【大阪万博"ゆでがま地獄"リポート】40℃近い灼熱会場に約2...の画像はこちら >>

午後3時過ぎ、暑さでやられた来場者が次々とダウン。大屋根リング下では、寝そべる人の姿が目立ち始める
今、日本で最もホットなスポットは大阪・関西万博だ! 約20万人の来場者が押し寄せた6月28日を含む3日間、灼熱の現場を徹底取材。
会場内で最も暑くなるスポット、各国パビリオンごとに違う暑さ対策、来場者を救う避暑エリアなど、独自情報満載でお届けします!

*  *  *

■南国育ちも音を上げる

6月28日午前10時、本誌記者は大阪・関西万博の玄関口となる、大阪メトロ・夢洲(ゆめしま)駅に降り立った。地下構内の気温は27℃だったが、階段を上がるにつれ、空気はジワジワと熱を帯びる。

地上に出た瞬間、まるで大雨の日のように来場者たちが一斉に日傘を差した。駅の出口前にある東ゲート付近では、32.1℃を記録。近畿地方は前日に、史上最速の梅雨明けを迎えたばかりだった。

正午の入場チケットを持つ来場者たちが、炎天下に長蛇の列を作っていた。

直射日光をもろに浴びる人波に向け、5月中に設置されたスポットクーラーが複数稼働していたが、冷気が届くのはせいぜい通風口から周囲3m圏内、涼を得られるのは数人だけだ。

それでもまだ、体力も気力も残る序盤戦。「ゆでダコになるわぁ」「ちゃうちゃう、こんなに暑いともうタコ焼きや」と、冗談が飛び交っていた。

【大阪万博"ゆでがま地獄"リポート】40℃近い灼熱会場に約20万人が殺到! 応急手当所は熱中症患者で常に満床? 各パビリオンの熱中症対策には大きな差も
6月末、関係者ゲートを担当する警備員に日傘が解禁されたが、配布されたのは東エリアのみ。西エリアにはまだ届かず、「いつも東ばかり優先される」とのボヤきの声も......

6月末、関係者ゲートを担当する警備員に日傘が解禁されたが、配布されたのは東エリアのみ。西エリアにはまだ届かず、「いつも東ばかり優先される」とのボヤきの声も......
東ゲート前で警備を担当する30代男性は、「時給2300円」という破格の待遇に惹(ひ)かれ、福岡から住み込みで出稼ぎに来たという。「覚悟はしていましたが、これほど暑いとは......」。会社支給の塩あめを舐めながら人員整理に当たっていた。

会場に入ると、案内所前の植え込みからはセミの鳴き声が聞こえてくる。

ダストボックス横に設置されたパラソルの日陰で、椅子に腰かける清掃員は、「ここは天国です」と笑った。

彼は、大阪市内のオフィスビルでの清掃業務から万博会場に派遣された、社内20人ほどの精鋭チームの一員。

「でも、午後からはトイレ掃除の担当で。万博のトイレは空調がないから熱気がこもって、10分も入ってると頭がクラクラしてくるんです」

来場者の増加に伴い、便器の汚れや詰まりが増え、トイレ内での作業時間は日に日に延び続けている。

「インドネシアとミャンマー出身の同僚たちが次々とダウンし、現場を離れました。『暑さには慣れているけど、こんなに蒸し暑いのはムリだ』と言ってましたね」

【大阪万博"ゆでがま地獄"リポート】40℃近い灼熱会場に約20万人が殺到! 応急手当所は熱中症患者で常に満床? 各パビリオンの熱中症対策には大きな差も
2時間待ちも当たり前の人気パビリオン「アメリカ館」。6月中旬からテントが大増設され、入館までの残り1時間を日陰でしのげるように

2時間待ちも当たり前の人気パビリオン「アメリカ館」。6月中旬からテントが大増設され、入館までの残り1時間を日陰でしのげるように
一方、東ゲート広場の隅にあるモバイルバッテリーとSIMの販売店は、暑さ対策グッズの専門店に様変わりした。店内では、うちわ、日傘、クールネックリングが飛ぶように売れていく。店員が満足げにこう話す。

「暑くなるのはわかっていたので、開幕前から万博協会(日本国際博覧会協会)に暑熱対策品の販売申請を出してたんです。6月中旬にやっと許可が下り、そこからは売り上げ倍増です」

