F1に最も近いトヨタのドライバー・平川 亮を直撃!「あきらめ...の画像はこちら >>

8月6日、富士スピードウェイでのテストを担当した平川選手。2年落ちのハースVF-23で111周を走行した。
ベストタイムは1分18秒538で、翌7日は坪井選手がステアリングを握った

8月6日~7日、ハースF1チームが静岡県の富士スピードウェイで旧車を使ったプライベートテスト(TPC)を実施した。

ステアリングを握ったのはトヨタのワークスドライバーとして世界耐久選手権(WEC)に参戦しながら、ハースのリザーブドライバーを務める平川 亮選手と、昨年の国内最高峰スーパーフォーミュラとスーパーGTでダブルチャンピオンに輝いた坪井 翔選手だ。

トヨタは2009年にF1を撤退した後、世界最高峰のフォミュラカーレースとは距離を置いたが、23年に育成プログラム出身の平川選手をマクラーレンのリザーブドライバーに送り込むと、昨年の10月にハースとの業務提携を発表。

徐々にF1との距離を近づけている。今回のテストはトヨタのF1復帰に向けての一歩になるのだろうか? 初日のテストを担当し、トヨタのドライバーとしてもっともF1に近い場所にいる平川選手にF1フォトグラファーの熱田 護氏が話を聞いた。

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■今まさにトヨタのF1までの道ができようとしている

――今回の富士でのF1テストは日本で戦うトヨタ系のドライバーにとってどんな影響がありますか?

平川 亮(以下、平川) もし自分が10代の若手だったら、きっと衝撃を受けると思います。ちょっと前まではトヨタのドライバーがF1で走れる可能性はまったくありませんでした。それが今回、富士までF1マシンを持ってきて、普段のレースで走り慣れたサーキットでテストをするのですから刺激になると思います。

トヨタの育成ドライバーの中にはF1に興味がないドライバーもいますが、将来F1で走ってみたいと思っているドライバーにとっては、今まさにF1までの道ができようとしているので、チャンスだと捉えるでしょうね。

――平川選手はF1ドライバーになりたいと公言していますが、トヨタの若手の中にも同じように思っている選手は多いのですか?

平川 最近は日本でレースをしていないので、あまり交流がないのでわかりませんが、間違いなく刺激になっていると思います。今回、僕と一緒にテストをする坪井選手は国内のレースだけに参戦し、チャンピオンを取ってF1テストのチャンスをつかみとりました。

そういう道があるというのは、国内のレースで戦うトヨタ系の若いドライバーにとって大きなモチベーションになるはずです。

■トヨタの復帰より自分のシート獲得しか考えていない

――トヨタは現在ハースと提携していますが、自らのチームでF1に参戦するという公式発表はありません。平川選手としてはもっとトヨタがF1にコミットしてほしいという思いはありますか?

平川 モリゾウ(豊田章男会長)さんのお力添えもあり、昨年、マクラーレンのリザーブドライバーになる機会を得ました。

そして今年は開幕からアルピーヌでリザーブドライバーを務め、日本GPのフリー走行に出走し、4月の第4戦バーレーンGP以降はハースでリザーブドライバーを務めています。

ハースはトヨタが提携しているチームですので、一緒にやっている感覚はマクラーレンやアルピーヌのときよりも強いですね。

ただ僕自身は、トヨタにF1復帰してほしいというよりも、自分がレギュラードライバーになることだけしか考えていません。仮にトヨタが今、自分たちでチームをつくって参戦すると表明したとしても、準備を整えるだけで相当の時間がかかるでしょう。そこに自分がドライバーとして乗るチャンスはないと思います。

僕は今、F1の最前線にいることができているので、なんとかレギュラーとして乗りたいという気持ちが強いです、F1が開催されるサーキットに来て、レースに出ることができないのは正直、大きなフラストレーションです。

今はトヨタと一緒に、どうやって自分がレギュラーシートを獲得できるのかということにフォーカスしています。

――でも着実にF1のシートが近づいてきていますよね。

平川 僕は子どもの頃、ゴーカートに乗り始めたころからF1に乗るのが夢でした。そして、ようやくレースの週末にレギュラードライバーに何かあれば乗れるところまで来ました。

でも、その最後の一歩を上がるのがなかなか難しい。誰もが狙っているところなので、現実は甘くはありませんが、常にそこにいられるというのは本当にありがたいです。

■マクラーレンのマシンは次元が違った

――平川選手はこれまでマクラーレン、アルピーヌ、ハースでリザーブドライバーを務め、マシンを走らせてきました。それぞれのマシンや仕事の進め方にどんな違いがありましたか?

