、映画に出演した経験から何か得たものはありますか?
リンジー:うーん、正直に言うと……特にないかな(笑)。というのも、演技って本当にまったく別の世界なんだよ。想像していたのと全然違っていて、全然準備できるものじゃなかった。ずっと鏡を見ながら「もっと自然に見えるように」って意識する感じで、ああいう経験は人生で初めてだった。自分の場合、ステージでは、曲の感情が強いと本当に泣きそうになることがあるんだけど、手術のあとにボーカル・コーチから「そこまで感情を出しすぎると声帯に負担がかかる」って言われたんだ。つまり、本当に泣く必要はないし、感じすぎて自分を傷つける必要もないってこと。演技でも似たところがあって、「やりすぎて不自然にならないようにする」みたいな感覚があった。ただ、自分はちょっとラッキーだったと思う。自分が演じたキャラクター(劇中番組「ピンク・オペーク」のタラ役)は、マンガっぽいというか、シリアスなドラマという感じでもなかったから、わりと感情を引き出しやすかったと思う。
スネイル・メイルのライブの場合は、演技とはちょっと違っていて、むしろ大事なのは「その場にちゃんといること」なんだと思う。ミスしないか心配して頭が真っ白になるんじゃなくて、ちゃんと曲を感じている。自分たちがそこにいる理由はその曲なんだから、そこに集中する。感情を感じるのは大事だけど、どこかに意識が飛んでしまわないようにする、という感じかな。あと、『テレビの中に入りたい』の撮影が少し楽に感じられたのは、相手役だったヘレナ・ハワードのおかげでもある。彼女は、本当に信じられないくらい才能のある俳優なんだ。あのシーンでもすでに全力で演技していて、自分はただ彼女の目を見ていれば、自然とその場に入っていけた。そんな感じだったと思う。彼女、本当に別次元なんだよ。自分で泣くこともできるし。彼女は別の映画にも出ていて、タイトルが今ちょっと思い出せないんだけど……とにかくすごい作品で。あれを観たとき、「この人は感情の表現を完全に自分のものにしている俳優だ」って思った。だから自分はただ彼女を見ていればいい、っていう感じだった。
―本作のスケールの大きなサウンドを、フジロックを含めたライブではどんな風に表現していきたいと思いますか?
リンジー:そうだね、まず今はチェロ奏者がいるんだ。それに三声ハーモニーもやるようになった。そこは今までと違うところだね。曲によってはギターが3本のときもあるし、2本+キーボードのときもある。あるいは2本+チェロのときもあるし、場合によっては自分とチェロだけ、という編成の曲もある。正直、今回のアルバムのパートって、ほとんどライブでは再現不可能なんじゃないかって思うくらいなんだけど(笑)。だから本当にめちゃくちゃ練習している。今まででいちばんリハーサルをやっていると思う。自分は軍隊の指揮官みたいになっていて、メンバー全員に「練習だ!」って言っている。もちろん自分も含めてね。それから今回、初めて照明も入れることになった。今まではわざと照明を避けていたんだよね。「自分たちはシンプルなバンドなんだ」っていう感じでやっていたから。でも今回は照明もあるし、チェロもある。うまくいけば、アルバムの世界観をライブでもしっかり再現できると思う。今リハーサルでやっている感じだと、かなりいい形になりそうだよ。
―楽しみにしています。今日はお時間をありがとうございました!
リンジー:ありがとう。日本で会えるのが楽しみだよ!またねー!
チェロ奏者も参加した「The Tonight Show Starring Jimmy Fallon」での最新パフォーマンス
スネイル・メイル
『Ricochet』
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Matador Records Campaign 2026
特製ZINE(表紙:キム・ゴードン/スネイル・メイル)
【ZINE掲載内容】
・Kim Gordon / Snail Mail 新作レビュー
・おすすめディスクレビュー
・〈Matador Records〉とは?
Review text : 野中モモ、天井潤之介、清水裕也、 小熊俊哉、Kun、鈴木喜之、鳥居真道、井草七海、木津毅、吉澤奈々(掲載順)
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2026年7月24日(金)~26日(日)新潟・苗場スキー場
※スネイル・メイルは7月24日(金)出演
公式サイト:https://fujirockfestival.com/


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