昨年6月に発売開始となったミニの新型EVを公道に引っ張り出して徹底チェック。噂のEVの出来栄えはいかに!?
「脱炭素時代の本命」などと持ち上げられてきたEVだが、市場が踊り場を迎え、販売は一気に失速。
* * *
■ニッポン市場でミニが売れるワケ
独自動車大手BMW傘下の小型車ブランドといえばミニだ。そもそもの話だが、ミニは日本市場でどんな位置づけなのか。人気はあるのか。自動車ジャーナリストの桃田健史氏に聞いてみた。
「ミニは日本で5番目に売れている輸入車ブランドです。2024年度の実績ですと、メルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲン、アウディに次ぐ存在です。新車販売台数は1万7804台をマークしており、男女を問わず幅広い年齢層に支持されています。つけ加えると、ファッション感覚で選ばれている。そういうブランドです」

ミニ エースマンSE 価格:556万円 ミニ自慢のエースマンは、5ドアのEV専用モデル。充電口は普通充電用が右側後部、急速充電用が左側後部に用意されている

ボディサイズは全長4080㎜×全幅1755㎜×全高1515㎜。
今回、週プレ自動車班が試乗したのは昨年6月に爆誕したエースマンSE。いったいどんなEVなのか。
「ミニのEVシリーズの中で、使い勝手が良いコンパクトSUVです。実はBMWグループは11年にミニを活用し、EVの実証試験を米国で開始しました。その当時から、私はミニのEV戦略を各国で定点観測してきました」
では、ミニのEVにはどんな特徴があるのか。
「動力性能だけではなく、ライフスタイル系商品としてのEVの可能性を探ってきたのがミニです。エースマンはEVとして誕生したことで、日本での商品価値も上がった印象ですね」
そんなエースマンを試乗したわけだが、やはりまず知りたいのは車名。どんな意味があるのか。販売店関係者に聞いてみた。
「野球のエースと同様の意味です。つまり、エースマンはミニが販売する〝EVのエース的存在〟と言っても過言ではありません」
エースマンに対するユーザーの反応も気になるところ。
「EVの販売は世界的に踊り場を迎えています。
確かに、EV専用モデルのエースマンは見た目からして近未来的。ヘッドライトも凝った多角形タイプになっている。SUV風味のクルマなので、背が高く見えるものの、実物を目にしてみると、かなりカッコいい。

室内で目を引くのは、ダッシュボード中央部にあるタッチスクリーン。バッテリー残量などあらゆる情報を表示

ダッシュボードは、リサイクルポリエステルを使用。地球環境を意識した内装に仕上げている
コックピットに座る。ヘッドアップディスプレーには車速などの情報が表示される。ハンドルは想像以上の極太タイプになっていた。中央部には大きな円形のディスプレーが鎮座。スイッチ類の数は必要最低限という感じ。
ダッシュボードは布地的な素材で覆われているものの、これはリサイクルポリエステルを使用した素材とのこと。リサイクルポリエステルとは、ペットボトルや繊維製品などの廃棄物を原料にした化学繊維だ。要は〝環境意識高い系〟の内装なのだ。

フル充電走行距離は414㎞(WLTCモード)。時速100キロ到達は7.1秒。マジで速い
当然、走りも地球環境に優しい味を予想していたら、これが速い速い! 高速道路の合流や追い越しも余裕でこなす。車線変更や旋回時も実に軽快。キレッキレの走りを披露してくれた。
理屈抜きに楽しい。ミニが掲げる〝ゴーカートフィーリング(ゴーカートに乗っているようなダイレクトな運転感覚)〟という言葉をシッカリ堪能できた。EV化されてもミニの走り味に変化はナッシング!
ここで気になるのはエースマンのライバルである。桃田氏が言う。
「実質的なライバルはいません。EV版のミニクーパーであれば、フィアットの500eや、プジョーe-208などがありますが......。強いて挙げればBYDのドルフィンですが、〝ファッション性〟という切り口だと、ドルフィンはエースマンSEと違う領域に存在するEVだと思います」
さらに桃田氏が続ける。
「これから20年代後半にかけて、欧州・中国・台湾などのメーカーがエースマンSEのライバル車を投入する可能性はあります。ただし、繰り返しになりますが、ファッションブランドとしてのミニの付加価値は非常に高く、エースマンSEの優位性はしばらく続くと思います」
エースマンSEは刺激的な走りを披露するEVであった。加えて5ドアなので使い勝手もいい。ただし、556万円と値は張る。また、EVなので〝充電環境〟を意識する必要が......。つまり、コスパで選ぶクルマではないのだ。
取材・文/週プレ自動車班 撮影/山本佳吾