特集『柴を介護(あい)する』シリーズでは、いつかはやってくる我が子の老後に備え、老犬介護の情報をお伝えしています。
柴犬は15歳を超えるご長寿犬も珍しくなく、シニア犬になってから世話や介護が必要になることもあります。
今回は飼い主さんが悩む介護や認知症の対策について、老犬介護士の平端弘美さんにアドバイスをうかがいました。
認知症への不安を抱える飼い主が多い
柴犬は犬の中でも比較的丈夫で長生きです。東京都獣医師会霊園協会の調べ(※)では15.1歳と最も長寿! 寿命の統計では14歳よりも17歳のほうが多く、他の犬種よりも長生きすることがわかります。
シニア犬との穏やかな暮らしを楽しみながらも、認知症や世話のことで不安を抱える飼い主さんも少なくありません。
そこで老犬介護士の平端弘美さんに、飼い主さんの介護の悩みについて答えていただきました。
※東京都獣医師会霊園協会の調査

「Hello doggie ひだまりシニア部」の老犬介護士、平端弘美さん。東京・多摩地域を中心に活動している。愛犬はポメラニアンのライチ(14歳・オス)。
平端さん:
「柴犬の飼い主さんからは、認知症について相談をされることが多いですね。実はシニア犬がぐるぐる回ったり傾いてまっすぐ歩けなくなったりすると、認知症と思い込んでしまう方もいます。
でも前庭疾患で体のバランスがとりづらくなったり、体の痛みや歪みでまっすぐ歩けなくなったりするケースもあります。行動の変化に気づいたらまずは動物病院を受診しましょう」

近年行われた研究では、14歳を超えると認知症の発症にはっきりした犬種差がないことがわかり、柴犬だけが突出して多いわけではないと指摘されています。
とはいえ認知症対策は若い頃からの積み重ねが大切。
悩み(1):柴犬におすすめの認知症対策は?

◆運動や脳トレで生活に刺激を与える
散歩はたまにコースを変えて、運動も無理なく取り入れましょう。

散歩に行かれないときや寝たきりの場合も、窓を開けて空気を入れ替え、外の物音やにおいで刺激を与えましょう。ごはんやおやつを知育玩具に入れてあげると脳トレになります。
◆マッサージやストレッチでリラックス
前回の記事「【特集】柴を介護する#7 皮膚がデリケートな柴犬の入浴はどうする? 老犬介護士に聞く清潔を保つケア」を参考に、体のマッサージをしたりストレッチをするのもおすすめ。
また、顔面のマッサージもぜひやってみてください。口角を上げるように頬を優しくつまんで、グルグルとマッサージすれば、リラックス効果が期待できます。
◆DHAやEPAを摂る
青魚などに含まれている不飽和脂肪酸(DHA、EPA)は、認知症の犬の栄養管理用療法食にも含まれています。人の認知症でも注目されているので、取り入れるのも良い方法です。
◆日光浴で生活リズムを整える
太陽の光を浴びるとセロトニンが分泌され、自律神経や体内時計を整えたり、気持ちを明るくしたりする効果が期待できます。
これは人も犬も同じ。お互いの健康のために規則正しい生活を心がけましょう。
悩み(2):ぐるぐる回ったり歩き続けたりする

◆八面サークルやバスマットで囲いを作る
犬が回ったり歩き続けたりしてもけがをしないように、八面サークルやウレタン製の大きいバスマットで囲いを作り、中に犬を入れてあげましょう。狭いところへ入り込んでしまうことも防げます。
◆不安な気持ちをやわらげる
シニア犬は目や耳が衰えるため不安を感じやすくなります。特に夜は不安が高まり、落ち着かなくなる傾向が。
家族がそばに居ることで安心するので、寝る場所を家族の近くに移動するのも一つの方法です。
またハーブを使った温湿布などはリラックス効果があるので眠りやすくなります。ただし、前回の記事にあるように、ラベンダーを使うのはNG。血圧を低下させる可能性があります。
悩み(3):足腰が衰えた・歩かないことがある
◆林の中や落ち葉の道を歩かせる

犬は後ろ脚から衰えてくるので、散歩のときにできる筋力アップトレーニングを。平坦な道だけでなく、芝生、土、玉砂利の上など様々な足裏の感触を味わわせてあげましょう。
落ち葉がある所も犬は沈まないように自分で脚を上げる動作をするので、筋力アップに繋がります。また、木の根をまたがせるのもおすすめです。
◆バランスディスクで体幹エクササイズ

