『四季報』伝説の編集長・山本隆行氏(右)×『四季報』100冊読破・渡部清二氏(左)
メジャーな大型株からニッチすぎる中小型株まで、日本の上場企業を知り尽くす"四季報の達人"による恒例対談が帰ってきた!
例年、7、8月は株価が伸び悩むことから「夏枯れ相場」と呼ばれるが、猛暑でも枯れないポテンシャルを秘めた優良株を、四季報最新号から探し出した!
■12月決算企業を重点的にチェック!
――元編集長の山本さん、『会社四季報 夏号』で儲けるにはどう読めばいいですか?
山本 夏号は読み方にコツがいるんですよ。日本の上場企業の6割は3月決算で、4月末から5月半ばにかけて前期の通期決算を発表します。つまり四季報記者は夏号発売までのわずか1ヵ月弱で、今期と来期の業績をゼロから予想するわけです。
だから思い切ったことを書きにくく、四季報自慢の業績独自予想にいつものキレがない(笑)。
そこで提案したいのが、12月決算企業を中心に読む方法です。すでに第1四半期の決算発表を終えた12月決算企業については、それまでの進捗を手がかりにして思い切った独自予想ができる。
だから、12月決算企業のうち、記者独自予想が企業側の業績予想より上振れている銘柄を探すという読み方がオススメです。

6月18日に発売された『会社四季報 夏号』(東洋経済新報社)。四季報は3、6、9、12月の年4回発売で、全上場企業の情報を網羅する
――四季報を毎号全ページ読破している渡部さん、今号の注目ポイントは?
渡部 記者コメントを分析すると、「関税」と「トランプ」という語の登場回数が前号比でそれぞれ15倍と5.7倍になっていました。やはり注目テーマだと言えるでしょう。
一方で今期業績は減益の業種が多く、好調なのは食料品やサービス、ガラス・土石、銀行など内需が中心。関税リスクが落ち着いたとはいえ、まずは内需銘柄から検討していくのがよさそうです。
――では早速、注目テーマを見ていきましょう!
【キーワード1】食料品関連
渡部 今期好調な内需銘柄の中でも食料品は興味深い銘柄が多いんです。例えばコカ・コーラ ボトラーズジャパンHD(ホールディングス)。10月に値上げ予定なんですが、年間販売数量の約8割が対象で「過去最大規模」とある。当然、大幅な増益が期待できるでしょう。

コカ・コーラを販売するボトラーはコカ・コーラ ボトラーズジャパンHD以外にも、北海道コカ・コーラボトリングなど複数社ある
山本 ここは値上げしても客離れの心配はなさそうだね。同社と取引している石塚硝子(がらす)は「ペットボトル増産」で「工場フル稼働」みたいです。
渡部 食料品は裾野が広いですから取引先など隣接領域にも好影響が波及しますよね。そういう意味では、「米」が面白いと思ってるんです。
山本 昨今の米不足で、増産が国策になりそうだからね。
渡部 ええ。「国策に売りなし」という投資格言のとおり、期待できるはずです。

米不足に伴い、米は投資テーマになった。米卸以外にも、米袋に使われるクラフト紙や米びつ用防虫剤、稲作作業機など、関連する投資テーマは数多くある
山本 農業機械3位の井関農機は面白そうだよ。「米価高騰で稲作作業機の販売想定超」とある。
渡部 まさに波及効果ですよね。私の注目は昭和パックスです。
山本 同社はハウス用ビニールなんかも製造してるんだけど、稲の苗ってハウスで育てるんですよ。その点でも米の増産が追い風になるんじゃないかな。

【キーワード2】上方修正・独自増額
山本 米といえば、12月決算の米穀卸・木徳神糧(きとくしんりょう)。第1四半期で早くも通期業績予想を大幅に上方修正してきたね。需給不均衡で米を値上げしたのが業績好調の要因らしい。
渡部 第1四半期で通期の予想を修正するとは、よほど自信があるってことですね。
山本 だろうね。わざわざ最速で上方修正したわけだから、予想を外すなんてことになったら経営者は赤っ恥だ。
渡部 確かに。
山本 以前、第1四半期で業績予想を修正した企業の「その後」を調べたことがあるんですよ。過去20年のデータをさかのぼって。すると、5割の確率で第2四半期でも上方修正をしていた。

