例えば、メンバー全員が管楽器を操るマルチ奏者であり、同時にプロデューサーでもある彼らは、ストリングスなどを除き、ほぼ全ての演奏を自分たちだけで完結させてきた。それらを重ね、編集することで緻密なアンサンブルを構築し、リズムにおいても自作のビートと生演奏を巧みに組み合わせてきた。2010年代、ソウルクエリアンズやロバート・グラスパーの影響下で「人力のリズム」が大きなトピックとなったなか、ドラマー抜きで独自の成功を収めた稀有な存在がムーンチャイルドだった。
そんな彼らが、外部のドラマーや管楽器奏者を大胆に迎え入れて完成させたのがニューアルバム『Waves』だ。これまでの手法を覆す大きな変化を施したことになるが、鳴り響くサウンドは驚くほどにムーンチャイルドらしさに溢れている。音楽的な豊かさを手に入れながらも、彼らのキャラクターは微塵もブレていない。純粋にクオリティを向上させることで、最高傑作を生み出してみせた。
今作では悲しみ(grief)、癒やし(healing)、回復力(resilience)、自己肯定感(self-worth)といったテーマが深く掘り下げられている。これらの感情が織り込まれたリリックが全編を貫いているだけでなく、その機微はサウンドのテクスチャーでも見事に表現されており、極めて完成度の高いコンセプトアルバムに仕上がっている。いくつもの新たな挑戦を含む本作について、アンバー・ナヴラン、アンドリス・マットソン、マックス・ブリックの3人にじっくりと話を聞いた。
新作の核となったキーワード
―アルバムのコンセプトを聞かせてください。
マックス:6作目となる『Waves』の制作にあたって、まずは新作のサウンドに取り入れたい要素を明確にしていった。
そして、もう1つの目標は、トリオとしての連携をこれまで以上に深めると同時に、ゲスト・シンガー以外を迎えるだけでなく、様々な楽器のゲスト・ミュージシャン勢とのコラボレーションを可能な限り増やすことだった。僕らは各自スタジオを持っているから、制作が進むにつれて(スタジオ作業は)これまでの作品とほぼ同じ流れで進めていった。各自が温めてきたアイデアの種を、3人で集まった時に持ち寄り、それを練り上げて楽曲を完成させていった。つまり、新作の精神に沿って、3人で集まった際に共作する時間も設けた。その結果、実に素晴らしいオーガニックな曲がたくさん生まれたよ。
―資料には「悲しみ、癒やし、回復力、自己肯定感を掘り下げた」と書いてあります。このコンセプトはどこから来たのでしょうか?
アンバー:これは楽曲の歌詞に由来するもので、どの歌詞もここ数年に私が体験したパーソナルな経験を反映したもの。不妊と向き合い、赤ちゃんを授かろうと努力し、それに伴った悲しみの波のようなもので、私が経験してきた成長の反映でもあると思う。
タイトルを決めるにあたって、3人で歌詞のテーマを見直したんだけど、「Waves(波、波動)」という言葉が、このアルバムに収録されたすべての要素を完璧に包括していると思ったの。
―アルバム全編がひとつの物語のようになっているのだとしたら、これほど一貫したコンセプトを制作するにあたって、当初から全体を見通したプランに沿って制作を進めていったのでしょうか。作詞・作曲を含め、具体的な制作プロセスを教えてください。
アンバー:歌詞に関しては、携帯電話にメモしておいたアイディアをスクロールしながら見返したり、曲を聴きながら「この曲はどんなテーマにしたらいいか」と考えを巡らせながら生まれたものもある。それから、メロディを書いたり演奏している時に自然と歌詞が浮かんできたこともあった。ムーンチャイルドの過去作と比べて新作の歌詞に一貫性が感じられるのは、たぶん私たちが歌詞のテーマを決めてから音楽制作に取り組んだのと、毎週3人で集まって話し合いを重ねたことや、制作すべてが当時の私の心境を反映したものだったからだと思う。過去のアルバムでは、様々な時期の様々な経験から歌詞のインスピレーションを得ていたから。
マックス:今回は3人でこれまでとは違った曲作りの手法を試したりもしたからすごく楽しかったよ。どう展開させるか悩んでいた時、いつもとは逆の手順で、コードを決める前にアンバーにメロディーを考えてもらうことを提案したりね。そういうちょっとした実験をして、いつもとは違うやり方で自分たちを刺激できたんだ。
―歌詞に注目すると、自己肯定感を考え始めるところから始まり、紆余曲折あって、自分を許したり、自分を認めたり、抱えていた悲しみや痛みとも共存する覚悟を持つところに辿り着く、というような物語だと僕は感じました。こういった物語の全体像をどのように考えて、どのように作ったのか、教えて下さい。
アンバー:アルバムの曲順を決めるにあたって、最後の2曲は「Nothing to Prove」と「Afterglow」が絶対いいと思った。アルバムを締めくくるような曲だし、感情面でもアルバム全体に流れる様々な「波」をまとめるステキな終わり方になる気がして。メンバー各自が案を出し、比較し、検討していった。
―このアルバムの歌詞を見ると、特に中盤は成長したり、簡単に解決されるだけではなく、立ち止まったり、悩んだり、時には少し後退したり、ゆっくり、じっくりと物語が進むのが印象的でした。悲しみ、癒やし、回復力、自己肯定感をすごく細かく、繊細に表現していると感じました。こういった歌詞のニュアンスをどのように考えたんですか?
