スズキはeビターラの基本性能、「走る・曲がる・止まる」を徹底的に磨き上げたという。その仕上がり具合はどうか!?
スズキ初のEV、eビターラがついに姿を現した。
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■スズキがEVを投入する理由
2025年上半期、スズキが国内新車販売台数で堂々の第2位にランクイン! まさに鬼神の勢いを見せた。その立役者は、軽スーパーハイトワゴン・3代目スペーシアの大ヒット。街中で見かけない日はないほどの人気ぶりだ。
さらに、インド生まれのSUV・フロンクスとジムニーノマドも絶好調。驚くべきことに、今年4月にはスズキ史上初となる「輸入車販売トップ」の座まで獲得している。スズキの快進撃は、まさに〝もうどうにも止まらない〟状態だ。

スズキは、すでに市場に登場している他社製EVの性能や品質を徹底的に分析し、開発を進めてきたという

このプロトタイプのボディサイズは、全長4275mm×全幅1800mm×全高1640mm
そんな大波に乗るスズキが、次に打ち出すのが初の量産型EV・eビターラだ。こちらもインド産で、グローバル市場を本気で狙った一台。スズキがEV戦線に本格参戦する、そののろしの役目を担うモデルである。
だが、EV業界には暗雲が垂れ込めている。
「補助金はEV購入の大きな後押しでした。それがなくなることで、特に中低所得層の需要が冷え込む可能性が非常に高い。価格競争力を失えば、EV市場の成長はさらに鈍化しかねません」
一方、欧州では独フォルクスワーゲンが経営危機に直面。EVシフトに伴う巨額投資と販売不振が重なり、大リストラに踏み切った。
そんな混乱の中で台頭してきたのが、中国メーカーの低価格EV。欧米勢は品質とブランド力で差異化を図るしかないが、コストとの両立は至難の業。現在の販売失速で技術開発の遅れも懸念されている。
「今は試練の時期ですが、EV市場は〝適者生存〟の世界。生き残った者が次の時代を築く」(自動車誌元幹部)
eビターラの試乗会は、千葉県袖ケ浦市の「袖ケ浦フォレスト・レースウェイ」で開催された。
「最も重要なのは、EVビジネスのスターティングポイントに立つことです」
つまり、eビターラの投入は、スズキが「これからEVで世界市場と戦う」という一手。グローバル市場への挑戦状とも言えるモデルなのだ。
「鈴木俊宏社長は以前から『EVの普及は社会インフラとセットで考えるべき』と主張してきました。充電設備が徐々に整い始めた今こそ、EV市場拡大を見据えた絶好のタイミングなのです」
インド・グジャラート工場での生産により、欧州とインド市場の両方でコスト競争力を確保。スズキのグローバル戦略がここでも光っている。
■走りも本気! スズキらしさ全開のEV
気になるのは、走りだ。開発陣はこう胸を張る。
「スズキ初の量産EVとして、世界中の道で徹底的にテストを重ねて磨き上げてきました。スズキらしい走りをしっかり実現しています」
注目は、電動四輪駆動システム。悪路でも高い走破性を発揮する。
桃田氏も太鼓判を押す。
「FWD(前輪駆動)ベースのEVとしては、走りのバランスが非常に良い。四駆モデルは特に際立っていて、雪道でも安心して走れそう。テスラや韓国ヒョンデのアイオニック5のようなRWD(後輪駆動)ベースのEVに匹敵する走りです」
試乗会では、高速コーナーから市街地を想定した低速コーナーまで幅広くテストできるように設定されていた。
「日常走行での安心感、取り回しやすさ、そして運転の楽しさが感じられました」

走行前にバッテリーを温めて出力をキープする機能を搭載。冬場の対策も、抜かりなし
週プレ自動車班も、街乗りからアウトドアまで幅広く対応できる〝万能EV〟という印象を受けた。この四輪駆動のSUVタイプのEVは、スズキのラインナップでも最上位モデルになる可能性があるという。
「価格はまだ発表されていませんが、スズキの中では最上位に位置づけられる可能性があります」
では、ライバルは?
「Bセグメントで四駆を備えたEVは非常に珍しく、明確な競合が見当たりません。日本市場では、ヒョンデのインスターよりも大きくてパワフル、中国BYDのドルフィンよりも走りのバランスに優れています」
欧州では即戦力、インドでは中産層や富裕層の〝セカンドカー〟需要に応えるモデルとして期待されているという。
「日本では〝四駆推し〟だと思います。多様なユーザー層にリーチできる可能性があります。スズキらしい堅実かつ戦略的な一手です」
このeビターラは、スズキの電動化時代を切り開く戦略車。サーキットで体感した軽快な走りとSUVのタフさを兼ね備えた一台は、スズキ流EVの象徴となるだろう。

室内の雰囲気は引き締まっており、ひと目で「おっ!」と思わせる。質感も未来感も絶妙な仕上がりであった

荷室も普段使いには十分すぎる容量で、買い物も週末のレジャーもしっかりこなす
販売店関係者も期待を寄せる。
「新型EVは、そもそも大量に売るクルマではありません。でも、スペーシアやフロンクス、ジムニーシリーズのように、eビターラが新たな流れを生み出してくれることを期待しています」
走り、デザイン、戦略―すべてにおいてスズキの新たな挑戦を体現するeビターラ。年内の発売を控え、注目度はますます高まっている。
取材・文/週プレ自動車班 撮影/山本佳吾