このまま黙ってていいわけない!
──1stアルバム『VS.人生』配信リリースおめでとうございます!
iidabii:聴いていただき、ありがとうございます。
──iidabiiさんは詩を書き、その朗読をされていますが、まずは活動のきっかけをお聞きできますか。
iidabii:表現活動自体は15歳のころから始めて、最初は朗読ではなくてギターの弾き語りをしていました。
──LOFT HEAVENでのトークイベントに出ていただいたときに、「15歳のころに家族と宗教から縁を切って、そこから人生が始まった」とおっしゃっていましたが、音楽活動をはじめたことは関連していますか。
iidabii:そうですね。宗教をやめて、なにか表現活動をしたいなと思っていたんです。そのころから鬱屈した気持ちを叫んでいました(笑)。
──長い間活動をつづけてこられて、改めてアルバムとしてまとめようと思ったきっかけがあったのでしょうか。
iidabii:ラッパーのマサキオンザマイクさんという方がいらっしゃるんですけど、「お前は作品を録音したほうがいいよ」って言ってくれて、レコーディング自体はおととし2019年の夏に終わっていたんです。スタジオ手配などもしてくれて、3~4時間くらいで一気録りしました。
──え?! 1日で8曲すべてを?
iidabii:そうなんです、全部1日で(笑)。
──この熱量を一気録りって体力的にすごいですね。
iidabii:最初はぜんぜんうまくいかなかったんですよ、1時間くらいずっとつっかえちゃって。でも、ある瞬間にスイッチがはいって、そこからもう8曲を一気にいけました。
──おととしから音源としてはあったのに、どうして今のタイミングだったのでしょう。
iidabii:トラックメーカーの方とコラボをするとか、いろんな構想があったんですけどなかなか話が進まなくなってしまったんです。でも録音をしてから時間もたったし、そろそろ出したいなっていう気持ちはずっとあって、いよいよかなというところで今度はコロナ禍になってしまって、またリリースが止まってしまったんです。でもその間にもアルバムジャケットの撮影をしたり、自分の宗教二世体験を綴った「虐待の証人」のMVを公開したりして、のびのびになっていたものをやっと出せたタイミングが、去年のクリスマスだったんです。
──MV「虐待の証人」を出してからの計画的なリリースというわけではなかったんですね。
iidabii:そうなんです。「虐待の証人」は、Twitterにあげても最初はそれほど反響はなかったんです。いいねが10個ついたくらいで、「まあ、こんなもんかな」って思っていました。ツイートがバズるときって、一気にバーっとRTが増えるのが普通かなと思うんですけど、「虐待の証人」はジワジワゆっくり時間をかけて広がっていく感じでした。
──瞬発力で広がる場合って、脊髄反射でいいねとRTをしてそのまま忘れてしまうイメージがあるので、「虐待の証人」はテーマ的にもいちばん良い拡散のされかただなと感じました。
iidabii:たしかに、反射的にいいねを押したものは忘れてしまいますよね。「虐待の証人」が広まったことで、まず、聴いていただいてありがたいなって気持ちになったんですけど…。でも、これを聴いて共感してくれるっていうことは、自分と同じような経験をした人がたくさんいるっていうことでもあるので、広がっても広がっても晴れやかな気持ちにはなれない部分がありました。
──正しい、というと語弊がありますが、作品として意味のある広がり方だなと思いました。収録されている「吃音」を聞いて、はじめてiidabiiさんが吃音だと知ったのですが、"言葉は表に出さなきゃ伝わらない"のに、吃音によって"言わなきゃいけないことが言えない"、"一文字めの「お」が言えずにそのまま終わった日もある"とも書かれていて、"言葉よでろ"と願うあいだにも、頭のなかではおそらく言葉が出つづけているわけですよね。
iidabii:そうですね、それが出せないんです。吃るときって、脳の指令と体がリンクをしていない感覚があるんですけど、そういうときってすごく気持ちが悪いんですよ。スラスラっと言えてもいいような簡単な言葉なのに、なかなか声として出せなかったり。自分の体なのに自分の言うことを聞いてくれなくて、もどかしいです。ひどいときなんて、自分の体ではない感覚になるんですよ。
──だからこそ、逆に言葉に挑んだのでしょうか。
