
『プリティ・ウーマン』はハイコンテクストな作品設計でもあり、細部の知識があれば、より一層映画を楽しめる構造になっている。例えばエドワードとヴィヴィアンが一緒に観覧するイタリアン・オペラはジュゼッペ・ヴェルディ作曲の『椿姫』。
また映画のタイトルのもとにもなったテーマ曲は、ロイ・オービソンの『オー・プリティ・ウーマン』。1964年に大ヒットしたオールディーズで、当時は全米・全英共にチャート第1位を記録。1990年に『プリティ・ウーマン』で使用された際、すでにオービソンは1988年に52歳で逝去していたが、リバイバルヒットとなって若い世代にも浸透。この名曲は1999年にグラミー賞の殿堂入りを果たした。ちなみにタッチストーン・ピクチャーズ側は、ヴァン・ヘイレンのカヴァーVer.(1982年)を希望していたものの、著作権の問題で実現しなかったという事情もある。さらに劇中、バスタブに浸かったヴィヴィアンが、ポータブルカセットプレーヤーでプリンスの変態的大名曲『KISS』(1986年)を聴きながら素っ頓狂に口ずさむところも、語り草となっている愉快な名シーンだ(ヴィヴィアンもエドワードも共にプリンスが好き!)。とにかく他にも『プリティ・ウーマン』をめぐるトリビアは数多い。

こういったトリビアの中でも、いちばん有名なのが映画のメインの舞台となったビバリーウィルシャー・ホテルだ。ビハリーヒルズの中心地――ウィルシャー・ブルバードとロデオドライヴの角に位置する五つ星の由緒正しき超高級ホテル。1928年1月1日の開業以来、段階的な改装がありながらも、カリフォルニアを代表するランドマークであり続けてきたルネッサンス様式の建物は、映画の公開以降、『プリティ・ウーマン』の聖地としても知られるように。

なお本作の続編希望の声は極めて大きかったものの、結局それは実現せず、ただし1999年にゲイリー・マーシャル監督のもと、ジュリア・ロバーツ&リチャード・ギアが再びタッグを組んだ『プリティ・ブライド』(原題:Runaway Bride)が公開。もちろん内容はまったく異なるものだが、こちらも佳作に仕上がり好評を博した。しかも『プリティ・ウーマン』で親切なホテル支配人を好演したヘクター・エリゾンドも再共演を果たしたのが、ファンから嬉しいボーナスとして歓迎されたことも記憶に新しい。また2018年にミュージカルの舞台版がブロードウェイで初上演されてから、こちらも大好評で、2026年1月より日本キャストによる上演も決定している。
さらには驚くべきことに、今年(2025年)に入って、『Pretty Woman 2: A Second Chance』と題されたまさかの続編の予告編のフェイク動画と周辺情報が出回るという事態が勃発! これを真に受けて狂喜したファンにとってはがっかりどころの騒ぎではないが、『プリティ・ウーマン』が放つ輝きは今もまったく衰えていないということだろう。
『プリティ・ウーマン』
製作年/1990年 監督/ゲイリー・マーシャル 脚本/J・F・ロートン 出演/リチャード・ギア、ジュリア・ロバーツ、ローラ・サン・ジャコモ、ラルフ・ベラミー
※前編、中編
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文=森直人 text:Naoto Mori
Photo by AFLO