【現地密着】ロシア軍に押され危険度がさらに増した前線に、なぜ...の画像はこちら >>

ウクライナ軍ドローン部隊に所属し、「戦争が終わるまで戦い続けるつもり」だと語る日本人義勇兵Banzaiさん(中央)と同僚。林の中に塹壕を掘り、その上に迷彩ネットを張り巡らせている

ロシアによる全面侵攻開始から3年半、筆者はウクライナで義勇兵として戦う多くの日本人を取材してきた。

開戦初期から戦い続ける人、すでに帰国した人、一度日本へ帰国した後に再度来た人。そして、新たにウクライナへ渡り兵士となる若者も常に一定数いる。

危険に身を投じて自分の役割を得ようとする彼らは今、どのような思いでいるのか。ドローン部隊で活躍する日本人、ロシア領クルスクで戦った日本人、これから入隊する日本人の3人に話を聞いた。

* * *

①Banzaiさん

【現地密着】ロシア軍に押され危険度がさらに増した前線に、なぜ身を投じるのか? ウクライナで戦う日本人義勇兵
Banzaiさん(20代前半/東北地方出身/元自衛官) 隣のナビゲーターから指示をもらい、Banzaiさん(右)はオペレーターとしてFPVドローンのスピードや位置を調整する

Banzaiさん(20代前半/東北地方出身/元自衛官) 隣のナビゲーターから指示をもらい、Banzaiさん(右)はオペレーターとしてFPVドローンのスピードや位置を調整する

20代前半、東北地方出身、元自衛官。〝Banzai〟というのは現在のコールサイン(部隊での呼び名)だ。

2023年11月にウクライナ入りし、最初は歩兵として陸軍傘下の部隊に入隊。砲弾が降る中、前線の塹壕を死守する任務に就いた。直属の小隊長や、兄のように慕っていたジョージア人義勇兵が戦死した。

「その後、部隊は首都のキーウに戻ったのですが、任務を待つ間の給料支払いに関する問題などがあり、新しい部隊へ行くことを模索しました」

当初の選択肢は高確率で負傷か戦死する任務(通称ミートグラインダー=ひき肉器)を担う部隊しかなかったが、ほかの日本人義勇兵の紹介で、領土防衛隊外国人軍団のドローン部隊へ入隊。FPV(一人称視点)ドローンの操作を2ヵ月間学ぶと、すぐに前線へ配置された。

今回、筆者がBanzaiさんとその部隊を取材したのは、ハルキウ州東部の前線だ。

「今の任務は、味方の偵察ドローンが位置を特定した敵に向けて、オペレーターとしてFPVドローンを飛ばし、敵を殲滅することです。

部隊のテックチームが改造したドローンを使用します。建物内に潜伏する敵が標的になることもあれば、装甲車を攻撃したり、敵の塹壕に爆弾を投下することもあります」

【現地密着】ロシア軍に押され危険度がさらに増した前線に、なぜ身を投じるのか? ウクライナで戦う日本人義勇兵
FPVドローンのカメラ映像をモニターで見ながら遠隔操作する。ドローン本体はほとんど軍が製作するが、このリモコンは中国製の市販品

FPVドローンのカメラ映像をモニターで見ながら遠隔操作する。ドローン本体はほとんど軍が製作するが、このリモコンは中国製の市販品

【現地密着】ロシア軍に押され危険度がさらに増した前線に、なぜ身を投じるのか? ウクライナで戦う日本人義勇兵
実際に作戦に使用するカミカゼドローンを準備する。すでに爆発物が搭載されており、起動・発射するまで取り扱いには慎重さを要する

実際に作戦に使用するカミカゼドローンを準備する。すでに爆発物が搭載されており、起動・発射するまで取り扱いには慎重さを要する

【現地密着】ロシア軍に押され危険度がさらに増した前線に、なぜ身を投じるのか? ウクライナで戦う日本人義勇兵
塹壕を出て林の外れのほうまで行き、ドローンの発射準備をするBanzaiさん

塹壕を出て林の外れのほうまで行き、ドローンの発射準備をするBanzaiさん

ドローンで戦闘に参加しているとき、〝戦っている実感〟はどのようなものなのか。

「ドローン越しに惨劇を何度も見てきて、その瞬間は何も思いませんが、やはり時間がたって安全な場所に戻ると、いろいろ考えることはあります。一方で、自衛隊時代よりも『人を守っている』という実感もあります。

画面越しに人を殺める行為を『ゲーム感覚だ』と批判する人もいると思いますが、決してそんなことはない。忘れられない光景があります。

ある日、いつものように命令を受け、送られてきたターゲットの映像を見ると、がれきの山を手で掘るロシア兵の姿がありました。最初は物を探していると思ったのですが、ウ軍の他部隊のドローンが近くに落ちても、彼は構わずがれきの山を掘り続けていました。

