第一線で活躍するドッグトレーナーの小野洋平さんが、読者からのしつけ・トレーニングのお悩みに答える連載『柴犬のお悩み解決NOTE』。

今回のお悩みは、散歩中に他の犬に会うと、伏せをしたまま動かなくなってしまうという相談です。

伏せをするという行動は、“他の犬と柴との問題”というより、“オーナーさんと柴の関係性”が大きく関係しているようです。

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散歩中、犬に会うたびに毎回「伏せ」をして相手を待つので、散歩に時間がかかります

1歳4ヶ月・女の子

うちの子は散歩中、他の犬に会うと必ず“伏せ”をして相手が来るのを待ちます。
遠くにいてもずっと待っています。

相手の犬が近くまで来ると、相手にもよりますが、だいたい匂いを嗅いだり、遊ぼうと誘ったりします。吠えることはありません。

その時にもよりますが、1回の散歩で多いときは7~8頭の犬に会うため、散歩に時間がかかり困っています。

急いでいるときなど、引っ張って歩かせようとしますが、全く動きません。

犬に会っても、スタスタ歩いてくれるようになってほしいのですが……。

何かいい方法がありますか?

「伏せ」からの挨拶(あいさつ)は注意! ケンカに発展するキケンも!

【柴犬お悩み解決NOTE】#10 散歩中、犬に会うと必ず「伏せ」をして動きません【ドッグトレーナー・小野洋平がズバリ回答】

Lichtflut/shutterstock

まず最初に、犬を見て、伏せて待つような時は、そのまま会わせることは避けた方がよい場合が多いです。

犬同士にも、挨拶の順序ややり方があります。

伏せてる時は構えている状態ですので、他の犬への挨拶の入り方が悪く、相手の機嫌を損ねてケンカや咬傷事故にもなり兼ねません。気をつけてください。

少し話がそれますが、お散歩中、リードがついている状態で他の犬と挨拶をするとき、その地域にお住まいのオーナーさん全体が、しつけやトレーニングの意識が高いのであれば、問題になることはそれほどないでしょう。

しかし、しつけ・トレーニングへの意識が低いオーナーさんが多い地域ですと、挨拶で喧嘩になる場合も多いです。

ご旅行やいつもと違う街へのお出かけの際は気をつけましょう。

ちなみに僕は、リードがついているときは基本的に、犬同士を挨拶させることはしません。

なぜなら、相手がどんな子かもわからないですし、飼主さんもどんな方かわかりません。

いざと言うときのトラブルは出来るだけ避けたいですし、何より犬に変なストレスを掛けたくないためです。

社会化と言う名目で、散歩やドッグランで不特定多数の犬に会わせたがる飼い主さんも多いですが、これもお勧めしていません。

正直、社会化はそんなに簡単なことではないからです。

愛犬に“良い影響・印象”を与え続けていきたい時期に“悪い影響・印象”を受ける可能性が高い場所・場面に連れて行くのは、とてもリスキーです。

もしくは、他の犬にこちら側が“悪い印象”を与えてしまうかもしれない可能性がある場合もあります。ですので、僕は極力避けます。

社会化はプロのもとできちんと行わないと、他の犬=怖い、外の世界=キケンといったイメージを植え付けるなど、逆効果になる場合もあります。

他の犬に慣れさせたいのであれば、お散歩やドッグランに行って適当に会わせるのでは無く、愛犬の状態や会わせる犬を見極めてくれるドッグトレーナーのもとや教室に行きましょう。

一度ついた悪い印象・経験を拭うのは大変ですよ。

「伏せ」をさせたくないなら、オーナーさんと愛柴の関係性を見なおすこと

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お散歩中に伏せて歩かないという態度は、オーナーさんがしっかり犬と一緒に歩けてない可能性が高いと思われます。

周りに犬がいないときも、愛柴に引っ張られるような散歩をしているなら、まずは引っ張られないように歩く練習が必要です。

そのためには、まずはオーナーさんが冷静に愛柴を観察すること。

相談者さんのように“止まってしまう子”と、オーナーを“引っ張ってしまう子”は、やっていることは違えど、どちらも好き勝手に歩いていることには変わりありません。

他の犬を見た時が特にひどいので、その行動だけをクローズアップしてしまっているだけで、もしかすると他の犬がいないときでも、似たような“好き勝手な行動”をしている可能性が高いのではないでしょうか。

愛柴の「興味の高さ」にレベルをつけてみよう

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冷静に愛柴を観察するために、この子の興味レベルを数値化してみましょう。

