高岩遼が、ジャズを核にブルースやファンクへと遡りながら、自分の身体に沈殿してきたブラックミュージックを、いまのポップとしてどう立ち上げるか? その問いに対するひとつの回答がニューシングル「Aint Nobodys Business」だ。

昨年9月末にリリースした原点回帰のジャズアルバム『TAKAIWA』で出し切った先に残ったもの。
それは、削ぎ落とされた「愛」と「態度」だった。迎合でも逸脱でもない、高岩曰く「煮しめた先にしか現れないポップ」。その輪郭が、ようやくはっきりと見え始めている。

─まず、今いるこの場所について説明してもらえますか。

CATCH MONEY STUDIO です。目黒区にある高岩遼と仲間たちのプライベートスタジオであり、INFのベース拠点でもある。アジトという感じですね。このスタジオでレーベル的な動きもこれから始まります。

─ラッパーにおけるヤサ的な。制作は基本ここでやってるんですか?

ここと山奥の家ですね。なんでもできますよ。歌も録れるし。
二重扉になってるから。そもそもミュージシャン向けの物件だと思うんですよ。今年の7月で使い始めて2年になりますね。今回の新曲も、俺の歌も、コーラスの2人のボーカルもここで録ったし、インストゥルメンタルも基本的には全部ここで録りました。

─何か作りたいと思ったらここに来る、という感じ?

そうっす。あとは海外からタトゥーアーティストが来たときにここにベッドを持ち込んでもらって彫ってもらったり。

─タトゥー、まだ増えてるんですか(笑)。

増えてます(笑)。最近は家で自分でも彫る練習をしていて。

─自分で?

人工スキンで練習してます。シグネチャーを1個作って、それを自分に入れたくて。

─なるほど、自由にやっちゃってください(笑)。
では、新曲の話をしましょう。自身のルーツとあらためて深く向き合ったジャズアルバム『TAKAIWA』をリリースしたのが去年の9月末。リリース後の体感はどうでしたか?

よかったですね。俺の先輩のさらに超先輩みたいな方々も、『TAKAIWA』をダウンロードして聴くというストリートのムーヴが一部起きていて。めっちゃ連絡来ましたもん。「あの人が『TAKAIWA』をインスタのストーリーズに載せてるよ」って。「誰ですか?」ってなったら、「レジェンドスケーターだよ」って(笑)。世間的にはSANABAGUN.を活動休止し、THE THROTTLEを解散して「あいつ何やってるの?」ってなってたと思うんですよ。でも、『TAKAIWA』をリリースしたことでストリートの人たちからの反応がすごくあって。

─ファッション方面からの反応もあった?

そうですね。モデルの仕事に繋がったりとか。Yohji YamamotoのWILDSIDEというブランドとNEIGHBORHOODとのコラボのアイテムのモデルをやりました。
そしてついに来た案件が、Wild Turkeyの仕事なんですよ。

─おおっ。

俺が三茶でやっていたバー、Brotherはバーボンウイスキーをメインにしたバーだったじゃないですか。でも、代理店が主催するようなイベントには意外と呼ばれてなかったんですよ。

─べつに意外ではないけどね(笑)。

まぁ、使いづらいと思われてるんだろうなと思って(笑)。そしたら今回、Brotherのお客さんだった広告代理店の方が、Wild Turkeyを取り扱う日本の代理店の方から「誰かいい人いないですか?」と相談されたときに、「高岩さんしかいないんじゃないですか」と言っていただいて。「Wild Turkey 101」というシリーズが日本に上陸するにあたって、そのCMに俺が出ることになって。ナレーションも俺がやってます。

─調子いいじゃないですか。

俺はBrotherで相当な額をウイスキーにかけてますからね。メーカーの人に「1年分のボトルをいただけると聞いたんですけど」って言ったら逃げられましたけど(笑)。


─やめなさいよ(笑)。でもやっぱり、『TAKAIWA』をリリースしてからいろんな点が線になってる実感があるんじゃないですか。

めちゃくちゃありますね。みんながイメージする「高岩遼ってこれだよな」というイメージや高岩遼が好きなカルチャーのピースが、『TAKAIWA』をリリースしたことで如実に伝わっているなと。

ジャズの身体でポップをやるということ

─この新曲「Aint Nobodys Business」もそうじゃないですか。あらためて、自分のコアな部分をいかにポップスとして昇華できるかというチャレンジをしようとしてますよね。

その通りです。俺はやっぱり普通のポップスを書くのは無理なんですよ。誰かが曲を書いてくれるならいいかもしれないけど、俺が書いてそれを発表したとして、「ちょっと違うでしょ」ってなっちゃうアーティストなんですよね。それはもう十分理解しました。

─この曲に至るまでの流れを聞かせてもらえますか?

