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今夏、国内でも感染者が増加している新型コロナの変異株「ニンバス」
「カミソリのような痛みを伴う」とされ、沖縄から感染源が北上中の新型コロナウイルス・ニンバス。8月18日からの1週間でみると、関東では千葉県では1664人が罹患しており、前週との比較で1.55倍に。
症状の辛さ、重さから医療の現場にも大きな影響を与えている。

「8月に入って患者さんも医療従事者にも体調不良を訴える人が増え、欠勤が目立ち始めて残業が増えています。先日も1名、陽性者が出て職場の全員が検査となりました。3年前に起きたコロナ禍を彷彿とするような状況が職場でも自宅周辺でも起き始めていて、うんざりです」

そう本音を吐露するのは、都内で看護師として働く女性。コロナそのものへの恐怖もさることながら、「医療従事者だからこそ浴びる周囲の視線」が精神的にこたえるのだという。

「私が看護師として働いていることは、近所の人やママ友も知っているわけで、同じエレベーターに乗ろうとすると嫌な顔されたり、咳払いをされたり。『感染したくない』という気持ちは理解できても、受け入れることはなかなかできません。ただでさえ過酷な仕事なのに社会でもこの扱いでは、なり手がいなくなってしまうのではないでしょうか」(看護師女性)

3Kをはるかに超えた「7K職場」!? "捲土重来"の新型コロナと奮闘する医療従事者たちの本音
医療従事者たちの新型コロナとの戦いは、いまだ終わっていない

医療従事者たちの新型コロナとの戦いは、いまだ終わっていない
■「訪問先でリストカット」の衝撃

医療や福祉の現場に立つ人々の窮状を、端的に表す統計がある。「過労死等の労災補償状況」(2024年、厚労省調べ)によると、労災の請求件数は総数が3780件あるが、内訳のトップを占めるのが「医療、福祉」で983件。2位の製造業(583件)を大きく引き離しており、現場に強い負荷がかかるケースが多い様子を物語っている。

「きつい仕事の代名詞として、『きつい、汚い、危険』の3Kとよく言われますが、私たちの仕事はこれを優に超えて7Kなんて言われてます。残りの4つは『給料安い、休暇取れない、婚期を逃す、規則が厳しい』。毎年、一定数の若者は入ってくるけど、見事にみんな辞めていく。

今回のコロナがまた感染爆発したら、持ちこたえられない医療機関が出てくると思います」(同前)

これまで延べ3000人近い看護師や介護士の声に耳を傾けてきたメンタルコーチの益田緑氏も、「このままでは医療の現場は崩壊してしまう」と危惧する1人。それはまるで「あらゆる種類のハラスメントの嵐」だと表現する。

「ハードワークに輪をかけるように、患者さんからのセクシャルハラスメントやカスタマーハラスメント、また医師からのパワハラも加わり、相談に訪れるケースが後を絶ちません。特に近年、訪問介護の需要が高まっていますが、若い女性の訪問看護師が単身で相手の家に入る場合もあり、『睡眠薬入りのスープを飲まされて体を触られる訪問看護師のニュースを見た。男性の家に行くのが怖い』『女性宅にオンコールで呼ばれたら、リストカットをしている現場を見てしまった』といった生の声は、聞いていて胸が詰まります。

看護師や介護福祉士の人材が豊富なら、適材適所でなるべく間違いが起きないようなシフトなり勤務環境を作れるのでしょうが、現実は圧倒的な人手不足。これでは若い人が続くわけがないな、と思わざるをえません」(益田氏)

セクハラや凄惨な現場でメンタルに強い負荷がかかっても、それを癒すだけの猶予は与えられず、厳しい現場が続く毎日。医療従事者が置かれている現場は、想像以上に過酷なのだ。

■シフト調整が看護師長の心を壊す

「対患者へのストレス」に加え、さらに現場を襲うのが「職場の人間関係」の悩みだ。前出の益田氏によると、こちらも相当深刻なようだ。

「現場の看護師を束ねる師長さんといえば、かつては出世コースとみられていましたが、今や進んでなりたがる人は少ない。たいして給料が上がらないわりに責任はとてつもなく重くなるからです。

看護師長の大きな役割にシフトを組むことがあるのですが、少ない人数で過剰なベッド数を回したり、難しい患者さんに新人を充てざるを得なかったりと、心を鬼にしないと現場が回らない側面があります。この"シフト作成"で病み、メンタルを壊す看護師長さんはとても多いです。

元来、看護師さんって"世話好きのいい人"が集まる職業だと私は考えているんですが、いい人ほど壊れていく印象です。仕事で夜勤も多いため、子供とすれ違い、過干渉になったり過保護になるなど〝子供との距離感〟がわからなくなる事例も、最近増えているように感じます。風邪は薬を飲めば治りますが、人間関係は薬では治せないですから、厄介です」(益田氏)

医療従事者を取り巻くあまりに厳しい現実。果たして改善策はあるのか?

「看護師さんに顕著なのですが、『献身的であれ』と過度にナイチンゲール的な自責に駆られてしまっている風潮が根強いと感じています。こんなに思い詰めては、つぶれてしまう。なので、メンタルケアの重要性が高まっているように思います。嫌なこと、辛いことがあったらそれを手放すコツを掴むなど、そうしたスキルは必須になるのでは。

本質的には、エッセンシャルワーカーの低すぎる賃金をもっと上げなくてはいけないということがあります。看護師、介護福祉士はもとより、保育士さんも最低時給に近い水準のお給料がまかり通っている。これでは人が離れる一方です。

こうした議論はもう、避けられないところまで日本は来ているのではないでしょうか」(益田氏)

医療や福祉は、国民にとって最後の砦。ここが手薄になるような脆い社会は、是正していくしかない。

文/新田勝太郎 写真/米疾病管理予防センター、photo-ac.com

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