ニュー・ファウンド・グローリー(New Found Glory)が12枚目のアルバム『Listen Up!』をリリースしたその日、チャド・ギルバートの手は突然動かなくなった。ナッシュビルのライブハウス、The Endで行われたリリース・パーティーのステージ上。
30年間弾き続けてきたコードをなぞっていたはずの指が、思うように動かない。それは手だけではなく、体の左半身全体のコントロールも失われつつあった。

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その夜、ステージに上がる直前、彼は楽屋のゴミ箱に嘔吐し、メンバーに支えられて椅子に座った状態で演奏することになった。過去5年間、まれな副腎がんと闘ってきたギルバートは、治療や薬の副作用も数多く経験してきたが、体が動かなくなったり、ギターが弾けなくなったりしたことは一度もなかった。

「ショー自体は素晴らしかった。でも、何かがおかしかった」と、45歳のギルバートはZoom越しにローリングストーンに語る。ナッシュビル郊外の自宅のベッドに横たわり、『バフィー ~恋する十字架~』のグラフィックTシャツと黒いキャップを身につけている。声はかすれ、ときに震えるが、左手に冬用の手袋をはめていることを除けば、1カ月に及ぶ入院生活から帰宅してまだ1週間しか経っていないとは思えない。

「あの夜、家に帰って階段を上がろうとしたら、そのまま前に倒れてしまった」と彼は振り返る。その週末、彼はベッドから起き上がれず、左半身の制御を次第に失っていった。

「主治医が脳と脊椎の専門医に連絡して、『すぐに救急に連れて行ってください』と言われたんです」と、隣に座る妻のリサ・チモレリが補足する。この1カ月の記憶があいまいな夫を支えるように、彼女が説明を引き継ぐ。
「翌朝、脳に新たな腫瘍が3つ見つかりました。そのうち1つはクルミほどの大きさで、脳の右後方を圧迫していて、それが左半身の麻痺を引き起こしていたんです」

ギルバートは3月23日、自身のInstagramで脳に新たに見つかった3つの腫瘍と、そのうち1つを摘出する手術について公表した。退院のわずか数日前のことだった。2021年に肝臓への転移性褐色細胞腫と診断され、その後副腎皮質がんへと診断が変わり、体のさまざまな部位へと広がっていった闘病の過程を、彼はこれまで逐一共有してきた。しかし、今回の1カ月間にわたる脳腫瘍との闘いは、言葉やICUでの写真だけでは到底伝えきれない。にもかかわらず、彼はこう語る。「こうしてここに座ってインタビューを受けられるだけで、本当に、とても幸運だと思う」

手術の翌日、彼の状態は一時的に改善した。親しくなった看護師たちは、左手を振る彼の動画をチモレリに送ってきたという。「本当に信じられない瞬間でした」と彼女は言う。ICUからリハビリ病棟への移動も予定されていたが、そこで事態は急変する。

「その頃、医師から『ナトリウム値が急激に低下している』と言われたんです」とチモレリ。ギルバート自身はほとんど意識がなく、この時期の記憶はほとんど残っていない。


「彼はまた眠り込んでしまって、それまでの回復がすべて失われていくように感じました」

MRIとCT検査の結果、腫瘍周辺の液体が脳を圧迫し、ナトリウム値の急低下と認知機能の低下を引き起こしていたことが判明する。「起きていることすら難しくて、考えをまとめることもできなかったんです」

ギルバート自身は多くを覚えていないが、幻覚だけははっきりと記憶している。「病院で食事の注文を聞かれて、日本にいると思い込んでたんだ。『オキナワキ(Okinawaki)、ありますか?』って言ってたよ」

この危機的状況に対処するため、彼は脳内に残る2つの腫瘍を縮小させるため、計10回の放射線治療を受けた。インタビュー中も、彼は何度かキャップを外して額や頭皮をかく。「ごめん、ずっとかいてて。たぶん放射線で少し火傷してるんだと思う」

現在の治療方針は、免疫療法が血液脳関門を通過し、脳へのがんの侵入を防ぐことにある。さらに、副腎皮質がん(ACC)治療としては初めて用いられる糖尿病用薬も併用している(この治療結果は将来的に医学誌に掲載される予定だ)。

これほど過酷な1カ月を経ても、彼の姿勢は揺るがない。「まだ戦いが続いていて、そこから回復して、もっと強くなれるとわかるのはいいことだと思う」と彼は言う。「エネルギーと体力を取り戻したい。ずっとベッドにいるのは嫌なんだ。
起き上がって、自分のやるべきことをやりたい」

ニュー・ファウンド・グローリーは5月からYellowcardとのツアーを開始し、6月8日にはナッシュビル公演を控えている。「もう以前のようなツアーはできないと思う。でも、近場の公演なら出演できる」とギルバートは語る。チモレリによれば、たとえ座ってでもそのステージに立つことが、彼の目標のひとつだという。

だが、彼を突き動かしているのは個人的な目標だけではない。「こうした困難な経験は、どんなに辛くても、ファンを鼓舞するためのものでもあった」と彼は言う。『Listen Up!』では、主要ソングライターとして自身の体験を率直に描き、落ち込んだときにどう力を振り絞るのかを綴っている。「100%」や「You Got This」といった楽曲には、重いテーマと同時に、より激しいリフが刻まれている。入院中でさえ、彼は曲を書き続け、チモレリや看護師、友人にアイデアを書き留めてもらっていた。「僕は常に書いている。頭の中にはいつもメロディが流れているんだ」

ニュー・ファウンド・グローリーの音楽を超えて、彼の不屈の姿勢そのものがファンを鼓舞している。「もちろん泣くときもある。
みんなと同じように吐き出す必要があるから。でも、それをポジティブなものに変えていけるのがいいと思うんだ。僕らのライブに来て、笑って、楽しい時間を過ごしたいと思ってくれる人たちのコミュニティを育てること。それがずっと自分の原動力なんだ」

from Rolling Stone US
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