教皇にコスプレしたトランプ米大統領。彼に怖いものはないのか?(写真:時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。
* * *
――トランプ米大統領がローマ教皇のコスプレをした写真をSNSに投稿しました。これはいくらなんでもやり過ぎでは? 本物の教皇様に対して失礼ではないですか?
佐藤 このことのポイントは何かと言ったら、トランプはローマ教皇を全く尊敬してないということでしょう。だから茶化して、コスプレができるわけです。
――なんでまた、こんな神を恐れぬことができるんですか?
佐藤 周知のとおり、トランプはプロテスタント、長老派(カルバン派)です。かつてカトリック教会とは敵対していましたから、カルバン派の影響を強く受けているとすれば、当たり前のことなんでしょう。大石寺(日蓮正宗の総本山)と創価学会みたいな関係性ですからね。
――信仰する「宗派」の違いでありますね。
佐藤 そう。だから、ローマ教皇を全く尊敬していません。カトリック教会から弾圧され、カトリックに殺されることから逃げてきた歴史があるのですから当然です。だから、これはローマ教皇人事と重なるわけですよ。
――どの辺りがどう関わるのですか?
佐藤 今回のようにトランプは、カトリック教会を軽く見ていて、何をやるかわかりません。
――まさか、コスプレトランプ教皇と本物のレオ14世に繋がりがあるとは......。
佐藤 実は、カトリック教会は非常に政治的です。19世紀半ばに、第一バチカン公会議とで、「教皇不可謬(ふかびゅう)性」という教義が宣言されました。
それは、教義と道徳に関して、教皇が教皇の立場で教義と道徳について行った指令は絶対に間違いがない、ということです。裏返せば、教皇が道徳で何かを言った場合、それは全カトリック教徒に対する拘束力を持つわけです。
――絶対的に服従しないといけない命令でありますね。
佐藤 そして、レオ14世は教皇就任後、さっそく平和を強調していました。
――はい。
佐藤 フランシスコ前教皇は、アメリカのカトリック教会の雑誌『アメリカ』で、「ロシア兵で最も残虐なのは、仏教徒のブリヤード兵。
――そりゃまた、なぜですか?
佐藤 それは、トランプとの協調路線の表明です。
――なんと!!
佐藤 トランプの大統領就任演説で「神様は男と女しか作ってない」と主張しています。これは、カトリック教会の主流派と同じですよね?
――はい。
佐藤 それから、家族の価値の重視も一緒です。
――そうですね。
佐藤 だからそう考えると、今のところトランプとカトリック教会に軋轢が起きる可能は少ないわけです。しかし、トランプと個人的ないろんな諍(いさか)いが起きてしまうと大変です。例えば、今回のコスプレで騒ぐと、面倒くさいことになるのはわかっています。
だから、アメリカ人はどういう性格や思想を持っていて、トランプの感覚がどうなっているのか。
――すると、このトランプの教皇コスプレは、カトリック教会に対する先制攻撃だったんですね。
佐藤 そういうことです。要するに、トランプにとって教皇とはこの程度の位置づけの存在であると、この機会に明らかにしたわけです。別に尊敬してないし、とね。
――トランプ、すげえ。それに対して、バチカンもすごい。布教だけではなく、世界情勢の中であまねく勢力を拡大できる方をトップに据える。
佐藤 そう。1978年にポーランド人のヨハネパウロ2世が教皇に選ばれました。イタリア人以外が教皇となったのは455年ぶりで、その選出の目的は社会主義体制の解体でした。
だから、今回も同じです。
――トランプの扱いが、ローマ帝国時代の皇帝と同じじゃないですか。
佐藤 そう、そういう感じですよ。
――佐藤さんはトランプについて、元ロシア大統領のエリツィンと同じ役割になると推測していますが、それはどういうことですか?
佐藤 トランプは伝統的なエリートです。しかし、これまでのエリートを退却させ、エリートの交代を目指しているとも考えられます。未来のエリートのための場所作りをしているということです。
そして、それはロシアで考えるとわかりやすいんです。ゴルバチョフまでは旧来のエリートでした。一方、現在のプーチンは新しいエリートです。その過渡期にいて、橋渡し役となったのがエリツィンでした。
――エリツィンは再び、ロシアを栄光の下に戻すためにプーチンに引き渡したと。
佐藤 ヴァンスになるかどうかはわかりませんが、"ヴァンス的なもの"ですね。トランプの原動力はオバマ大統領に対する「よくも俺を舐めたな」という個人的な原動力でしたからね。
――当時のオバマ大統領がホワイトハウスのパーティーで、トランプをジョークのネタにしました。「てめえ、何を言いやがる」というトランプの視線を自分は覚えています。だから、今のヴァンス副大統領ではない誰か出てくる可能性もあると。
佐藤 そうです。あの世代で下からのたたき上げで、民衆の気持ちを理解していて、エリートになってもエリート層に迎合されず民衆の側に立つという、そんなタイプの人間ですね。
――ヴァンスと同じく、ラストベルトから出てくるのですか?
佐藤 南部なのか、またはニューヨークからなのか、どこから出てくるのかわかりません。次の時代の政治エリートが誰になるかは、その本人も含めていまは誰も知らないと思いますよ。
――こいつは面白い時代に入りましたね。
佐藤 だから、そういう転換が起きているというリアリティを捉えることですね。
――もうひとつ、米露は戦略的連携を強めていますが、そこで聞きたいことがあります。
佐藤 トランプの目的は「世界の棲み分け」です。しかし、ウクライナがいると棲み分けが上手くいきません。以前、映画『仁義なき戦い 代理戦争』のワンシーンでウクライナ戦争の構造を説明しましたよね。
――連載104回のこの部分でありますね。
《佐藤 映画の大筋は、上部団体の指示で抗争している菅原文太が、最後にいよいよ突撃して、広域団体との戦いに発展するという話でした。
しかし、その広域団体の人間から「お前とも色々と縁があるから本当の事、教えたろか? もう、上同士は手を組んでいるんやで。だから、仲良うしてくれへんかな?」と言われるんですよ。
――すさまじい!
佐藤 そして菅原文太は「お前の周辺で戦っている奴らは皆、裏返っている」「やると言っているのはお前だけやで。玉砕や」と伝えられます。
――ということは、菅原文太と同じ立場にゼレンスキーがいると。》
佐藤 そうです。だから、『仲直りしてくれんか』は『プーチンと仲直りしてくれんか』ということです。
――本物の代理戦争じゃないですか!!
佐藤 アメリカにしても、「酔うたような若いモン(ゼレンスキー)に、えらい往生してまっせ」と困っているわけです。
――そういうことだったんですね。怖いです。
佐藤 だから、米露にとってウクライナは速やかに邪魔になります。これがいまの現実です。
――ゼレンスキーさんはわかってないんだ。
佐藤 わかっていませんね。おそらく、トランプの台頭はあと4年で、それが過ぎれば、またアメリカは元に戻ると思っているんじゃないですか。
――でも、米国はそうかもしれないですけど、ロシアではずっとプーチンが続く。
佐藤 そうですよ。それにトランプの流れも続きますよ。
――トランプはどうするんですか?
佐藤 プーチンが折り合いをつけるでしょう。アメリカに、ウクライナを草刈り場にして、利権やレアアースをどんどんと取っていってください、とね。
――まさに棲み分け。
佐藤 そうです。
次回へ続く。次回の配信は6月20日(金)を予定しています。
取材・文/小峯隆生