ひろゆき×進化生態学者・鈴木紀之のシン・進化論①「進化の結果...の画像はこちら >>

「進化は『その世代で遺伝子がちゃんと残るか』が重要で、未来への有利さは関係ない」と語る鈴木紀之先生

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。今回からは進化生態学者の鈴木紀之先生がゲストです。


「進化」っていうと、環境に適応したものだけが残っていったというイメージですよね。でも、実際はそれがちょっと違うみたいなんです。

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ひろゆき(以下、ひろ) 今回から新しいゲストをお迎えしています。三重大学の鈴木紀之准教授です。鈴木先生のご専門は「進化生物学」だそうですが、具体的にどういう研究をするんですか?

鈴木紀之(以下、鈴木) 進化といってもさまざまですが、僕はまず「進化によって今の生物が存在している」が出発点です。つまり生物は進化のプロセスを経て多様化し、今に至るという考え方です。

ひろ いわゆるダーウィンの進化論ですよね。

鈴木 そうです。僕らからすると、「地球は丸い」と同じくらい「進化によって今の生き物がいる」というのは当たり前のことなんですが、そういう前提が通じない場合もあります。

ひろ アメリカとかでは、宗教的な理由で進化論を信じない人がいたりしますもんね。

鈴木 はい。そういう人に進化のことを説明するのはとても大変です。

でも、研究者の立場からすると進化が起きていることはたくさんの観察や証拠で裏づけられています。ただ、実際に生き物を見ていると「なんでこんな形に進化したんだろう?」って思うことはよくあるんです。

ひろ 進化って、環境にうまく適応した種が生き残っていくイメージがありますけど。

鈴木 それが、いわゆる「自然淘汰」です。ただ、進化の結果なら、もっと理にかなった形になっていてもよさそうなのに、そうじゃない例がけっこうあるんですよ。

ひろ 例えば?

鈴木 人間でいうと左利きです。人類の5%くらいの人が左利きですが、生存に有利か不利かはまだよくわかっていません。なぜ一定数残っているのか不思議ですよね。一部のスポーツでは左利きが有利とされることもありますが、人類は野球やテニスのために進化してきたわけではありません(笑)。

ひろ 「意味がよくわからないのに残っているもの」って、ほかの生物にもあったりしますか?

鈴木 はい。例えばアゲハチョウには後翅(後ろの羽)に尾みたいな部分がある種類がいます。でも、その尾がなんのためにあるのかよくわかっていないんです。


ひろ 模様とか色なら、目立たないようにという進化って感じもしますけど、尾みたいな物理的な構造は空力とかバランスとかが関係ありそうですよね? で、だったら全種類同じように進化してそうなのに、尾がある種とない種がいるのは不思議です。

しかも片方だけ切れたりしたらバランスが悪くなりますよね。だったらシンプルな羽のほうがよさそうなのに......。で、その尾のある理由も、まだよくわかってないんですよね?

鈴木 はい。でも、そこが進化の面白いところなんですよ。

ひろ じゃあ「ムダだけど特に害もないからそのまま残ってる」っていうケースもあるんですか?

鈴木 あります。専門的には「中立」と呼びますが、生存に有利でも不利でもない形質は、淘汰の圧力がかからずにそのまま残ることがあるんです。ただし、ちょっとしたムダや天敵に狙われやすくなったりする場合は、淘汰される方向に向かいます。ですから、例えば尾のようにコストがかかりそうな形が長く残っている場合、それは何か有利な面があるのかもしれないと考えるのが自然です。

ひろ でも、クジャクの羽とかシカの角みたいに、「ムダだからこそモテる」っていう進化もありますよね。進化って、そういう方向にもいくんですか?

鈴木 いきます。ここで進化の基本的な考え方を整理しておくとわかりやすいかもしれません。

まず、生き物の体は遺伝子を残すために働いている〝乗り物〟ととらえることができます。エサを探して食べたり、パートナーを見つけて交尾したり、ライバルと争ったり......。こうしたさまざまな行動は、最終的に自分の遺伝子を次の世代にうまく残すためのものです。

ただ、そのときに矛盾することも出てきます。例えば、異性の目を引くために派手にアピールをすると天敵に見つかりやすくなって命を落とす危険があるなどです。でも、派手にアピールしてモテた結果、遺伝子を多く残せればOKというのが自然淘汰の判断基準なんです。つまりムダに見える形でも、それが繁殖に役立っていれば残る。逆に合理的に見える形でも繁殖に不利ならば淘汰されていく。

ひろ なるほど。進化は見た目の合理性じゃなくて、遺伝子を残せるかどうかが評価軸なんですね。

鈴木 そうです。で、そのときに出てくるのが「その個体の実力を示すムダ」という考え方です。

例えば角が大きいシカがモテるのは、それだけエサをしっかり取れていて、エネルギーに余裕があり、けんかが強い証拠です。人間でいえば、移動するだけなら安い車でいいのに、高級車に乗っているみたいなものです。

ひろ つまり、能力の証明になるムダならモテるってことですね。

鈴木 はい。だからポイントは「それがムダかどうか」ではなくて「実力のシグナルになっているか」です。逆に言えば、ただの純粋なムダはいずれ淘汰されていきます。

ひろ でも人間って、美男美女が好かれやすいじゃないですか。一方で実際に生き残るには、知能や筋力のほうが大事だったりする。もし、美男美女ばかりの世界になって、知能や筋力が衰えていったら、それは進化として正しい方向ではないんじゃないですか? 例えば、遠い未来に宇宙人が地球に攻めてきたとき、美男美女がオロオロするだけで終わってしまう......みたいな(笑)。

鈴木 確かに昔は、巨大な角を持つシカや長い牙を持ったサーベルタイガーみたいな〝カッコいい〟動物もいましたが、結果的には絶滅しています。その時代では有利だったとしても、環境が変わると不利になることがあるんです。だから、進化は「その世代で遺伝子がちゃんと残るか」が重要で、未来への有利さとかは関係ないんですよ。


ひろ なるほど。「カッコいい=進化的に正しい」ではないと。

鈴木 進化は「今、有利かどうか」だけを見ています。1万年後のことなんか生物は考えません。

ひろ じゃあ、ムダを一切追求しない、例えばゴキブリみたいな生き物のほうが進化的には最強ってことになります?(笑)

鈴木 まあ、そういう見方もできるかもしれません(笑)。ゴキブリに限らず、派手なアピールをしない生き物は、環境が変わっても安定して生き残りやすいんです。鳥もクジャクや極楽鳥みたいに派手な種類がいる一方で、スズメみたいに地味な種類もいます。そして、派手な特徴を持つ種は長期的には絶滅しやすい傾向があります。

ひろ 確かに「絶滅しないために美男美女とは結婚しないようにしよう」なんて、個体が考えるわけないですもんね(笑)。

鈴木 そうですね(笑)。生物はその時点で一番うまくいく選択をするだけなんです。

ひろ なるほど。

なんか、これまで思っていた進化論のイメージが少し変わりそうな気がしてます。これからもそんな進化生物学の視点でお話をいろいろと聞かせてください。よろしくお願いします。

鈴木 はい。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

■鈴木紀之(Noriyuki SUZUKI) 
1984年生まれ。進化生態学者。三重大学准教授。主な著書に「すごい進化『一見すると不合理』の謎を解く」「ダーウィン『進化論の父』の大いなる遺産」(共に中公新書)などがある。公式Xは「@fvgnoriyuki」

構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾

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