iidabii:そうかもしれないですね。言えないぶんだけ言葉、というかひとりごとや愚痴がたくさん頭のなかにたまっていく気がします。でも、愚痴だとスラスラ言えたりして(笑)。そうやって日常のなかで言えなかったことや、伝えられなかったっていう体験がつみかさなって、気持ち悪さやもどかしさだけが強烈に残ってしまうんです。その気持ちを思い出して詩を書いたりします。だって、結局、自分自身は吃音を気にしていても、まわりはそれほど気にしていなくて…。自分のことを伝える手段は自分で持つしかないんだな、と思いました。もし、実社会でそれができなかったとしたら、詩の朗読とか音楽とか、他の方法でできたらいいなと思ってるんです。
──置き換えられる手段を持つことって重要ですよね。「吃音」の詩をあらためて読んで、これだけの壮絶な苦しみがあったら、朗読で声を出すっていうのはためらったりできれば避けたいことじゃないのだろうかと思ったんです。
iidabii:やっぱり…あの…むかつくんですよね(笑)。なんで俺だけに吃音があって、考えていることを伝えられないんだろうって。
──俺はここで終われねぇぞ! と。
iidabii:そうですそうです(笑)!言えないとイライラするので、悔しいからこそ、見返すっていうわけじゃないけれど、俺はここでやらないとだめだぞ!って。
昔の自分を失望させたくない
──「あなたのために3分間祈らせてください。」に出てくる、"今日あなたに呪いをかけます。「幸せになれ」"は、それができないから苦しいんだという人への難題という意味での呪いであり、また同じくらい救いでもある力のある言葉でした。
iidabii:これは、そのまま最初から最後までできた詩なんです。「幸せになれ」という言葉自体は、詩を書き始めたときは考えついていなかったと思うんですけど、書いているうちに最終的にそう思いました。毎朝、通勤電車に乗って同じことをくりかえす毎日で、駅で人が倒れていても助けずにそのまま電車に乗ってしまう自分がいたり、隣で揉めごとや殴り合いが起こっていてもなにもできない自分がいたり、俺自身はとにかく孤独を感じていて。あるときふと、他の人もそうなんじゃないかなって気づいたんです。こんなにたくさん人がいるのにみんな孤独なのかもしれない、って。
──iidabiiさんの詩は根底に怒りや孤独があるけれども、たとえそこがスタート地点だろうとも怒りだけでは終わらないですよね。
iidabii:これは詩を読み始めて痛感したことなんですけど、詩を読んでリアクションしてくれる人がいると「あなたみたいな立派な人も、自分が書いた言葉に共感してくれるんですか」って驚くことの連続だったんです。しっかりとした自分をもって立派に自立しているように見える人なのに、俺の言葉に反応してくれるんだ…って。
──スーツをピシっと着こなして立派に見えたとしても、一見しただけではパーソナルな部分まではわからないですもんね。
iidabii:そう。単純な目では計り知れないものが人のなかにはあって。そして、そういう人こそ大きな孤独を抱えていたりして。
──じゃあこの詩は、風景のように見過ごしてしまうなかにいるまだ見ぬ同じ気持ちの人へ。
iidabii:まさにそうですね。だから、特定の誰かに向けてというよりも、もっと大勢…電車に乗っていろんな人がいるような、そういった不特定多数の人に言葉をかけるイメージで書きました。
──同じ詩のなかに、"パンクみたいなポエトリーはできる気がする"と出てきますが、iidabiiさんの抗いは一種の祈りのようにも思えます。どんな精神状態で書いていくのですか。
iidabii:このアルバムの中に収録している詩はみんな同じ時期に作ったのですが、そのころにできた曲は長くても1時間くらいで書きました。当時は、仕事をしながら通信制の大学に通っていたので、とにかく表現活動をする時間がなかったんです。制作もライブもずっとできない時期が続いていて、4、5年ぶりくらいにやっと活動ができるっていうタイミングだったんです。
──その4、5年の間に、マグマのようにたまっていたんですね。
iidabii:かなりたまっていましたね(笑)。
──それだけ一気に書きあげて、よく抜け殻にならずそのままレコーディングされましたね。
iidabii:読んだ直後は抜け殻にはなるんですけど、しばらくしたら復活します。