2026年4月にニューシングルを出しますというレーベルとの会話を経て、事務所の要望も吸い上げたところで、また曲が書けなくなっちゃって。やっぱり『TAKAIWA』でちょっと出し切っちゃった感覚があったから。
明るくて派手な曲を1回作ってみようってなったんですけど、全然作れなくて。それで、発疹が出ちゃって。近くの皮膚科に行ったら、「高岩さん、珍しいですね。これ女性がなりやすい病気なんですよ」って(笑)。最近ようやく発疹が引いたんですけど。

─ポップスやオーバーグラウンドな振る舞いに向き合うのが、それだけストレスだったということですよね

そうです。ここまでいろいろ風呂敷を広げてきたから、何をやっても「今までの何か」になっちゃうんですよ。それも嫌だったし、「小さな穴に糸を通す」みたいな、そういうニッチな作業が難しかったですね。

─でも、高岩遼を知っている誰もが「高岩遼にしか体現できないポップスター像が絶対にあるはずだ」ってずーっと、性懲りもなく信じてるじゃないですか。

ありがたいことです。「これから俺だけのポップスターになろう」という話は『TAKAIWA』のときもしていたし、だからこそ、悩んだんですよね。でも、悩みまくったら、答えが出てきた。
それは、「愛」だと。俺なりの愛をどのように表現するか。母や親父が愛していた、ディスコ、80年代の近未来感、ニュージャックスウィング、そういうダンサブルなサウンドってソロではやってこなかったじゃないかって閃いたんですよ。あと、「あの時代のバックミュージシャンのアイデンティティって全員ジャズじゃん!」って思って。じゃあ次はファンクをどう昇華するかという発想になった。要するに、俺は一昔前のジャズマンの系譜を真っ当に歩んでるだけなんだと思ったんですよね。ニューオリンズ出身のジャズボーカリスト兼ピアニスト、ハリー・コニック・ジュニアも、ファンクをやりだして。マイルス・デイヴィスもジャズと電子音楽を繋げた第一人者でもある。「あ、やっぱり、俺が歩んでるのはジャズなんだ」って思ったんです。

─やっぱりポップスをやるにしても、根底にジャズがなければ意味がないという。

そう、じゃなきゃ無理なんだみたいな(笑)。

─ただこの曲は、打ち込み要素もありますよね。

ドラムと管(ブラスセクション)が打ち込みですね。

─DAW上でのスキルは、エレクトロミュージックプロジェクトであるINFから得たものがかなりフィードバックされてる部分もありますよね。

めちゃくちゃあります。DAWのワークフローがすごく速くなってるし、DAWの作り方、EQのいじり方などのスキルは、INFの制作でこの1年ぐらいでかなり上がったので。この曲でも遺憾なく発揮できましたね。

─ジャズというキーワードを通していろんなジャンルと向き合ってきたものが全部入っている、ということですよね。INFもテクノもジャズである、という解釈でやっているわけで。それは、この曲のリリックにおいてもそう。

そうですね。冒頭からちゃんと日本語で歌いたいという気持ちもあって。トンチとユーモアと皮肉、リリックとしてもそれを突き詰めたのがこの曲です。

─あなたの生き方を象徴しているとも思います。

ありがとうございます。まさに、女が家を出ていくという物語は、大体の男は経験してるでしょ(笑)。

─はい(笑)。あとは、今の世の中、SNSも含めて本当にうるさいし、他人の人生に対して気軽に口出しする風潮に対して、「Aint nobodys business」=「うるせえな」と歌ってもいる。「Aint nobodys business」はブルーススタンダードのタイトルにも由来していると思うんですけど。

