第一線で活躍するドッグトレーナーの小野洋平さんが、読者からのしつけ・トレーニングのお悩みに答える連載『柴犬のお悩み解決NOTE』。今回のお悩みは、お散歩での激しい引っ張りをどうにかしたいというもの。
このように問題の多い引っ張りグセを直すには? その解決策をレクチャーします。
お悩み:お散歩のときの引っ張りが激しいんです
3歳・男の子
お散歩の時の引っ張りを直す方法を教えて下さい! 舌の色が変わるくらい苦しい状態になっているのに、激しく引っ張ってしまいます。
結論。引っ張りを直すには「根気」が必要!

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散歩の引っ張りは小型犬ではあまり気にしていない飼主さんが多く、やはり柴犬くらいのサイズの犬から気になり始める飼主さんが多い印象ですね。
大型犬は最初の基本的なトレーニングの時に必ず飼主さんの方から「引っ張らないようにしたい!」と要望があります。
しかし、犬の大きさに関わらずトレーニングは必ずするものと考えてください。
小型・中型犬の飼い主さんは「力で抑えられる」という考えがどこかにあるように思います。
犬が小さくなればなるほどその傾向は強く、吠えたら「抱っこ」、歩かなかったら「抱っこ」。
この「抱っこ」は曲者で、犬の全ての動き、考えを止めてしまい成長するチャンスを奪ってしまうことがあります。
また、飼い主さんの成長や考えも止めてしまいます。愛情を持って接している故の行動とは思いますが、過干渉になるパターンです。
大型犬では、病気やケガなどの緊急時を除き抱っこはしません。大型犬の中にも他犬や人に吠える子、歩かない子、引っ張る子はいます。では、どうしてるか?
飼主さんが小さい頃からかなりしっかりと練習したり学んだりしています。そして、何より大型犬を飼っているという手前「散歩や練習をサボる」傾向が少ない。
理由は言わずもがな、トレーニングをしないと、他人にケガをさせるなどの事故につながってしまうからです。
大型犬の飼い主さんは毎日、考えて、練習して、試行錯誤したり、道具を変えたり、怪我しそうになっても筋肉痛になっても諦めずに頑張ります。
大きい犬なので「散歩に行かないといけない!」という気持ちも強いです。そしてやっとなんとか引っ張らなくなったりします。
こういう練習や付き合いの中で、飼い主さんはたくさんのことを経験し得ますが、何より「力尽く」や「痛み」じゃ、犬をコントロールすることができないことを知ります。
練習をサボると結果が出ないことや、一生懸命取り組むと犬は必ず何かを返してくれることも知ります。
結論、お散歩で引っ張らないようになるには根気が必要と思ってくださいませ。
引っ張りをコントロールするには、道具も大事

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お散歩での引っ張りをトレーニングするときには、どんな道具を使うかも大切です。
チョークチェーンなどのように、犬が苦しくなったり痛みがあったりするような道具は、なるべく避けるべきでしょう。
引っ張る子には、ハーネスよりも首輪の方が、こちらの支持が伝わりやすくて良いのでおすすめです。
ただし、犬が引っ張った際にリードをグイッっと引くような練習をする場合は、必ずプロの方と一緒に行って下さい。
なぜなら、力加減もタイミングもきちんと教わらないと逆にひどい状態になるからです。
めちゃくちゃに引っ張ってしまう犬だと、首輪は首や気管に負担が掛かってしまうので、ハーネス・胴輪に変えてください。
しかし切羽詰まった事情の場合だと、チョークチェーンなどの犬が苦しい、痛い思いをする道具を選ばざるを得ないかもしれません。
そこまで問題が大きくなる前に、しつけやトレーニングに取り組みたいところです。
リードは伸縮するフレキシブルリードでは無く、普通のリードで。
フレキシブルリードは、犬が十分にトレーニングされていて、かつ人が居ないところで使用する以外はおすすめできません。
犬が嫌いな人に聞くたびに、このリードで散歩されると怖いと聞きます。
リードは握ってみて手に馴染みやすいものを選んでください。
手に馴染むか馴染まないかでかなり飼い主さんの負担は減りますので、できれば何種類か試して、しっかり選びましょう。
道具といえば、お散歩バッグも選んで下さいませ。
お散歩は何が起きるかわかりません。いざという時の安全確保のため本気で動ける格好でお散歩には行きましょう。
散歩の前、「家の中」からトレーニングは始まっていると心得て

