あのサンダーキャットでさえ、近頃は何かに集中するのが難しいと感じている。その事実は、いくらかの慰めになるはずだ。2020年の『It Is What It Is』以来となる5枚目のスタジオアルバムは、至極真っ当に『Distracted(気が散っている)』と題され、今や現代生活と切っても切り離せない絶え間ない情報の奔流から着想を得ている。もっとも、彼は絶望に打ちひしがれたり、さらに悪いことに悲観主義に陥ったりしないよう細心の注意を払っている。むしろ、彼にとって「気が散ること」はインスピレーションの源であり、日々を生き抜くために不可欠な気付け薬のようなものなのだ。「注射を怖がる子供が医者に行くと、先生は目の前で何かを振って気を引いている間に注射を打つだろ。たまには、気が散るっていうのもいいもんなんだ」と、彼は語る。
先日、Rolling Stone誌のニューヨーク・オフィスを訪れた際、彼は中世風の指輪から『ゲーム・オブ・スローンズ』からそのまま出てきたような装甲プレートまで、多種多様なジュエリーを身に纏っていた。「たまにはバトル・アーマーが必要だからな」と彼は冗談を飛ばす。「保護(プロテクション)」もまた『Distracted』のテーマの一つだ。このアルバムは現代社会の状況を案じると同時に、サンダーキャットの音楽の背景に常に存在してきた「喪失」や「悲しみ」といったテーマにも深く関わっている。グラミー賞の最優秀プログレッシブ・R&B・アルバム賞を受賞した前作は、親友マック・ミラーを失った経験を色濃く反映していたが、今作でも序盤にマックのヴァースがフィーチャーされている。
この曲は、プロデューサー兼マルチ奏者のグレッグ・カースティン、超絶技巧を誇るジャズ・キーボード奏者のドミ・ルナ、そして驚異的なドラマーのJD・ベックによる複雑な演奏の上を、彼の羽のように軽いボーカルが軽やかに滑走する、感動的なオマージュに仕上がっている。後者二人は、グラミー賞にもノミネートされたジャズ・デュオ、ドミ&JD・ベックのメンバーだ。「これは俺とグレッグ・カースティン、JD、そしてドミの間で生まれたものなんだ」とサンダーキャットは説明する。「ミュージシャンシップがあれば、それは一つの言語になる。あの曲を作り上げたのは、本当に美しい体験だったよ」。サンダーキャットは今や、自身のリリースの多くに喪失の影がつきまとっていることを自覚している。しかし、彼はそれを憂鬱なものとしてではなく、ある種の禅のような受容を持って解釈している。彼にとって悲しみとは、通り過ぎるものではなく、人生の前提条件に近い。「それは、学びが決して終わらないのと同じさ。
豪華ゲスト陣との邂逅、故マック・ミラーとの記憶
サウンド面において、『Distracted』は前作『It Is What It Is』が終わった場所から再開している。それは、多種多様な音楽的本能を通り抜ける、万華鏡のように自由奔放でジャズの薫り高い旅だ。アルバムの冒険心は、彼自身が語るクリエイティブな「落ち着きのなさ」というテーマを反映している。「俺が自分自身と安らかに向き合うために学んだ方法は、いくつかのことが同時に進行している状態にすることだった」と彼は語る。「楽器の練習でさえ、ある程度は無意識のうちに行わなきゃならなかった。だからどうだろうな、その中間にある『気が散ること』っていうのは、時として最悪の事態にも、最高の出来事にもなり得るんだ」。
アルバム全体には、クラシックなソングライティングの形式が流れている。「What is Left to Say」のような楽曲は、80年代の「ブラット・パック」映画時代のラブソングのようなヴィンテージなメロディを湛えている。もしシナトラが「曖昧な関係」について口ずさんだらこうなるだろう、という趣だが、ある意味では彼もそうしていたのかもしれない。『Distracted』は、刺激的な手法で時間の壁を平坦にしてみせる。
その一方で、精選された客演陣がサンダーキャットの世界へと足を踏み入れている。リル・ヨッティは「I Did This To Myself」に参加し、『Lets Start Here.』で見せたインディー寄りのスタイルを再演した。ヨッティのサイケデリック・ロックへの転向を支えたテーム・インパラのケヴィン・パーカーは、サンダーキャット曰く長年の相思相愛が結実した楽曲「No More Lies」に登場する。「何年も前のグラミー賞で会ったことがあるんだけど、その時の俺たちの写真を見たら、救いようがないくらいマヌケな面(つら)をしてるんだ。彼(ケヴィン)も、俺も、フライング・ロータスもサングラスをかけてさ。全員で『なんてこった』って感じだよ。洞窟から引きずり出されてきたみたいでさ」と彼は振り返る。「彼らの作品は全部大好きだ。ずっとそうだった。ある意味、彼もあんなに上手くいくとは思ってなくて驚いたんじゃないかな。
「She Knows Too Much」には、生前未発表だったマック・ミラーのヴァースが登場する。軽快で陽気なこの曲は、脆さと「有害な男の焦燥感」の間の境界線を絶妙にすり抜けていく。死後に発表されることになったそのヴァースについて、サンダーキャットはこう語る。「どこに向かうかなんて、俺たちにも分からなかった。あいつには触れたい場所があって、その準備もできていた。この曲は、俺たちにとって聖典(カノン)みたいなものだったんだ。『これについては、また後で向き合おう』って感じだったのさ」
この曲は、多くの人が「地獄絵図」と証言するであろう、現代のロマンスに対するアルバムの見解を突いている。今、若い男たちの間には「男性の孤独という伝染病」とも称される特有の不安が蔓延している。前の世代に比べて、男性がパートナーを見つけるのが難しくなっているという考え方だ。サンダーキャットはこの倦怠感に対し、彼らしいユーモアのセンスでアプローチする。「どいつもこいつも、野郎どもには全員海に向かって歩いていって、どデかい雄叫びを上げて、天に向かってレーザーでもぶっ放してほしいと思ってるんじゃないか」と、彼は半分冗談めかして言う。
時には、気が散っていたって構わない
テクノロジーはこのアルバムの至る所に影を落としている。それはタイトルの通り絶え間ない「気の散る」原因であり、人との繋がりに立ちはだかる実存的な脅威のようなものだ。「インターネットは、選択肢があるっていう幻想を見せるんだ。アプリがあって、そこで彼氏や彼女を見つけようとするけど、選び抜くのは至難の業さ。複雑だよ、でもそれは俺たちが向き合わなきゃいけない問題なんだ」
サンダーキャットの前作は、世界的なパンデミックが社会をひっくり返したちょうどその時にリリースされたが、今回の新作もまた「狂気と共に生きている」と彼は言う。そうした意味で、『Distracted』はまさに現代を記録した一枚のように感じられる。オンラインの世界と同じくらい燃え尽き、ひたすらスクロールを続けながらも、「今この瞬間」に存在することは滅多にない、そんな世界を映し出しているのだ。「このアルバムから何を受け取ってほしいかって? 時には、気が散っていたって構わないってことさ。でも、ほとんどの状況じゃ、そうはいかないんだけどな」とサンダーキャットは語る。「正直になろうぜ。俺たちはみんな今、ある種『気が散った』状態にいて、そうならないように必死なんだ。
Photographs by SACHA LECCA
From Rolling Stone US.
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