
映画というものは、どんどんボーダー(国境)を超えていく。そんなことを実感するのは、たとえば日本で撮影したハリウッド作品や、アメリカでロケした日本映画……などを目にした時。
友人を死に至らしめ、服役していた青年ランが出所。折しも街では狂犬病の元だとして、1匹の黒い犬が捕獲対象になっていた。ふとしたきっかけでその犬を見つけたランは、犬と行動を共にするが、亡き友人の家族から恨みを買われ、過酷な運命を強いられていく。そんな本作の舞台となるのは、2008年、ゴビ砂漠の端にある街。どこまでも続く荒野。枯れ草が球状になって風に舞う“タンブルウィード”など、まるでアメリカの西部劇かと錯覚させる背景が、ロングショットを効果的に駆使し、スタイリッシュな映像となって展開していく。よく観れば看板などに漢字が書かれているのだが、どこかコーエン兄弟監督作あたりも連想。音楽もピンク・フロイドを使っていたりして、全体に洗練されたハイセンスな作りなのである。
もうひとつの特徴は、主人公ランのセリフが限りなくゼロに近いこと。ほとんど言葉を発せずに周囲とコミュケーションをとるのだが、“話さないからこそ思いが伝わる”という別次元の表現に感動してしまう。演じるエディ・ポンが全身の佇まいや、稀にアップになった瞬間の目の表情で魅せる。そして犬が、こちらも信じられないレベルの名演技! “狂犬”扱いされながら、ゆっくりと人間に心を開いていく。そんなプロセスまで体現しているので、犬映画を観慣れた人も、そのスゴさに驚くはず。映画の冒頭で、犬の大群によってバスが横転するという驚異のアクションから、要所に挿入される美しすぎる夕陽のショットまで、いくつものシーンが“絵”のように記憶に残る逸品だ。
『ブラックドッグ』9月19日公開
監督・脚本/グアン・フー 出演/エディ・ポン、トン・リーヤー、ジャ・ジャンクー、チャン・イー 配給/クロックワークス
2024年/中国/上映時間110分
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文=斉藤博昭 text:Hiroaki Saito
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