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アドベンチャーワールド、6月27日最終観覧日のパンダ・彩浜

6月28日、和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドのパンダ4頭が中国に返還された。長らく〝パンダのまち〟として観光客が押し寄せていた町は今後どうなる? 町民の声、そして町長の考えを現地で聞いてみた!

* * *

■ホテルや土産物店は大丈夫なの!?

4月24日。突然の発表に激震が走った。

和歌山県白浜町のアドベンチャーワールド(以下、アドベン)のジャイアントパンダ「良浜」(24歳)とその子供の「結浜」(8歳)、「彩浜」(6歳)、「楓浜」(4歳)の4頭すべてを、6月末に中国・四川省成都にある繁殖研究基地に返すというニュース。

高齢の白浜町民はアドベンのパンダの歴史を語る。

「パンダがやって来たのは1994年でしたね。それから今まで31年間で17頭ものパンダがアドベンで誕生しました」

園帰りのパンダファンの50代女性にも話を聞いた。

「年パスを買って、仕事を休んでまで白浜に通ってます。私は最終日まで14日間連続で通います。パンダファンの間では推しパンダがいて、一番人気は16頭もの子供をもうけた、今は亡きビッグダディ永明。みんなから尊敬されているので、1頭だけ『永明さん』と『さん』づけで呼ぶんです。

まだこんなに白浜のパンダが人気じゃなかった頃、私と永明さんはパンダ舎の前で1対1になることもよくありました。

そんなとき、こんなつらいことがあったんですって私がぼそぼそって言うと、永明さんは笹を食べながら『そうなんですか。それは大変でしたね。でも、つらいことがあったらここにいらしてください。

僕はいつでもここにいますから』って言ってくれてるような気がして、すごく助けられたんです」

このように、長きにわたり愛されていたパンダ。ダメージが直撃するであろう観光業に携わる町民の声を聞いた。

【現地ルポ】「さよならパンダ......」。町民の怒りを受ける"親台湾派"町長にも直撃! "パンダのまち"和歌山・白浜は今後どうなる!?

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駅も役場も電車もバスもパンダだらけ。今後、大丈夫!?

駅も役場も電車もバスもパンダだらけ。今後、大丈夫!?

アドベンから徒歩10分のホテル「クリスタルエグゼ南紀白浜Ⅰ」のフロント担当者はこう嘆く。

「いろんなホテルタイプがあるんですが、『エグゼ』というマンションタイプの部屋は、安いときは5000円ぐらいで泊まれるので、アドベンにパンダを見に来るだけの目的の方にはもってこいの宿でした。

4月24日の返還発表直後は10日連泊でとか、常連客から長期の予約の電話がひっきりなし。あっという間に、6月28日の返還の日、その翌日まで全部で22室あるエグゼが満室に。

その反動か、パンダが完全にいなくなる6月30日以降は予約がぽつぽつで予約ゼロの日もあります。幸い、当ホテルグループは『別荘タイプ』のような、特にパンダに関心のないお客さんもゆっくり宿泊を楽しめる部屋があるのでなんとかなりそうですが、パンダ目的のエグゼのようなマンションタイプの部屋は苦戦しそうです」

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白浜駅前のレストラン・土産物店のまつやでは、パンダうどん(900円)が売られている。今後も当分は続けるようだ

白浜駅前のレストラン・土産物店のまつやでは、パンダうどん(900円)が売られている。今後も当分は続けるようだ

JR白浜駅前の食事とお土産の店「まつや」は、パンダの顔を描いた大きなかまぼこをのせた、「パンダうどん」(900円)が人気。店長の北井さつきさんはこう語る。

「いつもは1日3、4杯出るくらいでした。

ところがパンダの返還が発表されてから、ラストパンダを見ようという人が連日押しかけて1日20杯前後は売れるように。お土産もそれまでの約10倍売れました。

それだけにパンダがいなくなった反動が怖いですね。お客さんも売り上げも減るでしょう。けど、白浜には白良浜があったり、温泉があったりしますから。コロナで一気に売り上げゼロになったことを思えばまだマシ。

一応、パンダメニューもパンダのお土産もしばらくはこのままでいこうと思ってます。そして観光客の人には『白浜には昔パンダがいて、子供がいっぱい生まれて盛況やったんですよ』とか言いながら〝メモリーパンダ〟で売っていくしかないですね」

■パンダがいなくなったのは、町長の責任!?

