(右)森井誠之社長「球団のおじさんたちの発案した企画が若いファンやスタッフにも歓迎されました」 (左)山下メロ「観客のお父さんが目をキラキラさせて子供に平成知識マウントして いましたよね(笑)」
楽天イーグルス「昭和平成レトロシリーズ」の発起人である楽天イーグルスの森井誠之社長と、イベントを監修する山下メロさんに、昭和平成のおもしろカルチャーを懐かしみつつ、トコトン語っていただきます!
* * *
■昭和平成レトロシリーズは飲み会ノリでスタート!?
世の中は空前の平成レトロブーム。そんな中、プロ野球球団・東北楽天ゴールデンイーグルスは「昭和平成レトロシリーズ」というイベントを9月12~15日に開催。
楽天イーグルスの森井誠之球団社長と、『週刊プレイボーイ』本誌で『【平成レトロ】博物館』を連載中で、イベントを監修した山下メロさんに語ってもらった。

今年は9月12~15日に開催される本シリーズ。昭和平成風に変身した選手の写真や、山下メロさんが監修する懐かしアイテム満載の女子部屋も登場!
* * *
――この企画はどういうキッカケで始まったんですか?
森井 近年、球場のイベントは若手社員に任せているんです。それで実際に結果も出ていましたから。でも、われわれベテラン世代から見ると、ちょっと詰めが甘いというか、経験不足な部分も感じていました。思いついたアイデアを勢いだけでやるんじゃなく、企画に厚みを出してほしいと。
ただ、われわれが口うるさく言うと、老害と言われてしまいます。だったら、自分たちが実際にやってみせるべきだろうという、ベテラン主導の企画としてスタートしました。
メロ 若手にベテランの背中を見せると?
森井 はい。昨年の昭和平成レトロシリーズは、年間計画にない企画を急遽立ち上げたので、実はほぼ予算がなかったんですよ(笑)。
メロ 少ない予算でもやれるという背中も見せると?
森井 昭和平成レトロシリーズを仕切っているベテラン世代は、10年前までこういうイベント企画を主戦場としてやっていました。だから、低予算でもプロフェッショナルな人のアイデアや経験を加えつつ、クオリティの高い企画ができる自信はありました。
メロ それで昨年自分が呼ばれたんですね。そこまでわかっていませんでした(笑)。


昨年、山下メロさんが監修した90's初期の男子部屋。球団が当時存在したらという設定で、架空のロゴやマスコットの応援グッズも!
――昭和平成レトロをイベントのテーマにした理由は?
森井 飲み会ノリです(笑)。飲み会で昔話をしてて〝昭和レトロやろうよ!〟って。でも、よく考えたらベテラン世代の青春時代は平成だから、そっちも入れようと。
メロ 確かに、球場に訪れる親世代は30代も多く、昭和アイテムを子供に説明できない。レコードプレイヤーは使えないけど、MDプレイヤーの使い方は説明できる。レトロの範囲が昭和から平成になってきているのを感じます。
森井 平成もやると決まってから、ベテラン社員が「なんか平成レトロのすごい人がいる」って見つけてきたのが、メロさん。実際に話してみたら、しゃべる内容すべてが企画になる。それで打ち合わせから飲み会までずっと盛り上がって、そのまま監修をお願いしました。
メロ 昨年のシリーズでは球場演出などのアイデアを出したり、イニング間に出題されるクイズを考えたりしました。
森井 若手たちからすると昨年は、「ベテラン社員が勝手に何か始めたぞ」って感じだったと思うんです。でも昭和平成レトロシリーズがお客さまから好評で、SNSの反応も良かったんです。それもあって、若手たちにはいい刺激になったと思っています。


メロ 企画会議などは、社内で平成の人気番組『クイズ!年の差なんて』をやってる感じなのでは?
森井 完全にヤングチーム対アダルトチーム状態です。われわれの企画に興味を持った若手がいろいろ質問してきますが、その説明に熱くなりすぎて「そんなのも知らないの?」と知識マウントしないように注意してます(笑)。
メロ あの番組だと、ゆうゆがフリップに毎回ナスのイラストを描いていましたよね。自分もそれをマネして、イベントでフリップを出す機会があれば「ゆうゆのナスです」と描いて説明すると、一部の人にだけ大ウケします。
森井 全員に刺さらなくても、一部の人だけでいいんですよ。球場を訪れて、刺さったアダルトチーム側のお客さまが、つい知識を言いたくなる感じ。「俺の時代はこうだった」と、子供に語っているような雰囲気がいいなと思ってます。
メロ お父さんが子供に平成初期の暮らしを説明する。
そういった親子の会話を楽しんでほしくて、昨年は90年代初期のトレンディに憧れる男子部屋を球場に再現しました。もし当時、イーグルスが存在してたらファンの部屋はこうだろうという設定です。
森井 まさにその部屋を見ながら、思い出話を楽しむファンがたくさんいました。ウチの球場は家族で楽しんでほしいので、観戦がきっかけで家族のコミュニケーションが生まれるのが理想なんですよ。
メロ 夫婦で使い切りカメラを見て「これで初デートのとき写真撮ったよね」みたいな会話もありました。そういうのがいいですね。今年は80年代後半のファンシーな女子部屋を展示する予定です。


