俊英・内田英治監督が手掛けるオリジナル作品『ミッドナイトスワン』。唯一無二の存在感を放つ草彅剛が今作にて初のトランスジェンダー役、凪沙に挑む。
映画『ミッドナイトスワン』日本外国特派員協会 記者会見
冒頭の挨拶で、内田監督は「映画の公開は3週目を迎え、大変多くの人に観ていただいています。オリジナル脚本の映画が、これだけの劇場数で公開され、多くの人に観ていただけるということはなかなかないことです。小説や漫画が原作の映画が多い日本で、たくさんの方にオリジナルの脚本映画を観ていただけているこの状況を、とてもありがたく思っています」とコメント。
草彅は「映画は今、公開中ですが、今日のこの会見をいろんな方が見ることで、よりたくさんの方に関心を持っていただき、1人でも多くの方々に作品の魅力が伝わることを願っています。いつもの会見とは少し雰囲気が違うということからも、この作品がいろんな方に注目され、広がっていることを実感しています。『ミッドナイトスワン』が、大きく遠くに羽ばたいているのかなという気持ちです。今日はよろしくお願いいたします」と笑顔で語った。
役を引き受けた理由について草彅は「この作品は、監督のオリジナルの脚本です。初めて脚本を読んだときには、トランスジェンダーの役で難しいとは思いましたが、それ以上に、脚本から、今まで感じたことのないような温かい気持ちが込められているのを実感できました。
トランスジェンダーの役者の起用を検討したかという質問に内田監督は「脚本が出来上がり、次はキャスティングとなった段階には、トランスジェンダーやシスジェンダーの役者など、あらゆる可能性を考えましたし、すごく悩みました。先日の足立区議会厚生委員長・白石正輝氏の性的マイノリティーに対する発言からも分かるように、日本はまだその段階じゃないとも感じていました。トランスジェンダーの役者は非常に少ないし、何よりも、トランスジェンダーに関する世間の意識も低く、まず認知がされていないという状況です。この映画は、多くの方が観てくれる作品にすることがまず大事だと感じていました。
タブーのようなテーマを扱うと決めたときの反応と、難しさを訊かれた内田監督は、「僕自身は、この問題がタブーだとは思っていません。どうしても、トランスジェンダーの映画という形でくくられてしまうけれど、基本的には血は繋がっていない関係に芽生えた母性と愛情の物語。トランスジェンダーはあくまでもキャラクターの背景です。草彅さんとはいつも、凪沙というキャラクターをどう作り込んでいくか、凪沙という主人公の映画をどう展開していくのかについて話していました。映画作りの難しさは、この作品だからという特別なことはありませんでした。ただ、映画公開後には、SNSなどでもとてもたくさんの意見が出てきました。今まで、LGBTQやトランスジェンダーの問題を語ることを怖がっていた、躊躇していた人たちが、シスジェンダー、トランスジェンダーとは、と語るようになりました。
改めて、先日の足立区議会厚生委員長・白石氏の性的マイノリティーに対する発言についてどう感じているかという質問を受けた内田監督は「あの発言は、許しがたい発言だと思っています。こういう映画を作っているからではありません。政治家と名乗る方があのような発言をすること自体、言葉にならないくらい許しがたい発言だと思っていますし、抗議したい気持ちでいっぱいです。実際に、彼のインタビューを読んだのですが、とても無知で保守的な考えだと感じました。LGBTQ含め、様々な事柄に無知な部分が多い日本において、これから若い人を中心に一歩一歩進むしかないと思っています。あのような発言をする政治家が急にいなくなることはありません。草彅さんは俳優、僕は監督なので、こういう作品を作ったからといって、こうしなさいという立場ではありません。
オリジナル作品が成功するのは難しい日本の映画業界の問題点はどこにあると感じているか、という質問に内田監督は「オリジナル作品は非常に少ないのが現状です。全国規模の作品の中でオリジナル作品が占める割合は、アメリカは4割くらいあるけれど日本は恐らく5パーセント以下じゃないでしょうか。ビジネスとしては、ベストセラー小説や漫画を映画化した方が安心です。日本のプロデューサーは会社員であることが多いので、会社からOKが出る企画、なるべくリスクを取らないものを選びがちです。もちろん、それも大事なことですけれど、個人的には映画はビジネスでもあり、もちろん芸術でもあると思っているので、本人たちの作家性が前面に出たものは、もっとあってほしいのです。リスクを取らないという意味で、オリジナル作品には、新人俳優を起用することも多いのですが、今回は草彅剛という日本のトップスターが出演してくれたことも含めて、意義のある作品になったと思います」と胸を張った。
最後の挨拶で草彅は「世界中の皆さんにこの作品を観ていただきたいと思っています。とてもデリケートな問題も描かれていますが、みなさんが考えるきっかけになっていただけたらうれしいなと思っています。自分自身が本当に“いい作品だな”と思える映画に出演できたことがとてもうれしいです。この感動を1人でも多くの方に届けられたらいいなと思っています。
内田監督は「おかげさまで、興行的にもヒットしていて、大変よろこばしいことと思っています。規模としては決して大きくないけれど作家性の強い作品を、多くの人が観てくれていることがうれしいです。さらに多くの人に観てほしいと思っています。作品の背景にある差別やジェンダーの問題について、少しでも考えるきっかけ、その第一歩になってくれたらいいなと願っています」とアピールし、記者会見を締めくくった。
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