『四季報』元編集長・山本隆行氏
渡部 すごい情報だ(笑)。
山本 連続で上方修正すれば市場から評価されるから、第1四半期で上方修正してきた銘柄はマークすべきですよ。
渡部 そうですね。
山本 加えて、四季報の元編集長としては「独自増額」の見出しに注目してほしい。
渡部 会社側が業績予想を変えていない場合で、四季報記者の独自予想が会社側を上回るときの見出しですね。
山本 そう。早期の上方修正には慎重な企業もあるけど、独自増額に注目すれば、後に上方修正する可能性が高い企業を見つけられるから。
例えばロイヤルHD。「ロイヤルホスト」など外食が主力のイメージだけど、実は前期、稼ぎ頭が「リッチモンドホテル」をはじめとしたホテル事業に移行してるんですよ。そして今期は「ホテルは稼働率、客室単価とも想定超」とのことで独自増額。新ブランドのホテルも稼働しているし、上方修正もありえるよ。

【キーワード3】企業の変化・世相の変化
渡部 やっぱり、企業の変化をとらえて投資のヒントにするのは重要ですね。
山本 そうだね。
ここは店舗のすべてを自社で運営する自前主義にこだわっていたんだけど、今号には、出店地域拡大や海外進出のためにフランチャイズ展開を模索すると出ている。
同社は自前主義の副作用で関東以外への進出が遅れていました。つまり出店余地が大きいだけに、フランチャイズで出店スピードが加速すれば大きく化けるはずです。

首都圏を中心に展開する「熱烈中華食堂日高屋」。フランチャイズ制度の確立を急ぐほか、郊外への出店やタッチパネルの導入など、経営方針を変化させている
渡部 そういう個別企業の変化のほかに、世相の変化っていうのもありますよね。私は記者コメントに出てくるワードの内容と数を分析しているんですが、初登場や登場回数が少ないワードが変化の兆しをとらえていることが多いんです。今号なら「平成ギャル」なんていう語が初登場でした。
山本 渡部さんみたいに四季報の隅から隅まで毎号読むような人じゃないと、その方法は難しいんじゃない?
渡部 簡単に済ませるなら、『会社四季報オンライン』で「ブーム」と検索するのもいいかもしれません。例えば、家電商社のデンキョーグループHDは「レトロブーム」を追い風に、カセットテープや再生機の訴求を強化しています。
中古品の買い取りと販売を手がける買取王国は、主力商材のアパレルが「古着ブーム」で好調。

『四季報』通読の鬼・渡部清二氏
山本 いろんなブームがあるもんだね。
渡部 ええ。でも、各ブームを大きくとらえると、若者が古いものをまったく新しい感覚で評価する流れなんだと思います。一点ものの古着なら個性をアピールできるし、カセットはデジタルデトックスになりますから。


【キーワード4】国策と長期テーマ
山本 企業や世間の変化という視点のほかに、国の方向性に注目する方法もあるね。
渡部 国策に関連するとなれば、国からの発注や補助金が長期にわたって追い風になりますからね。
山本 わかりやすいところだと、記者コメントに「国家案件の研究開発費」という言葉が躍るLiberaware(リベラウェア)。屋内専用の空間点検ドローンの販売が柱で、埼玉県八潮市の道路陥没事故で被害に遭ったトラックの位置の特定に貢献しているんですよ。
渡部 ドローンはインフラ点検や物流など民生用途はもちろん、ウクライナの戦争以降、防衛装備品としての可能性も出てきた。法制度さえ完備すれば既存のビジネスですぐに活用できるのがいいですよね。
山本 国策や長期的なテーマという意味では、AIも注目を浴びていたりするけど。
渡部 まだビジネスで本格活用される段階になっていないので、投資先を見定めるのは難しいですよね。それでいうと、クラウド型の電話交換システムを提供するプロディライトは音声から感情を分析する技術を持っています。同技術のAI応用が進めば、活用の幅が広がると思うんですけどね。
山本 そのあたり、四季報で継続的に確認しておけば、いつかおいしい投資先発見につながるかもしれないね。

*データはすべて 7月23日時点
●山本隆行(やまもと・たかゆき)
1959年生まれ。東洋経済新報社で『オール投資』『会社四季報』『四季報オンライン』編集長を歴任。著書『伝説の編集長が教える会社四季報はココだけ見て得する株だけ買えばいい 改訂版』(東洋経済新報社)はシリーズ累計8万部を突破
●渡部清二(わたなべ・せいじ)
1967年生まれ。野村證券在籍時から28年以上『会社四季報』を通読している。『プロも見逃す!10倍成長する株を探す「日経新聞」読み解き術』(フォレスト出版)など著書多数。四季報分析ワークショップなどを行なう投資スクール「複眼経済塾」を運営。9月1日から新規塾生募集を開始
取材・文/西田哲郎 撮影/榊 智朗 写真/時事通信社 iStock