柳沢正史先生いわく「睡眠時無呼吸と日中の眠気などの自覚症状とは相関がない。それが恐ろしいところ」
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。
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ひろゆき(以下、ひろ) 前回は「多くの人が自覚している睡眠時間や睡眠の質は当てにならない」というお話でした。
柳沢正史(以下、柳沢) はい。私たちの調査では「十分に眠れている」と思っている人の45%が無自覚の「睡眠不足」であることがわかりました。また、自覚症状の有無にかかわらず、全体の約16%、約6人に1人の割合で、治療が必要なレベルの「睡眠時無呼吸」が見つかるんです。
ひろ 治療が必要なレベルってどれくらいなんですか?
柳沢 例えば、中等症の人はひと晩でだいたい3~4分に1回以上呼吸が止まっています。
ひろ ということは、1時間に20回くらい息が止まってるってことですよね?
柳沢 重症になると1時間に50回くらい呼吸が止まっています。
ひろ ちなみに何秒間、息が止まったら「無呼吸」と認定されるんですか?
柳沢 10秒以上です。
ひろ じゃあ、重症の人は寝てる間、1分に1回、10秒以上息が止まってるってことですよね。
柳沢 はい。寝ている間中ずっと、無呼吸と深呼吸を繰り返している状態ですね。30~60秒以上、息が止まることもあります。で、睡眠時無呼吸症候群の標準治療に使われるのが「CPAP(シーパップ)」という治療法です。鼻にマスクをつけて空気を送り込み、気道が潰れないように内圧を高めてキープする。睡眠時無呼吸症候群の人がシーパップをつけると、睡眠が一気に安定して本来の睡眠リズムが取り戻されるんです。
ひろ 睡眠時無呼吸って自覚できるものなんですか?
柳沢 いえ。気づくきっかけとして多いのは一緒に寝ている人の指摘です。「いびきがうるさい」とか「息してないよ」と言われて、気づく人がほとんどです。
ひろ じゃあ、ひとり暮らしだと自分では気づけないかも。
柳沢 ええ。自覚しづらいから厄介なんです。
ひろ 睡眠の質が悪くなるでしょうから、日中に眠たいみたいな自覚はないんですか?
柳沢 ない人も多いです。睡眠時無呼吸と日中の眠気や本人が感じる睡眠の質といった自覚症状とはほとんど相関がありません。それがこの病気の恐ろしいところです。
ひろ ちょっと意地悪な質問かもしれませんが、自覚がないということは、要は困っていないということですよね。つまり「困ってないなら放っておいてもいい」とも言えないですか?
柳沢 でも、そういう方がシーパップ治療を始めると「頭がクリアになってる。俺、実はずっと眠かったんだ」って後から気づくパターンが多いんですよ。
ひろ 眠くてパフォーマンスが悪いのに「それが普通」と思い込んでるだけなんですね。快適な状態を知らないから比べようがない。
柳沢 そうなんです。さらに怖いのが、重度の患者さんだと酸素飽和度が70%まで落ちる人もいることです。
ひろ 睡眠時無呼吸症候群の人は、毎晩、文字どおり命懸けで寝ているってことですね。ちなみに、治療せずに放置していたら、どうなるんですか?
柳沢 無治療の重症者では、12年間で約18%の人が命を落とすというデータがあります。つまり5人に1人が心血管系の病気で亡くなるんです。主な原因は脳卒中、心筋梗塞、大動脈解離などです。命に関わらないレベルの脳卒中などを含めると、発症率は半数以上に上ります。
ひろ シーパップをつけるだけで、それが防げるんですか?
柳沢 致命的なリスクは約5%まで下がります。
ひろ 睡眠時無呼吸症候群になりやすい人っているんですか?
柳沢 よく「太った中年男性の病気」って思われがちですよね。でも、実はそれだけでもないんです。痩せていても顎の骨格が小さい人とか、下顎が後ろに引っ込んでいる人はなりやすい。これはアジア人に多い骨格です。
ひろ つまり、痩せていても骨格的なリスクがあるわけですね。
柳沢 だいたいわかります。あとは太っている人もリスクが高いです。同じ骨格なら、太っている人ほど重症化しますし、舌に脂肪がついてより気道がふさがれやすくなる。
ひろ なるほど。
柳沢 軽症者まで含めると、無呼吸が見られる人は、全体の4割近くになるんです。
ひろ つまり5人に2人ですか! それなら、「疑いがある人を探す」というスクリーニングではなく、成人全員が検査を受けるべきだという話になりません?
柳沢 おっしゃるとおりです。
ひろ でも、シーパップって面倒くさい印象もありますよね。
柳沢 確かに装着は煩わしいです。装置は大きくて持ち運びにも不便です。でも最近は小型化が進んでいて、旅行にも持っていけるようになっています、それでもウザいと思う人は多いですが。
ひろ シーパップ以外にも睡眠時無呼吸症候群の治療法ってあるんですか?
柳沢 最新のものではペースメーカーみたいな装置を鎖骨あたりの皮下に埋め込む方法があります。無呼吸を検知すると舌下神経にごく弱い電気刺激を与えることで、舌が前に出て気道を確保する。
ひろ じゃあ夜中に目が覚めることはないですね。シーパップって、治療を続けていたら、そのうち使わなくてもよくなるんですか?
柳沢 残念ながら体形(肥満度・脂肪率)や骨格が変わらない限り治りません。つまり、多くの人にとっては一生ものの治療です。
ひろ 骨格が原因ならどうしようもないですね。でも、なぜ睡眠時無呼吸症候群になるんですか?
柳沢 それは、あおむけで寝るとレム睡眠中に筋肉が弛緩して、舌が後ろに落ちやすくなるからです。
ひろ ってことは、あおむけをやめて横向きで寝ればいいんじゃないですか?
柳沢 実は軽症なら、横向きで寝るだけで改善するケースが多いんですよ。
ひろ シーパップよりも全然ラクですね。
柳沢 はい。抱き枕や横向き用の枕を使うだけで無呼吸がなくなる例もあります。寝方を変えるだけで、改善する人もいるんですよ。いずれにしても、まずは自分が睡眠時無呼吸症候群かどうか知ることが重要です。
ひろ 日中のパフォーマンスに影響するので、仕事の成果にも関わってくる。自分が睡眠時無呼吸症候群かどうかを知っているだけで人生はだいぶ変わりますね。んで、知らずに損をしてる人は多そうだなあ。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など
■柳沢正史(Masashi YANAGISAWA)
1960年生まれ、東京都出身。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構機構長・教授。1998年に睡眠・覚醒を制御する物質「オレキシン」を発見。監修した本に『今さら聞けない 睡眠の超基本』(朝日新聞出版)などがある
構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