朗読詩人 成宮アイコの「されど、望もう」
第40回「自殺の理由を探し続けたわたしがやっと気づいたこと。...の画像はこちら >>

誰かの名前がトレンドにあがるとき、「もしかして…」と思ってしまう

自分自身に、ショックをうけたことはありますか? こんにちは、朗読詩人の成宮アイコです。 事件のことはツイッターのトレンドで知りました。 誰かの名前がトレンドにあがるとき、つい、「もしかして…」と思うようになってしまったのはいつからでしょうか。
その役者さんは、第2子を出産されたばかりという認識があったので、「赤ちゃんがいるのに、なぜ」と自動的に思ってしまったのです。 ここからのお話しは、いま現在進行形で苦しんでいる方はもちろんその原因に手を差し伸べられるべきで、原因は解消されたほうがいい、という前提で読んでほしいです。 もう10年とすこし前、世界で唯一わたしのことを呼び捨てで呼んでいたともだちが亡くなりました。 (その当時のお話についてはこちらのコラムをご参照ください:病み垢はわたしのセーフティーネットだった。”死にたい”の背景に目を向けたい) あれから年齢の2ケタ目が変わるくらいの時間が経ちましたが、気持ちの落とし所は見つからないままです。心にはいつも触れたらおしまいの爆弾があるのに、まるで爆弾を持っていないふりをして生きていることはとても困難でした。 わたしたちは、誰が見ても仲が特別に良かった、そのはずでした。きっと、たぶん。 事件の直後、または久しぶりに会った人からその子の名前が出るとき、「急だったけど、アイコちゃんにはなにも言わなかったの?」と言われることがたびたびありました。わたしはただ少し笑うことしかできませんでした。 そして、いちばん多く聞いた言葉、きっとみんなは慰めのつもりで言ってくれただろう言葉。
それは、わたしがいちばん聞きたくない言葉でした。
「アイコちゃんがいるのになぜ…」

そんなの、わたしが知りたい

それほど仲が良かったのにという意味で言ってくれたことは空気感でわかるのですが、そのたびに、「あの子にとってわたしが存在している意味は全然なかった」と認知を歪めました。

そんなのは、わたしがいちばん知りたいことです。
でも、なにも言わなかったのです。
わたしは、全然なにも言われなかったのです。 ふたりの間には、死についての話題が出ることはたびたびありました。ただ、たびたびすぎてお互いにすっかり麻痺してしまっていたのかもしれません。わたしたちはそれぞれが口癖のように、「もういなくなりたいね」「ぜんぶやめたいね」と言い合っていたからです。そして、言い合うことで、お互いがそれをひとりで選ばないように牽制していたと感じます。 それぞれの日常が忙しくなり、連絡はときどき言葉を投げかけては、数通やりとりをしては終わるようになったころのこと。連絡の頻度に変化があると関係性はすこし変化し、前のように連絡をしてもいいのかな、と探り合いに変わりした。 だけどそれを言うことはできませんでした。自分でも認めたくなかったからです。自分が特別と思いたい、だから距離ができていてもふたりの間には関係のないこと。
わたしはそう思い込みたかったのです。 そう。だからこそ、役者さんの自死のできごとを聞いて、まっさきに思ったことがいちばん言われてつらかったはずの言葉でした。

子どもがいたのになぜ、赤ちゃんが生まれたばかりなのにいたのになぜ。
それはつまり「アイコちゃんがいるのになぜ…」と同じこと。わたしが言われた言葉と同じことでした。

「なぜ、わたしと死ななかったんだろう。」の、正解がなくても

その言葉は、言われるまえから本人がすでに思っていることです。しかも、わたしは笑って受け流すしかないくらい思い知っていたはずです。相手を責めたり、ときには自分を責めたり、ぶつけるあてのない気持ちを抱えていたはず。 それでも、わたしは同じことを思った。

その事実は、嘘にしてなかったことにしたいくらいショックでした。(だから書くまでに時間をあけてしまいました。
書きながらもなお認めたくない気持ちがあります。) もう一度、書きます。いま現在進行形で苦しんでいる人には、もちろんその原因には手を差し伸べられるべきで、原因は解消されたほうがいい、という前提があるうえでのお話しです。 自死についての理由を、他人があまり探しつづけないでほしいと思うのです。 自死についての理由探しを10年以上しつづけたわたしは、今になってやっと気がつきました。 「なぜ、わたしと死ななかったんだろう。」の、正解は、「そんな余裕もなかった」かもしれません。それでもわたしの脳内だけでも思わせてほしいのです。あの子はわたしを連れて行くことを選ばなかったのだ、と。それはきっと正解ではありません、だけどそう思わせてほしい。これが、わたしが無理矢理に出した結論です。 いま生きている人になにができるか、それを考えることはとても難しい。
わたしたちは、つい、もういない人の側にひっぱられてしまう癖があるから。

Aico Narumiya Profile  朗読詩人。「生きづらさ」や「メンタルヘルス」をテーマに文章を書いている。朗読ライブが『スーパーニュース』や『朝日新聞』に取り上げられ、新潟・東京・大阪を中心に全国で興行。書籍『あなたとわたしのドキュメンタリー』(書肆侃侃房)、詩集『伝説にならないで ─ハロー言葉、あなたがひとりで打ち込んだ文字はわたしたちの目に見えている』(皓星社)。
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