元米陸軍情報将校が徹底シミュレーション! ウクライナの首都・...の画像はこちら >>

ウクライナの首都キーウは、連日、ロシア軍による数百機のドローンとミサイルの空爆を受けている(写真:Xinhua/ABACA/共同通信イメージズ)
元米陸軍情報将校であり、アフガンで実戦を経験した飯柴智亮氏は、仕事でウクライナ戦争勃発後、ウクライナを何度も訪れている。

その飯柴氏が最近、実戦を経験した元米陸軍情報将校として現地で肌で感じ、見聞きし、直接経験したことより、あるシナリオをよく考えるようになった。

「ウクライナの首都・キーウは陥落するのでは?」

なぜそう考えるようになったのか。飯柴氏に語ってもらった。

*  *  *

ロシア軍(以下、露軍)が無人機と各種のミサイルを使って、すさまじい空爆を続けています。その中で、私が常に見ている数字、パーセンテージがあります。

それは「迎撃率」です。

これまでの平均迎撃率は80%以上でしたが、去年の11月から首都・キーウでは、ウクライナ軍(以下、ウ軍)の迎撃率が50~60%を下回っています。さらに今年の6月は50%以下になり、7月は少し持ち直して50%に戻りました。

迎撃率低下の要因には、ロシアがウクライナの迎撃パターンを読んできたことや、ウクライナの戦争疲れもあると思います。しかし、バイデン前米大統領が約束した軍事支援は、すでに終わったということが数字に表れています。これからはトランプ米大統領が選ぶCOA(Course Of Action:選択肢)次第なのです。

地対空ミサイル「パトリオット」に関して「米国内備蓄が空になっているから、そっちの備蓄が先だ」とトランプは言っていますが、当たり前の話です。自分の国を守ること、それは大統領として最優先にすべきことです。

そして、7月10日の「テレ朝NEWS」の報道では、7月に入って露軍が大規模攻勢を行ない、一週間で200㎢にわたるウクライナ領を占領したとしています。

この報道の数値を元に分析すると、ウ軍は一日約28㎢の領土を失っている計算となります。東京都の品川区の面積が22.85㎢ですから、それよりひと回り大きな領地が毎日失われ、東京23区ならば約3週間で占領するペースになります。

露軍はウクライナの20%、つまり12万700㎢を占領しています。そして、ドニエプル川より東の国土面積は27万8000㎢。残りの15万7300㎢がこのペースで毎日奪取されるとすれば、5617日=約15.4年で占領して、首都・キーウ対岸まで来れる計算です。

現在、キーウではカモフラージュ服を着た40~60歳の老人をよく見ます。退役軍人の人々なのですが、ウ軍より「身体が動くんだったら、ちょっとまたやってくれないか?」と声がかかり、最前線に投入されているのです。

元米陸軍情報将校が徹底シミュレーション! ウクライナの首都・キーウ陥落のリアルすぎるシナリオ
スペースのなくなっていくウクライナの墓地(戦死者のみ)。丘の上から順に墓が建てられたが、今では車が止まっている駐車場手前まで広がってしまった。これが人命消費戦争の現実だ(写真提供:飯柴智亮氏)

スペースのなくなっていくウクライナの墓地(戦死者のみ)。丘の上から順に墓が建てられたが、今では車が止まっている駐車場手前まで広がってしまった。これが人命消費戦争の現実だ(写真提供:飯柴智亮氏)
一方、露軍は日本の北方領土や、内陸部の田舎から法外な値段で若者をリクルートし、最戦線に叩き込んでいます。

英国防省の6月12日の発表では、露軍の死傷者数が100万人を超えました。

米軍は民主主義の国なので戦死傷者を出すと恐ろしいほどのお金がかかります。しかし、旧ソ連系のモスクワの判断基準は西側と全然違います。犠牲者をいくら出そうが何も知ったこっちゃないのですから。

だから、露軍はすさまじい戦死傷者が出ていても前進を止めません。今、ウクライナ戦争は両国の"人命消費戦争"になっています。そこまで考えたところで、首都・キーウ陥落を意識し始めたのです。

■戦争における「カタストロフ」がはじまる

大学の予備役将校訓練課程(ROTC)で「カタストロフ」という言葉を学びました。一般的には「破局」「大惨事」という意味で使われますが、戦争においては「戦線崩壊」を意味します。そして、これが始まると片方の軍隊の兵士は後方に逃げて、敗走に伴う悲劇が始まります。