平川 面白くない答えになってしまいますが、3チームのマシンにそれほど大きな違いを感じませんでした。それはF1では全チームがピレリタイヤを履いていることが影響していると思います。

結局のところ、F1マシンはタイヤの性能をどうやって全部引き出すのかという考えのものとに設計されています。そこを突き詰めていけば、ひとつの形になっていくのかなという気がしていますね、

――確かに今年の各チームのマシンはカラーリングこそ違いますが、どれも同じようなデザインになっています。

平川 しかも今、各チームのマシンの性能差は小さいですよね。1周当たり3秒とか4秒も違うわけじゃありません。全車が1秒以内にいるという状況で、僕が乗ったマシンはそれぞれ仕様が異なっています。それぞれのチームのクルマはこういう特徴がありますと断定するのは難しいですね。

もちろんチームによって使っているブレーキのメーカーが違えばフィーリングも変わってきますし、ステアリングのフィーリングもパワーステアリングの考え方やセッティングによって違います。

そういう差はありつつも、どういう操作をしたらどういう動きをするのかというマシンの基本的な挙動はどのチームも一緒だと思います。ただ昨年、リザーブドライバーを務めたマクラーレンはほかのマシンよりも速さがあり、次元が違うという感じですね。

――平川選手はこれまでさまざまなレーシングカーに乗っています。

下のカテゴリーからF1マシンにステップアップしてきたドライバーは加速とブレーキングの鋭さに驚くようです。普通の人だったら前を向いていられないほど首がキツイと言いますが、F1のすごさ、ドライビングの難しさはどこにあるのですか?

平川 首の強さはけた違いに求められますね。首を鍛えるための特殊なトレーニングは必要ですが、加速やブレーキは"慣れ"ですよね。それよりもF1マシンの高速コーナーのスピードはいつ乗ってもすごいなと思います。

F1に最も近いトヨタのドライバー・平川 亮を直撃!「あきらめたら終わり。いつでもF1で走れる準備はできている」
テスト当日の静岡は猛暑となったが、平川選手は安定したペースで走行を重ねた。テスト終了後の記者会見では「富士はいろいろと経験してきたサーキットなので、そこでF1で走るというのは感慨深い」と語っていた

テスト当日の静岡は猛暑となったが、平川選手は安定したペースで走行を重ねた。テスト終了後の記者会見では「富士はいろいろと経験してきたサーキットなので、そこでF1で走るというのは感慨深い」と語っていた

低速コーナーになるとクルマは重いし、硬いし、デカいし、大きな塊みたいに感じますが、高速コーナーになるとものすごく速いマシンになっていきます。鈴鹿の1コーナーからS字にかけてのセクター1は、今まで体験したことのないような速度で走ることができます。スーパーフォーミュラがちょっと近いですが、それでもレベルが違います。

■チームの代表が同じ日本人というのは心強い

――ハースの小松礼雄(こまつ・あやお)代表は「平川選手はクルマのことをわかっている。そういうドライバーはなかなかいない」と高く評価しています。平川選手にとって小松代表はどんな存在ですか?

平川 所属チームの代表というポジションに同じ日本人がいらっしゃるのは、すごく心強いです。セッション中も隣に座って、ふたりだけでインターフォンを使って日本語でいろんなことを話します。

そんなことはほかのチーム代表ではないことなので、本当によくしてもらっています。

――ちなみに小松さんとはどんなことを話しているのですか?

平川 お互いに思っていることを忖度なしに話しています。最近、小松さんは忖度という言葉を覚えたらしいです。小松さんはヨーロッパで生活している時間がだいぶ長くなり、日本語を忘れているみたいなので、いろいろと教えたりしています(笑)。まあ、僕も日本語は得意なほうではないのですが。

――ふたりはすごくいい関係で仕事されているのがうかがい知れます。ハースのレギュラードライバー、エステバン・オコン選手とオリバー・ベアマン選手のラインアップは強力です。そこに割り込んでいくのは簡単ではないと思いますが、チャンスをつかむことを期待しています。

平川 (ハースで実戦に出場するのは)難しいのはわかっていますが、あきらめたらそこで終わりです。チャンスが目の前にあるのは確かなので、何かあったときにはすぐに行けるように常に準備はしています。

●平川 亮(ひらかわ・りょう) 
1994年3月7日生まれ、 広島県出身。2007年からカートを始め、2009年はフォーミュラトヨタ・レーシング・スクール(FTRS)に合格し、翌年には16歳でFCJ(フォーミュラチャレンジ・ジャパン)にトヨタのスカラシップ生としてデビュー。

2012年には全日本F3選手権でチャンピオン獲得。翌年にはスーパーフォーミュラに参戦。2015年はSUPER GTのGT500クラスにフル参戦し、2017年にはニック・キャシディと組んで史上最年少コンビ(23歳)で王者となる。2022年からはTOYOTA GAZOO RacingのドライバーとしてWEC参戦。ルマン24時間も制して初の世界チャンピオンを獲得。2023年も連覇を達成。2024年は2勝してランキング4位。同年はマクラーレンのリザーブドライバーに就任。25年はWECに参戦しながらアルピーヌやハースのテスト&リザーブドライバーの役割もこなす。

取材・撮影/熱田 護 構成/川原田 剛

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