なぜ日本には地名を付けたバンドが少ない? その理由を市川紗椰...の画像はこちら >>

アメリカのバンド「ボストン」でもおなじみのボストンで

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。

今回はバンド名と地名の関係について語る。

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バンド名はただの名前じゃなくて、そのグループの「キャラ」や「気持ち」を丸ごと表現する大事なもの。特にバンド名に地名を冠することは、アイデンティティや地元への愛着を表現する手段のひとつですよね。

でも不思議なことに、アメリカには「Chicago(シカゴ)」「Boston(ボストン)」「Kansas(カンサス)」など地名をズバリ使ったバンドが多いのに、日本で「世田谷」「熊本」のようなバンド名は見かけない。

「練馬ローラーズ」「広島シェイクス」みたいに、地名がドーンと入ったバンドが少ない(東京事変や東京スカパラダイスオーケストラなど、「東京」は例外的に多い)。なぜだ。考えてみた。

理由のひとつは、アメリカの広さ。合衆国と名乗るだけあって州ごとに文化も法律もガラッと変わります。カリフォルニアとテキサスとニューヨークじゃ気候も空気もノリも全然違う。だからこそ、自分が「○○州出身」であるという帰属意識が強いというか、アイデンティティに直結している気がします。

さらに、アメリカの音楽史は「この土地で生まれた音楽」というのが大きな柱で、地名と音楽は切っても切れない。

ニューオーリンズはジャズ、シカゴはブルース、ナッシュビルはカントリーのように、特定の都市が音楽ジャンルの発祥地になってきました。

歴史的に、地域ごとに音楽の個性がはっきりしてるから、地名には音楽スタイルや文化の象徴としてのブランド力があり、バンド名に入れるとどんなバンドなのかイメージが湧きやすい。地名そのものにキャッチフレーズみたいな効果があります。

私の地元、デトロイトが名前に入っていたら、反骨精神があって武骨でリアルなイメージが湧きますね。モータウン的なソウルフルな感じなのか、ヒップホップなのかロックなのかテクノなのか、どのジャンルにしろ、聴く前から「なんか強烈なものがくる」と期待します。

対して、日本の都道府県や市町村のイメージは「行政区分」って感じなのかも? 「練馬」や「世田谷」とつけても、自分たちのアイデンティティというより行政上の整理というニュアンスが出てしまう印象があります。

「世田谷」って言われても、「お、どこの駅の近く?」みたいに、ちょっと現実的すぎてファッション感低め。この感覚は、そもそも日本のバンド名には英語やカタカナが多い現象とリンクしてると思います。日本のバンド名は抽象的な言葉や英語、造語が多い印象なので、シンプル地名だと生活感がありすぎるんでしょうね。

でも、日本にも地元愛あふれるバンドはたくさんあります。サザンオールスターズは湘南の海風を感じさせるし、チャットモンチー(2018年活動完結)からは徳島の空気がにじみ出てます。
ただ、名前ではなく、楽曲や活動を通して表現している感じ。

"地元愛"という根っここそ変わらないものの、それを表に出す方法が違うんですかね。アイデンティティの表現の文化の違い。バンド名という一見無関係な要素が、国や社会の価値観の違いを映し出してるような気がしました。

ちなみに私が日本の地名をバンド名に加えるなら、濁点+促音+半濁点だけで構成される「別府」を使います。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。バンド「ベルリン」のメンバーは、ドイツではなくアメリカ出身。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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