『キン肉マン』大好き作家・燃え殻さんと爪切男さんが7月の連載を激論!
『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!
希代のストーリーテラーのふたりが7月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。
―今回の「先月の肉トーク」テーマ―

第498話 手となり足となり!!の巻(7月7日更新分)
第499話 勝ち確キン肉バスター!!の巻(7月14日更新分)
第500話 この上なく明るい未来!!の巻(7月28日更新分)
あらすじ
世界同時五大刻(ごたいこく)決戦、キン肉マン&グレート組(マッスル・ブラザーズⅢ)VSエクサベーター&ガストマン組(インダストリアルレボリューションズ)対決。初代グレート(プリンス・カメハメ)や2代目グレート(テリーマン)を彷彿とさせる言動を示す3代目グレート。
●『キン肉マンⅡ世』とあらためて向き合うワケ
爪切男(以下、爪) この8月の連載は、なんと言っても第499話に尽きましたね。キン肉マングレートのサポートで、キン肉マンがガストマンにくらわせた技は、前後逆の変形キン肉バスターだった。『キン肉マンII世』のストーリーが垣間見えるシーンでしたね。
燃え殻(以下、燃) そうだね。
爪 ゆでたまご先生、これ以降、相当丁寧に描いていかないといけなくなりましたね。物語の中の歴史が変わっちゃってるから、時系列がややこしくなるじゃないですか。
燃 そうだよね。今の『キン肉マン』は、『キン肉マンII世』よりも前の時代の話だもんね。
爪 そんななかでのグレートの今回の必殺技......。
燃 『キン肉マンII世』を読んでいない人たちにも向けて、ふたつの物語が少しずつ寄り添いあっていくみたいな。その説明も含めて、ゆでたまご先生が丁寧に描いている感じがした。
爪 グレートは、ふたつの物語をつなげるためにここに来た、っていうね。

自分の言動を先読みしてくる3代目キン肉マングレートに違和感を感じている様子のキン肉マン(連載500話)
燃 そうなんだよね。
爪 だから、これ、すごく重要な試合ですよね。まさか『II世』と『キン肉マン』が、交わる日が来るとは。『II世』ってすごく実験的な作品だったじゃないですか。連載中は賛否両論あったし。
燃 あった。でも今、『II世』と『キン肉マン』を交わらせて描くことで、『II世』があったのは必然なんだ、今のこの物語のために『II世』があったんだ、ということを形づけたいたいんじゃないかと。
爪 『II世』の肯定だ。
燃 そう、その必然性を描くことで肯定する。
爪 正直、『II世』は、2ちゃんで批判されたりもしてましたもんね。
燃 PRIDEとかの総合格闘技ブームの頃、新日本プロレスが総合に手を出して、大不評だった大会あったじゃない? 猪木の指揮で。
爪 ああ、はいはい。『アルティメット・クラッシュ』(2003年)と、『アルティメット・ロワイヤル』(2005年)。
燃 新日の歴史上、あれをあったことにするか、なかったことにするかっていう問題、あったでしょ? 経営者が変わって、棚橋弘至がエースになって以降、「あった」ことにはできなくなったけど、『Ⅱ世』はそうではない。
爪 『Ⅱ世』が週プレに連載されていた頃(1998年)って、いろんな漫画家さんが、かつてのヒット作の続編を描くようになった時期でしたよね。
燃 ああ、そうだったね。
爪 でも、ゆでたまご先生だけは、本当に新作を描いているスタンスだった。バンドが再結成して、昔のヒット曲をやって小銭稼ぎしている感じではなかった。だから賛否両論があったんだ、と思うんですよね。
燃 ああ、なるほどね。「新曲はいいから懐メロやってくれよ」っていうね。
爪 だからこそ、今『キン肉マン』がこれだけ盛り上がっていても、『Ⅱ世』をなかったことにはできないんだ、と思うんです。なぜなら、ちゃんと『キン肉マン』の続編というさらなる新曲を作っているから。
燃 復帰してひたすら「超人オリンピック」をやるとかもあり得たかもね。
爪 でも、それはやらない。新しい物語を描き続けている。
燃 こっちも懐メロのつもりで読んでないもんね。子供の頃に、毎週『少年ジャンプ』の連載を追っていたのと、同じ感覚で読んでいる。
爪 その感覚ですよね。
燃 今も先生や超人たちが生き生きしていて、新しい物語を紡ごうとしている。まだやっていない新しいことに挑んでいる。だから、もしかしたら失敗するかもしれない。それでも俺たちは、新しいことをやろうと思うんだよ、という。その上で、過去の心残りのある物語も回収していこうと。
爪 うん、それが『Ⅱ世』なのかなと。
燃 それも回収できるかどうかわからない、失敗するかもしれない、でもやってみよう、というところが、読んでいて、すごい楽しい理由だと思うんだよね。読んでいる僕らもさ、50代と40代で。まあまあ人生やり直せないくらいの歳になってるじゃない?
爪 そうですね。
燃 で、先生たちはちろん我々の大先輩じゃない? その人たちがこうやって「やっぱりやり直す! 新しいことをやる!」って、今『キン肉マン』に『Ⅱ世』を入れて描いている。これはね、希望ですよ!
●燃え殻、ナレーション初挑戦!
爪 そういえば燃え殻さん、『キン肉マン』関係のナレーションをやったんですって?
燃 え? あ、うん、9月4日(木)と10月3日(金)に、単行本の89巻と90巻が出るでしょ。そのプロモーション動画が、YouTubeの「週プレChannel」でキン肉マンの日【8月29日(金)0時予定】に、アップされるんだけど、そのナレーションを。
爪 へえ! どんな内容なんですか?
燃 その2冊は、ウォーズマンがメインの話だから、「ウォーズマンの軌跡」という、現在までの半生を追う内容の動画なの。

