評点:★2.5点(5点満点)
©松井良彦/ Yoshihiko Matsui表面的な部分があまりにも平板
東日本大震災から10年後の2021年、真夏の福島を舞台にしたドラマで、それぞれに深い傷を抱えた人々が淡々と進む物語の中で交錯する。
喪失感、やり場の「ある」怒り、決定的な出来事を「忘れて」世間が、国が、どんどん先に進んで行く中で置いてきぼりにされる感覚......物語の意図と描きたいことはよく「分かる」。
かつて『殺して忘れる社会』(武田徹・河出書房新社)という社会評論書があったが、そのような日本社会に対してふつふつと怒りをたぎらせる映画でもある。
しかしそういう「中身」の部分を別として、非常に表面的な部分だけを見たとき、かなりの平坦さと単調さが大部分を占めていることは否定できない。それが演出意図だとしても、人々が突っ立ったままで「単に話している」ように見える場面が多すぎるのだ。
そのような場面であっても井浦新や柏原収史といったベテラン俳優が見事にシーンを成立させていることは事実だが、「単に話しているだけ」に見える場面の連続はあまりに平板にすぎる。
また先に挙げた「喪失感」や「置いてきぼりにされた感覚」の抑揚もあまりないため、映画の冒頭とエンディングから受ける印象がほとんど同じに感じられるのも残念だ。
STORY:2021年、夏、福島。17歳のアキラは家族との関係に悩み、深い孤独を抱えていた。ある⽇、アキラはサーフショップの店員・ユウジに出会い、⼼を徐々に開いていく。しかし、癒えることのない傷痕が、彼らを静かにむしばんでいく――
監督・脚本:松井良彦
出演:前田旺志郎、窪塚愛流ほか
9月13日(土)からKʼscinemaほか
全国順次公開予定