正午前、気温は33℃に達した。

場内のコンビニには15分待ちの行列ができ、店内は客でぎゅうぎゅう詰め。水やお茶、氷菓、塩分タブレット、冷感シート、栄養ドリンクがぎっしりと棚に並ぶ。店の責任者は「とにかく、品切れだけは絶対に避けたい」と在庫管理に神経をとがらせていた。

「協会から届く翌日の来場予定者数と天候データを基に在庫を調整しています。ただ、課題はレジ対応。昼前には店の外まで行列が延び、直射日光にさらされる人も出てきます。

だからなるべく早く店に入れ、早く出てもらう。回転率が勝負なんですが、通信環境が悪く、モバイル決済の読み取りに時間がかかってしまって......。ここをどうにかしないと、これ以上のスピードアップは厳しいです」

【大阪万博"ゆでがま地獄"リポート】40℃近い灼熱会場に約20万人が殺到! 応急手当所は熱中症患者で常に満床? 各パビリオンの熱中症対策には大きな差も
会場中央の広場「いのちパーク」では15分に1度、勢いよくミストが噴き出す。暑さは和らぐが霧の中で視界が遮られるため、走り回る子供には注意が必要

会場中央の広場「いのちパーク」では15分に1度、勢いよくミストが噴き出す。暑さは和らぐが霧の中で視界が遮られるため、走り回る子供には注意が必要
大屋根リング下の自販機にも、50人近くが並んでいた。この自販機はキャッシュレス専用で、スマホと接続して、画面上で購入操作を行なう仕組みだが、ここでも通信不良がボトルネックに。操作に手間取り、購入までに数分かかるケースが続出していた。

操作にもたついていた高齢女性の背後から、「はよ~、後ろ並んどんねん!」との怒号が飛んだ。やむなく女性は購入を諦め、「喉がカラカラなのに、給水スポットも大行列。どうしよう」と肩を落とした。

■ある国の展示エリアが隠れた避暑スポットに

取材前日に、場内の喫煙所が2ヵ所増設されたが、いずれも屋根やミストはなく、熱中症対策は皆無に等しい。

「ビーッ、ビーッ ビーッ」

【大阪万博"ゆでがま地獄"リポート】40℃近い灼熱会場に約20万人が殺到! 応急手当所は熱中症患者で常に満床? 各パビリオンの熱中症対策には大きな差も
炎天下の会場北側の喫煙所では、屋根もミストもなく、気温は39.1℃まで上昇

炎天下の会場北側の喫煙所では、屋根もミストもなく、気温は39.1℃まで上昇
午後1時10分、北側の喫煙所で取材中に、手元の温度計が熱中症の警告音を鳴らした。画面表示は「39.1℃」、この日の最高気温だった。今後さらに暑くなっていくことを考えると、40℃を超えるのも時間の問題だろう。

「テントくらいつけてよ!」

愛媛から訪れた50代の女性が、タオルで額の汗を拭いながらそう嘆く。本誌記者(40代)も、ふらつきを覚えるほどの暑さだ。

水分を取ろうにも、無料の給水スポットは長蛇の列、大屋根リング下の自販機も軒並み売り切れで、唯一残っていたのは缶入りのブラックコーヒーだけ。やむなく購入し、口にすると、ぬるい。思わず眉をひそめたが、自販機の補充スタッフの話にはうなずくしかなかった。

「梅雨明けから売れ行きは5割増。

特にリング下の自販機は人気で、1日5~6回の補充が必要なんです」

商品は、会場から車で20分ほどの場所にある冷蔵倉庫であらかじめ冷やし、非冷蔵のトラックで配送。車両は会場のゲートまでしか入れず、そこから先は、すべて台車で運搬しなければならない。

「場内に250台ほどあるうちの50台を担当しています。冷やして持ってきても、台車で走り回る間にぬるくなる。さらに補充後、自販機内で冷える前に売れてしまう。これだけ暑い日だと、どうがんばっても間に合いません」

【大阪万博"ゆでがま地獄"リポート】40℃近い灼熱会場に約20万人が殺到! 応急手当所は熱中症患者で常に満床? 各パビリオンの熱中症対策には大きな差も
会場北の「空の広場」は、音楽やトークイベントでにぎわう人気スポット。しかし、日差しを遮るものがなく、熱中症と隣り合わせ

