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当初、想定居住人口12000人とされた晴海フラッグだが、現在の入居率は5割未満という予想も
マンションの資産価値は、ほぼ100%が立地で決まる。東京で言えば、どの駅から何分歩いたところにあるか‥ということだ。
 

そして最寄り駅はメジャーであればあるほど良い。また、路線も重要。山手線や東海道本線は最高。地下鉄なら古くに開通した路線ほど、沿線にあるマンションの資産価値は高い。逆に言えば、新しい路線の沿線にあるマンションの資産価値評価は低くなる。古い路線の代表は銀座線や丸ノ内線。新しいのは南北線や大江戸線だ。

私は40年ほど東京のマンション市場を眺めてきたが、このマーケットは時々「狂う」ことがある。上述のような「マンションの資産価値は立地で決まる」という原理原則から逸脱した市場価格が形成されることがあるのだ。

私が知る限り、1980年代後半の「平成大バブル」期と2000年代後半の「ファンドバブル」期、そして2015年あたりから現在まで続く「局地バブル」であろう。ここで詳しくは述べないが、それぞれに原因があって結果がある。

幸い‥というべきであろうか、現在も続く局地バブルはまだ崩壊していない。

ただ、このあとはそう長くは続かないだろう。

■マンションバブル崩壊の皮切りとなる物件

仮に今のバブルが崩壊するとすれば、上述の原理原則から外れて、最も「狂った」価格が形成された物件がその先鞭をつけるのではないか。私が見るところ、それは東京オリンピックの選手村跡地に形成された「晴海フラッグ」というマンションである。

この物件の最寄り駅は都営大江戸線の「勝どき」駅。そこから徒歩で概ね20分程度離れている。これは毎日歩ける距離ではない。そんな場所に分譲4145戸、賃貸1487戸、あわせて5632戸のマンションが完成してしまった。全体が完成して約1年以上が経過している。

入居率はいまだ半分以下。「晴海フラッグ」がマンションバブル崩壊のきっかけになる!?
最寄り駅の勝どき駅。とはいえ、物件によっては徒歩30分の距離にある

最寄り駅の勝どき駅。とはいえ、物件によっては徒歩30分の距離にある
これらのマンションを買った人は誰なのか。また、いったいどれくらいの人が住んでいるのか。いかにも不思議である。

分譲住戸の抽選倍率は最高で数百倍。

人気沸騰で、ほぼ「即日完売」状態だった。私から見れば「狂った」状態である。最もマイナーと言っていい大江戸線の駅から歩いて20分のマンションを、大勢の人が争って買おうとしたのである。

しかし、彼らは今のところ「勝ち組」である。中古マンションとして売り出されている住戸は、新築分譲価格の1.5から3倍程度になっている。これもまた「狂って」いる。

とある休日の昼間、私はこの街を見に行った。

当初の想定居住人口は12000人。ところが私が小一時間、うろついていた間に見かけた人影は100人に満たない。街の中にあるスーパーにも入ってみたが、黒字経営を確信できる賑わいはなかった。むしろ経営が「大丈夫か」と思えるほど人影まばら。

この街には、いったいどれくらいの人が住んでいるのか?

賃貸住宅の募集を公式に行っているサイトに表示された「募集中住戸」は197戸(7月中旬時点)。

また住宅の検索最大手で調べた「賃貸募集」の件数は566戸(同)。

晴海フラッグについてはネット上に様々な情報が出ているが、こうした数字から、実際に居住実態がある住戸は半分以下と推定できる。3割未満、ということもあり得るだろう。

つまり、賃貸用住戸は半分も埋まらず、分譲住戸も居住用として買われた住戸はあまりなく、ほとんどが何らかの投資用目的の購入。約1年前にNHKが報道していたが、ある住棟の約3割は法人名義だったとか。普通のサラリーマンが「住むため」に購入した住戸は、いったいどのくらいの割合なのか。

■頼みの綱は地下鉄敷設だが‥‥

晴海フラッグがあるエリアは、選手村ができる前はほぼ「何もない」場所だった。東京湾が埋め立てられて陸地になったのは今から100年近くも昔。それから東京五輪の開催が決定するまで、ほぼ打ち捨てられていた土地。その理由はおそらく、不便だから。

東京五輪で選手村として使われたところで、不便さが解消されたわけではない。多少バス便が整ったに過ぎない。

そんな晴海フラッグの人気が沸騰したのは、単純に「選手村跡地」という「ブランド」と「東京都中央区」というアドレス、そして今に続く異次元金融緩和による「局地バブル」の影響に過ぎない。それが証拠に、街全体が完成したにもかかわらず、人影はまばら。賃貸住戸はいつまでも埋まらない。

この街の傍に地下鉄を敷設する計画があるにはあるが、実現したとしても20年や30年はかかりそうだ。その頃には、今の高島平団地のように老朽集合住宅の街になっている可能性が高い。

こういう「狂った」市場価格が形成された場合、下落し始めた時は半ばパニックになる。平成大バブル期に「狂った」価格が形成された別名「チバリーヒルズ(千葉市)」は、市場価格が最高値の10分の1以下まで下がった事例が珍しくない。晴海フラッグがそこまで下がるとは思えないが、「狂った」価格はいずれ残酷な調整局面を迎える。

文/榊淳司 写真/photo-ac.com

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