最強の人の波にウハウハ! 一方、なぜか閑散とするところも......
大阪・関西万博が絶賛開催中の大阪。インバウンドの影響もあり、このGWはたくさんの観光客が押し寄せた。
* * *
■西成や飛田新地はどうなっている!?
万博とインバウンドの影響で観光客が増えたGWの大阪。キタやミナミの繁華街はどうなっていた? 日雇い労働者の街として知られる西成は? そして夜の街・飛田新地は? これから大阪観光を計画する人にはぜひ参考にしてほしい現地ルポをお届けします!
いきなりキタやミナミの人の波に突撃する前に、まずは肩慣らしとして、人が少なそうな西成に行ってみた。
この地の象徴だった「あいりん労働福祉センター」は2019年に閉鎖。その後、センター周辺の路上生活者たちは強制排除された。こうした影響もあってか今は西成の街を歩いても、日雇い労働者らしき人はほとんど見かけなくなっている。
西成の中心にある飛田本通商店街近くのお好み焼き屋の店主に話を聞いた。
「労働者も高齢になって引退してますからね。消えたのも当然です。その代わり、円安の流れもあって海外の若いバックパッカーが増えてきてこんな状態ですわ(笑)」
指さしたのがビールサーバーの横に貼られたさまざまな国の紙幣。なるほど、いろんな国の人が西成に来ていることがわかる。万博の影響はあるのか聞いてみた。
「欧米の人が増えました。これまではアジア系の人が多かったんですけど、今では欧米7対アジア3ぐらいの割合になってます」
続いて向かったのは、飛田本通商店街にあるクラシック音楽バー「ココルーム」。
「店の閉店間際にイタリア人と日本人が団体で来られました。せっかくイタリアの方が来店されたので、ユーチューブでイタリアの有名な曲を探してそれを流したところ、みんな喜んで歌い始めて、最後は大合唱です(笑)。
万博の影響はありますねえ。これまで外国人のお客さんは週に1組ぐらいだったのが、4月になって週に2、3組来るようになり、以前の倍かそれ以上になってます。商店街を歩いても外国の方が増えたのがわかりますから」
万博絡みの外国人観光客が増えて、ウハウハの声が聞こえてきた西成の街だった。
その西成の一画に夜の街・飛田新地がある。西成の観光客増でこちらもにぎわっているのではとのぞいてみた。
日が落ちるぐらいの時間帯。欧米系の外国人グループが歩いている。


夜の街・飛田新地には外国人女性観光客の姿も
実は、この外国人ツアー団体が飛田新地の売り上げに悪影響を及ぼしているという。この地で働く女性に聞いた。
「万博? もう早よ終わってほしいわ。万博始まって日本人も外国人も確かに増えた。ただ、増えたのは客やのうて、道を歩く人だけ。店に上がってくれる客は増えてへん。むしろ減ってるかもしれん」
その理由を尋ねると......。
「外国の男性も女性も一緒に歩き回るの、あれはやめてほしい。あんなにぎょうさん女の人がおったら、男の人が店に上がれへんのは当然や。
確かにインバウンドは西成の街を活気づけているようだが、飛田新地はマイナスの影響を受けていた。
■とにかく外国人の多いミナミ
さて、準備体操(!?)が終わったところで、大阪のインバウンド客が多く集まるというミナミの繁華街へ移動。
GW後半初日の5月3日。グリコの看板でおなじみの戎橋に立つと、いつもは橋の地面が見えるのだが、この日は人がびっしりでまったく見えない。
橋の辺りを見渡すと、スパイダーマンの格好をした男性が自転車でパフォーマンスをして喝采を浴びていた。外国人らはカゴにお金を放り込んでいく。このスパイダーマンに話を聞いた。
「3年前からやってます。子供が喜んでくれるので、やってて楽しくなってきて。4月になってこの辺りの人も相当増えました。もう、今日は人が多すぎて、熱中症のような感じになって正直あんまり覚えてないんです」