アドベンを訪れるパンダファンや町民に話を聞くと、ほとんどの人が最後に「あの町長がいるからこんなことになった」「あの町長がいる限り、パンダが白浜に戻ってくることは無理」など、パンダが白浜町からいなくなるのは、2024年に初当選した大江康弘町長のせいだと口にした。

タクシー運転手はこう語る。

「台湾から表彰されたり、台湾に行って副総統に会って、副総統が猫好きや言うから猫のぬいぐるみをプレゼントしたり、あれだけ『台湾、台湾』言うてたら、中国も怒って当然や。

白浜は観光で成り立っている町。せっかくパンダの研究基地がある成都のほうから姉妹都市提携を結びましょうと言われてるのに、それを断るって。この町長いったい何してくれてんねんいう話です」

商店主からはこんな話が。

「台湾と白浜のチャーター便を飛ばす言うてるけど、200人も乗らない飛行機がたまに飛ぶぐらいで観光客は増えません。アドベンには年間93万人が来る。町長の進める台湾とのチャーター便で台湾から93万人観光客が来るなら許したるけど、あんな小さい飛行機で普通に考えて93万人も来るわけないやろ」

白良浜を散歩する町民からはこんな話が。

「ドッグランを造ったり、白良浜の遊歩道を犬を連れての散歩をOKにしたり、ちょっと犬のことを大事にしすぎとちゃうか。犬のことに一生懸命になってるうちに、パンダに逃げられたみたいなもん。今は犬よりパンダやろ! 早よ返してほしいわ」

その新しくできたドッグランにいた女性はこう話す。

「がっかりですね。これ造った人、きっと犬飼ったことない人やと思います。一番問題なのは使える時間が昼間だけで、夕方4時半で終わりにしていること。これから真夏にかけて、昼間に犬を散歩させる人なんていませんよ」

■大江康弘町長を直撃!

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大江康弘・白浜町長 1953年生まれ、和歌山県出身。和歌山県議会議員、参議院議員を経て2024年から現職

大江康弘・白浜町長 1953年生まれ、和歌山県出身。和歌山県議会議員、参議院議員を経て2024年から現職

というわけで、こうした不満の声を元参議院議員の大江町長にぶつけてみた。

――まず、4頭一斉返還をどう受け止められましたか? 「寝耳に水」と話されていたように、まったく知らされてなかったのでしょうか?

「4月24日にマスコミの皆さんから聞かされて、初めて知りました。

聞いたときはびっくりしましたよ。31年間おってくれたんで、それはもう白浜の水や空気のような存在になってましたから。

普通、4頭いたら半分を返して、半分は残すもの。アドベンは『10年前に、契約満了時には全頭返還と言われていた』と言うんですけど、中国の政治的な思惑があるんじゃないかなと思ってるんです。二階俊博さんという親中派の大物議員が昨年バッジを外されたことも大きな理由のひとつだと思います」

――一部報道では、町長が訪中する国会議員に次の貸与をお願いするのを断ったとありますが?

「それは間違いでして、返還のニュース直後に知り合いの国会議員から連絡があって、『パンダをもう一度貸してくれ』と(訪中する議員に)言ってもらおうかと打診がありました。ですので、アドベンの社長に相談したところ『政治的な動きはしないでください』と断られたんで、止めてもらいました」

――町民から多く聞こえたのは、町長は台湾びいきということ。5月下旬も台湾に行って、台湾の蕭美琴副総統に会った。4月には長年にわたって日本と台湾の交流促進や日台友好の深化に貢献したことで台湾から表彰されている。これだけ台湾と仲良くしていたら、中国もいい顔をしないという声です。

「蕭美琴副総統は私が国会議員のときからの友達です。パンダについてこんなことになってしまったから、なんとか力を貸してくれということをお願いしに行ってきました。できる限りの協力はする。

来年からは台湾からのチャーター便も南紀白浜空港に戻ってくると。そういう流れになっています」

――ちなみに、パンダに代わる台湾の動物とかいたりするのですか?

