アーティストとしての”成長”という言葉では足りない。RAYEに起きたのは、ほとんど別人のような変化だ。
ちょうど5年前、彼女はジョエル・コリーとデヴィッド・ゲッタとの共作「Bed」でトップ10入りを果たしていた。いかにもクラブ向けのシンプルな楽曲で、本人も後に「本当に退屈だった」と振り返っている。

しかし2021年7月、ポリドールとの契約を解消し、インディペンデントとして再出発。デビュー作『21st Century Blues』で2024年のBRIT Awardsを席巻した彼女は、今や明らかに次のステージにいる。しかも、その一歩はかなり大きい。

南ロンドン出身の彼女による2ndアルバム『This Music May Contain Hope』は、全71分に及ぶ大作だ。ジャズの軽やかさを感じさせる楽曲(「Beware… The South London Lover Boy」「I Hate the Way I Look Today」)から、スケールの大きなバラード(「I Know Youre Hurting」「Nightingale Lane」)、さらにはクラシック映画のような華やかなストリングスまで、振れ幅はかなり広い。「I Will Overcome」の終盤も、ボンド映画というよりは、往年のハリウッド作品のドラマチックなラストを思わせる。

本作は、自己不信や失恋、そして口先ばかりの男たちとの関係を乗り越えていく過程を描いたコンセプトアルバムだ。4曲目「The WhatsApp Shakespeare」は、そうした”軽薄なロミオ像”を象徴するタイトルになっている。

ただし、その構成はあえて緩く、ジャンルやアイデアを自由に横断していく。「Skin & Bones」ではキレのあるファンク、「Goodbye Henry」ではアル・グリーンを迎えたソウル・バラード、「Life Boat」ではクラブ仕様の楽曲もしっかり成立させている。


最新シングル「Click Clack Symphony」は、ヒールの足音のようなリズムに、ハンス・ジマーによる重厚なアレンジが重なる一曲。ガールズナイトのためのポップソングといえなくもないが、その作り込みはかなり大がかりだ。

アルバム全体としても、かなり情報量が多い。長めの語りパートや、途中で展開が変わる曲、そして「Winter Woman」に差し込まれる加工ボーカルの短いフレーズなど、細かな仕掛けが随所にある。RAYEはディテールへの意識も高く、「Nightingale Lane」では〈彼の唇は薄くて、ビールと涙の跡が残っていた〉といった印象的な描写を聴かせる。「I Hate the Way I Look Today」で歌われる〈この気持ちは消えないし、ごまかせない。いっそお金を払って変えてしまおうか〉というラインも、外見に対する葛藤をリアルに切り取っている。

もちろん、やや冗長に感じられる部分もある。アルバムの最後に、参加した人々の名前を一人ずつ読み上げる約4分間のパートなどは、その最たる例だろう。ただ、そうした過剰さも含めて、彼女の誠実さやオープンさが作品全体を支えている。

「Joy」は、妹のAmmaと、同じく妹でアーティストとして活動するAbsolutelyを迎えた高揚感のあるディスコ・ナンバーで、近年のヒット曲「Where Is My Husband!」に匹敵するキャッチーさを持っている。

そもそもメジャー時代のRAYEは、ダンス・ポップの枠に収まることを求められ、創作の自由を大きく制限されていた。
そうした背景を考えれば、このアルバムの”やりすぎ”とも思える部分に目くじらを立てるのは筋違いだろう。

『This Music May Contain Hope』は、スケールも内容も含めて非常に野心的な作品であり、同時にリスナーの背中を押すような力を持っている。「まだやり直せる」と感じさせるそのメッセージは、まさにRAYE自身の歩みと重なる。そして何より、強力なコーラスの数々が、その説得力を裏打ちしている。

RAYE(レイ)
『THIS MUSIC MAY CONTAIN HOPE.』
Human Re Sources
配信中
配信リンク:https://rayeofficial.com/thismusicmaycontainhope/

from Rolling Stone UK
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