ドゥテルテ元大統領の実弟とともにPGCの立ち上げに携わった日本人のM氏は、何者かに刃物で惨殺されるという壮絶な最後を遂げた
7月の月次終値が11万5,000ドル(約1700万円)と史上最高値を更新したビットコイン。クリプト(暗号資産)市場には期待感が漂い、「次に上昇するコインはどれか」を推測するポストや記事が続々と出され、活況を呈している。
「これまで幾度なく暴騰と暴落を繰り返した暗号資産ですが、大きく値上がりする際にはいくつかの共通点があります。
まず、ビットコインが上がってからアルトコインと呼ばれるコインが上がること。イーサリアムやリップルといったメジャーな通貨から聞いたこともないようなコインまで、市場では何千種類ものクリプトが取引されていますが、時価総額が軽いぶん、アルトコインが爆発したときの上昇率はものすごい。100倍などはザラで、瞬間的に1万倍に化けるコインが出ることもあります」(暗号資産に詳しいトレーダー)
■元大統領の弟がからむコインで刺殺事件
俄然、目が離せなくなってきた暗号資産市場だが、高まる投機熱とともに詐欺めいたスキームや投資案件が蔓延するのもまた、歴史が示す通りだ。とりわけ、ビットコインが短期間に20倍近くまで上昇した2017年~2018年には、「ICO」「プレセール」という呼称で有象無象のコインが発行され、トラブルが頻発した。
「カジノで使えるとか、国際送金が安く済むとか、ブロックチェーンを使ってクレジットカードを超える決済システムを作るとか。それらしいお題目を並べて金集めをするのですが、描いた青写真通りにプロジェクトが推移しているものを私は見たことがありません(笑)。
だいたいはお金が集まった時点で運営が飛んだり、配られるコインが配布されなかったりとおかしなことになって、結局リターンもなく終わる。ビットコインやリップルの高騰で『億り人』となった個人投資家たちが、ICOやスキャム(詐欺)に引っかかり、稼いだ分をそっくり溶かす様を嫌というほど見てきました」(前出のトレーダー)

ビットコイン価格が過去最高を更新し続けるなか、アルトコイン投資への関心も高まっているが、その裏では血みどろの騒動も繰り広げられている
そんな詐欺コインを象徴する存在として、PGC(フィリピン・グローバル・コイン)がある。
日本国内でも「国際送金の手数料が安く使える」「フィリピンでのマイクロファイナンスを加速させる」などと耳障りのいい宣伝文句を掲げた同コインの運営元には、あのドゥテルテ大統領の弟がCEOに名を連ねていた。ドゥテルテ大統領の弟は顔出しで地元紙のインタビューなどにも応じているのだが、このコインを巡り、一大トラブルが勃発。ついには日本人が刺殺される事件まで起きたというから、穏やかではない。
PGCの内情を知る関係者が言う。
「PGCはフィリピン人の妻がいる日本人のMがドゥテルテ大統領の弟とつながり、『日本とフィリピンの懸け橋になる』という理念をぶち上げたコインでしたが、結論から言えば関わった人間の中に悪質な詐欺師が紛れ込んでいたということ。
私が知る限り、15億円程度を集めたのですが、その金は出資者の元にも還元されず、ドゥテルテの弟サイドにも渡されず、誰かが自分のポケットに入れてなくなってしまった。ドゥテルテの弟との窓口に立っていたMには壮絶な追い込みがかけられていたそうです。挙句、昨年10月、自宅にいるところを何者かに襲われ刺殺されています」(PGC関係者)
話を裏付けるように、PGC関係者は写真を数枚取り出して証言した。本稿での発表は控えるが、そこには胸、鳩尾、腹部をめった刺しにされた男性の遺体が写っていた。
「殺害現場は自宅で、朝、何者かが玄関を訪れてきてドアを開けたらそのまま殺されたそうです。ただ、殺されていたのはMさんだけではない。他にもフィリピン側から横領を疑われた人たちが3~4名、手にかけられています。
PGCの金を管理していた当時の副社長の日本人のOという人物が、ドゥテルテの弟側に『金は全部Mさんに渡している』と説明し、Mが使い込んだとフィリピン側が激高してやられた、というのが我々の間で定説となってます」(前出関係者)
■白昼堂々ハンマー強盗も
Oについては、過去に知人男性とのトラブルがもつれハンマーで襲撃するという傷害事件や、特殊詐欺への関与で逮捕された過去もあり、いわくつきの人物とも言える。
「PGCでお金を集めていた直後、Oの自宅に別件で家宅捜索が入った際、数億円の現金があったとの情報もあります。Mさんの暮らしぶりをみればわかるように、質素なマンション住まい。一方でOは家賃数百万円もする超高級マンション住まいです。
集めた金の行方はこの2人以外、知らないでしょうが、OはPGCを売る際に協力した日本の代理店からの返金も履行しておらず、おかしなことだらけ。
■セクシー女優が関与する詐欺コイン
死者まで出た投資詐欺事件だが、冒頭で触れたようにビットコインの市況がよい今、同様のトラブルが起きかねないとの懸念がある。前出のトレーダーがいう。
「セクシー女優を起用したものから、NFTなどの流行に乗っかったもの、はたまたトランプコインのようなミームコインまで、あらゆるコインが登場し投機欲を煽ってます。ただ、2年後3年後も残っているものは皆無でしょうし、値上がりどころか買ったが最後、コインすら手元に来ずに終わるPGCのような事例も今後増えるでしょう。
騙す側は、誰よりも『情報弱者』を研究しており、欲望に火をつけるのは上手です。ただ、だからといって安直に手を出すのは控えるべきです」(前出トレーダー)
濡れ手に粟の儲け話が向こうからやってくることなど、まずない。「君子危うきに近寄らず」が鉄則だ。
文/新田勝太郎 写真/photo-ac.com