ミナミの道頓堀川にはミニブタの親子もお目見え
長年のパフォーマーでも記憶が飛ぶほどの熱気だったようだ。そして、橋の付近にはいろいろな動物たちも登場。人だかりができていたのは、ミニブタの親子9匹。
「この子は生まれてまだ2ヵ月なんですが、人と触れ合わせて慣れさせようと、人が集まる所に連れてきました。人に慣れないと、どこかに連れていっても?むんですよね」
これは、お金目的ではないのかと伺うと......。
「そんなことは一切ありません。サービスです。外国の方はみんなブタさんが大好きやから。『カワイイ』って抱っこしてくれますよ」
とにかくこんな感じで、常時人、人、人のおしくらまんじゅう状態。日本人に話を聞こうと思っても、アジア系の顔の誰が日本人かわからない。ただ、時々日本語がどこからか聞こえてくる。
「外人だらけやん」
「痛っ。蹴られたやんけ」
どこかに日本人がいるんだろうけど、本当にいるのかわからない。

ミナミの熱狂ぶりを語ってくれた「ペペロンチーノ」店主の後藤またべえ隆博さん
こんなミナミの昨今の事情をイタリア料理レストラン「ペペロンチーノ」店主、後藤またべえ隆博さんに聞いた。ちなみに、後藤さんは自分の髪でちょんまげを結って、侍姿で414年前から店に立っているそうだ。
「お客さんの半分は外国の方ですが、これから万博に行くという人も万博に行ってきたという人もいないですね」
では、今ミナミにあふれている外国人はなんなのか。
「万博関係なく、純粋に日本の観光にやって来た人たちだと思います。『エキスポ? 何それ?』って感じですよ。われわれが海外に行くとき、観光地のことは調べても、そのときやっているイベントとかはあまり調べないじゃないですか」

「肉喰」店主の冨田 太さん
焼き肉店「肉喰」店主の冨田 太さんも同じような印象だと語る。
「うちの店の客の割合は外国人8割、日本人2割なんですが、特に万博の影響はないですね。外国人はみんな開催していることすら知らないから『行ってき』と勧めても『もう計画立ててるのに、今さらいらんこと言わんといて』って顔してます(笑)」
ミナミは万博に関係なくインバウンドでごった返す街になっていた。
■あれ!? 思わず拍子抜け......
ミナミの熱狂状態を見るとキタもとんでもないことになっているだろうと思い、訪ねてみると......。
なんとGW後半の初日だというのに閑散としている! 居酒屋をのぞくと空席もちらほら。また、ミナミとの違いは外国人の数。
「私はこの10年近く梅田の東通を見てきましたが、コロナ禍以外の10年間のGWでこれほど人が少ないのを見たことがないです。原因は万博やインバウンドで人がたくさん大阪に来すぎていることでしょうね」
人がたくさんやって来たら、東通にも客がたくさん流れ込むのではないだろうか。
「いや。人がたくさん来てホテルの値段がバカ高くなってるので、地方からの日本人観光客が来れてないのが原因やと思います。このGW、ビジネスホテルでもひとり1泊3万円前後します。独身ならまだしも、家族連れだと厳しいですよね」


キタの東通商店街は激安居酒屋戦争が起こっていた。若者こそ多いものの、ミナミに比べると人はまばら
実際どうなのか。居酒屋から出てきた若者グループに話を聞いた。
「GWで帰省してきた友達と集まって飲んでました。みんな実家が大阪や京都なんでホテル代は関係ないです」
今、梅田はビジネスホテルでも3万円前後。それだけ払って遊びに来たいか?と尋ねてみる。
「絶対ムリ。実家にタダで泊まれるから、こうやって飲みに来れてるんです」
この東通にある酒屋「伊吹屋」の店主、小牟礼隆之さんに現状を聞いてみた。
「キタエリアは最近開発が進み、大阪駅周辺には高級ホテルや商業施設など富裕層向けの施設が増えてきてます。その半面、それ以外の繁華街では一気に低価格路線にかじを切る傾向にあります。生ビール160円、ハイボール50円とか。とにかく安さを前面に出した店が増えてきました。
結果、その辺りには若者が集まるようになって、同じキタの中でもエリアによってすみ分けされ、人が分散するようになったんでしょう」
外国人と交流したい? 安く飲みたい? 少しお金を出してでもゆっくりしたい? 同じ大阪市内でも目的によって目指す場所が変わってきているようだ。
取材・構成/ボールルーム 撮影/加藤 慶