143試合で争われるプロ野球のペナントレースは、早くも4分の1が終了。競馬でたとえるなら、第1コーナーを回ったばかりではあるが、開幕から現在までのセ・パ両リーグの状況を徹底分析する!

※成績は5月13日時点。

* * *

■セの2強に明暗! 「岡本離脱」の余波

プロ野球は早くもシーズンの4分の1が消化された。ここまでの各球団の戦いぶり、課題や懸念点について、現役投手を指導するピッチングデザイナーであり、『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家でもあるお股ニキ氏に話を伺った。

まずはセ・リーグについて。

「阪神と巨人が首位を争う展開は予想どおりですが、広島が健闘しているのが印象的です。〝本命〟は阪神で、開幕前に行なわれたカブス、ドジャースとの親善試合で圧勝したように、頭ひとつ抜けてもおかしくない地力があります。ただ、藤川球児監督が〝実地研修中〟ということもあり、試合運びにはまだ課題がありますね」

その阪神といえば、12球団随一のチーム防御率を誇る投手陣が強みだ。村上頌樹はMVPを獲得した2年前のようなペースで勝ち星を積み重ねている。

「村上は明らかに昨季より状態が良く、そこに才木浩人が続き、私が来日前から注目していたジョン・デュプランティエもやはりいい。ドラフト1位の伊原陵人もまずまずで、開幕前にカブス相手に無双した門別啓人でも5、6番手。先発陣の層は厚いです」

さらに、富田 蓮やジェレミー・ビーズリー、ケガで出遅れていた大竹耕太郎、伊藤将司や西 勇輝ら実績組も名を連ねる状況だ。

「先発できる投手を10枚も抱えているのは本当にすごい。ここにまだ髙橋遥人が加わるわけですから。髙橋が昨年のように、先発陣が疲れてきた夏頃に投げられると非常に頼もしい。

中継ぎや救援陣の層も厚く、投手陣は本当に盤石です」

いち早く抜け出す球団はどこだ!? だんご状態!! プロ野球ペ...の画像はこちら >>

リーグ1位の本塁打数、打点数をマークする阪神・佐藤輝明

いち早く抜け出す球団はどこだ!? だんご状態!! プロ野球ペナントレース第1コーナー
首位打者争いでリーグトップを走る阪神・森下。このふたりがどっしりと中軸に座る打線は破壊力抜群だ

首位打者争いでリーグトップを走る阪神・森下。このふたりがどっしりと中軸に座る打線は破壊力抜群だ

打線で目立つのは佐藤輝明と森下翔太の爆発ぶり。佐藤輝は本塁打と打点でリーグ1位を快走。三振数もリーグ断トツと、らしさも健在だ。

「今季は小谷野栄一打撃チーフコーチの指導がうまくハマり、『三振を恐れずに振る』という打撃ができています。もともと飛ばす力は天性のモノがあるわけで、フルスイングでなく、8~9割のスイングでも当てれば飛ぶ、という感覚をつかんだ印象です」

そして、5月に入って絶好調なのが森下だ。首位打者争いのトップに立つだけでなく、ゴールデンウイークには自身2度目となる4試合連続弾を放つなど、長打力も見せつけている。

「以前からスプリットなどの落ち球とスライダーなどの曲がり球に対応するうまさを指摘してきましたが、今季は高めの速い球にもしっかり対応できています。

例年、シーズン序盤に調子を落としたりケガをしたりと、シーズンをフルで戦えないのがネックですが、このいい状態を継続できれば、リーグ屈指の穴のない打者と言えます」

一方、阪神を追う巨人は、左肘靱帯損傷で全治3ヵ月と診断された岡本和真の抜けた穴があまりにも大きい。

「泉口友汰や若林楽人らが頭角を現し始めただけに、大黒柱である岡本の長期離脱は痛すぎます。特に今年の岡本は全盛期と言っていいほど状態も良かった分、ショックは大きいです。

岡本の代わりなど誰もできない上に、ほかの打者も気負ってしまってますます打てなくなる。

阿部慎之助監督も采配面での迷いや、吉川尚輝の4番起用など打順が迷走したりと、岡本不在の影響が出始めています」

いち早く抜け出す球団はどこだ!? だんご状態!! プロ野球ペナントレース第1コーナー
電撃トレードで巨人に加入したリチャード。移籍翌日にスタメン起用され、3年ぶりの一発を放った

電撃トレードで巨人に加入したリチャード。移籍翌日にスタメン起用され、3年ぶりの一発を放った

この緊急事態に対し、巨人は秋広優人と左腕の大江竜聖を送り出し、ソフトバンクのリチャードを獲得する電撃トレードに踏み切った。

「岡本と同タイプの長打力を持つ若手右打者や外国人の獲得は急務だっただけに、伸び悩む素材型スラッガーに白羽の矢を立てたのでしょう。巨人というプレッシャーのかかる環境に移ることで大化けの目もある。

一方の秋広も、期待され続けた未完の大器。ソフトバンクは左打者の育成に定評があるので、再出発の地として悪くない環境です」

では、巨人の投手陣はどうか?

