多井隆晴 1972年生まれ、東京都出身。麻雀プロ歴31年。
7月1日に開幕となるリーチ麻雀の世界大会は、その発祥の地である日本・東京が初の舞台に! 各地の雀士たちがしのぎを削る本大会で、日本代表に選ばれた雀士たちのリーダーである多井隆晴(おおい・たかはる)氏を直撃! 麻雀で日の丸を背負うことの重みを語りつつ、昨今の麻雀界についてのちょっぴり辛口なトークも炸裂した!
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■麻雀で「日本代表が選ばれる」ことの意味
7月1日から6日まで東京・日本橋三井ホールで開催される、「アース製薬100周年記念 世界麻雀 TOKYO2025」。世界中の雀士が東京に集い、麻雀の腕を競い合う一大イベントだ。
4回目となる今大会で初めて実施されるのが「国別対抗チーム戦」。国別で4、5人一組のチームを組み、5月29日には日本代表監督を務める藤田 晋氏(サイバーエージェント社長、Mリーグチェアマン)が日本代表8チームのメンバーを発表した。
総勢34人の代表選手の中で「フル代表Aチーム」として最初に名前を呼ばれたのが、Mリーグ「渋谷ABEMAS」所属の多井隆晴氏だった。「最速最強」「麻雀星人」の異名を持つ屈指の実力者に、世界大会への思いや麻雀界の未来について、思う存分語ってもらった。
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――まず「日本代表」になったことの率直な感想からお聞かせください。
多井隆晴(以下、多井) 僕は子供の頃にサッカーをやっていて代表チームも応援していたので、「日本代表の重み」みたいなのは小さい頃から感じていたんですよ。今回は世界麻雀で、日本代表が選ばれると聞いて、僕も選ばれたいなと思っていました。
世界陸上、水泳、卓球とか、日本人で聞いたことがない人はいないと思うんですよね。麻雀がその仲間入りをした、とまでは言いませんけど、それだけ大きな規模になったというのはすごいことですよね。
そして今回は、監督が藤田(晋)さんじゃないですか。僕にとっては「あの人がいなければ今頃は麻雀をやっていなかった」というくらいの大恩人なので、僕が参加しないわけにはいかないと思って、全部の仕事をキャンセルして日程を空けました。
関係各所にはご迷惑をおかけしましたけど、日本代表のためということで快く対応していただけました。
これはまだ「つくっていただいた」舞台でもあるので、しっかりと大会を盛り上げて、藤田さんをはじめお世話になった方々に麻雀プロとして恩返しをしていくことで、また麻雀業界を盛り上げていければと思います。
――今回は発表の仕方も本格的でした。
多井 サッカーワールドカップの日本代表の発表みたいでしたね。あの感じも、すごくくるものがありましたよ。やっぱり日本を代表して戦って、日本の麻雀がどれだけレベルが高いのかを伝えないといけないですし、僕らが戦うことで見ている方にいろいろな感情を持っていただけるというのもそうそうあることではないので、今はMリーグとはまた違った形で、すごくテンションが上がっています。
国歌斉唱とかあるのかな? チームで1番手に呼ばれた人がキャプテンということなら、キャプテンマークとか作ってほしいですよね!
■海外にも強い雀士がたくさんいる
――海外の方と麻雀を打った経験はありますか?
多井 何回かありますよ。実はこの間も、今回のアルゼンチン代表に選ばれた選手と麻雀を打つ機会があったんですが、強かったですよ。彼は日本で麻雀プロをしています。日本式の麻雀に慣れている選手は、やっぱり侮れないですよね。
それでも何年か前は、日本人とそれ以外の国の人では、雀力は圧倒的に日本人のほうが上だったと思います。
中国代表の方の麻雀も見ましたけど、「ちゃんと打てるじゃん」みたいなレベルじゃないですよ。普通に強いです。日本のルールだし日本人選手がいっぱい出るので有利じゃないかと思っている人もいるかもしれないけど、油断していたら負けちゃいます。
――今回はMリーグを見ている海外の方もたくさん来るでしょうし、そういう相手に対しても日本代表のスゴさを見せないといけないですよね。
多井 麻雀は運が大きく絡むゲームの性質上、どうしても負けてしまうことはあるんですけど、プロとして大事なのは「負けてもすごい」と思わせることだと思うんです。勝ってすごい、負けたらダメ、ではまだまだ二流。
もちろん勝ちにいきますけど、勝っても負けても「やっぱりすごいな、この人は」と思わせて初めて一流のプロだと思うので、今回は内容にもこだわっていきます。
――海外の人も、「Mリーガーの多井隆晴と打てる!」と意気込んでいそうです。
多井 そうですね、僕はYouTubeチャンネルをやっているんですけど、僕の麻雀の配信を見て勉強しているっていう海外の人もたくさんいますし、スーパーチャットも本当に世界中からいただけるんです。見たことない通貨のスパチャも多いし、そういう人たちと打てるのはめちゃくちゃ楽しみですよね。
ぶっちゃけ、僕は1回戦から決勝まで、オール海外の人と打ちたいです。