会場北の「空の広場」は、音楽やトークイベントでにぎわう人気スポット。しかし、日差しを遮るものがなく、熱中症と隣り合わせ
そして、限界を超える人たちが、次々と現れる。そのときに頼りになるのが、場内5ヵ所に設置された応急手当所だ。看護師が常駐し、ベッドもある。会場中央の応急手当所から出てきた40代の男性がこう話す。

「中は冷房がしっかり効いていて、経口補水液『OS-1』ももらえます。看護師がバイタルを測ってくれて、ベッドで休ませてもらいました。

ただ、症状が軽いと『20分ほどで』と早期の退出を促されます。今日は特に搬送が多く、患者の8、9割が熱中症だそう。ベッドも4床しかなく、常に満床だと聞きました」

彼がベッドで休んでいた間も、無線からは救護要請の声が次々と飛んでいたという。「フランス館内で70代女性が体調不良! 至急、救護をお願いします!」

男性はこう続けた。

「ボクは昨夜ちょっと飲みすぎて、この暑さにやられました。NTT館でPerfumeのコンサート映像を3Dメガネで見ていたら、ジェットコースターみたいにグルグル回る演出があって、途中で吐き気がして。

でも、高齢者や持病のある人がどんどん運ばれてくると思ったら、のんびり寝ているわけにもいかず、早めに出ました」

【大阪万博"ゆでがま地獄"リポート】40℃近い灼熱会場に約20万人が殺到! 応急手当所は熱中症患者で常に満床? 各パビリオンの熱中症対策には大きな差も
6月中旬から会場内に登場したクールスポット用のEVバス。冷房がバッチリ効いて快適だったが、マイクロバスゆえ、窮屈感は否めない

6月中旬から会場内に登場したクールスポット用のEVバス。冷房がバッチリ効いて快適だったが、マイクロバスゆえ、窮屈感は否めない
では、灼熱(しゃくねつ)の万博の中ではどこで休めばいいのか。

多くの来場者が頼るのが、万博のシンボル「大屋根リング」だ。建設費は350億円で、"世界一高い日傘"などと揶揄(やゆ)されることもあるが、今や「これがなければ死んでいた」と感謝する声が多い。

実際、リング下の広場は一面が日陰になり、直射日光を避けるには絶好の場所だ。とはいえ、リング下でも気温は30℃を超え、午後2時を過ぎると地面に寝そべる人の姿も増えてくる。

さらに逃げ込む場所として人気なのが、複数国が共同出展するコモンズ館だ。

この施設は会場に5つある。中でも人気なのが「コモンズD」で、パキスタンブースに展示された巨大な岩塩群が目玉のひとつ。実はこの岩塩、「室温22℃を超えると溶け出すため、空調はほかより低めに保たれている」(パキスタン国籍のスタッフ)という。

冷気を求める来場者が詰めかけ、入り口には30分待ちの列ができていた。ほかの「コモンズ」も同様で、涼の駆け込み寺とされた場所も、今や入場規制がかかる状況となっている。

【大阪万博"ゆでがま地獄"リポート】40℃近い灼熱会場に約20万人が殺到! 応急手当所は熱中症患者で常に満床? 各パビリオンの熱中症対策には大きな差も
館内のパキスタンブースで展示される岩塩が溶けないよう、冷房を強めに効かせているという「コモンズD」は、隠れた涼感スポットとして知られる

館内のパキスタンブースで展示される岩塩が溶けないよう、冷房を強めに効かせているという「コモンズD」は、隠れた涼感スポットとして知られる

■暑さ対策にも"お国柄"

各パビリオンの熱中症対策には大きな差があった。

現地スタッフが「あそこが一番、暑さ対策にお金をかけている」と教えてくれたのが、オーストラリア館だ。

同館のスタッフが「2週間ほど前に倍増させた」という巨大パラソルが、行列の動線上に計15台程度。さらに、1台10万円相当の移動式ミストファン約10台が、「風量・強」でフル稼働していた。

待ち時間は90分。それでも来場者は多くの時間を日陰で、ミストを浴びながら並ぶことができていた。

一方、お金をかけずとも気配りが光っていたのがベルギー館だ。

80分待ちの行列のうち、半分ほどは建物下のくぼみに誘導され、コンクリートの陰を天然のシェルターのように活用していた。

そこから日なたに出た後はパラソルこそないものの、施設内の人工池沿いに屋外ソファをずらりと並べ、来場者が腰を下ろして待てる環境を整えていた。

対照的に、来場者数が多い某国の人気パビリオンでは、「40秒ごとに65人が入れる」(同館スタッフ)という回転率の高さを売りにしていたが、待機環境はほぼ無策。列は建物から真っすぐに延び、日差しを遮るテントはほとんどなく、1、2時間もの間、多くの来場者が直射日光を浴び続けることになる。

