一般道を中心に取り回し含め徹底チェック。激安EVとして大きな話題を集めているドルフィンだが、肝心の走りの実力はどうよ!?
中国を代表する自動車メーカーのBYDの動きが活発化している。
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■ニッポン市場を本気で攻めるBYD
EVとPHEVを武器に世界進撃を続ける中国の大手自動車メーカーのBYD。昨年の世界新車販売台数は427万台を記録し、日本のホンダや日産をブチ抜き、世界第6位に立った。もちろんこの急成長の背景にあるのは、中国の3000万台ともいわれる世界最大の自動車マーケットの存在だ。
一方でニッポン市場攻略の準備も着々と整えている。4月15日に〝デフレ価格〟で世界を震撼させているSUVタイプの高級EV・シーライオン7を日本市場にも投入。さらにBYDの〝伝家の宝刀〟ともいえるPHEVを年内にも日本市場に投入、来年以降には価格帯の異なるPHEVも導入、といった言及もある。
加えて日本市場で伸びないEV販売のテコ入れにも余念がなく、4月1日に大幅値下げを断行。具体的には2023年9月に日本で販売を開始したコンパクトEV・ドルフィンのエントリーグレードが、299万2000円で購入可能に! ちなみに航続距離は400㎞(WLTCモード)。
この値下げの背景について、自動車ジャーナリストの桃田健史氏はこう語る。
「直接的なライバルとなる、韓国ヒョンデのインスターの影響が大きいでしょう」
インスターは4月10日に日本市場で発売開始となったヒョンデの新型コンパクトEV。価格は284万9000~357万5000円ナリ。
「実は、BYDは26年をめどに日本向けの軽EV販売を計画していると4月24日に発表しました。モデルラインナップ全体での価格の整合性を取ることも、今回の大幅値下げの目的なのでは」
BYDが日本市場への投入を公式アナウンスした軽EVについては、日本でのシェア拡大を本気で目指す、いわば〝宣戦布告〟という見方もある。
「BYDは日本のみならず、アジア圏での市場拡大を進めている段階です。その中で、地域特性にあった商品ラインナップ強化を目指しています。現時点で、日本のEV市場は軽EVが主流であり、そこにコスパを強調した新モデルを投入するのは当然の流れです」
■イルカがモチーフのEV
というわけで、BYDの噂の激安モデル・ドルフィンを公道試乗してみた!

BYD ドルフィン 価格:299万2000~374万円 ちなみに航続距離476㎞(WLTCモード)というドルフィンのロングレンジは33万円値下げされて374万円に

ボディサイズは全長4290㎜×全幅1770㎜×全高1550㎜。外観はイルカが泳ぐイメージとか
BYDのスタッフいわく、ドルフィンはその名のとおりイルカをモチーフにしたクルマだという。確かに実車を目にすると、ゆるキャラや小動物的な愛嬌がある。ホンワカした気持ちで室内へ。ドアハンドルはイルカの胸ビレがモチーフとのことで、かなり独特な形状。

5インチの液晶タイプのメーターは、スピードや航続可能距離などを表示。センタースクリーンは12.8インチ
コックピットに座る。海の波から着想を得たという独創的なエアコンの吹き出し口に目がくぎづけに! 気になったのはスイッチ関係。

シートは植物性由来のビーガンレザータイプ。前席には電動タイプ。後席の足元は広い
乗り味はフワッと柔らかい印象。静粛性も高く、実に快適であった。路面の悪い所では多少の衝撃を感じたものの、狭い道や街中での取り回しも良好で、加速にも不満は一切ない。
予防安全装備と運転支援機能もテンコ盛りのドルフィン。個人的には車線逸脱時の警告音が耳障りだったが、あえて言えばのレベル。
ちなみにドルフィンのエントリーモデルは補助金などを差し引くと、日本の軽EVと大差ない価格になるというからエグい。専門家からは「価格破壊!」の声も。

ボンネットを開けてもEVなのでエンジンはない。
一方、桃田氏はこう指摘する。
「EVのコスパは、新車価格のみならず、リセールバリュー(再販価格)の維持が重要になります。BYDは日本市場に最初に導入したEV・アットスリーに対して、リセールバリューをしっかりと保つことを事業計画として表明していましたが、ドルフィンのみならず、BYDモデル全体として二次流通のあり方をさらに追求するべき時期でしょう」
すでに欧米やカナダは〝中国製EV〟に関税を上乗せするほど脅威を感じている。ところが日本では「どうせ中国のクルマでしょ?」「日本車がイチバン!」というのんきな声が多い。そういう方に、ぜひBYDのEVに試乗してほしい。中国の自動車メーカーの脅威をリアルに味わえるから。
取材・文/週プレ自動車班 撮影/山本佳吾