俳優・大森南朋率いるロックバンド、月に吠える。によるツーマン・ライブ<代官山UNITで吠える。
暗転から明けると大森南朋(Vo&G)がひとりギターをかき鳴らし、「台風が去ってよかったね」とつぶやくと、続いて塚本史朗(G)長野典二(B)山崎潤(Dr)が次々と登場し、オープニングSE代わりのウォーミング・アップ的セッションでブルージーに音を重ねていく。「OK、月に吠える。です!」と大森のシャウトを皮切りにM-1「カモンレッツゴーロックンロール」で幕を開けた。冒頭からフル・スロットルのドライブ感に場内のボルテージは一気に上昇するも、大森はどこかポーカーフェイスな振る舞いを見せる。かと思えば、次曲のイントロに乗せてお茶目な挨拶と共に「中年4人でお送りします」と真顔でおどけてみせながら、M-2「空蝉」では一転してダウナーなブルースロックをルーズかつクールに放っていく。
M-3「世田谷NERVOUS BREAKDOWN」は小気味良いリズムととびきりポップに振り切ったサウンドでフロアを縦ノリに揺らし、序盤から緩急巧みな展開で聴衆の心をかっさらって行く。曲終わりでようやく大森の表情に笑みがこぼれると観客から思わず「かわいい!」の声が上がり、すかさず「47歳だぜ!」と笑いを誘った後、M-4「I Wanna Be Your Rock’n Roll Star」へ。この疾走感あふれる直球ロックンロール・ナンバーは、サビの決めのフレーズのシンガロングでオーディエンスとの一体感が高まっていく。MCをはさんでM-5「リズム」は、レゲエ・テイストを織り交ぜたキャッチーなポップ・チューンでひときわハッピーでピースフルな空気が突き抜ける。
MCをはさみ、大森がジョニー・サンダースとお揃いのギターに持ち替えM-8「気まぐれジョニー」を披露、静と動、ドライからエモーショナルへ移ろう感情のコントラストで、曲にドラマが生まれるその様は胸に迫り息を呑む。そして余韻を切り裂くかのようにM-9「月に吠える。」へなだれ込み、牙を剥くような攻めの姿勢とサイケデリックなアプローチでトランス感覚へと誘い、すでに沸点超えの中での各メンバーのソロパートの見せ場も実に圧巻だ。間髪入れずにM-10「ズリぃな」は、完全にリミッターを振り切った怒涛のパフォーマンスで熾烈にラウドなロックンロールを畳みかけ、爆発力と高揚感は最高潮に。ラストとなるM-11「ロマンチックブギー」、すっかりオーバーヒートした空気を痛快かつ明快なキラーチューンで軽快に落とし込む、心憎いその展開にバンドの粋と心意気を感じつつ、本編が締めくくられた。
アンコールではアコースティックギターを携えた大森が“フォークソング・クラブ部長”を名乗り「今日は皆に会えて嬉しかったんだぜ、また来年~」と即興ソングをサービス。オーラスには「オールドでヤングなロックンロール」、武骨で泥臭くも温かみを感じさせるフォーキーなミドル・バラードは、赤裸々に思いの丈を吠えまくるパフォーマンスと相まって、ライブでいっそう生々しく放出される大森の気迫に圧倒せざるを得ない。約1時間のセットを千変万化に駆け抜けるように、しかし月に吠える。を余すところなく凝縮した今夜のステージが幕を閉じた。
「50過ぎてもやってやるぞ!」とバンド活動への気概に溢れた決意を放った大森南朋。役者業と音楽とのボーダーを意識させる隙も与えないほどに、純粋にプリミティブに“バンドマン”であり続ける姿がそこにあった。
達観と諦観を段々と身に着けながらも、ほとばしる熱さを隠し切れずに、今なお抱き続ける男子の無鉄砲さとセンチメンタル、そして垣間見えるミドルエイジの哀愁。第三思春期の男たちが放つ、煩悩具足のロックンロールには猛烈に心を持っていかれる。また当面の間ライブ活動はお預けだが、彼らの音楽、ロックへの熱量はいつだって発火点にあるだけに、心してその音を鳴らす日を待とう。
セットリスト
1.カモンレッツゴーロックンロール 2.空蝉 3.世田谷NERVOUS BREAKDOWN 4.I Wanna Be Your Rock’n Roll Star 5.リズム 6.恋にバカで 7.Why Did It Turn Out Like This 8.気まぐれジョニー 9.月に吠える。 10.ズリぃな 11.ロマンチックブギー Encore.オールドでヤングなロックンロール文:上田優子 写真:三浦憲治