このエリアを担当する清掃スタッフがこう明かす。

「熱中症になれば嘔吐(おうと)される方も出てきますが、この2週間では、あのパビリオンの周辺だけで1日5人分の吐瀉(としゃ)物を清掃した日もありました」

なぜ、パビリオンごとにこれほどの差が生まれているのか? 関係者がこう話す。

「各国のパビリオンは万博協会の監督下にありますが、現場での安全対策について細かなガイドラインはありません。ミストや日よけの設置といった具体策は、各国の領事館や運営会社の判断に委ねられているのが実情です」

さらに、オーストラリア館の警備員がこう続ける。

「オーストラリアは、もともと労働者保護に関する法律が厳しい国だとスタッフから聞きました。何かあったときに、少しでも事業者側に過失があると責任を問われるそうで。その分、暑さ対策にも最初から意識が高いのでしょう」

この警備員はオーストラリア館の関係者入り口の細い通路に立っていたが、そこには、彼ひとりのためのパラソルがしっかりと設置されていた。

暑さ対策は、個々のパビリオンの予算とお国柄で決まる、ということかもしれない。

【大阪万博"ゆでがま地獄"リポート】40℃近い灼熱会場に約20万人が殺到! 応急手当所は熱中症患者で常に満床? 各パビリオンの熱中症対策には大きな差も
ダイキン工業が設置した「氷のクールスポット」は壁面パネル内の氷が室内を冷やす。体感では会場内で最も涼しかったが、約30人分の椅子は常に満席

ダイキン工業が設置した「氷のクールスポット」は壁面パネル内の氷が室内を冷やす。体感では会場内で最も涼しかったが、約30人分の椅子は常に満席
■危ない暑さのエリアは?

とはいえ、万博協会も暑さに無策なわけではない。

7月からは、新たな熱中症対策として「デジタルツイン」と呼ばれる技術を導入した。

地形やパビリオン、樹木などの3次元データを取り込み、コンピューター上に会場を再現。そこに気温・湿度・風向きといった気象データを加えることで、スーパーコンピューターが熱中症リスクを算出し、"5m四方"ごとに危険度を色分けして表示するという仕組みだ。

この技術の開発に携わった、神戸大学の大石哲(さとし)教授は、「基本的には前日から計算を開始し、当日の朝6時頃に、その日の11~15時の予測データを万博協会に提供します」と説明する。

このデータは一般公開されていないが、協会を通じて各パビリオンや警備会社に共有され、給水スポットやテントの配置、行列の導線変更などに活用されているという。

実際に現地調査にも入った大石教授は、こう補足する。

「特にリスクが高いのは会場の東側。東ゲート周辺や、アメリカ館・フランス館前の『光の広場』は、周囲に日陰をつくる建物がなく、日照の影響を強く受けやすい。

しかも海から遠く、風も抜けにくいため、シミュレーション上でも熱中症リスクが高いエリアに分類されます」

また、南側の「ウォータープラザ」に面した北欧館や英国館も、建物の南面は長時間、直射日光が当たりやすく、熱がこもりやすいそうだ。

「比較的リスクが低いのは、海に近い西ゲート広場ですが、こちらも午後になると瀬戸内海(大阪湾)特有の夕なぎで風がピタッとやみ、気温が上がりやすい」

特に、夕方に行列ができる西ゲート広場のオフィシャルストア前はテントが少なく、お土産を買う際には注意が必要という。

ちなみに、救護所のスタッフが耳打ちしてくれた隠れ避暑スポットがある。会場の南西にある大規模展示会場「WASSE」だ。

見本市や展示会イベントが開催されていることが多いが、基本、予約不要で出入りは自由。比較的人の少ない西側エリアの中でもひときわ空いていて、冷房の効いた広々とした屋内空間で、静かにひと息つける。知る人ぞ知る、穴場だ。

これからが夏本番。暑さ対策は、くれぐれもお忘れなく。

取材・文・撮影/興山英雄

編集部おすすめ