そう、このリリックのテーマはブルースなんですよ。エッセンスがジャズで、ブルースをやりたかった。この登場人物の男をどう冒険させていこうかなと思ったときに、パートナーが家を出ていって、そこで俺はソファに座り、テレビをつけると、芸能人と芸能人が「離婚しました」みたいなことを言ってる。「どうでもいいよ! 俺には関係ないよ、そんな浮いた話は!」っていう、そういう歌なんですよ(笑)。「誰かの恋バナを聴きたくねえんだ!」と歌ってる俺が、「おまえが自分の恋バナを歌ってんじゃん!」ってツッコめる。それが、ウケるんですよ(笑)。さらに、もともと俺の親父がマイケル・ジャクソンのダンスをかなり忠実に真似できるぐらい、ダンスが上手なディスコ野郎で。で、俺がマイケルで一番好きな曲が「The Way You Make Me Feel」なんですけど、あの曲で「Aint nobodys business」というフレーズが繰り返される。俺はそのフレーズを中学校ぐらいからめっちゃ歌って練習してたんです。今回は「母が愛したもの」に戻るというテーマにしたかったから、母が愛した父、そして母と父が愛したマイケル・ジャクソンのこの一節いただこう、という感じで。

─自分のコアにある黒人音楽、ブラック・ミュージックのグルーヴ、踊れる音楽の原体験を深堀りしたら、こうなったと。

そこを大事にしましたね。

─SANABAGUN.にもファンク的なアプローチをしている曲はいっぱいあるけど、これは似て非なるものじゃないですか。そのあたりもかなり意識したと思うんですけど。

しましたね。この曲は生ドラムじゃないし、ラップはしてないし、ベースも生ベースじゃなくてシンベで。

─この曲で、今後、ポップエンターテインメントをやるうえでの軸みたいなものができたという手応えがありますか?

そうですね。このノリでこの1年をやらせてもらいます。

─アルバムまで見越しているということ?

この世界線でフルアルバムまで作りたいと思ってます。

─アートワークについても、ジャケットイラストにKosuke Kawamura氏、フォトグラファーにRyoma Kawakami氏、スタイリングにnuga氏と、ヘアスタイリングにKunio Kohzaki氏、ここから高岩遼を見据えたうえでのチーム編成であり。

そうです、そうです。Ryomaはクールで硬い写真を撮るから、スタイリングがぶっ飛んでいても、いい惹きがある。スタイリストのnugaくんは、俺の中にある宇宙をよく引き出してくれましたね。このタイミングでエイリアンになりたかったんですよ、本格的に(笑)。

─前回のインタビューでもその話をしましたね(笑)。あらためて、今の高岩遼にとって宇宙と繋がりたいという感覚はどういうニュアンスですか?

今までは「高岩遼が高岩遼を演じていた」みたいなところもあったじゃないですか。それがもう本当の自分と一緒になって、殻が割れてポン!って出てきたのが新しいアー写のこいつみたいな。「究極完全体だ!」という感じっすね。スタイリングもエルビス・プレスリー感もあるしプリンス感もあるし、石原裕次郎感もある(笑)。

─Kosuke Kawamura氏によるジャケットアートワークが、世界的にも彼のシグネイチャーとして知られているシュレッダーコラージュではないところもポイントですよね。

そうなんです。康さん(Kosuke Kawamura)ってもともとハードコア出身で、地元の広島で友人のバンドの革ジャンの背面に絵を描くところがキャリアの始まり?とか。康さんの事務所にお邪魔させてもらったときに、「ちょっと次に何をやったらいいかわかんないんですよね」という話をしたら、「ファンクじゃね?」と言ってくれて。その一言も大きかった。今回のアートワークで康さんは貴重な文献を引っ張り出してきてくれて、スキャンして全部並べ替えてコラージュしてくれてるんです。文字のフォントも80年代のギャングが描いたものだし、後ろのマンハッタンも車も人物も違う素材をコラージュして作っている。アート的な価値もすごいっすよ。めちゃくちゃありがたいっすね。

─贅沢ですよね。

やっぱり、自分がリスペクトできるクリエイターやアーティストと密にやるっていうのが俺のやり方だし、結局それが一番なんですよね。三軒茶屋のBrotherもちょっと道半ばで閉じたじゃないですか。でも、次は音楽を真ん中に置いたフィールドで、自分のカルチャーを作るということを、『TAKAIWA』を経てもう一回やろうとしてる感じっすね。

─そうしないと結局、あなたが飽きるしね(笑)。

そうなんですよ。重度の病気だから(笑)。

─アルバム制作に向けたサウンドプロダクションも、何曲かプロデューサーを入れるという発想だって可能性としてはあり得るじゃないですか。そのあたりどう思ってる?

