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「スウェット上下1098円」のゲオ、「ソックス爆売れ」のファミマ、「収益源をアパレルにシフト中」のワークマン、「Tシャツ1枚1万円超」のダイワ......

利幅が大きくない上に、市場規模が縮小し、競争は激化。そんなアパレル業界へコンビニや家具店、ホームセンター、CD・DVDショップなど、異業種からの参入が相次いでいる。

これは一過性のブーム? それとも大きな潮流?

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■サングラスが約1ヵ月で完売

「ゲオがスウェット? しかも上下セットで1098円!?」

昨年10月に衝撃を巻き起こしたのが、DVD・CDレンタルやゲーム・スマホ売買などを行なうゲオが発売した「あったかスウェットセットアップ」(現在は販売終了)。圧倒的な低価格に、ネット上ではポジティブな反応が相次いだ。

一見すると場違いなようにも思えるが、実はここ数年、ゲオに限らず他業種企業のアパレル参入ブームが加速しているのである! 市場規模が縮小傾向で競争が激化している上、薄利なのにいったいなぜ? その背景を、国産ファッションブランド「ファクトリエ」代表・山田敏夫さんに聞いた。

山田さんいわく、「ひとくちに〝異業種アパレル〟といっても、それぞれの戦略や意図はさまざま」とのこと。そこでここからは主に3つのタイプに分け、解説する。

まずは「ブランド志向型」。代表的なのはファミリーマートだ。

ファミマのアパレルは、人気ブランド「ファセッタズム」のデザイナー・落合宏理氏を起用し、デザイン性を追求して自社のイメージアップを図っている。

ファミマ色のラインソックス(429円)が人気を集めるほか、6月に投入されたサングラス(2490円)も1ヵ月足らずで完売となった。〝ついで買い〟の導線としても優秀で、日常の突発的ニーズに応えられるという消費者側のメリットも大きいだろう。

薄利なはずのアパレル事業になぜいま他業種からの参入が止まらないのか!?
ファミリーマート ラインソックス コンビニホワイト 429円 ファミマカラーである緑と青のラインをあしらった肉厚なソックス。累計販売2400万足を突破。2021年度グッドデザイン賞を受賞

ファミリーマート ラインソックス コンビニホワイト 429円 ファミマカラーである緑と青のラインをあしらった肉厚なソックス。累計販売2400万足を突破。2021年度グッドデザイン賞を受賞

「ファミマは服を売ることで、〝生活のあらゆる場面に寄り添う企業〟というイメージを強化したい狙いがあるのでしょう。

企業ブランディングの一環としてアパレルを活用する動きはさまざまな業界で見られますが、ファミマはその中でも突出した成功例と言えます」

インテリア雑貨ブランドのニトリケユカもこのタイプ。ニトリは大人の女性をターゲットにした「N+」というオリジナルブランドを展開している。

ケユカも近年、アパレルラインの拡充に力を入れており、家具やキッチン雑貨と同じように、服も生活に自然となじむ存在として提案。同ブランドのファンがそのまま好みそうな服にデザインされている。

「ニトリやケユカのように、ブランドの世界観を拡充させたいという企業も多いでしょう。売れる服というより、売りたい世界観を支える服と言えます。顧客に自社の価値観をより深く共有してもらうための手段として、アパレルをつくっている印象です」

■11万着売れたゲオのルームウェア

お次は「機能性重視型」。ワークマンカインズなどがその代表だ。もともとプロユースの作業服を扱っていた企業が昨今、一般向け高機能ウェアを手がけ始めている。

耐久性・防水性・保温性といった作業服由来のスペックをそのままに、価格は圧倒的にリーズナブル。さらに、街でも着られるようなシンプルかつ機能的なデザインを打ち出したことで、若年層を中心にファン層が急拡大している。

薄利なはずのアパレル事業になぜいま他業種からの参入が止まらないのか!?
ワークマン バッグインレインジャケット 3900円

ワークマン バッグインレインジャケット 3900円

薄利なはずのアパレル事業になぜいま他業種からの参入が止まらないのか!?
耐水圧1万mmH2O、透湿度5000g/㎡/24hの防水加工がなされた本格仕様。持ち運びに使える収納袋付きでお値段はアンダー4000円

耐水圧1万mmH2O、透湿度5000g/㎡/24hの防水加工がなされた本格仕様。持ち運びに使える収納袋付きでお値段はアンダー4000円

「日本の若者はブランドより実用性を重視してきています。

機能が担保されていれば、ヘタなデザイナーズより価値がある。その需要が消費者に刺さったのでしょう」

釣り具メーカーのダイワも、近年スタイリッシュなタウンユース対応ウェアを次々と投入。かつての「釣り人のユニフォーム」というイメージから脱却し、機能性はそのままに、色味やシルエットを洗練させて都市部で着られるファッション性の高いラインを展開している。

