【#佐藤優のシン世界地図探索124】8.15アラスカ米露会談...の画像はこちら >>

トランプとプーチンは8月15日にアラスカで会談。これは21世紀のヤルタ会談となった(写真:AFP=時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。
この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

*  *  *

――8月15日の第二次世界大戦終戦記念日に、かつてロシア領だったアラスカでトランプとプーチンの米露会談が行なわれました。これはどう見てらっしゃいますか?

佐藤 1945年2月にソ連で開かれたヤルタ会談に近いと思います。

――ルーズベルト米大統領、スターリンソ連書記長、チャーチル英首相が参加して、第二次世界大戦後の枠組みを決めた、あの偉大な会議。その21世紀版のヤルタ会談になるのですか?

佐藤 はい。今後、ヤルタ会談に匹敵するくらいの進捗があるかもしれません。米露の手打ちは決まっています。そして、この会談の最大のポイントはアラスカで行なわれたことです。

バイデン政権では、ロシアに制裁をかけました。その最大の制裁は、プーチンの米国入国禁止なんですよ。しかし、今回アメリカ領であるアラスカに招きました。プーチンの側近、ロシアのビジネスマンたちも大量に来ています。彼らのうち、かなりの数の人がアメリカ入国に制限があったはずです。

だから、これはアメリカのロシアに対する制裁大規模な解除なんです。日本のメディアはどこも報じていませんけどね。

――確かに。

佐藤 今回の会談で「追加的な制裁をプーチンはかわした」などと日本のいいかげんなコメンテーターが言っていましたが、アラスカにプーチンを招くことが決まった時点で、追加的制裁なんてないことは明白でした。

それからアメリカは、ロシアからガスや石油を購入している他国に追加関税を課すとしています。これはロシアの収入源を絶つ目論見だということですが、制裁解除しておきながらそんな理由で追加制裁すると思いますか?

――意味ないと思います。

佐藤 そう、意味がありません。だから、最初からそんなのはブラフです。トランプは全然やる気ないんですよ。前にも言ったように、あくまで国内向けのプロパガンダです。

――米露両国から沢山のビジネスマンが帯同していますから、そのディールはたーくさん成立したんでしょうね。

佐藤 そう思います。

それで、一番重要なのは会談後の発言です。まずトランプは「これは私の戦争ではありません。これはジョー・バイデンの戦争です。彼らがこの戦争の発生に大きく関わっていたので、私たちはこの戦争を終わらせたい。私たちは誰にとっても良い形で終わらせたい。ウクライナ人は信じられないほど苦しんできました」とコメントしました。

つまり、ウクライナ戦争はバイデンの私戦であり、バイデンがこの戦争の拡大に大きく関わっているという認識から導かれるのは、この戦争が代理戦争であることです。あくまでゼレンスキーは代理人だから、トランプはゼレンスキーを尊敬していないのです。

――やはり『仁義なき戦い』ですね。

佐藤 その通りです。さらに、8月18日に行なわれたトランプとゼレンスキーの会談で、ゼレンスキーは黒のワイシャツと黒のジャケットを着用していました。しかし、アメリカ側は事前にジャケットとネクタイの着用を求めていたそうです。

結局、ゼレンスキーはその要求に応えていないんですね。ゼレンスキーの服でもわかりますが、ここのポイントは、「自分こそが戦いのシンボルだ」と主張していることです。こういう態度をトランプは嫌います。

――ゼレンスキーはこの状況でまだ自分の立場を理解してない。

佐藤 はい。だから、本来、ゼレンスキーはどんなに理不尽な要求だろうとトランプに従わないといけない立場なわけです。一生懸命、アメリカの命令を執行しないといけない状況におかれているんです。完全に格下なんですね。