全然ありです。でも、ここが難しいですよね。プロデューサーも俺ぐらいギークじゃないと無理かなっていう。すげぇ車好きとかね(笑)。『TAKAIWA』を出してよくわかったのは、「俺の表現ってもう煮しめちゃってるじゃん」ということで。

─煮しめる(笑)。

だから、煮しめまくった先に、ポップスまでの距離が遠ければ遠いほど、同じくらいポップスになれるんじゃないかなって思ったんですよ。

─いや、でも、本当にそうだと思う。

俺のキャラクター的にも、音楽観としても、人生観としても煮しめた先のポップスターになろう、と。喩えるならブルーノ・マーズが石原軍団に入ったらどうなるか?ってことじゃないですか。

─あははははは! わかりづらそうで、わかりやすい!

そっちで行くしかないと思ってます(笑)。ここから「自分にとってのポップとは何か?」という答えを探しに行くって感じなんで。「いいんじゃん、これで」って開き直れたんですよね。

─そういう意味でも『TAKAIWA』を出せてよかったですね、マジで。

本当に。一時期は「流行りのポップスを研究しなきゃいけないのかな?」とも思っていたけど、でも俺は人並み以上にブラックミュージックをめちゃくちゃ聴いてきたし、それが血となり肉となってる。だったらそのなかでのポップスを探した方がいいんじゃないかと思ったんですよね。

高岩遼が語る「煮しめた先のポップスター」 ジャズを核に「Ain’t Nobody’s Business」で切り開く新章


”煮しめた先のポップスター”としての次の一手

─8月26日にSHIBUYA CLUB QUATTROで開催されるワンマンは、もちろんこの新曲のモードでやるということですよね。

はい。でも過去のソロ曲もやるつもりで。「ROMANTIC」はやろうと思ってます。

─あれは過小評価されすぎの大名曲ですから。

キングレコードからソロ3発目にリリースしたデジタルシングル「スターダスト」もこの世界線にあるし、『TAKAIWA』からは「なにもない」をサイケデリックバージョンでやったら面白そう、とか(笑)。やっぱりサイケデリックなライブであり、80年代スプラッターホラーみたいなことをやりたいんですよ(笑)。『A Nightmare on Elm Street』(『エルム街の悪夢』)って感じ。俺の脳内ではバッチリ画が見えてます。

─バンドメンバーはどういう編成になりそうですか?

現時点では、俺はシンベとショルキー、ギターは今回の新曲音源でも弾いてくれてる磯貝一樹。鍵盤は大樋祐大。あとはパーカッションも入れたいですね。コーラスも音源に参加してくれてるKawamura NaoとGrace Aimi。管も入れたいけど、全員女性でもいいかなと。音の立ち上がりが早いブライトな音色が出る連中をそろえたいです。今回のソロワンマンにこの1年を賭けてるところがあって。8月26日は俺の誕生日の前日でもあり。

─時が過ぎるのは早くて、SANABAGUN.が2027年1月8日に次の活動を発表するというその日までもう1年切ってますから。

そうなんですよ。そこで堂々と「ただいま!」って言えるように。そのためにもソロで煮しめた先のポップスター”高岩遼”を目指すだけです。

<リリース情報>

高岩遼が語る「煮しめた先のポップスター」 ジャズを核に「Ain’t Nobody’s Business」で切り開く新章

DIGITAL SINGLE「Aint Nobodys Business」
高岩遼
配信中
https://ryotakaiwa.lnk.to/ANB

<ライブ情報>

高岩遼が語る「煮しめた先のポップスター」 ジャズを核に「Ain’t Nobody’s Business」で切り開く新章


RYO TAKAIWA LIVE2026-SPECTACULAR-
8月26日(水)SHIBUYA CLUB QUATTRO
開場/開演:18:45 / 19:30
前売:¥5800 (D別)
*未就学児童入場不可、小学生以上チケット必要

ぴあ https://w.pia.jp/t/ryo-takaiwa-t/
e+ https://eplus.jp/ryotakaiwa/
ローチケ https://l-tike.com/ryotakaiwa/
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