「それがねえ。候補はいくつかあるんですけど......。日本にもいる動物ばかりなんです。タイワンザルとかタイワンカモシカ、タイワンリス、タイワンムササビ......。頭に『台湾』とついているだけで」

――ダメじゃないですか。

「そう、これはあかんなと。ただ、台湾にも以前親中派の総統だった時代にやって来たパンダが2頭いるんです。でも、それを貸してもらうわけにもいかないですし」

――こうした町長の姿勢が中国の癇に障って、4頭一斉返還になったのでは、と町民の多くが思っています。

「そもそも僕は、そんな中国が気にするほどの大物ではないです。ほんの2万人ほどの小さな町の町長なだけですから。でも、そんなふうに中国が僕のことを大物に見てくれているとしたら、うれしいぐらいですね(笑)」

――前町長時代に、町はパンダ繁殖研究基地のある中国・四川省成都市成華区と姉妹都市提携を目指して覚書を交わしたにもかかわらず、大江さんが町長になった後、断ったことを怒っている町民も多いです。

これについては?

「成都と姉妹都市提携を結ぶとなったとき、それなりの条件が必要だと僕は考えました。例えば、白浜には雌のパンダしかいなかった。そこに雄を1頭送りますよと言われていたら、話も違っていたと思いますし、姉妹都市提携も考えていたと思います。

そんな約束や提案もなしにただ『姉妹都市として仲良くしましょう』と言われても、なんのメリットがあるのかはっきりしない。仲良くするぐらいなら、今でもできていますから。少なくとも台湾とこれだけの信頼関係をつくってきてるのに、メリットが見当たらない中で、じゃあやりましょうとはいかないです」

――宿泊施設を経営されている方が、今後の不安を感じているようです。

「パンダがいないとにっちもさっちもいかないという状況になったら、自分たちで中国にお願いに行けばいいと思っています。

ですが、そもそも町がそこまでしないといけないのかは疑問です。もうすでに、われわれはポストパンダに切り替わっていますから。パンダはもういないという前提で、そうした中でいかに観光客に来ていただくかということを考えています」

――ポストパンダの具体例は?

「白浜町は観光に関係するいろんな規制が多かったんです。われわれ行政側が規制をかけて、これはダメ、あれはダメと言い続けてきた。その象徴が白良浜です。

町の観光シンボルみたいな場所なんですが、ビーチでは食べ物はダメ、お酒もダメとそんな規制をしてきました。僕が町長になってそれはやめました。

ビーチには夜11時まで開いていて、食事やお酒も飲めるビーチハウスを造って(8月1日オープン予定)、楽しんでもらおうと。

さらに、浜辺沿いの遊歩道もワンちゃんと歩けるようにしました。またそれとは別に、町内にドッグランも造りました。あと、イベントも例年以上に多く白良浜でやったり、町内には千畳敷、三段壁、円月島と観光地があるんですが、そこでのイベントも増やしていこうと思っています」

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観光ビーチ白良浜には8月1日にお酒も飲めるビーチハウスが完成予定。今までビーチ内は禁酒だった

観光ビーチ白良浜には8月1日にお酒も飲めるビーチハウスが完成予定。今までビーチ内は禁酒だった

――ドッグランに行ったんですが、4時半までに犬を散歩させるのは無理との声が。

「そのとおりです。夏場に4時半までで終わりというのは『来るなと言ってるのと同じ』と、時間制限を廃止しました。施錠もしていないので基本は利用OKです。まだ4時半までと書いてましたか......。事務方に早く周知せよと言ったんですが......」

――ドッグランを造ったり、白良浜の遊歩道を犬連れOKに変えたりと、今の町長はパンダより犬に力が入っているという声もあります。

「まあ。僕も犬が好きですし(笑)。僕は柴犬を飼ってます」

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町に新たに造られたドッグラン。犬だけに限らず、「人と動物にやさしい町」というテーマで進めていきたいと町長は話す

町に新たに造られたドッグラン。犬だけに限らず、「人と動物にやさしい町」というテーマで進めていきたいと町長は話す

――こうした批判の声は耳に入っているのでしょうか?

「そら聞こえてきます。でも僕はダメなものはダメとハッキリ言いますから。批判されるのは政治家を四十数年もやっていたら慣れました。でも、私のことを支持してくれる町民もいますので」

――パンダがいなくなっても、白浜町はどんどん変わっていくということですね。

「はい。期待して見ていただけたらと思います」

パンダのいた町で終わるのか。新しい観光戦略が功を奏するのか。町長の手腕に注目だ。

取材・構成・撮影/ボールルーム 写真/時事通信社(パンダ)

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