『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』
しかしこの“3D黄金期”は長く続かなかった。もちろん『ゼロ・グラビティ』(2013年/監督:アルフォンソ・キュアロン)といった名作も登場し、また『世界最古の洞窟壁画 3D 忘れられた夢の記憶』(2010年/監督:ヴェルナー・ヘルツォーク)、『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(2011年/監督:ヴィム・ヴェンダース)、『フラッシュバックメモリーズ 3D』(2012年/監督:松江哲明)、『さらば、愛の言葉よ』(2014年/監督:ジャン=リュック・ゴダール)、『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』(2018年/監督:ビー・ガン)などアートハウス系の尖鋭的な3D映画の成果も数々生まれたが、これらはあくまで特殊例。
そこへ2010年代半ばから、クリストファー・ノーラン監督を旗頭とするIMAXフォーマットの台頭が重なる。『ダークナイト』(2008年)を皮切りに、『インセプション』(2010年)、『インターステラー』(2014年)、『ダンケルク』(2017年)といった作品群が、巨大スクリーンと高解像度フィルムによる圧倒的な画の密度を提示し、以降はジョセフ・コシンスキー監督の『トップガン マーヴェリック』(2022年)や『F1(R) エフワン』(2025年)など、観客の嗜好もハリウッド業界の志向も3DからIMAXへと大きく傾いていった。
つまり、3Dはキャメロンが火をつけたにもかかわらず、業界全体としては2DのままのIMAXが主流となり、3Dは“キャメロンだけが本気で追い続ける領域”へと変質していったのである(もうひとり、アートハウス系ではヴィム・ヴェンダースが2023年の『アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家』などでミニマムな3D映画の実験を継続している)。いまや3Dは、キャメロンが自らの美学を追求するための“個人映画”の技術に近い。『アバター』シリーズは、彼が信じる理想のヴィジョンを具現化するための巨大な実験場であり、莫大な産業的成功を収めながらも、実は一般の商業的潮流とは別の軌道を走っている。
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
その姿勢は第1作から13年ぶりにIMAX全盛の中で発表された、シリーズ第2作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で顕著だった。水中パフォーマンスキャプチャーという前代未聞の技術を実現し、3D映像の透明度と光の屈折表現を極限まで高めた。これは2DのIMAXが“巨大で鮮明な平面”を追求するのに対し、キャメロンが“空間そのものを作り替える”方向へ突き進んでいることを示している。
もちろん興行面でもキャメロン作品は常に時代の節目を象徴してきた。『アバター』はデジタル3D普及の決定打となり、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』はパンデミック後の劇場興行復活の象徴となった。そして『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』は、ストリーミング全盛の時代において、劇場でしか味わえない“体験型映画”の価値を再び提示している。
『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』
しかしキャメロンの真価は興行記録ではない。彼が残してきたツメアトは、映画技術の限界を押し広げることで、観客体験そのものを更新してきた点にある。3Dが主流でなくなった今でも、彼はその技術を磨き続け、誰も観たことのない“空間の物語”を描こうとしている。例えば3D映画ではなくても、中国の若手監督であるグー・シャオガン(1988年生まれ)は、長編デビュー作『春江水暖~しゅんこうすいだん』(2019年)の豊かな空間表現は『アバター』からの影響が大きいと公言しており、『アバター』を映画の教科書だとまで語っているのだ。
そして『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』は、キャメロンがいまなお映画の未来を自らの手で切り開こうとしていることを示す現時点最新の証拠である。パンドラの世界は、単なるファンタジーではなく、映画技術の進化そのものを映し出す巨大な鏡だ。キャメロンがその鏡を磨き続ける限り、映画はまだまだ新しい地平へと向かう余地を残している。果たして来るべきシリーズ第4作、第5作では、どんな境地にまで突き進むのだろうか。
『アバター』
製作年/2009年 製作・監督・脚本/ジェームズ・キャメロン 出演/ワム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガニー・ウィーヴァー、ミシェル・ロドリゲス
『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』
製作年/2022年 原案・製作・監督・脚本/ジェームズ・キャメロン 出演/サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガニー・ウィーヴァー、スティーヴン・ラング
『アバター ファイヤー・アンド・アッシュ』2025年12月19日公開
製作年/2025年 原案・製作・監督・脚本/ジェームズ・キャメロン 出演/サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガニー・ウィーヴァー、ケイト・ウィンスレット
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文=森直人 text:Naoto Mori
photo by AFLO
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