女子代表は石川真佑(右)がキャプテンとして奮闘。新エースとして佐藤淑乃(左)も台頭し、チームは生まれ変わった印象
この1年、日本バレーボール界は著しい進化を見せている。
そして今年6月から7月にかけ、男女の代表チームがバレーボールネーションズリーグ(VNL)を戦い、8月には女子、9月には男子の世界バレーボール選手権が開幕。さらに注目を集めることになるはずだ。
両代表で新時代の担い手になっているのが、共に世界最高峰のイタリアでプレーする石川きょうだいである。
日本女子代表は、パリ五輪でポーランド、ブラジルに敗れ、ケニアには勝利するも1次リーグで敗退、ベスト8に進めなかった。当時エースだった古賀紗理那が現役引退を決断。ひとつの時代の終焉に悲壮感が漂っていた。
3試合を終えた後、石川真佑はこう漏らしていた。
「パリ五輪は3試合を終えて、『相手も五輪にかける思いが強いな』と思いましたし、相手のほうが上回っていました。そこで自分たちが押されて、力を出しきれなくて。これからどう改善するのか。
あれから1年、石川は目に見えてたくましくなっている。イタリア、セリエA挑戦2年目のノヴァーラではCEVカップ(欧州カップ戦のひとつ)で優勝。決勝戦では獅子奮迅の活躍だった。
その成熟が代表で見えたのが、キャプテンに指名されたVNLだろう。リーダーとしてチームを牽引、決勝ラウンド進出に貢献した。コートでの存在感は抜群で、苦しいパスでも打ちきる姿は頼もしかった。また、ベンチに下がっても仁王立ちで選手たちを鼓舞していた。
「(キャプテンとして)カナダ、香港のラウンドでは8試合やってきました。日本での試合は初めてで気持ち的にも違いましたけど、変に気持ちをつくらず、今までどおりできたかなって思います」
VNL第3週をそう振り返った石川の表情は、明るく弾んでいた。
大会は、決勝ラウンドには進んだが惜しくもメダルに届かず、4位。だが、新しい船出としては上々だ。
〈明るさ〉
それが新たに発足したフェルハト・アクバシュ監督率いる新代表の一番の変化だろう。
「失敗を恐れずに攻めなさい」
アクバシュ監督はそう選手たちに伝え、能力の最大値を引き出しつつある。明るく前向きな空気をつくり出すことで停滞を打破。各選手が本来の技量や迫力を出せるようになってきた。

VNLでは元代表の大友 愛の娘、当時18歳の秋本美空(左上)や、ベテラン勢の活躍も目立ち、ポジション争いが激化した
それが19歳の秋本美空の台頭にもつながっている。また、VNLではミドルブロッカー、島村春世のようなベテランの活躍も目立った。そしてリベロは最激戦区で、ディグ(スパイクレシーブ)のレベルが向上。自由闊達なポジション争いを生み出している。
世界バレーでも、彼女たちは研鑽を積む。
一方、男子代表はパリ五輪の準々決勝でイタリアに大逆転で敗れ、「パリの涙」と言われる悲劇の結末だった。
「僕が点を取りきれず、この結果にした」
パリ五輪後、キャプテンを務めた石川祐希は憔悴しきった顔で語っていたが、イタリア戦も両チーム通じて最多得点だった。

男子代表ではVNLの第3週、日本ラウンドからキャプテンの石川祐希(右)や髙橋 藍(右から2人目)が合流して戦力アップ
パリ五輪、男子バレーは最高視聴率を記録(競技の中で)。SVリーグも開幕し、人気は爆発的に高まった。髙橋 藍、西田有志らスター選手が人気を獲得し、ファンの裾野は一気に拡大。関田誠大、宮浦健人、小川智大らを擁して準優勝したジェイテクトSTINGS愛知への大声援は印象的だった。
その熱気は、新たな代表にも還元されている。
フィリップ・ブラン氏から代表監督のバトンを託されたロラン・ティリ氏は、VNLで確実に戦力を底上げした。
石川、髙橋、西田、関田、小野寺太志、山内晶大、山本智大らパリ五輪の主力が日本ラウンドまで不在も、宮浦はVNLのベストスコアラーランキングで5位、小川はベストディガーで3位と上々の結果を残した。また、日本ラウンドでは甲斐優斗がチャンスサーバーで頭角を現した。

パリ五輪の主力が不在の間も、(左から)甲斐優斗や宮浦健人ら、出場機会が少なかった選手たちがしっかり結果を残した
予選ラウンドは4位で通過したが、準々決勝で世界1位のポーランドと戦い、敗退。前々回が3位、前回が2位だった結果から考えれば一歩後退か。
何より、キャプテン石川はこの1年、際立った存在感を見せた。昨シーズンは世界最高峰イタリア、セリエAのペルージャの主力として活躍。日本人初のCEVチャンピオンズリーグ優勝を経験し、「パリの涙」を糧にしている。あらためて歴史的快挙だ。
VNLでは、石川は肩の痛みを押しての出場だった。それでもコートに立つだけで、いや、コートサイドでも伝えられる経験は少なくなかった。多くの選手が刺激を受けていた。関田が不在の中、永露元稀や大宅真樹、それぞれタイプの異なるセッターとも新たにコンビを組んだ。
「(永露の)組み立てで、自信を持って打てていました。彼も感覚はわかっていないところはあるはずですが、そこは僕がアジャストしないといけない。トスが上がった以上、僕が決めないと。
石川はそう言って焦っていなかった。ヨーロッパの最前線で戦う自信や経験のたまものか。頼もしいリーダーだ。
ロサンゼルス五輪に向け、世界バレーは試金石となる。
取材・文/小宮良之 写真/能登 直(a presto)