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じつは、お家の中からお散歩は始まっています。
柴犬ともなれば、「散歩だ!」というハイテンションのままで散歩に行くと、もの凄い引っ張りが待っています。
ハイテンションのまま外に出ず、ワンクッション置いてから次の行動に移るようにしましょう。
興奮してどうしようもない子は「散歩だ!」と感じるスイッチがどこかにあるはずです。リードを持って来る、「お散歩行くよ」という飼い主の掛け声、飼い主が上着を着る、玄関で呼ぶなど。
例えばリードを見たり、付けたりで興奮してしまう子は、家の中でリードをつけて落ち着くまで放っておきましょう。
落ち着かせるコマンドがあるなら、それでも良いです。お座り、ふせ、待てなど、コマンドはなんでもいいですが、気持ちが落ち着いていなくてポーズだけ取っている場合もありますので、しっかりと見極めて。
気持ちがしっかりと落ち着いて、リードが付いていてもいなくても同じ様子になったら靴を履くなど、次の行動に移って下さい。
排泄が心配であれば、お家の中でさせるか、一度外で排泄させてからお家に戻って練習してください。
手間ですね~。最初の頃は、お家を出るまでに30分以上かかるかもしれません。でも良くしたいと思ったら、このくらいの手間はかかります!
引っ張ったら、「止まる」「進行方向を変える」を繰り返すこと

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外に出て引っ張ったら、腕を使ってグイッとリードを自分のほうに引っ張るのはやめてください。
腕に頼るのではなく、進行方向をくるっと変えたり、歩くのをやめるようにしましょう。
やり方は次の通りです。
・犬が引っ張って、リードがピンと張ります。
↓
・人は歩くのをやめ、その場に止まります。その状態をキープしましょう。歩かないでください。
↓
・犬の方からこちらに寄ってきて、リードが緩んだら歩きます。
↓
・再びリードが張ったら、止まります。
これの繰り返しです。
おそらく最初は、全然前に進めないと思います。
アレンジとして、向きを変える方法もあります。
・犬が引っ張り、リードが張ります。
↓
・人は回れ右して、逆方向に歩きます。
腕を使ってグイッとリードを引っ張ることも、犬を見る必要も、怒る必要もないです。
犬が自分の方向に付いてきたときだけ、歩きながら褒めてください。
飼い主さんは「背筋を伸ばしてきちんと歩けているか」が大切です。
これは、誰かに客観的に見てもらわないとわからないので、家族や友人に頼んで、お散歩での歩き姿を見てもらってください。
無意識に犬に気持ちも重心も持っていかれてる場合がほとんどだと思います。
がんばって、背筋を伸ばし、人間が主体的に歩くようにしてくださいませ。
散歩の時間とトレーニングの時間は「別」に作る

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練習とお散歩は別物と考えることも重要です。
引っ張りの程度がひどい場合は、「散歩のついでに」トレーニングするのではダメ。
お散歩とは別に「練習の時間」を取って、いつもの倍くらいは外にいるようにしましょう。
また、どんな練習も、練習の前に気にしなければいけないことがあります。
「その子の最低限の運動・発散を毎日しているか?」です。
フラストレーション、ストレス、エネルギーが溜まった状態では、どんな練習をしても大人しくする系のトレーニングはうまくいきません。
十分な遊び、楽しいことをしてからトレーニングをしましょう。
普段のお散歩を増やし、散歩ごとに役割を作ることも必要です。
例えば
・1回目の散歩・・・排泄目的(引っ張っても仕方ない)
・前のお散歩の余韻が残ってる2回目の散歩・・・引っ張らない練習をメインに家を出ていくところから練習する。
・3回目の散歩・・・1回目と2回目の複合
・4回目の散歩・・・練習メイン
といった具合に、外に出る回数を増やすと、自ずと興奮する度合いは下がります。
興奮度が下がったら、ようやく愛柴の頭に練習してることが入ると思ってください。
しつこいですが、まずは発散です。
引っ張りにもさまざまなタイプがあるので、ピンポイントで効果的なことは言えませんが、多くの場合は、発散不足か社会過不足が起因してます。
ですので、お散歩の質、量共に増やすようにしてくださいませ。
最後に

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お散歩中の安全を確保するためにも、引っ張らないことはかなり重要です。
また、良いお散歩は、人とお犬との関係性をとっても良くする可能性もあります。
もし、「もう無理かな」とあきらめているのなら、あきらめずにもう一度取り組んでみることをおすすめします。
その時は、ぜひプロの方と取り組んでみてくださいね。
小野洋平 PROFILE

『inu-house』代表。
通信のベンチャー企業に勤務後、カナダに渡りドッグトレーニングを学ぶ。カナダでは、いきなり家庭犬のトレーニングを行う現場で問題犬と呼ばれている犬たちに囲まれての修行。帰国後、介助犬育成と家庭犬トレーニングのケイナイン・ファミリーを立ち上げるが、日本人の犬の考え方や家庭犬の在り方に疑問を抱き、家庭犬トレーニングを主に行うようになる。日本独特の犬文化を守ることと変えていくことが目標。
- 特集「柴犬解決お悩みNOTE」