それから、今回のポイントはもうひとつあります。

朝日新聞では、「両首脳は記者会見で『生産的な会談を評価した』と話したが、詳細は明らかにしておらず、停戦に向けた具体的な進展は示さなかった」とあります。

しかし、私の評価は違います。なぜならトランプは「週に何千人も殺されるのを止めるつもりです。

プーチン大統領もそれを望んでいる」と発言しています。今回の首脳会談で、ウクライナにおける停戦協議がなされていなければ、こんな話をするはずがありません。

――はい。確かにそうです。

佐藤 そして、プーチンもウクライナやヨーロッパ、世界全体における安全保障について、それを求める発言をしています。

かなり進展があったはずですし、この発言をしたのはトランプよりプーチンが先なんですよ。この順番は重要です。トランプはプーチンの発言に対して反論、留保ができたわけです。しかし、一ヵ所も反論や留保をしていないんです。

――つまり、二者の間で完璧な合意がなされている。

佐藤 そういうことです。

ただ、安全保障のポイントですが、日本やアメリカのメディアは集団的自衛権と集団安全保障を混同していると思います。

――日本人には両方とも意味不明です。

佐藤 集団的自衛権とは、脅威を外部化していくことです。仮想敵を作ってみんなで固まる。これに当たるわけですね。NATOや日米安保条約がその典型です。

対して、集団安全保障とは、国連やOECD(欧州安全協力機構)で潜在的に敵対する可能性のあるメンバーを中に入れて、相互の内政不干渉、国境の不可侵などを合意するやり方です。 

だから、ウクライナ、ヨーロッパ、ロシアの全ての安全保障を担保するのは、集団安全保障しかないんです。だからトランプは「ウクライナとヨーロッパの安全保障にしましょう」と言っているんです。

すると、プーチンは「ロシアの安全保障も欲しいよね。NATOにロシアが加わるようなもんだから」と。トランプはプーチンにこんな話をされて、「なるほど」と納得したわけです。

――NATOみたいなNATO型って、なんすか?

佐藤 それは、「仮想敵は何?」と聞かれたら「宇宙人」というような話です。

――NATOは地球防衛軍になる!

佐藤 そう、地球防衛軍に変えるんです。だから、脅威の内部化なんですよ。そこで合意しているんです。

それをみんな読めていないんですね。もっとも、トランプもおそらく集団的自衛権と集団安全保障の区別はよくわかってないと思いますけどね。

――あの、大丈夫なんですか?

佐藤 なんとなく、みんなで一緒に安全を保障するくらいにしか考えてないんじゃないでしょうか。

NATOはこれまで集団的自衛権でした。しかし、今回プーチンの話を聞いて、「集団安全保障ならばロシア、ウクライナ、ヨーロッパの間で折り合いがつきそうだな。これでいける」と思った、ということだと思いますよ。

――それはKGBのスパイマスターに、NYの不動産屋が言いくるめられたと。

佐藤 言いくるめられたというよりも、トランプはプーチンの言うことに合理性と説得力があると確信して、停戦協定ではなく和平協定となったんでしょう。

――もう一度お聞きしますが、それで大丈夫なんですか?

佐藤 大丈夫ですよ。これで戦争は遠ざかります。

――プーチンはまさにインテリジェンスオフィサーの大親分。

佐藤 今回もトランプは、ゼレンスキーと会談したら「すぐに電話するから」と、プーチンに会議場から報告しています。だから、プーチンはトランプの指南役になっているんですよ。

――昔、米ソ冷戦時代があったのに......。

佐藤 『仁義なき戦い』の言葉に翻訳すると、

「ゼレンスキーさんよ、プーチンさんと仲直りしてくれんかな? 俺も苦しくてな。この世の中、いつまでも喧嘩してるとカッコつかんのや。あとな、これ勝手にバイデンが始めたことやから、あんたの立場もあるだろうけど、仲良うしてくれんとカッコつかんのや」

といった感じでしょうね。

――『仁義なき戦い 代理戦争 完』となるわけですね。続編は『仁義なき戦い 頂上作戦』ですか。それはどうなるんでしょうか?

佐藤 さーて......。

次回へ続く。次回の配信は9月5日(金)を予定しています。

取材・文/小峯隆生

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