アンバー:自然の流れでこうなったんだと思う。成長や悲しみ、癒やしを経験する時って、一度に全てが押し寄せたりするものでしょ? 心の痛みや疑念、自分に自信をつけていく過程、周りの人たちから愛を受け取ること……。それに孤独感や、誤解されていると感じたり、自分自身のためにどう振る舞うかを学んだり。そういった感情が同時に湧き上がるから、楽曲も自然とこういうものに仕上がったんだと思う。
新たな深みをもたらしたゲスト陣との共作
―このアルバムにはボーカリストだけでも11人が起用されています。それぞれの曲にはそれぞれのメッセージがあり、それぞれの感情があります。どのようにボーカリストを選んだんですか?
アンドリス:『Waves』の収録曲が決まる前から、一緒に仕事をしたいアーティストのリストを3人で共有したけど、その時点では具体的に誰がどの曲に合うかは未決定だった。アルバム収録曲がまとまった辺りで、ゲスト参加に賛同してくれた各アーティストにお願いする楽曲の割り当てを始めたんだ。
マックス:ゲスト・ボーカリストが書いてくれた内容を聴いて、本当に刺激を受けたよ。僕らが「悲しみ」や「癒やし」といった具体的な要素を事前に伝えたところ、みんなすごく乗り気で、熱心に取り組んでくれたんだ。こういったテーマは、どのアーティストも共感したり語りたいと思うものらしくて、物凄く力を入れて書いてくれた。僕らが書いたものに対して、彼らが新たな方向性を加えてくれたのを聴くことができて、最高だったよ。
アンバー:うん、本当に楽しかった。ヴァースとコーラスを書く際に、私は楽曲展開のアイディアを練ったりするんだけど、ゲスト勢が手を加えた楽曲を聴く度に「Oh my God! 全く思いつかなかったけど、これ完璧じゃない!」って感じだった。他の人たちが音楽に「自分のストーリーや経験」を足してくれることで、歌詞はより深みを増していくから。
―アンバーに質問です。悲しみ、癒やし、回復力、自己肯定感が含まれた曲を表現するために、ご自身の歌に関してはどんな工夫をしましたか?
アンバー:トーンやフレージングを歌詞にピッタリ合うものにしたくて、歌い方をいくつか変えてみた曲もあった。ある歌い方でしっくりこない時はより静かに歌ってみたり、リズミックに歌ったりしてね。
マックス:この曲の2ndヴァースでボーカルの音程を下げたよね?
アンバー:そうそう。2ndヴァースで音程を下げたのは、自分自身と会話しているような感じにしたかったから。自分の中に疑念があって、それをまるで友達に話しかけているかのように歌いたかったの。他者の視点、あるいはもっと優しい視点から自分を見つめて歌っているような感じでね。
マックス:それから、「朝起きたばかりの時間帯は声が低くて、特別な響きがある」っていうことで、アンバーがあえて寝起きの声で録音したパートもあったよね?
アンバー:ええ。どうしても「When You Know」は「朝の声」で歌いたかった。「行く時が来たとわかったら、荷物をまとめて去るしかない」というテーマに合っていると思って。それに、朝の方が低めの豊かな歌声を出しやすかったから(笑)。
Photo by Lauren Desber
―かなり工夫が凝らされてるんですね。これまでのアルバムではドラマーを起用してこなかったムーンチャイルドが、ドラマーを迎えたことには驚きました。どういう経緯だったんですか?
