インタビューに答える参政党の神谷宗幣代表
自公の凋落を尻目に躍進を遂げた参政党。露骨な国粋主義的政策、陰謀論への傾倒など、これまでにないとがり方をしたこの新興政党は、一方で物価高対策への積極的な取り組みをアピールするなど、ツボを押さえた選挙活動で成果を出した。
「政治に参加する」、そのことのみに全力を注いだ同政党は、どのようにして支持を集めたのか、そして今後はどこへ向かうのか。今回の参院選で各選挙区を取材した選挙ライター・宮原ジェフリーいちろう氏が考察する。
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■躍進までの歩み
「いち! にー!! 参政党!!」
7月19日の午後8時10分前、もうおなじみとなった「参政党コール」が東京・芝公園を包み込んだ。主催者発表で2万人が集まり、集会終了後には地下鉄駅への動線が大混雑でしばらく動かないといった、夏の花火大会のような熱気にあふれていた。
この"参政党現象"は東京のみならず、日本全国で巻き起こった。スローガンに掲げられた「日本人ファースト」という言葉は、ある層には強烈に心に刺さり、またある層には強烈な反発を生んだ。
激しい議論の的となったことで、かえって参政党への注目をより強固にした側面も否定できない。従来の「保守」や「リベラル」といった政治的枠組みに属さない無党派層の人々からも、選挙の話題で参政党を気にかける会話を耳にすることが多かった。
結果的に、今回の参議院議員選挙では選挙区7人、比例区7人の合計14人が当選。3年前の当選者1人という結果から大幅な飛躍を遂げた。
参政党が結党されたのは今からさかのぼること5年前、2020年4月だった。
現在も代表を務める神谷宗幣(そうへい)氏のほか、保守系ユーチューバーのKAZUYA氏、政治アナリストの渡瀬裕哉(ゆうや)氏、日本維新の会で衆議院議員を1期務めた松田学氏、ジャーナリストの篠原常一郎氏の5人という保守色の強い論客を中心としたボードメンバーで結党された。
その後、新型コロナウイルスに対処する生活様式(マスクをする・しない、ワクチンを打つ・打たない)や、アメリカ大統領選挙に関わる不正選挙陰謀論などを主張するメンバーと、現実路線のメンバーの間で対立が起き、現実路線を取ったKAZUYA氏、渡瀬氏らが離反し、陰謀論路線が加速した。
22年の参院選では、神谷氏を含む5人が比例代表に立候補。党のスローガン【あなたの気づきが日本を救う!】の下、子供の教育、食の安全、国防の3つを重点政策に掲げた。
食の安全に関心を持つ層、ワクチン接種など新型コロナウイルス対策に忌避感情を抱く層、伝統的な保守層を巻き込んで支持を拡大。比例区で1議席を獲得、全国得票率3.3%を達成して政党要件(2%)を満たした。翌23年の統一地方選挙では合計100人の当選者を出して、全国に足場を築くことに成功した。
その後、奈良県支部の党員が外来生物でイネの食害の原因ともなっているジャンボタニシを除草剤の代わりに水田にまく農法をSNSで紹介したことで炎上。参政党はこの農法について「推奨していない」と弁明した。
また、党の共同代表を務めたこともある歯科医師の吉野敏明氏(現在は離党)が過去に「メロンパンを1個食べて翌日死んだ人をたくさん見てきた」と発言した動画も拡散された。これらからトンデモ政党という悪いイメージもつきつつあった。

東京選挙区で当選を決め、笑顔を見せる参政党のさや(塩入清香)氏
しかし、神谷氏を中心に政策の微修正が図られ、24年の衆議院議員選挙では【日本をなめるな!】をスローガンに、「奪われる日本の国土と富を護(まも)り抜く」「失われる日本の食と健康を護り抜く」「壊される日本の教育と国家アイデンティティを護り抜く」を重点政策に掲げた。
22年参院選と基本的な枠組みは同じだが、「気づき」といったスピリチュアルな言葉から「なめるな!」という攻撃的な言葉に変わり、3番目だった国防が最初に掲げられた。
この衆院選では比例代表で3議席を獲得。
これにより、テレビなどの討論会で主要政党として扱われたことが、今回の参院選での躍進にもつながった。
■選挙の現場で見た参政党の強さの源泉
参政党躍進の原動力のひとつとなったのは、YouTubeやTikTokなどで積極的に街頭演説のショート動画(最長3分の短い動画)を投稿したことだ。