ウクライナにおけるこの「戦線崩壊」は、バフムトからドネツクの辺りで発生すると分析しています。大雨で河川堤防が決壊すれば、大洪水が引き起こされる。つまり、戦線が一気に切れれば、それと同じことがウクライナ東部で起きるのです。

ですからそうなった場合、前述の計算より圧倒的に速く、首都が陥落する可能性があります。

露軍に捕まったらどういう運命になるのか。ウクライナ人は誰よりもわかっています。第二次大戦中、ソ連軍がナチスドイツ軍に対して行なった蛮行は、今でも言い伝えられていますから。

自分がやってみた核攻撃以外のMDCOA(米陸軍が作戦を立案する上で、敵の最も危険な行動を予測する手法。また、それに対して自軍の作戦立案すること)の結果はこうです。

まず、東部のドネツク・バフムトで戦線崩壊が発生。

すると、ウクライナ西部で国境を接する新ロシア国家・沿ドニエステル共和国が動きます。兵力3000人の一個旅団がキーウを目指して進撃を開始するのです。

しかし、これは牽制です。カギとなる主攻は、ロシアとベラルーシの合同軍。露軍はすでにベラルーシ国内で何度も軍事演習をしています。

ベラルーシ国境から首都・キーウまで90kmの地点から南に侵攻を開始し、ドニエプル川右岸を進撃します。

同時にもうひとつのロシア・ベラルーシ合同軍が、ベラルーシ国境からウクライナ西部、リビウ東側数十kmを目指して南下。これは、ポーランドからの補給路を断つのと、逃げてくるウ軍の退路を断つためです。

このふたつのロシア・ベラルーシ合同軍は、最初の数日は捕虜を獲りません。皆殺しで進軍します。これが報道で伝われば、さらにウ軍の混乱は増します。

沿ドニエステル共和国から進軍した露軍一個旅団は100kmほどしか進めませんが、それでも目的は果たせます。

ドニエプル川左岸は敗走するウ軍で地獄絵図となります。第一次湾岸戦争で敗走するイラク軍に米軍は空爆を叩き込み、「死のハイウェイ」と呼ばれました。ロシア空軍も同じことをするでしょうね。

ウクライナ国内にいると、ミグ31がロシアの基地を飛び立っただけで、手持ちのスマホに空襲警報が届きます。ミグ31は巡航ミサイルを発射しますからね。

ロシア空軍は徹底的な空爆で「死のハイウェイ」を随所に作ります。

それからウ軍が敗走したあと、東部での露軍による略奪はひどいものとなります。資産は奪われ、女性は暴行される。

一方、ドニエプル川右岸の西部では、パニックに陥ったウ軍を横目に、ヘルソンから出た露軍がオデーサを保障占領します。そこを占領することで、ウクライナは海に出られない内陸国となるからです。

この流れの中で、ポーランドとルーマニアの国境も封鎖します。ウ軍兵士は完璧に国外に逃げられない状況となるのです。

プーチン露大統領が『ジンギスカン並みに徹底的にやれ』と命令すれば、露軍はウクライナ全土を掌握し、皆殺しにしてすべてを略奪します。しかし、ウクライナ戦争後の世界的な圧力を考えると、首都・キーウを陥落させて、黒海の湾口のオデッサを抑えたら進撃を中止。ウクライナ西部の残りの地が小ウクライナ国となり、首都はリビウになります。

他の地域はロシアに自然と吸収されます。プーチンは緩衝地帯が欲しいので、直接、ポーランドやルーマニアとは国境を接しない所まで進むでしょうね。

この凄惨な悲劇を避けるには、どこかでウクライナが停戦すればいいのですが、勝っている戦争をプーチンが止めるはずありません。

しかし今、トランプの気分が変わったのか、パトリオットミサイルはNATOの負担で提供されようとしています。そして、トランプお得意の武器「関税」が発動され、石油・天然ガス輸出からの儲けがなくなると、ロシアにとっても危機です。

いずれにせよ、これから武器と金がふんだんにウクライナに入っても、ウクライナ戦争は"人命消費戦争"になっていきます。なので、ウクライナがいくら退役軍人の老人たちを投入しても、もって3年でしょう。

人命消費戦争なので、人口の多い国、つまりロシアが最後に勝ちます。その前に最前線のどこかで崩壊が起きれば、前述のような悲劇となります。つまり、今のウクライナは戦争を続けるも地獄。負けは確定しながら、停戦するのも難しいという状況に陥っているのです。

取材・文/小峯隆生

編集部おすすめ