8回の大勢がホールド数1位、9回のマルティネスがセーブ数2位と救援陣は盤石だが、気になるのは先発陣だ。山﨑伊織がリーグ新記録の開幕35イニング無失点で3月・4月の月間MVPに輝いたものの、エース戸郷翔征は2軍落ちを経験した。

「山﨑が覚醒しても、今季は菅野智之(オリオールズ)が抜けたわけで、戸郷が万全でなければ穴埋めできません。田中将大の状態が悪すぎたのか、戸郷を予定より早く1軍へ戻しましたが、不調の原因は勤続疲労だと思うので、本当はもう少しじっくり調整期間を与えたかったところです」

■上位躍進の目も! セのAクラス争い

阪神、巨人の2強以外も見ていこう。4月に一時首位に立つなど奮闘しているのが広島だ。勝率は5割前後を推移しているものの、得失点差では巨人よりもプラスが大きい。

「九里亜蓮(オリックス)の移籍もあって厳しいとみていましたが、床田寛樹を筆頭に投手陣は安定感抜群。守備力が高いので、打たせて取る投球もできる。

今の飛ばないボールの野球に合っていると言えます」

広島の課題は野手の踏ん張りと、昨季経験した「夏以降の大失速」を防げるか、だ。

「新外国人のサンドロ・ファビアンや外野手登録の中村奨成ら、現段階で数字を残している選手たちもまだサンプル数が少なく未知数。野手の戦力が厚くないので、投手陣はどうしても緊張感のある投球が続いてしまいます。その負担は他チームよりも大きいですが、いかに決壊させずにシーズンを乗り切れるか」

その広島とAクラスを争う位置にいるのがDeNAだ。

「タイラー・オースティンが例年どおりの故障で不在。さらに宮﨑敏郎ら主力も少し力が落ちてきていることもあり、今季は打線が物足りない。また、守備や走塁を含めたディテールが甘いのも変わっていません。

その代わり、投手陣がかなりいい。特に開幕前から評価していたアンソニー・ケイとアンドレ・ジャクソンの両外国人はやはり格別にいいですね」

ケイは防御率0点台後半、ジャクソンは防御率1点台前半。エース東 克樹も1点台後半と安定感は抜群だ。

「さらに、ケイとジャクソンに刺激されたのか、トレバー・バウアーも復調気味です。中継ぎのローワン・ウィックも含め外国人投手は軒並みいい。

日本人でも入江大生や宮城滝太らが非常にいい。不安要素の多い巨人と入れ替えにAクラス入りの可能性も十分ありそう。衰えの見える宮﨑に代わって打撃が期待される捕手の松尾汐恩をサードで使うといった柔軟性も見せてほしいです」

さらに、「ここまで述べた4チームとは大きく差がある」と語るのが中日とヤクルト。過去2年、最下位争いを演じてきた2チームが今季も〝定位置〟で苦戦する。

「中日はとにかく打てない。3本塁打の上林誠知がひとり気を吐いているくらいで、チーム打率、得点数は共にリーグ最下位。チーム打率は一時期2割も切っていましたから。いくらチーム防御率2点台でも、これではさすがに厳しい」

一方のヤクルトは、村上宗隆、塩見泰隆、長岡秀樹と主力野手が軒並み戦線離脱中だ。

「ケガさえなければ強いのに、やはりケガ人が出てしまう。FAで茂木栄五郎を獲得していなければどうなっていたのか、という状況です」

■ハムとオリが一歩リード!

続いてパ・リーグ。打撃好調で開幕ダッシュを飾ったオリックスと、新庄剛志体制で初優勝を目指す日本ハムが一歩リード。昨季、チーム打率、本塁打共にリーグ5位と不調だったオリックス打線はなぜ〝確変〟したのか?

いち早く抜け出す球団はどこだ!? だんご状態!! プロ野球ペナントレース第1コーナー
開幕から打ちまくり、自身初の月間MVPを受賞したオリックス・太田。両リーグトップの打率.345をマーク

開幕から打ちまくり、自身初の月間MVPを受賞したオリックス・太田。両リーグトップの打率.345をマーク

「ブレイク中の太田 椋、巨人から移籍して2年がたった廣岡大志、復活した頓宮裕真や杉本裕太郎らを中心に、右打者の打ち方が良くなっています。

チーム打率は今も2割8分前後。これは相当すごい数字です。今季から嶋村一輝打撃コーチが入閣しましたが、指導理論がかなりいいのかもしれません」

ただ、投手陣はいまひとつピリッとしない。

「新戦力の九里が好調で、エース宮城大弥ら先発陣はそろっているものの、3連覇を支えた中継ぎ陣が軒並み故障や不調。3連覇の代償というか、投げ方が悪いまま出力だけ上げてしまうと、大事に起用してもケガにつながってしまうのかな、という印象です」