アンドリス:試したことがなかったからこそ、今回は新しいことに挑戦したくて、コラボレーションを意図的に実現させたんだ。確か『Be Free』で外部のドラマーに演奏してもらった曲が1曲あったけど、それ以外はすべてプログラミングだったんだよね。
僕らはムーンチャイルドを15年間続けられるという幸運に恵まれ、その過程で素晴らしいミュージシャンたちと出会うことができた。その中の一人がクリス・デイヴなんだ。知り合えただけでも光栄なのに、嬉しいことにクリスが「ムーンチャイルドのファンだ」と言ってくれてね。僕らも彼のドラムが大好きだから、今回迷うことなく数曲でゲスト参加をお願いしたんだよ。彼のおかげで、楽曲が断然優れたものに仕上がった。最高の体験だったね!
マックス:クリスとの仕事は本当に楽しかった。飛行機で(LAまで)来て貰い、スタジオで丸2日間一緒に過ごしたんだ。クリスはずっとスタジオ内でいつでも仕事ができる状態で、僕たちが何を聞いても応えてくれた。その結果、4曲も参加することになったんだ。クリスのレコーディング中には、僕ら3人ともコントロール・ルームで彼のグルーヴに身を任せて頭を揺らしていたよ(笑)。立ち会っていて楽しいレコーディングだったね。
―「For Yourself」ではリズムをクリス・デイヴに任せて、「Advice」「Counting」「Sick」ではクリスのドラムと自分たちのドラム・プログラムを同居させていると思います。どんな感じで制作したんですか?
アンドリス:僕らがレコーディング用に準備した楽曲はある程度ドラムを入れていたから、クリスがスタジオに来た時点では、彼にどこを演奏してほしいか、すでに頭の中で決めていたと思う。確か「For Yourself」では、「ドラムのトラックを全部ミュートにして、クリスには1曲通して自由に演奏してもらおう」って決めたのを覚えてる。「Advice」にはドラムマシンのようなヴァイブスのアウトロ・パートがすでにあったし、「Counting」もドラム音をすべてミュートにして、クリスには自由にいろいろ演奏してもらった。その後、ポスト・プロダクションの段階で、彼が演奏したパートの周りに僕の方でいくつかの要素を足していったんだ。
―「Up From Here」にはThe Kountの名前があります。ドラムセットではなく、サンプリングしたドラム音源をインストールしたシンセサイザーの鍵盤を叩くことでリズムを奏でる、独自のスタイルを持つプロデューサーですよね。彼の話も聞かせてください。
マックス:The Kountはドラムセットでも凄いことをたくさんやってるんだよ。Instagramで彼の動画を見て以来、僕はずっと彼のファンだったんだ。だから、彼がドラムパックを作っていると聞いた時はすぐに入手したよ。数年前に僕が作ったビートがあったんだけど、その時の音楽部分を一度ミュートして、切り出したドラムとパーカッションのパートだけを彼に送ったんだ。そこにアンバーが「Up From Here」のコード進行を書いてくれて、そこから彼との共作が始まったんだよね。
実は2025年のDJジャジー・ジェフのプレイリスト・リトリート(クリエイター向け制作キャンプ)で、The Kountに実際に会うことができた。あの曲を作った当時は、「オンラインで繋がっている、お互いのファン」って感じだった。でも、実際に出会って以来は一緒にツルんだりしているよ。
それから、僕らのツアー・ドラマーを通して海外で知り合ったTammuz(タムース)が作ったドラムパックを「Ride the Wave」で使用している。それ以来、Tammuzは自分のドラムパックを全部タダで送ってくれて(笑)。僕はメール返信もしなかったのに、送り続けてくれたんだ(笑)。本当にいい奴だから、「Ride the Wave」で彼のループを使った。Tammuzも現在プレイリスト・リトリートに参加していて、僕らは親しくなったんだ。
―ドラマーを入れたことは何をもたらしましたか?
