海兵隊と聞くと、まず『フルメタル・ジャケット』(1987年)でハートマン軍曹が唾液飛び散る顔面スレスレの距離で、罵詈雑言を浴びせかける壮絶場面を思い出すのは私だけではないだろう。この中で軍曹は「オレは差別主義者じゃない!」と叫ぶ。
一方、現在ネットフリックスで世界的な高評価と人気を集めているのが、ドラマシリーズ『オレたちブーツ』(2025年)。グレッグ・コープ・ホワイトによる回顧録『The Pink Marine』が原作のこの全8話は、海兵隊のブートキャンプに焦点を当てた画期的な物語。ただし、『フルメタル・ジャケット』のシビアなテイストとは異なり、こちらは厳しさもあるが、同時に温かみもあり、登場人物の心の機微を丁寧に描く”血が通った”青春ドラマに仕上がっている。
自分を変えたい青年が、海兵隊ブートキャンプに挑む
時には1990年。18歳の主人公キャメロン・コープ(マイルス・ハイザー)は、これまでの高校生活でずっといじめられて生きてきた。その上、気分屋でなんでも勝手に決める母(ヴェラ・ファーミガ)に人生を振り回されっぱなし。そんな周囲に翻弄されてばかりの自分を「変えたい」と心から願っている。そしてこれはまだ母と親友のレイにしか打ち明けていないことだが、彼はゲイだ。
ある日、キャメロンは軽い気持ちで、レイと共にブートキャンプに参加することを決意。その瞬間から運命がダイナミックに動き出す。
劇中の大半を占めるのは”教官からのしごき”だ。顔面スレスレで繰り広げられる罵倒の連続。でもこれがなければキャンプは始まらない。「オレは『フルメタル・ジャケット』観てきたから大丈夫!」というセリフがあるように、キューブリックのこの名作は、彼らにとってもキャンプへの覚悟と耐性を高める一つの試金石となっているようだ。
ただ、頭では理解していても、やはりしごきは壮絶だ。彼らは若いし、時に心や体が傷つきもする。しかしそれを克服するごとに、こんな罵倒などではびくともしない引き締まった表情へと変わる。彼らは決して一人ぼっちではない。葛藤や試練を乗り越えるたびに「ウーラー!」「キル!」といった賛辞の掛け声を唱和しあい、そのたびに団結力と友情を深めていく。
一方で、しごく側の教官たちも、決してステレオタイプで描かれるわけではない。
ここで主人公に影響を及ぼす存在として登場するのが、サリバン教官(マックス・パーカー)だ。ことあるごとにキャメロンに試練を与え、かと思えば、不意に胸に突き刺さるような助言を施すこともある。彼は天使か悪魔か。エピソードを重ねるごとに明かされるのはサリバンの過去であり、彼がどうやらゲイであることを隠しているらしい実態だ。
登場人物の誰もが「自分の居場所」を探し求める
ひとつ頭に入れておきたいのは、当時、米軍では同性愛が法律で禁じられていたこと。同性愛者というだけで罪に問われていたのだ。その後、90年代が進むと大統領選なども相まって「Don't Ask, Don't Tell(聞かない、言わない)」という風潮へと変わっていく。まさにこの時代は何かが変わろうとする過渡期だったことが伺える。
それだけではない。本作は他にも、太った体型に悩む者が嘲笑や自己嫌悪から這い出そうと苦闘し、高圧的な親の存在を克服しようともがく者もいる。もちろん、人種や肌の色に関する視点も提示される。
そして何よりも出演者たちが素晴らしい。主演のマイルス・ハイザーは主人公がアイデンティティに悩む姿を、茶化すでも深刻になりすぎるでもなく、適度な愛らしさを伴って体現していて、まさに誰もが応援したくなる存在だ。そしてサリバン教官役のマックス・パーカーが時にまっすぐで、時に不安定に揺らぎながら、謎めいた存在感を見せつける。
1990年代のきらびやかな名曲に彩られながら、前向きな感情に満ちたドラマを堪能できること請け合いの『オレたちブーツ』。この休日、ぜひじっくりと鑑賞してみてはいかがだろうか。
『オレたちブーツ』配信中
原作/グレッグ・コープ・ホワイト クリエイター兼共同ショーランナー/アンディー・パーカー ショーランナー/ジェニファー・セシル エグゼクティブプロデューサー/ノーマン・リア 出演/マイルズ・ハイザー、リアム・オー、ヴェラ・ファーミガ、アナ・アヨラ、マック・パーカー 配信/ネットフリックス
文=牛津厚信 text:Atsunobu Ushizu
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