打線として機能するオリックスに対して、12球団1位のチーム本塁打数を誇るものの、そこまで得点数に反映されていないのが日本ハムだ。

「選手個々のスペックは明らかに高くなり、ポジションも打順も多彩なオーダーを組めるようになりました。しかし、チャンスで打てないためよけいに力んでしまい、三振も多くなり、打線がぶつ切り状態に。

フランミル・レイエスは尋常ではなく足が遅いので、彼が塁にいると併殺打になりやすく、そこで打線も途切れてしまう状況が続いています。清宮幸太郎も昨季後半のようないい状態ではないです」

いち早く抜け出す球団はどこだ!? だんご状態!! プロ野球ペナントレース第1コーナー
本塁打と打点でリーグトップの日本ハム・万波中正。長打力は光っているが、打率.226、得点圏打率.207という数字はまだまだ物足りない

本塁打と打点でリーグトップの日本ハム・万波中正。長打力は光っているが、打率.226、得点圏打率.207という数字はまだまだ物足りない

また、ホームで負け越している点も日本ハムが波に乗り切れない要素のひとつだ。今季のパ・リーグは日本ハムに限らず、各球団がホームで苦戦する中、唯一、ホームで大きく勝ち越しているのが昨季最下位の西武。防御率0点台の今井達也と隅田知一郎が牽引する投手陣は現在、チーム防御率リーグ1位を誇る。

「西武といえば、味方の守備に依存する投球スタイルの投手が多かったですが、今井と隅田は支配的な投球ができる。このふたりは金曜日と土曜日に投げるのですが、週末に西武と当たるチームは大変だと思います」

いち早く抜け出す球団はどこだ!? だんご状態!! プロ野球ペナントレース第1コーナー
開幕から打撃が光る西武のドラフト2位ルーキー、渡部聖弥。石毛宏典さん以来、球団44年ぶりの快挙となる5試合連続マルチ安打も記録

開幕から打撃が光る西武のドラフト2位ルーキー、渡部聖弥。石毛宏典さん以来、球団44年ぶりの快挙となる5試合連続マルチ安打も記録

ここ数年の西武の課題といえば貧打だ。それだけに、ドラフト2位ルーキーの渡部聖弥への期待は大きい。

「渡部は打球角度がつかないのでなかなか本塁打は出ないと思いますが、打者としては非常に能力が高い。ほかにも西川愛也ら、期待を抱かせる選手は増えてきています」

■混戦のパ! 鍵握る上がり目の鷹

今季パ・リーグ序盤戦の重大トピックといえば、ソフトバンクが5月上旬まで最下位に沈んでいたことだろう。

「やはり、正捕手だった甲斐拓也(巨人)の抜けた穴が大きい。以前、『正捕手が抜けると低迷する』という話を紹介しましたが、そのとおりになりました。球団として設備やデータ面が充実していても、それを表現できるような選手がいなければ宝の持ち腐れです」

さらに、柳田悠岐、近藤健介、栗原陵矢といった打線の軸が不在。栗原が戻ってきたら、今度は周東佑京が骨折と、次から次へと主力選手が抜けてしまう負の連鎖が続いた。

いち早く抜け出す球団はどこだ!? だんご状態!! プロ野球ペナントレース第1コーナー
一時は12年ぶりの単独最下位に沈んだソフトバンク。小久保監督はケガ人の多さに悩まされながらも5月は白星先行で調子を上げてきた

一時は12年ぶりの単独最下位に沈んだソフトバンク。小久保監督はケガ人の多さに悩まされながらも5月は白星先行で調子を上げてきた

「ケガを未然に防げなかった小久保裕紀監督のマネジメントにも課題はありますが、さすがにこれだけ主軸が抜けると厳しい。ただ、チーム防御率はリーグ3位、チーム打率は2位、チーム得点数は1位と、個々の数字は上がってきている。地力はあるだけに、Aクラスに入ってきてもおかしくないチームです」

ドラフト1位ルーキー、宗山 塁が奮闘する楽天は?

「宗山自体は悪くない。楽天はチームとして弱くもなく強くもなく、優勝は狙えないものの3位はある、というチーム。その状況で宗山はどれだけスター性を高められるか」

そして、現段階で最下位に沈むのがロッテだ。開幕前には佐々木朗希(ドジャース)が抜けた投手陣が心配されていたが、実際には12球団最下位のチーム打率に悩む貧打で苦しんでいる。

「もうすぐ38歳の角中勝也が4番で起用されていますが、どれだけ厳しい台所事情かがわかります。期待は19歳の寺地隆成捕手と木村優人投手、20歳の田中晴也投手くらいですね」

楽天、ロッテの2球団にはなかなか上がり目がなさそうだが、それでも上位との差はわずか。Aクラスの可能性もあるだけに、パ・リーグの混戦は続きそうだとお股ニキ氏は語る。

「オリックスの勢いが落ちてきて、代わりに上がってくるであろうソフトバンク。対して、日本ハムは本拠地で勝てればナンバーワンでしょう」

間もなく交流戦も始まるプロ野球。例年に比べて故障者も目立つだけに、ますます先の見えない戦いが続きそうだ。

文/オグマナオト 写真/時事通信社

編集部おすすめ