──タフですね(笑)!「15年後の君へ」のなかには、"くだらねぇ内輪の駄サークルの輪の中で作り笑いしてんな。敵の前でやれよ。"というフレーズがありますが、そうありたいと願う人は多いと思いますが、実際に行動にうつすのは大変ですよね。
iidabii:結局、内輪にいると表現自体がつまらなくなる気がするんです。自分自身の体験として、好きなバンドやアーティストのライブに行ったら内輪の盛り上がりで、しかも全力を出さずに70%くらいのラフなライブをしているのを見て失望をしたことが多々あって、俺はそうはならないぞって思います。
──決意表明でもある、と。
iidabii:はい。いつも120%出しきるつもりでやらないと美しくないし、120%を出したことでむちゃくちゃなクオリティになったとしても、たぶん、昔の俺が見たらわかってくれるなって思うんです。モヤモヤしていたころの、昔の自分を失望させたくないんです。
──正確なピッチや言葉の正しさをふりきってしまったときにだけ出る危うい美しさはとてもわかります。
iidabii:昔の自分からは、かっこいいって言ってもらいたいんですよ。過去の自分もそうだし、これまでに関わってきたいろんな人が見ている気がします。それこそ活動のきっかけになった猫道さんとか、録音の手配までしてくれたマサキオンザマイクさんとか。
──iidabiiさんには、筋の通った美学があるように思います。それは、過去の自分や関わった人への視点があるからなんですね。
iidabii:ライブでは、お世話になったり尊敬する人がもし見ていたらって思いながら朗読をしています。とにかく失望させたくないんですよ。そのためには手をぬくことはできないぞって。
朗読の参考は"怪談"?!実はロフトっ子でした
──ご家族から宗教の強要をされていたころに、家でこっそり聴いていた音楽が銀杏BOYZで、そのご家族と縁を切って自由になってから初めて行ったライブがオナニーマシーンっていうiidabiさんのエピソードがすごく好きなんですけど、「僕が生まれた理由」はまさに"パンクみたいな詩"だと思いました。
iidabii:ありがとうございます(笑)!これは、嫁さんに対して書いた詩なので、完全にラブソングです。一瞬、弾き語りでもやろうかなと思ったんです。でも、自分に音楽的才能がないことも大きい理由ですけど、朗読と弾き語りをしてみたら、自分が伝えたいものをストレートにより表現ができるのは朗読だな、と。たしかに、弾き語りをしたほうがポップになるし、いろんな人に聴いてもらう可能性があるかもしれないですが、自分の場合は伝えたいことがあるから音楽的に才能がないまま弾き語りをすると、伝えたい部分がしぼんでしまうような気がしたんです。だから、朗読はポップではないけれど、自分にとってはやりやすい方法だなと痛感しています。
──さっきおっしゃっていた120%を出せることは、音楽よりも朗読だったんですね。
iidabii:そうですね。音楽で表現できたらいいんですけど、きっと俺はギターを投げちゃう方法でしか伝えられない感情の状態になっちゃうし、それはギターがかわいそうだから(笑)、言葉にしたほうが健康的かなって思ったんです。
──だから、今回も全編アカペラで。
iidabii:録音した当時は、アカペラでの朗読こそ自分の表現方法だな、と実感していました。ただ、マサキオンザマイクさんがおっしゃってくれたんですけど、「朗読は朗読でいいけれど、iidabiiの場合は音にのせたほうがいい」って言われたんですね。その言葉がずっとひっかかっていて、それで「虐待の証人」は音にあわせてやらなきゃいけないなって直感があって、これだけは作品にしなくちゃいけないテーマだと思ったし、いちばん手を抜いたらまずい曲だったのでバックトラックつきの楽曲にしました。
──アカペラのときでも発声のリズム感が抜群にいいですよね、緩急をつけても、たとえ無音だろうとベースのテンポがぶれないというか。
iidabii:こういうことを言ったらいけないですけど、朗読って退屈だったり聴くのがつらいみたいな印象があるので、自分が聴いて、「これはいいな」って思えるまでひとりで練習をしまくっています。
──意外に体育会系!
iidabii:体育会系ですね(笑)。ここからここまではバーっと一気に読んだほうがいいなって思ったのに、聴き返したら全然良くないぞっていうときもあるので。練習をして、録音を聴き直して言葉をちょっとずつ入れかえたりします。
──練習しているうちに、これだ!って当てはまるんですか?