アンバー:本当にたくさんのことをもたらしてくれた。私たち、ドラムのプログラミングはするけど、ドラマーじゃないから……(笑)。実際にドラムセットを叩いているミュージシャンたちと仕事をするのは、すごく楽しかったな。
楽曲の案を練る際、自分たちでドラムをプログラミングするから、これまでは「トラックは仕上がったし、好きなドラムの音もあるから、外部のドラマーを呼ぶ必要はないよね」って考えがちだったの。でも今は、自分たちが大好きなサウンドを奏でるドラマーたちと親しくなったから、「もし彼らが気に入ってくれるなら、ぜひ参加してほしいな」って考えるようになったかな。
―今作は器楽奏者のゲストも多いですよね。「Up From Here」「Sick」にロバート・グラスパーが参加しています。
アンバー:ロバートと友情を築けたことは、私たちにとって本当にラッキーなことだった。彼は私たちのメンターのような存在で、たくさんアドバイスをくれるし、そもそも私たちのヒーローの一人なの。ムーンチャイルドの結成当初から、私たちはロバートが作る音楽のすべてに夢中だったから。友情が深まるにつれて、彼が「何か一緒にやりたいことがあれば、声をかけてね」と言ってくれたことを思い出して、メンバー3人で「ぜひ、実現させようよ!」って盛り上がったの(笑)。
マックス:最初は「Sick」の終盤あたりで、「ここにピアノ・ソロが入るといいな、グラスパーのソロなら完璧だ」って思う箇所があって、そこを弾いてもらう予定だったんだ。ところが、レコーディングの直前……前日あたりに「せっかくスタジオに来てもらうなら、もう1曲お願いしたいな」って考え始めてね。
そこで追加で提案したのが「Up From Here」だった。ロバートは曲を聴いた瞬間からすごく気に入ってくれたよ。最初は「アンバーのコード進行はすでに完璧だし、これ以上足す必要なんてないよ!」と言っていたんだけど、何度も聴いているうちに気分が乗ってきたみたいで(笑)。一緒に飲みながら話していたら、ついに「何か足そうかな」と言い出してくれて、グラスパーらしいコードが際立つ最高のパートが生まれたんだ。本当に素晴らしいセッションだったよ!
―「Counting」ではサックス奏者のデイナ・スティーヴンス、「Sweet Spot」ではフルート奏者のエレーナ・ピンダーヒューズが参加し、それぞれにソロパートが用意されています。「feat.」としてクレジットされており、ボーカルのゲスト陣と同等の役割を担っているという印象を受けました。
アンドリス:僕らの基盤は「器楽奏者(インストゥルメンタリスト)」であること。メンバー全員がジャズを専攻していたし、作曲と同様に、「器楽演奏」という芸術形式に対して深い敬意と尊敬を抱いている。だから、器楽奏者をゲストとして迎えることは、いつでもエキサイティングなんだ。デイナはまさに彼ならではのサウンドを披露してくれた。デイナがゲスト参加したグレッチェン・パーラートのアルバム『The Lost and Found』を僕ら3人は聴き込んでいたから、彼をゲスト・ミュージシャンとして今回招いたのはすごく自然な流れだったよ。
そして、エレーナはジャズ・シーンで最高のサウンドを聴かせてくれるフルート奏者のひとり。お互いの存在は知っていたし、何か一緒にやりたいと思っていたから、「Sweet Spot」のアウトロでエレーナのフルートを披露してもらうのが自然だと思って。送ってくれた音源をそのまま使ったよ。
アンバー:私が大好きなアーティストのライブを観に行くと、いつもエレーナがゲスト参加してて(笑)。LAではみんな彼女のことが大好きだし、実際に私が行った多くのライブでも、彼女のパフォーマンスはその日のハイライトだった。ある日、彼女と直接話す機会があって、その時に「ぜひ一緒に何かやりたい」って言ってくれたの。だったら「絶対に実現させなきゃ!」って、ずっと機会を狙ってたんだ(笑)。
マックス:デイナとのセッションもそうだね。レコーディングで彼と過ごせたのは本当に楽しかったよ。アンドリスが言ったように、僕らはグレッチェンのアルバムを通じて彼を知ったんだけど、実は彼の方がもっと前から僕らのことを知ってくれていたんだ。デイナはベイエリア出身なんだけど、実は僕ら3人も(同じくベイエリア出身の)イエロー・ジャケッツのラッセル・フェランテにピアノを習っていてね。2011年に出したムーンチャイルドのデビューアルバムに「Things We Do」という曲があって、そこでラッセルにピアノソロを弾いてもらったんだけど、どうやらデイナはその曲を通じて僕たちのことを知ったらしい。彼もずっとファンでいてくれたんだよ。
音のテクスチャーに込めた「セルフラブ」
―今まではドラムビートも自分たちでプログラミングし、サックスやフルートも自分たちで演奏してきましたが、今回はあえてその役割を外部のプレイヤーに委ねていますよね。同じ楽器を扱うプレイヤーとしてのアイデンティティもある中で、あえて「手放した」のはなぜでしょうか?