また、中でも異彩を放っているのが、水道工事・メンテナンスなどを行なうオアシスライフスタイルグループが発売した「ワークウェアスーツ」。見た目はセットアップのスーツだが、撥水・ストレッチ・速乾性を兼ね備えた高機能素材を使用しており、現場にも出張にも使える〝着るビジネスギア〟として話題を集めたのである。

「建築や工事の現場から得た技術をそのまま街着に落とし込む動きは、今や機能性重視層にとっての新しいおしゃれと言えるでしょう。プロ仕様で培った機能性と耐久性は、安心して着られる服という印象につながっているのです」

最後は「話題性重視型」。冒頭で紹介したゲオのルームウェアは、その象徴的な存在だ。今年5月に発売された「接触冷感ルームウェア上下セット」(1098円)は、前作が累計11万着以上を売り上げたヒット作のリニューアル版である。

薄利なはずのアパレル事業になぜいま他業種からの参入が止まらないのか!?
ゲオ 接触冷感ルームウェア 上下セット 1098円

ゲオ 接触冷感ルームウェア 上下セット 1098円

薄利なはずのアパレル事業になぜいま他業種からの参入が止まらないのか!?
触れた際に冷たく感じる素材を使用したTシャツと、ハーフパンツのセット。8月19日時点では夏物一掃セールとして658円になっていた

触れた際に冷たく感じる素材を使用したTシャツと、ハーフパンツのセット。8月19日時点では夏物一掃セールとして658円になっていた

「『服を売って儲けよう』というより、『服で話題を取ろう』という狙いが大きいでしょう。PRコストや広告費を抑えられますから、このような手法は今やマーケティングの王道になりつつあります」

同じ手法とみられるのが、オートバックスのアウトドアウェア展開。

〝街着としても着れるガレージウェア〟を標榜し、2019年からアパレル事業をスタートしている。

「『あのオートバックスが服も売っているんだ』と思ってもらえればしめたもの。服を売るというより、服をきっかけに企業の存在を思い出してもらう。そういう発想に近いですね。言ってみれば、洋服が広告としての機能を持ち始めているということでしょう」

なお、ここまで紹介した3つのタイプに当てはまらない企業もある。例えばライザップだ。ビジネスシューズブランドとのコラボを手がけており、姿勢矯正とウオーキングによる日常的な運動をうたっているが......。

「公式サイトの情報によると、体を支える道具としてのシューズにトレーニングメソッドを取り込むことで社会貢献できないか、という発想からコラボ企画をスタートさせたそうです。

おそらくシューズインソール開発で得た検証データを通じて収集できるデータを蓄積し、将来的な商品開発やサービス連携に生かしたいという狙いもあるはず。つまりアパレルを、ユーザーのリアルな行動データを取得するためのツールとしてとらえているのです」

■次に参入してきそうな意外なプレイヤーとは?

実は、異業種のアパレル参入自体は突如始まったブームではなく、水面下で徐々に拡大してきたものなのだという。

「実は20年ほど前にドン・キホーテが先駆けて行なっていました。当時から、ついで買いを誘うインナーウェアなどを販促に活用する例はあったということです。

とはいえ、本格的に異業種のアパレル参入が一気に増えてきたのはここ4~5年の話です」

なぜそのタイミングで参入が加速した?

「一番大きな要因は、参入障壁が下がったことです。かつてアパレル事業は専門領域という印象が強かったのですが、以前と比べて製造ルートやOEM(企業が自社ブランド商品の製造を他社に委託すること)先も増え、服を作ることが格段に簡単になっています。

それに加えて、ECなどで販売のハードルもぐっと下がっている。今は服が非常に作りやすい時代になっているのです」

薄利なはずのアパレル事業になぜいま他業種からの参入が止まらないのか!?

では、今後アパレルに参入しそうなプレイヤーは? 

「ヘルスケアや医療系の企業です。例えばドラッグストアチェーンが、病院内で着られるウェアやスクラブの開発に乗り出したり、その技術をカジュアルウェアに横展開する可能性は十分あるでしょう」

意外なところでは、学生服業界もありえるそうだ。

「学生服や体操服って、実はかなり高度な素材や縫製技術が使われていて、一般の衣類より機能的なんですよ。例えば透けにくい白Tシャツや、汗をかいても張りつかないジャージなどの技術は、街でスタイリッシュに着こなすような服にも応用しやすいですよね」

ではアパレル業界は、異業種企業の参入によって群雄割拠の戦国時代に突入する?

「それはどうでしょうか。参入すれば簡単に成功するほど、アパレルの世界は甘くありません。実際多くの企業が、アパレル業界に挑戦しては消えていくサイクルを繰り返しています。当然リスクはありますので、どんな異業種でも次々と参入できるわけではないのです。

ここまでの話にもあったように、異業種からアパレルに参入している企業は、直接的な利益より、ほかの目的のための道具として使っているケースが多い。つまり、アパレルは単なる商品ではなく、今や戦略の媒体になったということです」

今後どんな驚きの異業種からの参入があるか、楽しみだ。

取材・文/逢ヶ瀬十吾 (A4studio) 撮影/榊 智朗 写真/時事通信社

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