iidabii:そうです。こうしたほうがもっと聴きやすいなとか、こうしたほうが頭に入りやすいな…とか何度も変えていきます。あとは、聴きやすい声ばかりで喋っていても聴いてくれなくなるなって思います。
──声のトーンの使い分けは、音楽でいうところの、ブレイク前/ブレイク明けがある印象を受けました。
iidabii:あの、怪談の稲川淳二さんって、話している内容はあまり頭に入ってこないんですけど(笑)、話している内容がわかるかわからないかくらいで話すから聴いている側が逆にすごく集中できるというか…そういった点では怪談から学んでいるところは大きいです。
──予想外なところにつながりましたね(笑)。たしかに、怪談師さんの話し方は聴き手がいることを想定したエンターテイメントですよね。
iidabii:そうなんですよ。僕、実は怪談がすごく好きで、ロフトプラスワンの「新耳袋」とか、阿佐ヶ谷ロフトAの「分割百物語」とかに行っていました! そのほかに島田秀平さん、大島てるさんのイベントにもよく行ってました。
──えっ、完全にロフトっ子じゃないですか!
iidabii:オールナイトイベントも行っていました(笑)。やっぱり上手な人の怪談って、短いのに構成がしっかりしていて、頭のなかで光景がしっかり浮かんで、それでいてすごく怖いっていう。あの話す技術はほんとうにすごいんです!
──iidabiiさんの詩も風景の輪郭がしっかり浮きあがってきますけど、その根本がまさかの怪談イベントとは予想外でした。
障害なんてないほうがいいに決まってる
──「障害」のなかでの、"障害なんてないほうがいい" と言える正直さは、当事者であり、自らも現場で働いているからこその言葉だと思います。"障害もあなたの個性だよ" という風潮もありますが、どうして "ないほうがいい" と思ったのでしょうか。
iidabii:当事者にとってみたら、たまったもんじゃないですからね。自分自身にも、「障害なんてないほうがいい」って思っていることもありますし、当事者たちからなる障害者団体からも、同様の意見を聞いたことがあります。なんでも "いい話" にしようとすんなよって思います。
──いや、ほんとうにそうですよね。個性では片付けられない現実がありますし。
iidabii:実際の障害者の方の人生や、その人の気持ちを考えたら、障害なんてないほうがいいっていうのは当たり前じゃないかな。でも、それでもどうにもできないところがあるから切ないわけで。それに、美談にしたがるのはいつも現場の外にいる人で、そういう人たちが「障害は個性だ」って言いはじめる気がするんです。でもね、そんな甘っちょろい話じゃないぞ、と。
──一貫してプロテストソングだなと思いました。
iidabii:ありがとうございます。きっと、当事者や現場にいる人だったら、この詩の言葉は通じると思っています。
──今回のアルバムのテーマになっている宗教・吃音・生きづらさにまつわる言葉は、広く共感される実直さがあると思っています。これからやっていきたいことはありますか?
iidabii:「虐待の証人」にいろいろな反響をもらったので、そこに付随した曲はまだ出さなくちゃいけないなと思っています。でも、最近、真面目なことばかり曲にしているので、それがすべて終わったら、すごくくだらない曲を書きたいです(笑)。そうやってバランスをとらないと。だけど、もうちょっとは真面目な曲をがんばります。
──「虐待の証人」が公開されたときにも、「聴いてもらえることは嬉しいけれど、このテーマが受け入れられる世の中はどうかと思う」とおっしゃっていましたよね。けれど、まだ宗教というテーマについては書き続ける必要性を感じているんですね。
iidabii:はい。自分がいちばん言いたかった、強制・暴力・虐待を許さないぞっていうことは書きましたけど、まだその視点以外のところが書ききれていないんです。宗教批判にはならないようにしつつも、自分以外の宗教2世の人生とか、2世に生まれてしまった苦しみをテーマにしないといけないなと思います。
──見過ごされている部分がまだたくさんありますもんね。そのあとの、"くだらないテーマ"っていうのはどういった内容になるんでしょうか。
iidabii:ブサイクでつらい!とか書きたいです(笑)。ポップな感じでいこうと思います。
──それはそれで明るくて必要とされそうですね。両面見られることを楽しみにしています。
iidabii:がんばります!
──では、最後に、トークイベントでiidabiiさんを知った方や、これからアルバムを聴く方へのメッセージをお願いします。
iidabii:音楽と思って聴いてほしい、っていうとちょっと違うし、エンターテイメントとして聴いてほしい、っていうのもちょっと違うし、難しいな。ひとりの人生だと思って、ちょっと我慢して30分聴いてみてほしいです(笑)。ちょっと聴くのがつらいかもしれないけど、どうか聴いてほしい、こういう出来事やこういう人生もあるんだよということを知ってほしいです。