私たちのFPVドローンが到着する前に、他部隊のドローンがターゲットに直撃しました。胴体と下半身が分断され、腕はあらぬ方向を向いていた。

その後、私たちのドローンも命中し、ターゲットは言葉では言い表せない様相に成り果てました。任務は成功です。

その直後、命令を英語に翻訳して私たちに下達する役割のウクライナ人がこう言いました。

『この写真を見ろ。彼はがれきに埋もれた仲間を助けようとしていたらしい』

仲間たちは気にも留めずミッション成功を喜んでいましたが、私は彼のことを考えてしまった。激しい攻撃にも目もくれず、仲間を助け出そうとする良い兵士だったのかもしれない、と」

Banzaiさんの直属の指揮官で、これまで5人の日本人義勇兵と仕事をしてきたラテルさんはこう語る。

「最初はドローンの知識もなく、英語もしゃべれない状態でしたが、意欲的に学び、今ではチーム全体が彼に頼っています。ドローン、装備、発電機などすべてを管理しています。私の小隊で最初にドローンの飛行距離記録を樹立したのも彼です。最高のパイロットです」

②RHさん

【現地密着】ロシア軍に押され危険度がさらに増した前線に、なぜ身を投じるのか? ウクライナで戦う日本人義勇兵
RHさん(20代後半/東京都出身/元フランス外人部隊所属) 入院中に街中での人々の生活を垣間見て、「生きていて良かった」と実感したという

RHさん(20代後半/東京都出身/元フランス外人部隊所属) 入院中に街中での人々の生活を垣間見て、「生きていて良かった」と実感したという

20代後半、東京都出身、元フランス外人部隊(仏陸軍傘下の外国籍志願兵部隊)所属。

昨年春にウクライナ入りし、外国人軍団に入隊。訓練や基地警護任務の後、ハルキウ州の前線エリアで任務に就いていると、部隊全員が集められて「クルスク(ウ・ロ国境近くのロシア領。昨夏にウ軍が占領したが、その後ロ軍がほぼ全域を奪還)に行きたいヤツはいるか?」と指揮官に聞かれ、全員が手を挙げた。

部隊は軍歴のある兵士ばかりで、士気が高かったという。

RHさんは高校卒業後に自衛隊に入隊したものの、わずか5ヵ月で除隊。言葉もわからないままフランスへ渡り、外人部隊へ入隊した。紛争の前線に行く機会はなかったが、主に国内のテロ警備に従事し、ハードな訓練を重ねた。

【現地密着】ロシア軍に押され危険度がさらに増した前線に、なぜ身を投じるのか? ウクライナで戦う日本人義勇兵
左から3人目がRHさん。所属部隊はフランス外人部隊出身者が中心で、ベルギー、セネガル、ブラジル、スイスなど多国籍。ウクライナ語や英語よりもフランス語がよく使われる

左から3人目がRHさん。所属部隊はフランス外人部隊出身者が中心で、ベルギー、セネガル、ブラジル、スイスなど多国籍。ウクライナ語や英語よりもフランス語がよく使われる

「想像以上に理不尽なことが多く、常に連帯責任を取らされる過酷な環境でしたが、そのうち慣れました。日本に帰国した後は造園業で生計を立て、それなりに充実していましたが、何か物足りない。このまま続けるのはどうなのか......と悩みました」

RHさんがフランスで所属していた部隊には、ウクライナ人が多くいた。その経験から、ウクライナに来てウクライナ人と一緒に戦うことにあまり不安はなかったという。

「兵士としての自分のスキルを生かせるし、もっとスキルを上げたい。個人的な動機が強かったというのが本音です」

【現地密着】ロシア軍に押され危険度がさらに増した前線に、なぜ身を投じるのか? ウクライナで戦う日本人義勇兵
RHさんに授与されたベテラン兵士のメダル。退役後などにさまざまな権利や優遇措置が与えられるという

RHさんに授与されたベテラン兵士のメダル。
退役後などにさまざまな権利や優遇措置が与えられるという

昨年12月末、クルスク州のスジャ北東部のポジションに向かった。ロ軍の陣地から300mほどの距離にあり、猛攻撃を受けているウ軍の塹壕を死守する任務だった。

「突撃してくるロシア軍に砲撃で応戦しても、次から次へと敵が来る。その中には北朝鮮兵士も多数含まれ、砲撃で70人近く死んだと後になって聞きました。

砲撃をかいくぐった敵とは銃撃戦になり、私も3、4人は倒しました。もしかしたらその中にも北朝鮮兵がいたかもしれませんが、あの状況では判別不可能でした」

【現地密着】ロシア軍に押され危険度がさらに増した前線に、なぜ身を投じるのか? ウクライナで戦う日本人義勇兵
戦闘で負傷した左腕の治療のため入院している病院の敷地内のベンチで、同じ部隊に所属するフランス人兵士と談笑するRHさん(右)