アンバー:いやいや、だって二人とも私より遥かに上手いわけで(笑)。それに、彼らが奏でるサウンドそのものがとにかく大好きだから。今回のアルバムは、私たちが心から「ムーンチャイルドの空間を共有したい」と思っている人たちと、特別なひとときを過ごせるような内容にしたかったの。
マックス:自分たちで書いたパートはそのまま演奏したけれど、ソロで構成されている曲や、ソロパートを構築していく場面では、「他の誰かの解釈も聴いてみたい。彼らならこの曲をどう捉えて演奏するだろう?」という好奇心が勝った、という感じかな。
―これは全員に質問です。悲しみ、癒やし、回復力、自己肯定感が込められた曲を表現するために、音の響きやテクスチャーに関してはどんな工夫をしましたか?
アンドリス:先ほど触れたように、僕らはまず最初にアルバムのコンセプトとして意図したリストを準備したんだ。具体的な制作案や、探求したい特定のサウンドを盛り込んだ、音楽面での明確な目標リストも作った。
実際にそのサウンドを探求した一曲が「Ride the Wave」だね。この曲では、ヴァースとコーラスを根本的に異なる空間に配置するというアイデアを試してみたかったんだ。だから、ヴァース部分はすごくドライな質感で、聴き手に迫ってくるようなタイトな仕上がりになっている。そこからアンバーがサビの「Ride the Wave」を歌い始める瞬間に、リヴァーブを効かせた浮遊感のある、より広がりのある空間へと一気に変化する。そうした要素の探求は、間違いなく制作面で意図していたことの一つだった。
マックス:「質感(テクスチャー)」というのは大きなキーワードの一つで、今作にはその要素を強く取り入れたかったんだ。過去にも鳥の鳴き声を入れたりして、手法自体は以前から試してきたことだけど、今回は音楽に質感を与えるための、より新しくて刺激的な方法を見つけたかった。それが「悲しみ」や「癒やし」といったテーマとどう結びついているのか、正確なところは自分でも分からないけれど……。ただ、そこには「波」のような感覚があって、テクスチャーの中に「感情の波」のようなものが一面に広がっているんだ。
サウンド面では「自己愛(セルフラブ)」もテーマの一つだったから、自分の声や音をできるだけ多く楽曲に盛り込んだよ。具体的には、聴けば「ああ、これはマックスだね」とわかるような、クラリネットのレイヤー演奏や、僕がよく弾くキーボードのフレーズなんかを入れている。どの曲においても、音を通じて自分たち自身に愛を示すための、音楽的で趣味の良い空間を見つけ出すことが、僕らにとって非常に重要だったんだ。
アンバー:マックスが、楽曲にもっとサンプリングを取り入れるよう後押ししてくれたことも付け加えたいかな。これは私がソロプロジェクトでよく使っている手法なんだけど、今回私たちが目指したのは、ムーンチャイルドの過去の作品をサンプリングするという試み。例えば、「Nothing to Prove」では『Starfruit』に収録されている「I'll Be Here」をサンプリングしているし、「Sweet Spot」ではジェイコブ・マンのキーボード演奏をサンプリングした。それから、「Advice」のバックグラウンドでかすかに聴こえてくるのは、マックスがサンプリングした私のボーカル。ムーンチャイルドにとって、こうしたアプローチは今回が初めての試みだと思う。
―最後の質問です。前作『Starfruit』で取材した際、アンバーはネイイラ・ワヒード、イルサ・デイリー=ワード、パーシヴァル・エヴェレット、マヤ・アンジェロウといった詩人や作家の名前を挙げてくれました。今作にも通じるものを感じる詩人や作家はいますか?
アンバー:詩人のオーシャン・ヴオン(Ocean Vuong)にハマって、ものすごく刺激を受けたわ。『Night Sky with Exit Wounds』という非常に美しい詩集の作者なの。LAで彼が登壇するイベントにも足を運んだんだけど、その語り口は感動的で力強かった。NPRのインタビューも素晴らしいわ。彼の言葉選びはとても詩的で、ただ普通に話しているのを聴いているだけでも、思わずメモを取りたくなってしまうくらい。
もう一人は、私の親しい友人でもある詩人のY.N.ヴォーン。彼女の詩集も何冊か持っていて、読み進めるのが本当に楽しかったし、その言葉の紡ぎ方には大きなインスピレーションを受けた。彼女はヒップホップやR&Bのカルチャーとも深い関わりがあって、実はお母さんや叔母さんたちがジ・エモーションズのメンバーなの。そういった音楽界のバックグラウンドを持つ詩人の作品だから、視点もすごくユニークで面白かった。
ムーンチャイルド
『Waves』
発売中(CD国内仕様盤)
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15438


![VVS (初回盤) (BD) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51lAumaB-aL._SL500_.jpg)