この子が犬を見た時のリアクションの大きさが“100”だとします。

外で出会うそれ以外のもの(電柱の匂い、他の人間、車、自転車、子供などなど)にも、100とまではいかなくても、なにかしら反応をしているはずです。

子供には10、自転車には20など。ネコには120など、もしかすると犬よりも反応する対象があるかもしれません。

反応の種類も、さまざまなはず。勝手にお座りをする、勝手に伏せをする、勝手に対象物に近く、勝手に吠える、勝手に噛みつくなどなど。

その反応をしているとき、オーナーさんの存在が頭の中からいなくなってる度合いと、呼びかけに対する反応度合いを観察し、数値にしてみてください。

度合いを測るために最も簡単な方法が、呼んだらこっちを向くかどうか。

ほかには、積み重ねて練習しているコマンドを指示しいてもよいでしょう。“お座り”や“待て”、アイコンタクトなど、なんでも良いです。

オーナーさんの声が聞こえているか、ちゃんとコマンドが入るか、その反応の具合で、愛柴がどれくらい子供や自転車に熱中してしまっているかが、ざっと判断できるでしょう。

ここで大事なのは、オーナーさんの困り度を数値化するのではなく、犬の反応を数値化すること。

「私がすごく困るから100」と、自分の気持ちを判断基準にして考えてしまうと、愛柴との感覚や反応とずれてしまいますので気をつけて。

「ネコを見たら、私のコマンドを完全に無視するから100」など、あくまで犬の熱中具合を数値化してくださいね。

レベルの低いものからスタートする

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数値化ができたら、まずは10、20といった簡単なレベルから練習を始めます。

いきなり100反応しているものから取り組んでも上手くいきません。段階を踏んで取り組む事が大切です。

トレーニングの方法ですが、お散歩中に愛柴が興味のあるものを見かけたとき、犬の自由にさせず、オーナーさんに注意を向けさせるようにします。

犬の気を引くため、トリーツを使う練習もありますが、今回はそれはせず、ただひたすら歩くことをしてください。

初めてこのトレーニングをするときは、お散歩の終わりの方で行いましょう。

最初の方にやるとテンションが上がって、いつもは反応レベル10のものが50まで上がってしまい、うまくできない場合があるためです。

相談者さんは「引っ張って歩かせようとしますが」と書いてますが、その方法は絶対にNG。

コツは“腕を使ってグイッと引っ張らないこと”と、“歩くことを止めないこと”です。

犬がフッと止まったり伏せたりしても、一瞬も止まらず、犬に合わせないでそのまま歩きます。

腕の位置は下のまま、けして引っ張らない。オーナーさんは、ただただ歩き続けるだけです。

この歩き方ができると、散歩の雰囲気が変わります。

そうすると、トリーツを使ったトレーニングをしても効果が上がってきますよ。

ただし、トリーツを使う場合、タイミングやその他の要素が絡み、とても細かい注意が必要になるので、ぜひともプロに習うとよいかと思います。

何度も言いますが、まずは自分がしっかり歩くこと。リードを引っ張らないこと。それを意識してください。

ただし、このやり方が合わない子もいますので、散歩トレーニングをする場合は、やはりプロにみてもらったほうがよろしいかと思います。

「オーナー主導のお散歩」が大切な理由

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今回のような悩みの場合、実はオーナーさんの歩き方に問題があるケースも珍しくありません。

例えば、犬におしっこをさせるために引っ張られては止まり、また引っ張られては止まり……といったお散歩をしていると「いざ!」というとき、犬はついてきてくれません。

そして、そういうお散歩をしていると、犬にとってはオーナーさんといても楽しくないし、安心できない……という関係ができてしまいがちです。

なぜなら、犬からしてみれば、オーナーさんは“歩く係留フック”になっているから。

好き勝手にやりたいのに、リードで自分を留めて、自由な行動を邪魔するやっかいなやつという存在なのです。

これでは、犬の気をオーナーさんに向けることはできません。

また、お座りや伏せなども、できないよりもできた方が何倍もいいです(ただし、教え方に暴力はいりません。あくまでも人も犬もポジティブにできる事ことが大切です)。

オーナーさんが犬に望む→犬がそれをキャッチする→犬が自ら進んでそれをしたくなる。

この流れを作るためにやるのが、トレーニングです。

お座りも伏せも待てもおいでも、上手にやればやるほどこの流れが強くなり「いざ!」というときも、しっかり反応してくれます。オーナーさんを信頼してついてきてくれます。

問題行動だと感じている部分ばかりを練習するのではなく、散歩の仕方を含め、基本的なトレーニングをぜひしてみてくださいませ。

小野洋平 PROFILE

【柴犬お悩み解決NOTE】#10 散歩中、犬に会うと必ず「伏せ」をして動きません【ドッグトレーナー・小野洋平がズバリ回答】

『inu-house』代表。

通信のベンチャー企業に勤務後、カナダに渡りドッグトレーニングを学ぶ。カナダでは、いきなり家庭犬のトレーニングを行う現場で問題犬と呼ばれている犬たちに囲まれての修行。帰国後、介助犬育成と家庭犬トレーニングのケイナイン・ファミリーを立ち上げるが、日本人の犬の考え方や家庭犬の在り方に疑問を抱き、家庭犬トレーニングを主に行うようになる。日本独特の犬文化を守ることと変えていくことが目標。

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