中国経済はいま高度成長を謳歌している。およそ半世紀も前に、日本も戦後の高度経済成長を経験している。
両国の高度成長の推移を比較すると、幾つかの興味深いことが分かってきた。

 今回のコラムに付けている図は、両国の異なる期間における国内総生産(GDP)の実質成長率の推移をプロットしたもの。そのうち、中国については、改革・開放政策が始まった1970年代末を高度成長の初期と仮定して、それ以降の2008年までの期間を表わしている。一方、日本に関しては、第2次世界大戦後の高度成長が始まったとされる1950年代の半ば頃を初期とした約30年間を比較の期間としている。今回のコラムでは、この図をもとに、日中両国の高度経済成長の特徴などを比べてみよう。

 まず、周知のように、日本経済の高度成長は、1950年代半ば頃から始まり、70年代初めのオイル・ショックで終わりを告げて、前後およそ20年近く続いていた。ところが、中国の場合は、1970年代末より高度経済成長が始まったとしたら、現在までは30年も経過して今なお進行中ということになる。これに対して、中国の人口規模が日本の10倍に当たることから、経済の高度成長も日本よりもう少し長く続けられるというのは、理由の1つとして考えられる。

 しかし、私個人の体験からは、中国経済の高度成長はむしろ90年代に入ってからスタートしたものと受け止めている。なぜならば、80年代には家庭用の電話もなければ、市中にタクシーも見かけないので、経済の高度成長からの実感はほとんど無かったからだ。このような実感は決して私だけのものではないと思われる。この点から、高度成長の評価は、国民一人一人の実感を踏まえて行うことも重要ではなかろうか。


 次に、日本の高度成長は、1956年から73年までの18年間の実績を平均すると、年率9.1%という記録を残している。中国については、1979年から数えるとこの30年間の平均成長率が9.8%に上っている。両国とも年率が10%に近い高度経済成長を実現しているのが共通点であろう。しかし、両国の高度成長に関するそれぞれの経緯を詳しく調べると、さらに大きく異なる点も見えてくる。

 例えば、日本の高度成長期におけるGDP実質成長率が高かったり低かったりして景気の循環変動をそのまま反映していることが挙げられる。より具体的には、50年代後半から60年代前半にかけては、神武景気、岩戸景気とオリンピック景気があったが、それぞれの山となる時期には、GDPの実質成長率も大体ピークを迎えていた。

 中でも特筆に値するのはオリンピック景気だ。東京オリンピックを間近に控えた建設ブームは景気の上昇をもたらしていた。但し、製造業の設備投資は盛り上がらなかったために、オリンピック景気も短命に終ったと言われている。また、60年代後半からは、いざなぎ景気と田中角栄による列島改造ブームがあったが、GDPの実質成長率も大きく変動して、日本を経済大国に築き上げた。

 同様に、中国のGDP実質成長率もこの30年間において大きく変動してきている。しかし、興味深いのは、毎回中国経済の成長率が谷底に落ちた時は主要指導者が交替していた時期に重なっていることだ。
例を挙げると、1981年には華国鋒が中国共産党主席を辞任した。86の翌年には胡耀邦が、89年には趙紫陽がそれぞれ共産党総書記の職を解任された。また、98年に李鵬が国務院総理の座から下りた頃は経済の成長率が90年以来の最低水準に陥っていた。どうやら中国経済の高度成長は、まだ政治家の去就に大きく影響されているようである。(執筆者:鄭小平 立命館大学経済学部教授)

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