中国国営通信社の「中国新聞社」は、自国初の空母である「遼寧」について、現場関係者の懸命な努力で、予定よりも大幅に早く就役させたと紹介する記事を掲載した。いわゆる「美談」だが、同時に、技術面での相当な「背伸び」を示唆する内容だ。


 「遼寧」は旧ソ連が建造に着手したが、同国崩壊などで放棄されていた空母「ワリヤーグ」を中国が買い取ったものだ。中国は当初、「中国が改造・完成させて空母にする」との見方に対して猛反発したが、結局は空母にした。

 ワリヤーグは大連(遼寧省)の造船所に曳航(えいこう)された。共産党中央と中央軍事委員会が空母にすると決定した時、現場の人々は「どれほど困難になるか」を想像するのが難しかったという。

 同船が「予想以上にひどい」ことが判明した。例えば、エンジンを固定する74個のボルトは約半数しかなく、しかも足りない部分には「ボルト穴」さえもなかった。

 さらに、一部鋼材を強度が高く耐久性にもすぐれた鋼材に交換しようとしたところ、何度溶接しても、細かな亀裂が入ることが分かった。改めて鋼材をハルビンの工場に運び込み、実験した。温度条件を変え、それぞれの条件のもとで数十回から100回以上も溶接を繰り返した。

 厳寒の冬のハルビンで溶接を繰り返し、春になってやっと「溶接法」が決まり、3冊のマニュアルにまとめられたという。

 「遼寧」の初の試験航海は2011年8月、就役は2012年10月だった。同記事によると試験航海は当初予定より5カ月、就役は3カ月早めることができたという。


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◆解説◆
 現場関係者の熱意や努力を否定するつもりはないが、かなりの「背伸び」があったことが伝わる文章だ。象徴的なのが大幅な「前倒し完成」だ。中国では事業推進に際して、有力者の意向で問題点が「見切り発車」されてしまい、あとで深刻な事態が発生することがある。2011年に発生した高速鉄道事故は、代表例のひとつだ。

 技術以外の要素なしに工期が大幅に圧縮されたとすれば、当初の時点で「どのぐらい時間や手間がかかるか」分かっていなかったことになる。戦前に日本が手がけた戦艦の「大和」と「武蔵」も、しっかりと工期が定められて建造された(太平洋戦争突入のため、途中からは工期短縮)。

 2015年3月に就役した戦後最大の護衛艦の「いずも」では、コンピューターで「工程」をシミュレートして、建造の段取りを定めた。工程管理を含めた技術力があれば、予定よりずっと早く完成されることは考えにくい。(編集担当:如月隼人)(写真は上記記事掲載頁キャプチャー)


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