今年は平成のカラオケ関連グッズも登場! 分厚い目次本から目当ての曲を探し出し、6桁ほどの数字を確認。一度リモコンに入力し確認した上で機械に向けて転送ボタンを押す
――森井社長の青春時代はどうだったんですか?
森井 小学校が昭和、中学校の途中から平成の世代です。中学では改造学生服のお店に行って、エチケットブラシとか買ってました。
メロ ボンタン狩り、エアマックス狩り、オヤジ狩り、昭和平成は狩猟民族でしたね。


昭和平成男子の憧れ! ヤンキーアイテム ミラーとコームまでついたエチケットブラシに、立てられるミラー。どちらも龍のイラスト。改造学生服のショップで購入できた
森井 今はモノがあふれ返ってますけど、当時はひとつひとつが貴重で、鮮明に記憶に残ってます。そんな時代性を球場でも懐かしんでもらえたら。
メロ 森井さんは、昭和平成の思い出グッズを今も持っているんですか?
森井 一回引っ越したから、そこまで昭和のものは残ってないかもしれません。平成の大学生の部屋っぽくなってるかもですね。
メロ 来年は「球団社長の平成部屋」として球場に展示したいですね。
森井 それは勘弁してください。本棚に勉強用としてファイルがあったんですが、実はその中には週プレがぎっしり入ってましたから(笑)。
メロ クラスメイトに知られてはならないアイワ(笑)。なんだったんでしょう?
森井 謎のプライド(笑)。アイワも実際には良い音質なんですけどね。
メロ 家にアイワ製品があっても、ラジカセ買ったとだけ言ってメーカー名は言わない。逆にそれでアイワだとバレたり(笑)。テレビデオがオリオンであることも知られてはなりませんでしたね。家電量販店のチラシで激安なことがみんなにバレてますから。


ボンタンをはじめとするカスタム学生服からレンタルCDやカラオケ文化などなど。昭和平成の思い出トークが止まらないおふたり
森井 そういえば、ラジカセをテレビに近づけて『北斗の拳』の曲を録音してたら母親から「ごはんよー!」と呼ばれて、その声が入って怒ったことがありました。もう、ブチ切れでしたよ(笑)。
メロ それは昭和あるあるの定番ネタですけど、実際に具体的なエピソードで話せる人はあまりいないんですよ。
森井 はい。でも、中高生のときの音楽系のカセットテープはいろいろと残してます。アルバムや曲名をレタリングシートでやってました。
メロ レタリングされたアルファベットを1文字ずつカセットレーベルに転写して、印刷物のように仕上げることができるインレタですね。
森井 シートの残りがまだあります。SとAがすぐなくなって、なぜかWとZとかが残るんですよ(笑)。
メロ Qも残りがち。もうこの話も通じなくなってきてますよ(笑)。森井さんが選手名をインレタで転写した何かを作りたいですね。
森井 アダルトチームの会話って、そんなアイデアが生まれるのが楽しいんですよ。あと、当時はラジオを必死になって聴いて、その楽曲を調べるのも大変でしたよ。
メロ 今はサブスクで聴き流すので、思い入れが微妙に薄くなる。レコードやカセットが若い世代に再評価されてるのも、面倒な思いをして音楽を聴くと、同じ曲でも違った体験になるというのに気づき始めてるんです。
森井 レンタル店の「友&愛」でレコードやCDを必死に借りてましたね。
メロ もうCDレンタルも過去の遺物になりつつあります。今年はカラオケ関連も展示予定です。電話帳みたいな本から曲を探し、リモコンに数字を入れるというのも過去の話ですから。
森井 知らない曲を無理やり歌わされたりね(笑)。

サブスクじゃない! 音楽はレンタルする時代 CDレンタル店に陳列されていたCD。樹脂製のケースの中からCDを取り出して借りる仕組み。店員さんの手書きPOPも懐かしい
――今後、昭和平成レトロシリーズは、どんな展開を考えていますか?
森井 まずは今年の反応がどうかっていうのはあります。今以上に球場全体を巻き込んで昭和平成レトロにするところまでいきたいです。
本来は開催時期を固定したいけど、春先は寒いし、盛り上がるシーズン後半は勝負がかかってくるからふざけられない。仮に、マジック1でNHKのテレビ中継があるときに、映ってるのが昭和のアイドルやチーマーみたいな選手の写真だったらマズいでしょ(笑)。緊張感なくなりますから。
メロ イーグルスファンにはウケてましたが、相手チームのファンの反応は?
森井 うれしいことに「ウチもやってほしい」という反応が多かったですよ。何より、ウチの選手がノリノリなのでやりやすいですね。ほかのチームでも平成レトロのグッズとかありますけど、ウチは選手やファンが寛容という部分を生かして、進化しながら続けていけたらなと思います。
メロ 今、平成レトロの展示が増えていますけど、ここまでやれるケースは珍しいので、来シーズンもその先もずっと続けていただきたいです。
森井 そのためにも、まずは今月のイベントをアダルトチームで頑張りましょう(笑)。
●森井誠之(もりい・まさゆき)
東北楽天ゴールデンイーグルス代表取締役社長。1974年生まれ、神奈川県出身。2023年、株式会社楽天野球団の代表取締役社長兼オーナー代行に就任。J1のヴィッセル神戸で副社長、Bリーグの仙台89ERSで会長職を歴任。
構成/山下メロ 撮影/榊 智朗 写真/©Rakuten Eagles