チーム戦も、日本代表で決勝に残るのはウチの「フル代表Aチーム」だけで、あとはみんな海外のチームがいいな。アメリカや南米のすごく背の高い人とか、ヨーロッパの女性とか、あと中国チームともやりたい。そういう人たちに囲まれているのを想像したらドキドキしてきますね。「これぞ世界戦!」って感じで。
■Mリーグは拡大しているけど
――Mリーグの話で言うと、来シーズン(2025-26)から新チーム(アース製薬「EARTH JETS」)が増えて10チーム、Mリーガーも総勢40人になります。
多井 僕が入った初年度(2018-19シーズン)は7チームで各3人の21人ですから、7年で倍近くになりました。それだけ広がっているってことかもしれないですけど、僕は若干憂いていますよ。
今の子供たちに「なりたい職業は?」と聞くと、プロ野球選手やプロサッカー選手、YouTuberとか言うと思いますけど、それって単純で、「お金持ちになれる、有名になれる」ということなんです。
それで言うと、Mリーガーになってどれくらい稼げるのかといったら、最初からいる人たちはそれなりに稼げていると思いますけど、40人全員がちゃんと1000万円とか稼げているのかっていう話になったら、僕は微妙だと思っています。正直、人気も含めて薄まってないかなって。
麻雀界って結局、外部の人に頼っているところはあるんですよ。Mリーガーの中でも人気者は出てきていますけど、中田花奈さん(BEAST Ⅹ)はアイドル、岡田紗佳さん(KADOKAWAサクラナイツ)はタレント、萩原聖人さん(TEAM RAIDEN/雷電)は俳優、鈴木大介さん(BEAST Ⅹ)は将棋棋士、伊達朱里紗さん(KONAMI麻雀格闘倶楽部)は声優って、みんな他ジャンルで活躍している人たちですよね。
そもそもMリーグだって藤田さんをはじめ企業の方々のおかげで成り立っているわけで。そこへいくと、生粋の麻雀プロなのであれば、麻雀はもちろん人気の面でももう少し頑張らないといけないと思いますよ。皆さんにいつまでもおんぶに抱っこじゃダメです。
プロ雀士で「Mリーガーになりたい」っていう人は多いけど、今や「なってどうするの? どんな活動をしたいの?」かが問われているんですよ。Mリーグや麻雀界のことを考えたら、Mリーガーになることがゴールの人はいらないですね。
――手厳しいですね。
多井 Mリーグうんぬんに限らず、とにかくプロ雀士には世間にアピールしてほしいんです。「YouTube(プロ雀士)ナンバーワンの多井の座を奪ってやる!」だっていいし、「まだ知られていない麻雀の戦術があるから本を出させろ」でも、「自分はデータを分析して的確なコーチングができる」だっていい。なんでもいいから、これからの人たちにはまず一回、チャレンジしてほしいな。
僕だっていろいろ失敗してきたし、失敗せずに成功だけできる人間なんてこの世にいないんで。今回の世界麻雀に絡めて言えば、YouTubeで海外向けに英語なり中国語やスペイン語なりで同時通訳したらすぐに人気者になってお金も入ってくるようになるのに、なんでやらないのかな?
誰もやらないなら、僕やっちゃいますよ? 今まであえてやらずに枠を空けてあげていたんですけど。
――やっぱり、麻雀の腕だけでのし上がりたいという人が多いのでしょうか。
多井 僕よりはるかに理論がしっかりしていて、僕より10倍強いんだったら、それでいいです。でも、せいぜい僕と同じ程度の力しかないなら、それだけじゃダメですよ。
■〝初物〟への強さを今回も発揮できるか

麻雀を盛り上げる主体として、プロ雀士には「麻雀の強さ」だけじゃない能力が必要と訴える多井氏
――多井プロは、新しく始まるタイトル戦に強いイメージがあります(※)。
(※)MリーグMVP(2018-19シーズン)、日本オープン麻雀優勝(02年)、麻雀日本シリーズ優勝(15年)、RTDリーグ優勝(16年)、RMUリーグ優勝(09年)など。いずれの大会、リーグ戦も初年度。
多井 強いですよ。新しいことにチャレンジするときの順応性があるというか、よーいドンで始まる大会には自信があります。僕はみんなが知らないゲームをやっても強いですよ。ほかの人がルールを覚えている間に、僕は勝ち方を覚えていますから。
――そうして勝てる理由というのは、プレッシャーへの強さもあると思います。今回は世界麻雀、日本代表というプレッシャーも大きいと思いますが。
多井 僕はそのプレッシャーを楽しめるんですけど、楽しめない人はタイトル戦でも、Mリーグみたいな大きな舞台でも活躍できないんです。
実際、麻雀の神様から見たらわれわれの強さなんてたいしたことないんですよ。100点満点で表すとしたら、麻雀を覚えたくらいの人で10点、日本で一番強いのが誰か知らないですけど、その人でも20点くらいで、僕とたいして変わらないです。そういう中で勝てるのは、プレッシャーを楽しんで力に変えられるような人。
例えばオリンピックとかでも、本番になると普段の練習じゃ出ないようなすごい記録を出せる人っているじゃないですか。そういうタイプが金メダルを獲るわけで、それが麻雀界でいえば、多井隆晴なわけです。
――今回は世界麻雀初のチーム戦ということで、多井さんにも期待がかかります。
多井 活躍しないといけないなと思っていますし、個人とチームで2冠、もちろん狙っていきます。絶対に盛り上がりますし、僕が盛り上げてみせますよ!
取材・文/東川 亮 撮影/高橋定敬