新年に頂いた年賀状の中に、「お礼が遅くなったが」という前置きの後に、「先に御恵存いただいた御著書ありがたく御拝読・・・・・・」と書き添えたのがあって驚いた。
もちろん、お礼が遅くなったことに驚いたのではない。
中にわざわざ電話をかけて礼を言ってくるヤツがいるが、こういう手合いには二度と贈らない。
さて、私が驚いた原因だが、ご推察のとおり、3つの「御」の字である。多用されているからだけではない。単に多用されすぎているだけなら、「おんごていねいに」などと笑って済ますことができる。
「御」の字を添えるに値するかどうかはともかく、「御著書」はいい。あとの二つ、「御恵存」と「御拝読」はおかしい。
「恵存」は、たいていの辞書にあるように「けいぞん」または「けいそん」と読む。
私もそのようにして贈った。こちらが謙遜して「保存してくだされば幸いです」と言っているのに、「御恵存」はないだろう。或いは「恵贈」と混同したか。こちらなら、人から物を贈られた時、手紙で礼を述べるのにふさわしい。「御」を添えて「御恵贈」としてもかまわない。「恵投」という語もある。
もう一つの「御拝読」。「拝読」も、他人の文章を読む場合に用いる謙譲語であるから、「御」を添えてはいけない。「拝見」「拝察」「拝借」……いずれもこの仲間である。
「御」の字に御用心あれ!
ところで「恵存」だが、『広辞苑』第六版に「人にものを贈る時に先方の名の脇に書き添えて……」とあり、贈る物が何であるかを特に限定していない。
この「恵存」は中国語においても使われる。『現代漢語詞典』第5版もこの語を収録し、「主に写真や書籍などの記念品を贈る場合に用いる」としている。学研版『新漢和大字典』は、特に「国」の記号を付し、日本語特有の熟語であるとしているが、或いは日本語から中国語へ入ったのであろうか。記述の基づくところを知りたい。(執筆者:上野惠司)
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