室内でできる筋トレが、犬用のトレーニングアイテム「バランスディスク」を使ったトレーニング。脚を乗せることで、体幹を鍛えられます。
また、丸めたバスタオルを障害物代わりにまたがせるだけでも運動に。
◆散歩はシニア犬のペースでゆっくりと

散歩のときに歩かないからといって、抱っこしたり急かしたりするのはNG。目や耳が衰えて慎重になり、周囲を確認しながらゆっくり歩きたいと思っているのかもしれません。
犬の気持ちをまず考えましょう。
悩み(4):トイレに間に合わず漏らしてしまう
◆こまめにトイレへ連れて行き、排泄できたらほめる
排泄を失敗すると、犬が自信を失うことがあります。決して叱らずこまめにトイレに連れて行き、ちゃんと出来たらたくさん褒めてあげます。前向きな気持ちで生活できるようにサポートを。
◆トイレシートでマナーベルトを作る

レギュラーサイズのトイレシートを三つ折りにして、犬の毛がつきにくい不織布テープを使ってマナーベルトを作る方法もあります。

◆乳児用のオムツを活用する

乳児用のオムツに尾を出す三角形の穴を開け、周囲を不織布テープで固定します。犬にはオムツの前が背中になる向きではかせましょう。
◆番外編:トイレシートで床ずれパッドを作る

レギュラーサイズのトイレシートの折り目に沿って切ります。

カットする大きさは、床ずれの大きさや、床ずれ部分に合わせて調整してください。

キッチンの三角コーナー用の水切り袋をトイレシートと同じ大きさにカットします。

トイレシートと水切り袋をぴったり合わせて、水切り袋が上になるように二つに折り、不織布テープで四方を止めます。

このまま床ずれしている部分に貼ってもOKですが、ビワの葉エキスをスプレーでシュシュっとかけて貼り付けると消毒薬がわりになります。
ただし、床ずれの部位にいよっては、人間のシリコンパッドを当てたほうがよいことも。
また、床ずれは予防が第一。
褥瘡を作らせないために、寝たきりのワンちゃんは高品質な高反発マットに寝かせ、こまめに体位交換をしてあげてください。
もし床ずれができてしまったら、すぐに動物病院に相談することが大切です。
悩み(5):急にごはんを食べなくなったときは?

◆食べられない理由に合わせて対処する
シニア犬は消化器の機能が低下したり、口腔内の問題(歯周病など)があったりして、今まで食べていたドライフードが食べられなくなることも。まずは動物病院に相談して原因をしっかり把握するのが大切です。
首や肩が強張って食べる姿勢が辛くなることもあるので、食器の位置を高くするだけで食べられるようになるケースもあります。
いずれにせよ、食欲が低下したらすぐに動物病院を受診してください。
◆ペースト状にして哺乳瓶で食べさせる

お湯でふやかしてペースト状やスープ状にして、先端を十字に切った哺乳瓶やドレッシングボトルで少しずつ口に入れてあげましょう。

介護用スプーンで食べさせる方法もあります。
まとめ
「シニア犬の介護で忘れがちなのは、飼い主さんの笑顔です。犬は人の気持ちや態度に敏感なので、飼い主さんがいきいきとしていることが喜びにつながるんですよ」と平端さんは語ります。
飼い主さんの笑顔はきっと我が子に伝わるはず!
介護の悩みを抱えている飼い主さんは、平端さんのような老犬介護士を頼ってみては?
おおらかな気持ちでシニア犬ライフを楽しみましょう。
【施設DATA】
老犬介護Hello doggie ひだまりシニア部
平端弘美さん
電話番号:090-4453-7908
http://hellodoggie.info
《老犬介護Hello doggie ひだまりシニア部の特徴》
*カウンセリング:約45分/2000円
*ケアプラン作成 6000円
*訪問ケア 1時間2500円~
※ケアプランは犬に合わせて作成し、マッサージ、ハーブ温湿布、ハーブ足湯、運動機能訓練などを組み合わせて行います。詳しくはホームページをご確認ください。
【撮影協力】

こうご動物病院
東京都多摩市落合3丁目14-1
電話番号:042-400-7212
https://www.kougo-ah.com
※院内では平端さんが定期的にシニア犬のケアや介護の講習会を行っています。スケジュールは動物病院にお問い合わせください。
取材・文/金子 志緒 モデル犬/テツくん
- 【特集】柴を介護する