8月29日(金)より「週プレChannel」にて公開予定。スペシャルボイスとしてウォーズマン役の梶裕貴さん、音楽はAPAZZIさんと豪華チームで製作
──燃え殻のナレーション付きのその動画を観る──
爪 すごくいいじゃないですか! Tさん、燃え殻さんのJ-WAVEのラジオを聴いて、オファーしたんですか? 燃え殻さん、ラジオで自分のエッセイの朗読とかしているから。
担当編集T はい。ウォーズマンの朴訥(ぼくとつ)とした感じと燃え殻さんのナレーション、合うんじゃないかと思って。
燃 うん......しかし、怖かった。
爪 え、何が?
燃 アニメの『キン肉マン』完璧始祖超人(パーフェクト・オリジン)編のアフレコもしていたスタジオで録ったんだけど、ナレーションしてる僕の後ろに、Tさん以外に知らない人たちが、ずらっと並んでいて。7、8人に見張られていてさ。ちょっとでも間違えたら、やり直しになるし。
爪 いや、そりゃそうでしょ。
燃 めっちゃ疲れた。終わって、Xに「すげえ疲れた」ってポストしちゃったの。そしたら、そのことを知らない嶋田先生が、「どうしたんですか?」とかリプをくれて(笑)。
爪 心配をかけてしまった。
*ゆでたまご嶋田先生は、なんとなくピンときて、あえて知らないふりをして接してみたそう
燃 いろいろ考えちゃったんだけど、この間、昔一緒に仕事をしていた人たちと集まって飲むことがあって。みんな「あとは定年まで(仕事を)流すだけだな」とか言ってるんだよ。
爪 ああ、まあ、その歳になるとね。
燃 でも、そこで「いや、俺、この間ほんとにハラハラしたんだけど。
爪 はははは。
燃 これをやったことによって、それ以降、怖いと思う仕事が3割くらい減ったもん。
爪 そんなに?(笑)
燃 でも、50を超えてもそういうハラハラする新しい仕事があることが、うれしかったの。前の晩に風呂場ですごい練習して、スタジオでビビりながらナレーションして。そういうことをまだやれてるっていうことがね。
爪 それ、さっきのゆでたまご先生の話と一緒じゃないですか。この年齢になってもやり直すんだ、新しいことをやるんだ、っていう。
燃 そうなの。Tさんも、プロのナレーターに頼めば無難なのに、燃え殻にやらせてみるのもいいんじゃない?っていう、そのフレッシュな感じが。
爪 フレッシュな感じ?(笑)。
燃 それがうれしかったから、聴いた人にいろんなことを言われるかもしれないけど、これはやろう、と。やっぱり、自分ができないかもしれないことでも、無理してでもやらないと......自分ができることを、傷つかなくて済む範囲でやっているだけだとねえ。
爪 ああ、わかります。それはそうだな。
燃 それで、今度J-WAVEのラジオ番組『BEFORE DAWN』に、ゲストで嶋田先生が来てくれるんだよ。
爪 え、そうなんですか?
燃 うん、まだ収録してないんだけど。「キン肉マンの日」の8月29日(金)と、9月5日(金)の26:30から2回放送予定です、みなさんぜひ聴いてください!
●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)、『すべて忘れてしまうから』(扶桑社)、『明けないで夜』(マガジンハウス)など多数の著作がある。最新著は『この味もまたいつか恋しくなる』(主婦と生活社)。群像Webでは「湯布院紀行」の漫画連載もスタート。また、『GetNavi web』にてコラム「もの語りをはじめよう」を連載中。ラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:30~27:00)もチェック
●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。『きょうも延長ナリ』(扶桑社)美容と健康にまつわるエッセイ『午前三時の化粧水』も発売中。ドライバーWebで『横顔を眺めながら ~爪 切男の助手席ドライブ漂流~』を連載中。主演:木村昴でのドラマ放送でも話題となった『クラスメイトの女子、全員好きでした』が文庫化。最新著は、『愛がボロボロ』(中央公論社)
取材・文/兵庫慎司 撮影/鈴木大喜 ©ゆでたまご/集英社