2016年4月の熊本地震のときには、避難所の通路や入り口にまで避難民があふれていた。猛暑の時期の避難では体調不良に十分注意したい
集中豪雨による洪水、南海トラフなどの大地震......。
* * *
■避難所は場所も食料も早い者勝ちではない!
7月30日に発生したカムチャツカ半島沖地震では、津波到来に備えて半日ほど避難所に滞在した人がいた。関東ではこの日、最高気温は35℃に迫る猛烈な暑さだった。
また政府は、南海トラフ地震臨時情報の「巨大地震警戒」が出た際、地震発生後では津波到達までの避難が間に合わない地域に住む約52万人に1週間の「事前避難」を求めるよう自治体に伝えている。
今年は9月や10月も暑さが続くと予想されているし、来年以降の夏もそうだろう。そんな猛暑の中で、長期間の避難所生活に必要なアイテムはなんなのか? そして、少しでも快適に過ごすためのサバイバル術は? 災害危機管理アドバイザーで防災士の和田隆昌氏に聞いた。
――避難所に冷房設備はあるのでしょうか?
「学校の教室など一部を除き、避難所にエアコンなどの冷房設備は基本的に設置されていません。近年では大型扇風機などを備える所もありますが、停電になれば使えませんし、避難所は非常用電源を用意していないのが実情。ですから、夏は皆さんが想像されているよりもかなり過酷な環境です」
――なるほど。
「それに東日本大震災(2011年)のときには、定員約600人の避難所に数千人が避難してきたことがありました。すると避難スペースだけでなく、受付や建物の軒先などまで人があふれました。実は、避難所は定員オーバーになることも多いんです。
避難所とは、その地域の住民が災害によって自宅に住むことができなくなったり、地域に危険が近づいているときに、一定期間そこで生活をするために用意されている場所です。
しかし、その避難所も被災したり、被災のリスクが高まってしまう場合がある。大きな災害になればなおさらです。すると近隣の避難所に行かざるをえません。そのため2倍、3倍の人数に膨れ上がることがあるんです。
また、避難所に早く行けば自由にいい場所が取れると思いがちですが、そうではありません。基本的に避難所の運営から『〇〇地区の方は、このスペースをお使いください』と指示されます。
もちろん高齢者や病人、赤ちゃんのいる方や妊婦さんなどは、事前に決められたルールにより環境のいい場所に割り振られます。逆に健康な若者は、スペースがないときなど運営から『この避難所では現在、受け入れができません』と言われることもあります。
それから、皆さんは避難所に行けば水や食料がすぐにもらえると思っているでしょうが、そうではありません。
避難所には3日分の水と食料、それから必要最低限の生活用品を用意していますが、避難者が来るのが落ち着き、収容人数を確定するまで配給を始めることはできません。
そうしないと遅れてきた人に水や食料などが渡らなくなる可能性がある。避難所は〝全員公平〟が原則です。
ですから、配給されるまでの間を快適に過ごすには、自宅から水や簡易食、生活用品を持ち込む必要があります」
■必要最低限のものを持っていく!
――では、特に猛暑時の避難所に持っていったほうがいいアイテムはありますか?
「やはり冷房設備がないと暑いので、うちわや扇子は必需品です。2019年の房総半島台風災害のときには、暑さをしのぐために皆さん工夫されていました。
それから、夏場ですからとにかく汗をかきます。体が汗でベタベタになるととても不快です。そんなときに体を拭くためのボディシートがあると快適です。できれば大きめのものがいいでしょう。小さいのだと何枚も使ってすぐになくなってしまいますから。
また、暑いと汗や残飯などから異臭が出ることがあります。すると、ハエや蚊などの虫が寄ってきます。暑いためドアや窓を閉めきることもできないので、虫対策は重要です。虫よけスプレーや虫に刺されたときのかゆみ止め薬などがあると便利です。
また、そういった状況は衛生状態も悪くなりがちです。除菌ウエットティッシュなども多めにあるといいでしょう。
さらに、ドアや窓が開いていると、外から土ぼこりなども入ってきます。マスクは必需品です。ちなみに床にブルーシートを敷いただけという避難所もけっこうあります。すると土ぼこりでザラザラするし、板の間だから体が痛くなります。クッション材みたいなものがあると多少軽減されるかもしれません。
それから、これは夏に限ったことではないのですが、耳栓とアイマスクも絶対に持っていったほうがいいです。隣の人のいびきや寝言などでまったく眠れないという人も多い。そんなときに耳栓とアイマスクがあれば、多少は眠りやすくなるでしょう」

通常の非常用持ち出し袋に追加してほしい酷暑時のアイテム。冬場よりも夏場のほうが、避難所生活は過酷なものになる。(左上から時計回りに)水(普段より多め)、かゆみ止め薬、虫よけスプレー、日よけ用帽子、ボディシート(体拭き用)、除菌ウエットティッシュ、塩あめ、うちわ・扇子
――じゃあ、今聞いたアイテムも含めて、水や食料をたくさん持って、プライバシー保護のために簡易テントなども含めて、準備を万全にして避難所に行けばいいんですね。
「それが、そうでもないんです。避難所で簡易テントを立てていたら、運営に『こちらではテントの使用はルールで禁止です』と言われることも。自分たちだけたくさんの食料を持っていたら、周りの人から『余分にあるなら俺にもくれ』などと迫られることもあります。
避難所は公平が原則です。必要最低限のものを持っていくことをオススメします。
あらためて言いますが、避難所の生活は皆さんが思っているよりも数倍過酷です。それを覚悟しておくことが、一番重要なことかもしれません」
暑さだけでなく、さまざまな苦労が多い避難所生活。しかし、命を守るためなので、ぜひ、これまでの話を忘れないでほしい。
取材・文/村上隆保 写真/時事通信社