日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。孤独な女性の生活と恋を通して描く、"もうひとつ"のアメリカ!* * *『フォーチュンクッキー』
評点:★3.5点(5点満点)

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静かに心に響く、抑制のとれた映画

まったく考えてみたことがなかったが、フォーチュン・クッキーに入っている「おみくじ」的なメッセージは、当然誰かが書いたものである。

が、無味乾燥で機械的な「おみくじ」の文面と異なり、フォーチュン・クッキーのメッセージはときに詩的で、気の利いたものに出会うことも少なくない。

主人公はフォーチュン・クッキー工場でメッセージを書く仕事を任された若い女性ドニヤである。彼女は母国アフガニスタンで米軍の通訳として働き、特別永住ビザを得てアメリカにやってきたのだ。

多くは語られないが、ドニヤはタリバンの支配を逃れてアメリカにやってきており、本人は直接そうと意識していないが、不眠に悩まされたり、少し無感覚になってしまっているようだ。

そんな彼女が、ほんのちょっとした事件や出会いを通して、少しずつ自分を取り戻していく。「普通の若い女性」として「いられる」という、ほとんど自明に思えることの貴重さが、彼女の変化を通して伝わってくる。

シンプルなモノクロ画面にユーモアや悲哀が浮かぶさまは、初期ジム・ジャームッシュ監督作品に近すぎる気がしないでもないが、静かに心に響くものがある、抑制のとれた映画となっている。

STORY:カリフォルニア州のクッキー工場で働くドニヤ。彼女は母国アフガニスタンで米軍基地の通訳者として働いていた経験から不眠症に悩まされている。ある日、彼女はクッキーの中に入れるメッセージに自分の電話番号を紛れ込ませる......

監督:ババク・ジャラリ
出演:アナイタ・ワリ・ザダ、グレッグ・ターキントン、ジェレミー・アレン・ホワイトほか
上映時間:91分

全国公開中

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