今回の参院選、芝公園での最終演説後、話を聞いた18歳と19歳の男性ふたり組は、ショート動画で流れてきた神谷氏の演説に心が震えたと語った。彼らが深く共感したのは、「男が男らしく、女が女らしくする、ということの何がいけないんだ」という言葉だった。
参政党はLGBT理解増進法の廃止を掲げているが、この発言自体は、「男らしくない男」「女らしくない女」、つまり性的マイノリティへの差別という社会問題に対する一種の開き直りに過ぎない。
しかし、「既存のメディアや学校では聞けない本音を代弁してくれたように感じた」という彼らの言葉は、十数秒のショート動画が持つ、理論より感情に訴える力を象徴している。
そのことがわかっているからこそ、参政党は既存のメディアを批判しながら、YouTubeやTikTokなどの動画SNSの規制に反対することを政策として掲げているのだ。
ただ、動画の拡散など新興勢力ならではの「空中戦」が目立つ一方で、街頭演説の現場で見た「どぶ板選挙」の手だれぶりには目を見張るものがあった。
6月の東京都議会議員選挙で、参政党の応援弁士がマイクを握る間、候補者は路上で街行く人に手を振り、ボランティアはビラを配っていた。ビラを受け取ってくれた人がいれば、ボランティアは候補者に合図を送り、候補者がその人に駆け寄って握手を求めるのだ。
受け取ってもらえないのが当たり前の選挙ビラを手に取ってくれた人は、選挙に対する意識が少なからずあるはず。その人に候補者自身が直接アプローチすることで心理的距離が縮まり、投票行動に結びつきやすくなるという、選挙のイロハのイとも言える戦術である。
ボランティアのひとりに話を聞くと、この手法は党本部からのレクチャーがあったとのことだった。
インターネットで関心を持った層を、現場での丁寧な活動を通じて熱心な支持者に変える。この「空中戦」と「どぶ板選挙」の巧みな連携こそが、参政党躍進の秘訣かもしれないと感じた。
和歌山県での神谷代表の演説後、もともと自民党を応援していたという70代の男性に話を聞いた。県内の地方部に住む彼はインターネットで参政党と出合い、今回の選挙からオレンジ色のポロシャツをまとって選挙運動に関わることにしたという。
普段は人の少ない地域で孤独に暮らしているが、LINEのグループチャットを通して神谷代表の演説動画をシェアしたり、ポスター張りを分担したりする「チーム感覚」が楽しいと語っていた。
参政党は「投票したい政党がないから、自分たちでゼロからつくる」「政党DIY」を自称している。大きな利益団体や宗教団体、労働組合に支えられた既存政党とは大きく異なり、これまで選挙にそれほど関心がなかった無党派層を"仲間"として取り込むことで、草の根の支持基盤を築いた。この男性の言葉は参政党が提供する「居場所」の重要性を示しているようだった。
■空中分解のリスク
今年5月に発表された参政党の新日本憲法(構想案)は、党員によるワークショップで策定されたものだとしている。
しかし、立憲主義への不理解や稚拙な表現、国民主権が記されていないなどさまざまな批判を招き、選挙中は前面に出すことはなかった。ボトムアップを重視する姿勢を保ちながら政策の質をコントロールすることも、今後の課題となるだろう。
自公政権が衆参で過半数割れし、連立の組み替えがない限り、法案ごとに野党各党との調整が必要となる今後の国会内で、参議院で15議席を持つ参政党の存在感が無視できないものとなるのは間違いない。各種メディアでの露出が増えるとともに、さらなる支持者の獲得も見込まれる。
しかし、今回の当選者の中には、支持を広げるに当たって抑えてきた陰謀論や反ワクチンを強く唱える人物もいれば、自民党や日本維新の会で国会議員として働いてきた人物もいる。
それぞれが議席を持つ存在となった今、かつてのように簡単にパージするわけにはいかない。この多様な背景を持つ議員たちの意見を、神谷代表がこれまでのようにまとめられるか不透明であり、党内の意見集約がかなり難しくなりそうだ。
また、差別的な思想が根底にあると批判され続けた「日本人ファースト」という理念へのバッシングが今後もやむことはないだろう。
こうした状況で、参政党がさらなる支持を拡大できるのか、それとも空中分解してしまうのか、有権者それぞれの立場から注視が必要だ。
取材・文/宮原ジェフリーいちろう 写真/共同通信社