戦闘で負傷した左腕の治療のため入院している病院の敷地内のベンチで、同じ部隊に所属するフランス人兵士と談笑するRHさん(右)

その後、数度にわたり後退を余儀なくされ、ある塹壕を出て後方に向かう途中、近くに落ちた砲弾の破片が左腕に刺さり、重傷を負った。同じくケガをした仲間3人と共に、10時間近く木陰に身を潜め、救出された。

RHさんはウクライナ西部の病院で手術を繰り返し、現在は東部の病院で治療中。左手の一部にはまだまひが残り、あと何回手術するかも未定だというが、気さくに筆者を病院に迎え入れてくれた。

【現地密着】ロシア軍に押され危険度がさらに増した前線に、なぜ身を投じるのか? ウクライナで戦う日本人義勇兵
クルスクでの戦闘で、砲弾の破片が左腕に刺さり重傷を負った。この半年で10回近く手術をしたが、今もまだまひが残り治療中だ

クルスクでの戦闘で、砲弾の破片が左腕に刺さり重傷を負った。この半年で10回近く手術をしたが、今もまだまひが残り治療中だ

【現地密着】ロシア軍に押され危険度がさらに増した前線に、なぜ身を投じるのか? ウクライナで戦う日本人義勇兵
RHさんの左腕に刺さったコイン大の砲弾の破片(左)

RHさんの左腕に刺さったコイン大の砲弾の破片(左)

「クルスクで死んだ仲間も多い。いつまで治療することになるかわかりませんが、腕が治ったらすぐに前線に復帰したいです」

③YHさん

【現地密着】ロシア軍に押され危険度がさらに増した前線に、なぜ身を投じるのか? ウクライナで戦う日本人義勇兵
YHさん(20代前半/神奈川県出身/軍歴なし) ウクライナを縦断するドニプロ川を見ながら、今後の期待や不安などを話してくれたYHさん。もし戦争が終わったらウクライナで医療を学びたいという

YHさん(20代前半/神奈川県出身/軍歴なし) ウクライナを縦断するドニプロ川を見ながら、今後の期待や不安などを話してくれたYHさん。
もし戦争が終わったらウクライナで医療を学びたいという

20代前半、神奈川県出身、軍歴なし。今年5月、入隊前の訓練を受けるため滞在していた東部の都市ドニプロで話を聞いた。

YHさんはメディック(衛生兵)としての入隊を希望しているが、メディックといっても前線では危険度が高く、歩兵任務との兼任になる可能性もある。

特に昨年後半以降、ウ軍は厳しい防戦を余儀なくされており、その任に就いた外国人兵士が何人も戦死していると聞く。軍歴のないYHさんがなぜ今、ウクライナに来たのか?

「戦争が始まったとき僕は高校生で、すぐに現地でボランティアをしたいと思いました。ただ未成年にはそれはかなわず、大学で看護学科に行き、アメリカの救急医療の資格も取得しました。

言うまでもなくロシアの侵略に憤っていますが、それだけでなく、将来的にはウクライナに留学して医者になりたいので、軍での経験が生きればいいとも思っています。

もちろんリスクはわかっています。いざとなったら相手を傷つける可能性もありますが、それはロシア兵にとっても同じこと。覚悟はしています」

その後、連絡を取ると、同時に部隊に入る台湾出身の兵士と行動を共にし、いろいろなことを教わりながら入隊訓練に備え、晴れて入隊が決まったという。3分の1が脱落する中での合格で、メディックの基礎知識を問われる試験も満点。さらなる訓練の後、早ければ8月後半には前線に行くと語っていた。

* * *

以前と比べて、日本ではウクライナ関連の報道が減っているが、現地で戦う日本人の兵士は減っていない。ただ、この1年でウ軍の犠牲者はかなりのペースで増えており、兵士の危険度は明らかに上がっている。また彼らに会えることを心から願う。

●小峯弘四郎(こみね・こうしろう) 
神奈川県出身。ロシアのウクライナ侵攻開始以来、ウクライナと周辺諸国の取材を行なう。近年では2015年トルコ・クルド人居住地域の内戦取材、2019年香港民主化デモのドキュメンタリー写真撮影などを手がけた。

撮影・取材・文/カメラマン 小峯弘四郎

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